第34話 止まらない変貌
俺は世界に失望した。
しかし、まだやれることはある。
そのためにも行動しないといけない。
ひとまずこの部屋は資料室ということにしよう。
情報が必要な時、関連する記憶を持つ人間を放り込む場所だ。
拘束と記憶の吸い出しを担う植物は常に展開しておく。
最低限の用を済ませた俺はノアと聖騎士のもとへ向かった。
目の前に扉を作って開くと、すぐさまノアが駆け寄ってくる。
「おお、戻ってきたか! 情報収集はどうなったのだ?」
「完璧だ。だいたい知りたいことは分かった」
俺は謁見の間から資料室までの経緯を説明する。
途中までは顔を輝かせていたノアだが、次第に青くなって震え出した。
話が終わった段階では、すっかり元気を失っていた。
彼女は自分の肩を抱きながら呟く。
「レードは恐ろしいな……誰も逆らってはいけない男だ」
「記憶強奪を無闇に使う気はないさ。さすがに相手は選ぶ」
あれが人道に反しているのは自覚している。
同時に効率的な方法であることも理解していた。
今後も使う場面は訪れるだろう。
だからこそ躊躇わず、そして本当に使うべき相手かどうかは見極めていこうと思う。
改めて方針を定めた俺は話題を変える。
「それより聖騎士の調子はどうだ?」
「……なんというか、すごいぞ。見た方が早いだろう」
ノアが言葉を濁して応じる。
とりあえず只ならぬ状態なのは分かった。
俺は彼女の横を抜けて、放置された聖騎士を確認する。
そして言葉を失った。
「これは……」
少し前に金属人形へと変貌した聖騎士は、さらに状態が悪化していた。
現在は腰から下が木の根のように分岐して、先端が腐って黒い粘液を床に垂らしている。
口に相当する位置に裂け目ができて、そこから呼吸が行われていた。
ぎょろりと動く二つの目はガラス玉のような質感だ。
たまに内部からの圧力で飛び出しそうになる。
腰から上の金属部分は軋みながら捩れていく。
さらに折れた部分から砂になって崩れて、内部の臓腑を覗かせていた。
体内もすっかり変色して紫色になっていた。
肋骨が針金のように痩せ細っているのが分かる。
聖騎士はあれからも刻一刻と姿を歪めているようだった。
しかもどんどん惨たらしい状態へと移行しつつある。
「たす、け、て……くれ」
口の裂け目から微かな声が漏れた。
そのすぐ後に絵の具のような黒と赤の粘液を噴き出す。
変わり果てた聖騎士は、人間の尊厳を失いながらも意識を保っているようだ。
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