第70話 幻想術師の決意
「レードはどうしたいのだ? いずれ魔王ルイズと戦って、奴を打倒したいのか」
「それは……」
俺は思い悩む。
単純なはずだが、難しい質問だと思った。
自分の中で決めかねていることが多いからだろう。
常に何をするか決断してきたが、そこに明確な立場は付随していなかった。
俺は英雄のつもりだが、もう英雄ではない。
どこの国にも所属しておらず、かと言って黙って手出ししないという行動も取れない。
誰よりも世界を掻き乱してきた自覚がある。
(ルイズは反省し、王としての道を歩み直している。そこに立ちはだかる必要は果たしてあるのか?)
少なくとも現在の姿を見れば、魔王という肩書きも名ばかりであった。
悪の代名詞として扱うのは間違っていると感じてしまう。
腐った人間よりよほど信用できると言える。
とは言え、素直に受け入れられない自分もいた。
ここで魔王を信じてもいいのか。
何もかもが曖昧な俺がそれを決めてもいいのか。
迷いや悩みが新たな躊躇を生み出していく。
きっとこれは、誰かの言葉で断ち切れるものではない。
他でもない俺自身がどうにかする必要があった。
ここで己の立場を、方針を、主義を決める。
逃げ続けてきた本質を定めるのだ。
(共存か対立か。俺はどうすればいい)
目を閉じて考え続ける。
ぐちゃぐちゃに混乱した思考を紐解いて、徐々に整理を付けていく。
一気に解決する方法などないのだ。
地道になんとかするしかない。
そうして考えているうちに、自然と答えが見えてくる。
目を開けた時、俺の頭の中は明瞭だった。
雑音のような迷いや悩みが消え去っている。
俺は隣で待つ赤竜の相棒に礼を言う。
「ありがとう、ノア。おかげで結論が出たよ」
「うむ。それでレードはどうするのだ?」
問われた俺は一呼吸を置く。
それから、導き出した答えを口にした。
「――俺は魔王になって建国する。個人ではなく国として世界を変えるんだ」
「ほほう、面白い結論だな」
「分かったのさ。俺は世界を変えるきっかけになろうとしたが、統治までは考えていなかった。誰かに任せようとしてばかりで、自分が負うつもりがなかったんだ。それが間違いだった」
たとえ全知全能に近くとも、個人でやれることには限界がある。
術で人々を歪めて行けばその限りでもないが、それは根本から間違っているだろう。
個人で駄目ならば、国の規模で動かせばいい。
俺にはそれだけのことをする力がある。
英雄としてではなく、王の立場と責任を背負って世界に干渉するのだ。
それは幻創魔術とはまた違う領域だった。
「必要悪という概念がある。魔王だらけのこの時代を帳消しにすることは難しい。ここから魔王を絶命させたところで、また新たな魔王が出てくるだけだ。もう五年前のような関係にはできない。たった五年だが、あまりにも密接に絡み合っているんだ。無理やり魔王を潰せば、きっと人類にも多大な悪影響が出てしまうう」
だから俺は魔王として進出する。
ルイズと敵対するのではなく、かと言って仲間にもならない。
独自の形で最善を目指していくのだ。
それこそが、この場で俺が辿り着いた結論だった。




