『アンノウン』
監視されている?
その言葉は俺にとってとても衝撃的なものだった。
周囲を見渡せど誰も居ない。勿論深夜の闇に包まれ近辺には林等身を隠す場所が有る。が…万一ずっと監視されてきたというならば日が落ちる前にユメがその事を告げる筈だろう。
今になってテツが監視の事を告げた訳は一体何なのだろうか?
「…一体誰が監視してるって言うんだ?俺達はルルーの所を出てから他の人影を見ていない。それに此れだけ時間が有ったんだ、普通なら明るい時間帯に気付くだろう…まさか冗談じゃないだろうな?」
俺の考えをテツに投げかける。微かな疑いを持って告げたその言葉にテツは不満気に視線を逸らす。そして俺に続きユメが一言。
「嘘では無いですよ。私も先程から何か不快な感覚を感じていましたが…まさか監視されているとは…」
テツが微かに嬉しそうな表情を見せる。残念だが監視されているのは事実らしい…が、何処にそんな人物が居るというのか。
得に同様する様子を見せない所を見るとどうやらユメは既にその存在には気付いていた様だ。しかし相手の場所は把握出来ていないらしくしきりに周囲を見渡している。彼女を欺く者とは余程身を隠す事に優れているのだろう。
ふと視線をテツに戻せば彼女とは違い、彼はただ一点を見詰めていた。
どうやら彼には監視する者が誰なのかを理解しているらしいが…話が唐突過ぎて頭が混乱してくる。
ユメもテツの視線に気付いたらしくその方向を見遣る。
微かな恐怖感は有ったものの俺も彼女に促される様にその視線を辿りその一点に眼を向けた。
テツが静かに告げる。
「お兄さんには…見えない筈…です…だって…―」
俺が視界に捕らえたのは暗闇を照らす天の月。瞬く星が俺達を見下ろしている。眼に付くものはそれだけだった。
冗談じゃない、監視されているというのは星や月に見られているという事なのか?子供の夢の話じゃないか、そんなもの。
溜息一つ、緊張に強張った身体から一気に力が抜ける。
文句を言おうとテツの方に視線を遣ろうとすると、未だ一点を見詰めるユメの姿が見える。
彼女は俺とは違い呆れた表情ではなかった。
何処か意表を突かれたように眼を見開いている。テツも矢張りその一点を瞳に映していた。
何なんだ一体?彼等には何かが見えているのか?だとしたら一体何が?
俺には見えぬものが其処に有る。いや…居るのかもしれない。
「君の実態は…そうか……だから…」
彼は何か意味が分からない事を告げている。
その内容は誰かと会話しているようだ。つまり其処にやはり生物が居るという事になるのだろう。
「だから私は気付く事が出来なかった訳か…全く…。」
ユメはユメで独り納得する様に呟いている。微かな笑みを浮かべ意味深な事を口走る姿は何も見えていない者からすると不自然極まりない。
俺はその立場に耐え切れず問い掛けた。
「お…おい。一体何が如何なっているんだ?其処に何か居るのか?そいつが俺達を監視していたのか?」
今、俺の頭の中に在る疑問を全てぶつける。
人というのは自分の理解出来ないものが有ると不安を覚えるものだ。
俺の心は不安で一杯だった。先程緊張が解け楽になった身体も既に再び緊張に包まれている。
「お兄さんは…純粋ですから…見えないんですよね…。此処に居るのは…D25…プルメリア…です。」
「Dシリーズ。こんな場所で遭遇するとは思っていませんでした…」
テツの言うプルメリアというのが彼等が見ているモノの名前らしい。D25というのは…ユメの言葉からするに何かの番号なのか?
存在は分かったが状況は先程と全く変わっていない。
どんな容姿で、どんな大きさで、どんなモノなのか?それが知りたいが…。
「彼は…危害を加える様な事…出来ないですから…安心して下さい…」
テツが此方に視線を向け、今まで見ていた一点を指差し言う。
多分俺を安心させようとしているのだろうが自分で安全を確認出来るまでは信用出来ないだろう。
「一体その…プルメリアという奴は何なんだ?何故俺は姿が見えない?」
安心などとは程遠い、少し苛立った口調で乱暴に問う。
テツは俺の様子に視線を逸らす。少し強く言い過ぎたか?しかしそんな事を気に出来る程、俺は落ち着いては居なかった。
そのやり取りを聞いていたユメが、相変わらず一点を見詰めながら淡々と答え始めた。
「DNo.25―プルメリア―…簡単に言えば人の姿を模したエネルギー体です。人を模しているだけ故に言葉は喋れませんしエネルギーの塊なので人には確認する事が出来ません。勿論彼等も人には干渉する事が出来ません。エネルギーの強い者は稀に人の眼にも留まる事が有りますが…それらを見たかつての人類は「幽霊」や「 霊体」等と呼んでいました。今では研究も進歩し彼等の存在も正式に確認されましたが何故エネルギー体が意思を持っているのかは今の科学では立証出来ていません。」
人が変わった様に彼女が告げた専門的な内容に微かに驚いたが、本当に驚いたのはその内容だった。
エネルギー体など理解出来る筈が無いだろう。しかし確認されているという事は実際に居る事が証明されたという事。つまり確実に其処にはプルメリアというエネルギーの塊が居て、俺を見ているのだ。
かつての人類が「幽霊」を恐れていたのは知っている。
まさに今、俺はその恐れを感じていた。しかし恐れている場合では無い。
「な…何の為に俺達を監視していたんだ?」
得体の知れぬエネルギー体に問い掛ける様に宙に投げかける。
勿論返事は無い、そんな事は分かっている。代わりのテツが返事をした。
「彼等は…この周辺を…住処としている…様です。…何かボク達が…危害を加えないか…監視していたのだと思います…」
監視の理由は単純なものだった。それが本当ならば俺達に直接関係するモノでは無いという事になる。…監視というから何か敵対する者が居るのかと思っていたのだが考え過ぎだったらしい。
「つまりこの周辺にはそのプルメリアと呼ばれるエネルギー体が沢山居るって事か…全く、驚かせる。」
周囲を見渡せど誰も居ない場所に何かが居るというのは気分が悪い。だがそれがこの世界で普通の事だというのなら不安がっても居られない。
俺の記憶が無くなる前まではこんな事は普通だと感じていたのだろうか?一刻も早く記憶を取り戻さなければいけない事は明白だ。何せ皆が普通の事だと思っている事が分からないのだから大変な事だろう。
しかしこのエネルギー体が普通に生息するものだというのなら一体何故彼女は驚きを見せたのだろうか?眼を見開き何か呟いていたのを覚えている。
それに彼女達が言っていたDシリーズ、No.25。その意味も知っておかなければならないだろう。
俺はその疑問を彼等に投げかけてみた。するとテツが驚いた表情を見せる。
「…本当に…記憶…全く無いんですね…驚きました…。説明するのは難しいですが…このDシリーズは…普段人が居る場所には姿を現す事が有りません…森の奥や…地下…人が踏み入れない場所に居るんです…。」
「…そうか!普段そんな場所にしか生息しないプルメリアがこんな場所に居る事が異常という事か。」
「はい…その理由は分かりませんが…普段住み慣れぬ場所に移住した結果…彼等は異常に警戒心が強まった…という事だと思います…」
テツの説明で一つの疑問が解決した。勿論根本的な疑問…何故エネルギー体の存在が在るのか…は分かっていないが、そんな事迄聞いていては何日掛かるか分からないだろう。故に目の前の疑問を一つづつ解決していかなければ。
そして二つ目の疑問にはユメが答える。ユメはその一点から視線を此方に向け、先程の様に博識な一面を俺に見せつける。
「この世界には人間、動物の他に「未知の生物―アンノウン―と呼ばれる生命体が存在しています。彼等は姿を消したり、他の生物に寄生したりする事で長らくその存在を隠していました。しかし最近になりその存在が立証されたのです。その種類は数えきれぬ程で未だ発見されていないものも沢山居ます。科学者達は彼等を 26の分類…例外も有りますが…兎に角それらに分けそれぞれに番号を振りました。その分類を示す文字がA〜Zまでのアルファベット、分類内でのナンバーが1〜の数字です。更に今回私達が遭遇したこのD25のように其々に名称が付けられ、世間一般にもその存在は広く浸透しています。」
アンノウン。新たな生物か。
言葉で説明されると理解が難しいものがあるが、そんな事は言っていられない。
どうやら彼女の話からすると、このプルメリアというのが実態が無い性質も持っているだけであり、他のアンノウン達の中には姿を確認出来るものも居るようだ。
しかし最近までその存在が世間に広まっていなかった事からすると、普通に生活する中で意識して彼等に遭遇するのは稀だという事が分かる。つまり今、この瞬間はとても貴重な時なのだという事なのだろうが、俺にはその凄さの実感が余り無かった。なんせ姿が無いのだから…。
しかし随分ここで時間を潰してしまったような気がする。辺りは相変わらず闇に包まれているが、目的地が有る手前こんな場所で未知との遭遇の感動に浸っている場合では無い。
テツとユメはその目的を忘れているのか、何も無い空間をただじっと見詰めている。
別に彼等と仲間という訳ではないのだが正直な所、のけ者にされた様で嫌な気分だ。
この侭独りで行ってしまおうか?とも考えたがルルーの顔が浮かびその考えは捨てた。
ならば速く進まなくては。
「もう良いだろう。…珍しいのは分かるがそんなものに構っている時間が有るなら日が差さない内に進んでおいた方が良い。」
二人へと告げる。彼等は視線を此方にやり名残惜しそうに宙を見詰めるも自らの任務を実行すべく再び進行方向を向く。
よし、今の時間で大分身体の疲れが取れた気がする。これなら又結構な距離を歩く事が出来るだろう。
もしそのプルメリアの姿が俺にも確認たのならもう少し長居しただろうか…などと考えつつ歩を進めようとしたその時だった。
三つ目の疑問が頭に浮かぶ。
これは明らかにおかしい事、今までの話をどれだけ思い返してみてもその答えは見付からない。何故?という言葉しか見付からない。
背後の二人へと視線を向ける。変わらぬ容姿で此方を不思議そうに見返すテツとユメ。その姿は人間に違いない。会話だって出来る。
ならばどうして俺には出来ず彼等には出来る?
俺は恐る恐る口を開き、静かに問い掛けた。
「…お前達…何でプルメリアが見えるんだ…?」
第3話と連続投稿になったので此方に後書きを書かせて頂きますね?
実は今回の話は2回に分けようと思っていたのですが、上手く話しを区切る事が出来ず前回に比べ随分長くなってしまいました。
読みにくかったかもしれません…すみませんでした;
それに比べ前回はとても短い為、今後はなるべく文字数を統一させていきたいと思いました…。




