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太陽と月の物語  作者: フォマ


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3/5

第三話 星の名を継ぐ者たち ― 第二・三層戦線 ―


戦場は、まだ崩れていなかった。


だがそれは安定ではない。


崩壊に抗い続けた結果として残っている、わずかな均衡だった。


均衡は美しい。


だがその美しさは、常に破綻の直前にある。


第二層。


矢が、流れていた。


雨ではない。


もっと静かで、もっと正確なもの。


エルフたちの射撃は、音を伴わない。


ただ結果だけが地上に現れる。


倒れる影。


崩れる列。


そしてすぐに埋まる黒。


「右側、圧が強い」


一人が呟く。


それは報告ではない。


確認に近い。


誰に向けたものでもない。


だが、共有される。


数呼吸。


それだけで十分だった。


隊列がわずかにずれる。


矢の角度が変わる。


重なっていた射線が分離し、再構築される。


その変化は小さい。


だが結果は明確だった。


黒い列の一部が、わずかに薄くなる。


「……見えた」


別のエルフが低く言う。


何が、とは言わない。


言う必要がない。


この層では、“理解”が言葉より先に共有される。


下層。


第一層の圧が、第二層に伝わる。


振動ではない。


圧力の変化。


それを受け止めるのが、オークの戦列だった。


盾が並ぶ。


肩が当たる。


骨が軋む音がする。


だが誰も後ろに下がらない。


「まだ来るぞ」


低い声。


「来るなら受けるだけだ」


返答は短い。


感情がないわけではない。


だがそれを表に出す必要がない。


彼らの役割は、耐えること。


それだけだ。


そしてそれを、完璧に果たしている。


圧が増す。


盾がきしむ。


一歩、半歩、押される。


だがそこで止まる。


止める。


止めきる。


その一瞬を、後方が拾う。


第三層。


ドワーフたちが壁に触れている。


手のひらが石に吸い付く。


目は閉じている者もいる。


見ているのは外ではない。


内側だ。


「左側、歪み」


「角度は?」


「浅い。だが広い」


「支点を変える」


会話は短い。


だがその意味は重い。


補強材が運ばれる。


楔が打たれる。


石が、わずかに“動く”。


本来動かないはずのものが、動く。


それを可能にするのが彼らの技術だった。


壁は固定されたものではない。


常に変化する“状態”だ。


その認識が、この城を支えている。


第四層。


ゴブリンの伝令が走る。


足音は軽い。


だが止まらない。


「第一層、維持!」

「第二層、圧増加!」

「第三層、補強進行中!」


声が流れる。


重ならない。


詰まらない。


流れ続ける。


それは報告ではない。


循環だった。


血流のように、戦場全体を巡る。


その流れの中心。


そこに、27氏族がいる。


星の名を持つ者たち。


それぞれが領地を持ち、軍を持ち、歴史を持つ。


だが今、この瞬間。


彼らは“個”ではない。


構造そのものだった。


フォーマルハウト公爵ファーレンハイト。


白銀の騎士団を率いる男。


馬上で静かに戦場を見る。


焦りはない。


計算だけがある。


「右側、崩れるな」


短い言葉。


命令ではない。


確認に近い。


それだけで、騎士団が動く。


馬が前へ出る。


跳ねない。


滑るように進む。


戦場の“流れ”を読むように。


魔術が展開される。


光は小さい。


爆ぜない。


ただ、必要な位置に落ちる。


一点。


二点。


三点。


崩れかけた線が、再び繋がる。


線は、戦場の命だ。


それを繋ぐのが、この氏族の役割だった。


その直後。


別の流れが入り込む。


吸血種の部隊。


影のように現れる。


気配が薄い。


音がない。


ただ、結果だけが残る。


敵の後方。


一部が消える。


崩れる。


だがそれは“混乱”にならない。


即座に埋められる。


「後方、浸透完了」


報告は短い。


それ以上は必要ない。


すでに次が始まっているからだ。


エルフの射線と、オークの防壁の間。


その隙間を、別の存在が繋ぐ。


堕天使。


空と地の境界にいる種族。


彼らは“上”にも“下”にも属さない。


だからこそ、両方を繋ぐ。


「左翼、遅延」


「修正入る」


短いやり取り。


その直後、エルフの位置が変わる。


オークの角度がわずかに変わる。


それだけで、遅延が消える。


見えない歪みが、修正される。


さらに奥。


竜族。


まだ動かない。


だが“いる”。


それだけでいい。


戦場の重心が、そこに固定される。


崩れない理由の一つ。


誰も口にしない。


だが全員が理解している。


あれが動いたとき、戦は別の段階に入ると。


兵士が呟く。


「これ……本当に押されてるのか?」


答えはない。


押されているように見える。


だが崩れていない。


崩れそうで、崩れない。


それは“戦い”ではない。


“維持”だった。


そしてその維持は、奇跡ではない。


構造だ。


27の氏族。


それぞれが違う役割を持ち、違う価値観を持つ。


本来ならば、統一など不可能な存在。


だが。


この戦場では、完全に噛み合っている。


欠ければ崩れる。


だが欠けていない。


だから成立している。


それだけのこと。


それだけのことが、どれほど難しいかを、


この戦場は知っている。


遠く。


黒い軍勢の奥が揺れる。


わずかに。


規則から外れた動き。


兵士の一人が、それを見た気がした。


だが確信はない。


すぐに視線を戻す。


前線は安定している。


それが現実だ。


だが。


その現実の奥で、何かが変わり始めている。


エステルはそれを見ている。


全体として。


構造として。


そして。


違和感として。


胸の奥が、わずかに痛む。


それは恐怖ではない。


記憶に近い。


まだ起きていない何かを、知っているような痛み。


戦場はまだ壊れていない。


それが唯一の救いだった。


だが同時に。


その“壊れていない状態”が、どこまで続くのか。


誰も知らなかった。


そして。


この完璧な連携こそが、


ひとつ崩れたとき、


すべてを連鎖的に壊す構造であることも。


まだ誰も、理解していなかった。

筆者の初作品です。不定期投稿あしからず!

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