第39話 不死身の幻創術師
(さすがだな。これで弱体化しているのか……)
倒れる俺は魔王の力に感心する。
千里眼の優れた知覚能力と、変幻自在の闇の身体。
この二つが合わさると、基本的に無敵だった。
単純ながらも強力で、これといった弱点も見当たらない。
他の魔王が敬遠するのも当然だった。
ひとたび戦いになれば相当な被害を覚悟しなければならない。
無論、殺されることも視野に入れておくことになるだろう。
わざわざ立ち向かうのは割に合わない。
俺は立ち上がろうとして、それができないことに気付く。
どうやら顔の半分どころか、半身を丸ごと失っているらしい。
起き上がれないのも仕方なかった。
そんなことを呑気に考えていると、泣きそうな顔のノアが視界に映り込んできた。
「レード!」
「大丈夫……だ。死んじゃいない」
俺はそう応えながら幻創魔術を行使する。
消し飛ばされた部位を幻で補完して、物理的な実体を与えた。
それで身体は元通りだった。
今度こそ立ち上がった俺は魔王を称賛する。
「驚いたな。大した威力と速度だ」
『どうして死ななない』
「そりゃ対策しているからさ。お前と殺し合うことを想定してきたんだ。その様子だと千里眼の監視にも限界があるようだな」
『…………』
魔王は無言になる。
観察して俺の能力の仕組みを解析しようとしているようだ。
千里眼による監視が可能な魔王だが、全知全能というわけではない。
たとえば、国王達のいる白い部屋――別名"資料室"で起きたことは認識していないらしかった。
だから俺が情報収集の途中で、自らの肉体を改造したことも知らない。
さすがに幻創魔術の構造を看破できるほどではないということだ。
「俺は不死身だ。お前の攻撃では決して死なない。先に言っておくが、全身を消滅させても無駄だからな」
強気な態度で警告しておく。
ただし、はったりではなく事実である。
資料室にいる時、俺は自らの魂を抽出して、魔力の水晶として物質化させた。
それを資料室に置いてきた。
つまり現在の俺は魂を持たない状態である。
肉体に人格が結び付けているだけで、それを幻創魔術で定着させた。
置いてきた魂を壊されない限り、俺が死ぬことはない。
これこそが千里眼の魔王と戦うための対策だった。
当初は据わりの悪い感覚がなれなかったが、今はそうでもない。
むしろ死なないという安心感がある。
ただし魂の物質化にも欠点が存在する。
魂は魔力と密接に関わる要素のため、この状態だと全力を出せない。
加えて事前に充填した魔力が尽きると死ぬ。
人格が魂に戻れず、どちらも崩れて消えてしまうのだ。
もっとも、幻創魔術で魔力を増やせる俺にとって、魔力切れはあまり関係ない。
全力を出せないのが主な欠点と言えよう。
不死身となる代わりに、能力自体は制限がかかる。
今の状態は、守りに主体を置いた形であった。
全快した俺は、胸を張って魔王に告げる。
「不死身の人間と戦うのは割に合わないと思うぞ。対等に交渉を進めるのが賢明と思うが」
『……分かった。ひとまずは認めよう。貴様は異端だ。完璧ではないにしろ、死を超越している。人間の枠組みを逸脱しているのは確かだ』
「理解してくれてよかった。そっちの攻撃も大したものだった。対策していなければ、あっけなく殺されていた」
交渉が進んだことを察して、俺は満足気味に笑った。
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