俺とテツとユメと
落ち掛けた太陽は既に沈み、周囲は闇に包まれていた。
月の光が微かに照らす大地を見渡せば何処かもの寂しく感じる。
道の傍らに生えていた一本の木が更にそれを強調していた。
歩き続けている為か睡魔には襲われる事は無いが、やはり朝から晩迄歩き続けていると疲労が溜まっているのは明らかだった。
只でさえ昨日の夜迄眠り続けていた為に身体が鈍っている感覚が有る。更に日中の日差しに地味ながらも体力は奪われ、夜の急激な気温の変化に耐えれず身体が休息を求めている様だ。
しかし背後の二人の言葉を無視し歩き始めた手前、再び足を止める事はどうしても出来ないだろう。
さっき視界の先に見えていた一本の木を通り過ぎる。まだ此だけしか進んでいないのか…。
彼らは俺に確りと付いて来ている。
ユメは与えられた任務に忠実なのかただ無言で足を進めている。時折此方の身を案じてか休憩を持ち掛けて来るが、俺はそれを断り疲労を隠しながら歩く。
最も彼女は此方が体力の限界に近付いている事を理解しているのだろうが。
思いの外彼女は此方に気を遣っているようだった。流石はルルーに選ばれた人物という事なのだろう。
問題は彼女じゃない。
「…あのー…やっぱり休みませんか…?そんなに急いでも…無駄に体力消耗するだけ…ですし…」
何なんだこの男は。
初めは彼も俺の事を気遣って休憩を勧めてくれているものだとばかり思っていた。しかし進むにつれ彼からの言葉が発せられる頻度が増え、日が落ち掛ける頃には自分が疲れたから休みたいと言わんばかりに告げられている。
背後からそんな言葉を投げかけられ続けるのは迷惑極まりない。
何故こんな男をルルーが同行させたのか本当に分からなくなってくる。
そんな事を思いながら彼の言葉を無視するべく無言で進もうとしたのだが…突然ユメの声が響いた。
「テツ、貴方が何の為に私達に付いて来たのかは知らないけれど…それ以上弱音を吐き続けるつもりなら此処に置いて行くから。」
「え…?あ……ごめん…なさい…」
そのやり取りに違和感を感じ振り向けばユメはテツを冷たい視線で睨み淡々と言い放っていた。
その言葉を聞いた彼の表情はマスクで確りとは確認出来ないものの視線を逸らしたその瞳は微かだか悲しそうに見えた。
そのやり取りが初めての彼女達の会話だった。ルルーの下での彼らがどの様な関係にあるのかは知らないが決して仲が良いとは思えない。
かと言ってルルーがテツの同行を許したのを考えると仲が悪い訳でもないのだろう。
「…さあ、先に進みましょう。休憩を取らないのなら足を止める意味等有りません。」
何事も無かった様にユメは此方に向き直り言う。俺は知らず知らずの内に足を止めていたらしい。
謝罪を告げたテツは下を向いた侭肩を落としている。余程彼女の言葉が効いたのだろうか?何にせよこれ以上無駄に休憩を迫る事は無いだろう。
俺は彼女に促される様にまた一歩一歩足を進ませると突然、次は俺に向けユメが歩きながら言う。
「彼の言葉は気にしないで下さい。」
「あ…ああ…」
戸惑いながらも返事すれば彼女は視線を進行方向にやりそれ以上何も言わなかった。
そこ迄言われる彼が流石に少し可哀想に思えたのだが俺が口を挟むべき事ではないな、と先程迄と同じく黙々と進む。
先頭は俺、次いでユメが後に続き最後尾にテツがトボトボと歩んでいる。
初めて彼を見た時からは比べ物にならない程元気を喪失していた。
まるで子供の様だ。
それから暫く進むもやはりまだ町は見えない。今更だがルルーが距離が有るとは言っていたがまさか1日歩き続けても到着しないとは…。
「─…あの…」
食料等はルルーから譲って貰えた為空腹に苦しむ事は無いし適度な水分補給も出来ている。問題はやはり俺の体力か。
初めに比べ歩く速度は大分遅くなっているだろう。早く進もうとするがやはり身体が追い付いて来ない。
そう考えると俺の背後で疲れた様子を見せない彼女は優秀は人物なのだと改めて感じる。
「─…えー…と…」
俺の速度に合わせついて来るのが楽なだけなのか?だとしたら俺は自分の記憶には無いが余程体力が無いのだという事になる。
俺はその事を認めたくない一心で歩く速度を微かに上げる。本当に微々たるものだったのだが。
こんな意地が張れるのならまだまだ行ける、と俺は内心で呟いていた。
ふと背後の足音が消えた。
不思議に思い振り返るとテツが足を止めていた。多分彼に釣られてだとは思うがユメもテツの後方で立っている。
何なんだ、一体?
そう感じながら彼らに視線を向ければ周囲に気を配っているのが理解出来た。
「おい…どうかしたのか?」
俺はどちらにともなく質問する。
するとテツから理解し難いその理由が告げられた。
「あの…さっきからボク達…監視されてます…」