第17話 五年の遅れ
ノアの格好を整えた後、俺達は加速しながら移動する。
一通りの交流も済ませられたので、そろそろ急ごうと思ったのだ。
別に最初から移動を優先してもよかったが、やはり会話は大事だろう。
その辺りができなかったから俺は見捨てられたのだと思う。
しっかりと信頼関係を築いて、同じ過ちを繰り返さないようにしたい。
加速する俺を並んでノアは疾走する。
竜である彼女は身体能力は抜群に高い。
人間形態なので本調子ではないはずだが、それを感じさせない動きであった。
真の姿で翼まで使ったら、きっと俺ではついていけないだろう。
種族的な格差を痛感した瞬間だった。
そうして数日後には王都に到着する。
高々とした外壁に覆われた都市は、中央部に城がそびえ立っていた。
王都のどこからでも視認できるほどの高さだ。
門を抜けた俺とノアは大通りを進む。
街並みを観察する俺は、少なくない驚きを感じていた。
「すごいな。五年でここまで発展したのか」
「そんなに違うのか?」
「魔道具の普及が明らかに進んでいる。城下街でこの感じなら、軍事方面はさらに顕著だろう」
店の扉が自動で開いたり、魔術の炎で調理をしている。
手頃な価格で氷菓子を売る屋台もあった。
いずれも以前に訪れた際は存在しなかった設備だ。
個人店舗が導入するには高級品すぎるだろう。
店だけでなく馬車や外灯等も進化している。
どうやら地面の中に管を通して、街全体に魔力を供給しているらしい。
相当に大規模な仕組みである。
個人にできることではなく、間違いなく国が施策したのだろう。
(一体何が起こったんだ。魔王軍との戦いで疲弊していてもおかしくないはずなのに……)
俺はさすがに訝しむ。
まるで戦闘中とは思えない光景だった。
喜ばしいことなのだろうが、何か引っかかる。
俺の顔を見て何か察したのか、ノアが指摘してきた。
「街が平和で不満そうだな」
「不満ではないが、なんとなく嫌な予感がするんだ。杞憂で済んだら安堵するさ」
「ふむ。レードが言うのなら、たぶん当たっているのだろう。我に何か手伝えることはあるか?」
「今のところは大丈夫だが、後で力を借りるかもしれない」
「その時は気軽に言うがよい。我々は子作りを誓った仲だからな! 王都など木っ端微塵に吹き飛ばしてやろう!」
ノアが大声で言った途端、周囲の人々がぎょっとした顔で見てくる。
子作りやら木端微塵という表現に反応したようだ。
俺はため息を洩らすと、そっとノアに頼む。
「……そういう宣言は次から小声で頼む」
「ふむ? 承知した」
よく分かっていない様子のノアは不思議そうに承諾した。
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