第4章 神の剣
ポセイダルゴ様に会いに行きます。
僕とアリエッタは、クールとクーポに乗って、深い海に向かって、どんどん進んでいた。
「ヴァシリスさま、どこまで行くのでしょう。
こんなに深いところは初めて。」
「確かに、海の庭も通り過ぎたしなあ。
クール、まだ遠いのか?」
「もうすぐです。青白い光がたくさん見えているところです。」
「あっ、見えてきた。ヴァシリスさま、見えます。」
「あそこだな。アリエッタ、ポセイダルゴ様に失礼のないようにな。」
「はい。海にさくらんぼはあるのかしら。」
「アリエッタ、さくらんぼは帰ってから、プレゼントするから。」
オレンジ色の光は、海の城の入り口を照らしていた。海底神殿のようで、すごく広い範囲に建物がたくさんあり、建物は真っ白に輝いて、色々な海獣や、人魚や魚が泳いでいた。
クールとクーポは、神殿のような建物に入って、どんどん進んでいく。
アリエッタが人魚に目を丸くしている。
「ヴァシリスさま、ヴァシリスさま、人魚が、本当にいました。たくさんいますぅ。」
人魚の王子の話にならないように、知らん顔を決め込んだ。
「アリエッタ、そろそろ着くみたいだ。よそ見しちゃ危ないよ。」
「はい、ヴァシリスさま。」
神殿の奥深く奥深く入って、やっとクールとクーポが止まった。
「ヴァシリスさま、この先の七色の扉の奥に、ポセイダルゴ様が、お待ちです。」
「ありがとう、クール、クーポ。
さっ、アリエッタ、ポセイダルゴ様にお会いしよう。」
僕は、アリエッタの手を取り、七色の扉の前に立った。
扉が、キラキラ光り、ゆらめき、消えると、奥の玉座にポセイダルゴ様が座っていた。
僕は跪いて、騎士の礼をし、
アリエッタは、淑女の礼をした。
「ヴァシリス、アリエッタ、ここまで、よく来てくれた。ずっと長い間、待っていたのだ。
やっと、アンジェラの貝殻にたどり着いたのだな。」
「はい、この剣から、ポセイダルゴ様のお声が響きました。」
「うむ、聞こえたのだな。二人とも、こちらに来て、椅子にかけなさい。ゆっくり話そう。」
父上の書斎のように、テーブルとゆったりしたソファがあった。
ソファに座ってから、僕は気がついたのだが、
ポセイダルゴ様は、銀髪で、コバルトブルーの瞳だった。
「ヴァシリス様と、ポセイダルゴ様の、髪と瞳が、一緒です。」
アリエッタも気がついたようで、目を丸くしている。
「あの、ポセイダルゴ様は、まさか、僕の父上では、、、」
のっけから、聞きにくい事を、聞いてしまった。
「ヴァシリス、気になるか?
そなたの真の父は、エドワードだし、母はアンジェラで間違いない。
まずは、お茶にしよう。海のお茶も美味であるぞ。」
ポセイダルゴ様が、指をパチンと鳴らすと、美しい人魚たちが、泳ぎながら、ティーセットを運んできた。
ティーカップが僕達の前に置かれ、アリエッタの前には、淡いピンク色の丸い果実が置かれた。
「あっ、さくらんぼ。」
「アリエッタ、そうじゃ、海のさくらんぼだ。ずっと西の海溝を越えた温暖な海域にある、我がさくらんぼ園のものだ。美味じゃ。アリエッタ、たくさん食べなさい、」
アリエッタは、ポセイダルゴ様の言葉が終わる前に、海のさくらんぼに手が伸びていた。
「んんっ〜、甘くて美味しいてすっ。」
ポセイダルゴ様は、目を細めて笑っている。
「ところで、ヴァシリス、アンジェラから聞いているか?私の事を。」
「母上が、8歳の時の、、」
「そうじゃ、アンジェラは海が好きで、オランとよく遊びに来ていた。私もまだ幼き王子で、
父王が決めた結婚相手より、アンジェラに恋をしてしまった。求婚したが、断られてしまってな。
その日から、三日三晩、海を荒らしに荒らしまくって、父王に、雷を落とされた。
私は、アンジェラに、嫌われたわけではないと思っている。
だが、アンジェラは、シーシェルの未来を守るために、海を守る王子を産む運命を選んだ。
私は、アンジェラへの幸せを願うつもりで、あの貝を渡した。
海を守る王子として、そなたは、生まれた。
我が息子のように庇護し、我が力の一部を授ける事が、アンジェラの幸せに繋がるのなら、私はそれで満足じゃ。
私の髪と瞳を授け、どの海にあろうと、我が臣下が、そなたを我が息子同様の庇護があると、わかるようにしたのだ。」
そうだったのか。
だから、僕は、海で、いつも守られていた。
母上への愛を、僕への愛に変えて、守ってもらっていた。
「ヴァシリス、そなたは、強い。
アリエッタを愛し、海そのものを守ろうと、命をかけてくれている。人間には、なかなかできない事を、その幼き力で、挑む姿は、素晴らしい。
我が息子と思いたいのだ。」
「ありがたきお言葉。
しかし、ポセイダルゴ様には、王子がいらっしゃるのでは?」
「いまは、まだいない。まだ妻はおらぬ。」
「まさか、母上の」
「そうだ。アンジェラを忘れられなくて、、」
「そんな、、」
「ヴァシリス、もし、そなたがアリエッタと結ばれなかったら、他の女人と結婚するのか?」
「しません。絶対に。」
「はっはっはっはっはっはっはっはっ。
ほれ、私と同じではないか。」
「そうでした。」
「ヴァシリス、心配するな。神々は長生きじゃ、と言うか、ずっと存在しておる。
人間の寿命が終わった後も、存在し続ける。
アンジェラが、生まれ変わった時に、もう一度、求婚すれば良い話じゃ。まあ、次は、さらってでも、ここに連れてくるかも知れぬがなっ。」
「ポセイダルゴ様の愛は大きいのですね。」
とアリエッタが、目をキラキラさせて言う。
「アリエッタ、そなたも、ヴァシリスから、深く愛されているぞ。気づいてないのか?」
「ポセイダルゴ様。気がついています。
ヴァシリス様がいらっしゃるから、私は幸せを感じられます。だから、ずっと、おそばにいたいです。」
アリエッタが、頬を染めている。
ここ最近は、愛情表現をしてくれるようになってきた。僕は、少しこそばゆい感じだけど。
「よしよし、私のような悲恋はもうよい。せめて、そなた達が幸せであるように、私も願っておるし、力も貸すから心配するな。」
「「ありがとうございます。」」
「それで、ポセイダルゴ様、実は、この剣の事なのですが、」
「巫女を守る剣であろう。」
「はいっ、シーシェルに代々伝わる巫女の剣ですが、どんどん変化して、私は、未熟ゆえ、どう使いこなしてよいのか、わからないのです。」
「その剣は、天の神が創りし、天からおりた剣じゃ、今は、そなたの剣になっているがな。
その瞳と同じ色という事は、剣自体が、海を司っている、という事だ。どうなってほしいか、を考えれば、それが起きるのだ。トライデントも同じ使い方じゃ。」
「つまり、嵐を呼びたれば、嵐を思い浮かべ、海に渦巻きを作りたい時は、渦巻きを思い浮かべれば良いのですか?」
「そうじゃ。」
「ではなせ、剣とトライデントに、、あっ陸では剣、海ではトライデントですか。」
「そうじゃ。ヴァシリス。我が力を得た者は、海を支配できる。支配する、という事は、守る、という事じゃ。陸にも、水は存在する。川、湖、地下水、全て海に繋がっているものだ。そなたが支配できる。」
「人が戦う剣としては、使えるのでしょうか。」
「人が使うと、斬り合いになるだろうが、其方が倒したいと思えば、一撃で倒せる。
つまり、結果を思い浮かべれば、一振りで、結果となる。そうなるのが、海神が持つトライデントの力だ。」
「あの、、実は、僕は、アリエッタの事で、感情が揺れると、剣の制御が効かなくなってしまい、その、、」
「ヴァシリス、我もそうじゃ。大切なものを危険な目に合わせる輩に対しては、我も制御が利かぬ。
だから、海が荒れ狂うわけじゃ。それで良いのじゃよ。人間らしくてな。何の感情も持たずに理性だけで、剣はふるえぬだろう。感情と言うよりは、情熱じゃ。大切なものを守る、国を守る、全て情熱ではなかろうか。」
「はっ。ありがとうございます。気持ちが楽になりました。」
「ヴァシリス、我は、其方を息子と思っている。
我を父と、呼んではくれぬか。」
「そんな、畏れ多いことは、、」
「アンジェラを想い、妻を娶らぬ我は、せめて、其方を愛したいのじゃ。アンジェラとエドワードの仲は割いてはならぬからな。」
「、、、父上、、、」
この方は、どれほど母上を愛して続けて下さったのだろうか、と、切なくなった。
「感謝するぞ、ヴァシリス、、」
僕は、がっしりとポセイダルゴ様に抱きしめられた。何故か、懐かしい海の香りがして、潮騒の音が聞こえる。そう、ずっと前から知っていた。
僕は、生まれる前から、守られていた、と気がついた。
「父上、、、」
「我が息子よ、何か叶えてほしい事はないか?父と思って、言ってほしい。」
「父上、、お願いできるならば、僕が側にいられない時に、アリエッタを、お守りくださいませんか。」
「ヴァシリス、其方らの事は、ずっと守っている。他にないのか。」
「う〜〜〜ん。いまは思い浮かばない、、、」
「はっはっはっはっ、ヴァシリスは、アリエッタしか目に入っておらぬな。
ヴァシリス、では、更に強力な守りを教えよう。
アリエッタの首飾りに、其方の剣先を軽く、あててみよ。アリエッタ、しばしうごくな。」
アリエッタが頷いたのを見て、
僕は、剣を抜いて、アリエッタの首飾りに剣先をそっと当てた。
首飾りの真珠は、一瞬、コバルトブルーに煌めき、また真珠の色に戻った。
「これで、大丈夫じゃ、アリエッタの守りが、更に強力になった。アリエッタを害するものは、海神の怒りにふれるであろう。
ヴァシリス、この守りは、我が庭で取れる真珠や貴石を使う事が大事じゃ。
其方が、守りたい者の身につければ守りとなる。首飾りでなくても、腕輪や指輪でも構わぬ。
いつでも、何回でも、其方の守るパワーは無限である。」
「父上、僕は、父上に何も返せないのに、、何か僕に出来ることはありませんか?」
「海を守るだけでよい。世界の海を、守れ。
アリエッタの愛は、広く大きくとめどなく溢れている。その愛を、其方が包み、慈しみ、愛し抜いて、守れ。それが海を守る事になる。
まだ先であろうが、二人に子ができたら、海に連れて来い。」
「はいっ、父上、私の力の全てをかけて、守ります。」
「うむうむ、、ヴァシリス、最後に、私に話したい時は、これに手を触れよ。さっ、つけてやろう。」
ポセイダルゴ様は、コバルトブルーに煌めく腕輪を、僕の二の腕にはめてくれた。
そして、もう一度、僕をがっしりと抱きしめた。
その瞬間、僕の全身にとてつもない海のパワーが流れ込んだ気がした。腕輪は、ピッタリとはまっている。
「海を感じたか?」
「はいっ。」
「では、行け。ヴァシリス。海を守り、陸を守れ。其方とアリエッタには、神々の守護があることを忘れるな。
アリエッタ、ヴァシリスを頼む。添い遂げよ。」
僕達が返事をする前に、ポセイダルゴ様は、金色に輝くトライデントを、さらりと降った。
気がついたら、僕とアリエッタは、いつもの浜辺にいた。
「ヴァシリス殿下、姫さまっ。」
ユリシーズの声がした。
剣の力がわかりました。
読んでいただき、ありがとうございます。




