第36話 雨の夜 ※竜雲(ボス)視点
俺が、箕輪や斎賀ら森江支局のメンバーと、出現型ゲートから発生したモンスターを叩き終わって戻った時、薙乃と柊木はもう支局にいなかった。
「おい、なんであいつら勝手に帰してんだよ」
留守番をしていた局員に迫るが、食堂に行ったきり帰ってこないとか、食堂からプリンが届いてるとか、そんな話だ。
じゃあなんで、食べるつもりのプリンを置いたっきり帰って来ねえんだよ。
そんなのおかしいじゃねぇか。
二人の家に連絡を入れても、柊木のとこは『まだ帰ってない』だし薙乃のとこは誰も電話に出やしない。
柊木のとこはなんとか誤魔化して今日は支局に泊めるって事にしたが、あいつら本当にどこ行ったんだよ。
「竜くん、二人のGPSの最終探知位置が出たよ」
箕輪の声に、俺はノートパソコンをひったくるようにして覗き込む。
「は? 森江中央図書館……ってゲートの中じゃねーか!!」
しかも、位置情報は10時前を最後にもう4時間は消えたままだ。
何であいつらわざわざそんなとこに……。
そこまでで、今朝、薙乃が家で叔父さんと交わしていた会話を思い出す。
そうか、あいつの叔父さんが、あそこにいたのか……。
「俺達も行くぞ!」叫んで飛び出そうとする俺の腕を、箕輪が慌てて掴んだ。
「入っちゃダメだからね!?」
「はぁ!?」
「うちがバタバタしてたから、駆けつけてくれた門川支局の攻略隊がさっき潜ったとこなんだよ」
「門川……ってーと、道角んとこか……」
あいつんとこなら、まず無茶な事はしねぇだろーけどよ……。
「支援要請もないのに、うちが入ったら権利問題になるって」
「別に何も取りゃしねぇよ、うちんとこのが無事か様子見るだけだ」
「そんな言い訳通らないって、分かってるでしょ?」
「…………」
箕輪の言うことはもっともだ。
そんなの、俺だってわかってるよ。
どかっとソファに座れば、局員達がホッとしたのが気配で分かった。
くそ……。落ち着け、俺……。
周りの奴ら不安にさせてどーすんだよ。
「住民の避難誘導には出てるよな?」
「うん、A班とB班が行ってる。医療班も6班が出てるよ」
「そうか、じゃあ入り口までは行けるな」
「入らないならね」
「わかってるよ」
「竜くんは今のうちに少し寝たほうがいいよ、もう中学校のゲートからこっち、ろくに寝てないでしょ」
確かに、あの件は中学生に死亡者が出て、頭を下げに行かなきゃならないところが多すぎた。
なんで教育委員会まで俺達に文句つけてくんだよ。
発生率なんて俺の管轄じゃねーよ。
「……わかった。なんか動きがあったら起こしてくれ」
俺はそう告げてそのままソファに寝転がる。
「うん」
「絶対だぞ」
「わかってるって。ボクも命は惜しいからね」
箕輪の言葉に笑う奴はいなかった。
それほどに俺は鬼気迫る顔をしてたらしい。
はぁ……。ダメだな。
こんなんじゃ寝られそうにない。
「……東条、寝かしてくれるか」
「はい、わかりました」
まだ若い東条の声にも、疲れが滲んでいる。
「お前らも、休めるうち休んどけよ」
目を閉じたまま言った俺に「はい」やら「へい」やら「分かりました」やら、人それぞれの返事がくる。
皆、結構疲れた声してんな。
……そうだよな。
ここんとこ立て続いてたからな……。
「おやすみなさい、ボス」
医療班の東条がそうささやくと、まもなく俺の意識は深い闇へと沈んだ。
俺の能力は身体強化だ。
よく見えるとかよく聞こえるとか、重いものが持てるとか、早く走ったり高く飛んだりできるだけ。
ビームだとかも出せねぇし、火とか水とか操れるわけでもねぇ、パッとしねぇ能力だ。
しかもパシリにはもってこいだしな。
俺は生まれつき巡力が高くて、小学校に上がる頃には巡力130以上の奴に配られるSOSカードを持っていた。
SOSカードってのは、カードのボタンを押すと、すぐにコンカーが駆けつけてくれるという代物だ。
親は、俺と一緒にいるとモンスターに襲われやすくなるってわかった上で、家族4人で暮らし続けることを選んだ。
あれは、ザーザーと雨の降りしきる夜だった。
夜中に突然、俺の寝ている部屋にモンスターが現れた。
近くに開いたゲートから発生したモンスターは、この辺で一番巡力が強かった俺のいる家に、迷うことなくやってきたらしい。
俺は急いでSOSカードのボタンを押した。
2階で寝てたのは、俺と姉ちゃんだけだった。
姉ちゃんは、俺を庇ってモンスターの前に飛び出して、腕をちぎられた。
あんな簡単に、人の腕がちぎれるなんて、思ってなかった。
俺の頭をいつもぐりぐり撫で回してた姉ちゃんの手が、あんなとこに転がってるなんて、おかしいと思った。
許せなかった。あの化け物が。
だから思い切り殴った。
そしたらモンスターはあっさり吹き飛んで、家の壁まで無くなった。
危機に追い込まれると能力が発露するパターンは少なくない。俺もそんな一人だった。
1階で寝てた父さんと母さんが慌ててやってきて、血だらけの姉ちゃんを見て悲鳴を上げた。
そこにまたモンスターが来た。
俺は、今度も吹き飛ばしてやろうと思って、立ち向かった。
けど、父さんと母さんが俺を止めた。
俺は、ちょっと振り払うつもりで腕を振った。
でも父さんと母さんは、すっかり無くなった家の2階の壁部分から、外へとまっすぐ吹き飛んだ。
「父さん! 母さんっ!!」




