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高遠 誠一⑮

 上田桃華は長い髪を頭の上で二つに結いている。ツインテールと言うやつだ。娘の玲菜が、学園ドラマに出ている子役がそのヘアスタイルにしているのを見て、母親の玲子におねだりしていた姿を思い出す。姉の絵梨華は黒髪を顎のラインで切り揃えていて活発そうな雰囲気だが、妹の桃華はいかにも女の子といった風体である。しかし、やはり姉妹。その顔はそっくりだった。


「こんにちわ、桃華ちゃん」


「もうこんばんわだよ、先生」


 クスクスと笑う姿も姉にそっくりだ。彼女が本当にピヨ彦を……。私は段々と自信を失いつつあった。


「ほら、先生が三人にお話があるんですって。ちゃんと聞きなさい」


 三人をL字ソファの短い方に座らせ、自らはオットマンに腰掛けた。どうやら一緒に話を聞くようだ、厄介だなと私は思ったが、席を外してくれとも言いづらい。この状況でいったい何と切り出すか思案していると園部先生が口を開いた。


「丸野さんのインコ、ピヨ彦を殺したのはあなた達ね?」


 歯に絹着せず、単刀直入である。私は思わず天を仰いだ。チラリと目の端で上田桃華たちを見やると皆、目を見開いている。とりわけ祖母は鳩が豆鉄砲を食らったような表情で口をぱくつかせていて、私はちょっと笑いそうになった。


「あの、何のことでございますの?」


 祖母が静寂を破り質問してきた、しかし明らかに動揺している。園部先生は事情を何も知らない彼女の為に、今回の一連の出来事について簡略して説明した。


「それはそれは、大変お気の毒な事で御座いますが、それと桃華に何の関係があるんでしょう?」


 祖母は体勢を立て直し背筋を伸ばした。不穏な空気を察して我々が敵だと見当を付けたようだ。孫に言い掛かりを付ける輩ども、と。


「関係があると言うか、彼女が殺したんですよ。ピヨ彦にアボガドを食べさせて」


 園部先生も負けていない。まったく視線を逸らさずに祖母を睨みつけた。


「は? アボガド?」


「ええ、インコにアボガドは猛毒なんです。それを知った上で彼女はピヨ彦にアボガドを食べさせて殺害した、そうよね?」


 園部先生が上田桃華にするどく詰問すると彼女は下を向いて泣き出した。怖い、この人何を言っているのか分からない。そんなセリフを呟いている。そして両脇にいる下村と仲田が、上田桃華の背中をさすりながら慰めだした。まさに茶番である。


 テレビドラマの子役よろしく、演技をしているのだろうが第三者からみればそれは酷い大根芝居で、この緊迫した空気でなければ吹き出してしまう所だった。ここに来て私は、ピヨ彦殺害犯が彼女であると確信した。


「あなた何を仰ってるの? 桃華がどうしてそんな事をするの? 証拠はあるの?」


 身内にはこの演技が通用するのか。上田桃華の祖母は顔を真っ赤にして怒り出した。まあ無理もない、可愛がっている孫が、いきなり鳥殺しの容疑をかけられているのだ。


「その日、彼女が丸野さんの家に遊びに行った日、この家の冷蔵庫からアボガドが消えています」


「はあ? そんなもの誰かが食べたのでしょう。言い掛かりはやめなさい!」


 ピシャリと言い放つ祖母を無視して園部先生は上田桃華に話しかけた。


「桃華ちゃん、あなたがやったんでしょ?」


「知らない、ぐすんっ。桃華わからないよぉ」


「後悔するわ、このままだとあなたはクズ人間になってしまう。今、罪を認めて反省するの。丸野さんに謝って自分のやった事を悔い改めるの、じゃないとあなたは――」


「いい加減になさいっ!!」


 祖母が勢いよく立ち上がった。仁王立ちになり、まるで般若の如く顔が歪んでいる。


「うちの桃華がそんな事をするわけがないでしょう! この子は小さな頃から英才教育を受けていて、本来ならこんな田舎の公立に通う子じゃありませんの。それをインコ? はぁ? あなた頭おかしいんじゃありません? これだから嫌だったのよ! こんな低レベルな人間しかいない学校に通わせるのは。ああ、悍ましい。けがわらしい。この事は教育委員会に報告してキッチリと責任を取ってもらいますからね。二度と教壇に立てると思わない事ね、分かったらさっさと出て行きなさい!!」


 園部先生は何か言い返そうとしてピタリと止まった。私の方を見て困惑している。すぐに彼女の思考を理解した。教育実習の自分はともかく、私に迷惑がかかってしまうと思っているのだろう、見くびられたものだ。私は軽く頷いてから上田桃華の祖母を見上げた。


「宜しいのですか?」


 私は精一杯、自分から出る最高に冷たい声を彼女に投げつけた。


「は! 何がですの?」


「我々としては事件にならぬよう内密に事を進めようと思い伺った次第なのですよ。ペット殺しは立派な犯罪ですからね。証拠を提出すれば桃華さんは犯罪者です、それでも宜しいのですか? 良いのであれば我々は引き上げてこのまま警察に届けますが」


 上田桃華の祖母はカッと目を見開いて私を睨みつけた。そして桃華の前でしゃがみ込むと優しい声色でそっと話しかけた。


「桃華? あなたはそんな事していないわよね? お友達のペットを殺すなんて、そんな恐ろしい事あなたに出来るはずがないわ。おばあちゃん分かってる。でもね、この頭のおかしい先生、いえ、こんな人達を先生なんて呼ぶ必要ないわ。この馬鹿な人たちが言ってる事が出鱈目だって桃華の口から聞きたいの。おばあちゃんの目を見て言える?」


 上田桃華の祖母は、両手で孫の二の腕を優しく掴んでそう言った。肩を震わせながら嘘泣きをしていた上田桃華の動きがピタリと止まる。そしてゆっくりと顔を上げて、乾いた顔を祖母に向けた。


「おばあちゃん……。わたしやってないよ」


 掠れるような声はわざとらしく、嫌悪感すら覚えたが、おばあちゃんとやらには響いたのだろう。目を真っ赤にして涙を溜めた後に上田桃華を抱きしめた。「ごめんね、ごめんね」と謝りながら。


 何だこれ。私たちは何を見せられているのだ。隣の園部先生を伺うと、サッと血の気が引いたように顔面蒼白である。すると祖母がスッと立ち上がりコチラに顔を向けた。般若のような顔から一転して菩薩のような笑みを浮かべている。

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