第35話 ジャンプ
ロボの足は、ジャンプ力に全振りした形状に変更している。
ぎゅっと折りたたまれたバッタ並みにでかい足は、伸ばせばコックピットの何倍もの長さになる。
そんな足が、ロボの下にはもう3段階つけられている。
切り離し予定の足3つには、操作系能力者のコンカーに、切り離し後10秒間だけその場に留まるという、空間固定機能を付与してもらっていた。
まだ若そうな操作系能力者のお姉さんは、3つ分の空間固定を設定すると同時にダウンしていたので、かなり難しい部類の操作なんだろうな……。
ともあれ、無事完成したこの新形態は、3段パージジャンプロボと名付けた。
柊木さんには「そのまんまですね」と言われてしまったが。
そういや、名付けで思い出したな……。
俺は、道角さんと柊木さんの会話で突っ込み切れずに気になっていた点を口にした。
「ところで柊木さん、なななって何?」
「えっ」
俺の問いに柊木さんが後ろからおずおずと答える。
「私の……名前……ですけど……」
「柊木、なな……?」
「ななな、です」
「な、多くないか?」
「よく言われます……」
「どんな字書くんだ?」
柊木さんは俺がロボの中に持ち込んでいた図面の端っこに小さく氏名を書いて差し出した。
『柊木 菜々㮈』
いや苗字は知ってる。
俺は紙とペンを飛び出さないようボックスにしまいながら言う。
「なんか……木が多くないか?」
「よく言われます……」
「お姉さんは菜々だったりするのか?」
「違いますよぅぅぅ」
「お二人さん、いいかー?」
声をかけてきたのは玄雨さんだ。
俺たちの周囲には操作系のコンカーたちが待機している。
彼らには、俺達が途中で切り離した脚部を、住宅に落ちる前に回収する役目がある。
「柊木さん、いい?」
「はいっ」
俺は「いつでも行けます」と玄雨さんに返事をする。
玄雨さんは「じゃあカウントするぞー」と10カウントダウンを開始した。
玄雨さんは意外と器用な探査系能力者のようで、ずいぶん離れた図書館に残っている道角さんとも巡力の色や形で通信ができるらしい。
俺には巡力はどれも白っぽく光って見えるだけだが、違いの分かる人には分かるんだなと感心する。
そういえば、森江支局の斎賀さんもモンスターの位置が分かる様子だったし、探知能力が高いっていいよな。
「ぅぅ……」と柊木さんの小さなうめきが聞こえる。
どうやらずいぶんと緊張しているらしい。
「大丈夫だよ。もし落ちても操作系の人が助けてくれるから」
「はぃぃぃ」
俺は苦笑を浮かべて、左右の操縦桿を握り直す。
4、3、2、1、とカウントが進む。
玄雨さんは0の次に「発射!」と叫んだ。
俺たちはロケットか!?
頭の端で突っ込みながら、俺はロボを全力でジャンプさせる。
ぐんぐんと上空へ進むロボの勢いがジワリと落ちる、瞬間、第1脚を切り離し、それを足場に第2脚でジャンプする。
くっ、ジャンプ時にかかるGが半端ないな……。
「ぅきゅぅ」と空気がもれるような声は柊木さんだ。
『ジェットコースターもフリーフォールも大好きなので、多分大丈夫です!』
と言ってはいたが、果たしてこれはどうだろうか。
無重力になる瞬間の、ぞわりとした浮遊感、それを感じるか感じないかの辺りで、第2脚を切り離して第3脚でとび跳ねた。
もうゲートは目の前いっぱいに広がっている。
それなのに、ゲートがあまりにも大きくて距離感が掴めない。
全然届きそうな気がしない。
「くそっ」
「もうちょっとですよっ!」
俺は第3脚を切り離すと、巡力をたっぷり込めて最後に残ったロボ足でとび跳ねる。
「「届けぇぇぇぇ!」」
俺と柊木さんの声が重なる。
ズボンッとロボがゲートに突っ込んだ。
そのまま軽い水の中を一直線に進んで、俺たちは一気にゲートを抜けた。
ドパッという音と共に。
やたらと勢いよく。
……まずいな、ちょっと気合を入れて跳びすぎたかもしれない。
みるみるうちに、俺たちの町が足の下で小さくなっていく。
「……あの、これ、……着地ってどうするんですか?」
柊木さんの質問に、俺は「こんなに高く跳ぶ予定じゃなかった」とだけ返した。
「ひえぇええええぇぇぇぇ!?」




