死者からの電話
気色の悪い感触に吐き気を催しながら、血肉を断つ。
むせ返るような鉄くさい臭いと骨を断つ感触。
それでも手を止めなかったのは、無下夢中だったからだ。
死体をばらし、スーツケースに詰める。いくつかは細かくしてトイレに流す。
バレないように、完璧に処理して、捨てる。道中でGPSや車のETCのログが残らないように、スマホの電源を切り、徒歩で移動する。
誰にも見つからないように、うまく隠すことが出来た。
◆
あれから数日が経った。
それでも、まだ気が重い。
久しぶりに大学のサークルに顔を出す。
サークル友達はこちらに気づくと、驚いた様子でこちらに近づいてきた。
「智樹、久しぶりだな」
「ああ、久しぶり......」
「聖花ちゃんのことは、本当に、なんというか......気の毒だったな。まさか、行方不明になるなんて......」
俺の彼女の清代 聖花は、数日前、深夜に自宅から出かけたきり、消息不明となっている。
そのことについて、こいつは知っているようだ。
「............心配してくれてありがとな。でも、聖花はきっとすぐに返ってくるよ」
「......そう、だな.......気分転換に、今日はサークル活動しようぜ!」
サークル活動をしていると、聖花と初めて会った時のことを思い出す。
◆
元から綺麗な写真を眺めるのが好きだった俺は、それが困じて写真サークルへ入った。
仲間内で綺麗な写真を撮ったり眺めたり、鑑賞会をしたりするのは面白いだろうと思ったのだ。
聖花と初めて会ったのはその時だった。
聖花は非常に整った顔立ちにモデルのようなスタイルをしていて、行く人がすれ違いざまに二度見するような人間だった。そのうえ、誰にでも優しく、おっとりとした性格をしていた。
綺麗な花の写真をよく撮っていて、光のセンスが他のサークルメンバーよりもずば抜けていたため、サークル内でも一目置かれるほどの写真を撮っていた。
俺は聖花の撮る写真のファンに成り、よく見させてもらった。
すると、向こうの方から俺と一緒にどこかへ行こうと誘ってもらえるようになり、次第に仲が深まっていった。
そして、去年の秋。
俺は聖花に告白し、見事付き合ってもらえることになった。
その時は自分の幸運に感謝したものだったが、今思えば、うたかたの夢に過ぎなかたのだろう。
今年の春頃から、聖花の様子がだんだんおかしくなっていった。
一緒にどこかへ行こうと誘っても断るようになった。
冷められたのかと不安に思い、スマホの着信履歴をこっそり確認すると、俺以外のやつと頻繁に連絡を取っていた。
そして、俺は遂に気づいてしまった。
聖花は、二股していたのだ。
あの優しくておっとりとした聖花が、まさかこんなクズだったなんて.......
深い絶望に、一時は飯が喉を通らずにガリガリに痩せてしまった。
これも全部、アイツのせいだ。
次第に、悲しみは怒りへと変わった。
そして、数日前、俺は聖花を殺し、その死体を完璧に隠した。
俺の所有している山に埋めた。協力者に頼んでアリバイも作った。
監視カメラの位置も把握しているし、もし殺人を疑われても、俺を犯人だと断定できる証拠などない。
まさしく完全犯罪だった。
だが、もし協力者が裏切ったら?
埋め立てた場所を、誰かが勝手に掘ったら、土砂崩れでも起きたら?
俺の知らない監視カメラやドライブレコーダがあったら?
殺人を犯した以上、痕跡は完全には消すことができない。
だからこそ、不安が残る。
不安が常に心の中にあって落ち着かない。
誰かが、常に俺を見張っているような気がする。
誰かが、俺の周囲で聞き耳を立てているような気がする。
◆
大学からの帰り道、すっかり周囲は暗くなっていた。
今日は新月なせいか、街頭が無いところはほとんど真っ暗で見えない。
ほとんどの店はしまり、人通りもほとんど無い。
それでも、この暗闇の中に何かが潜んでいるかもしれない。俺を陥れようとする何かが。周囲をキョロキョロと見回すが、何かの気配がするわけではない。
ヴーヴー、とスマホのバイブレーションの音が聞こえた。
スマホの画面を見てみると、非通知設定の電話だった。
俺は電話をきった。
電話をきった直後、再び電話が鳴った。
俺は電話を再度切った。
再び、電話が鳴った。
俺はもう一度切った。
そして、三度電話が鳴る。
何度切っても電話がかかってくる。
俺は諦めて電話に出た。
「もしもし」
「トモくん」
「えっ」
思わず唖然とした声がでる。
なぜならば、電話の向こうから聞こえた声は、聖花のものだったからだ。
それに、俺のことをトモくんと呼ぶのは聖花しかいない。
「聖花......? なんで......お前は......」
「殺された。でも、かろうじて生きてたんだ」
「そんな、わけが............」
「............でも、こうして生きているでしょ?」
「嘘だ。お前は、俺が、俺が......」
『俺が殺した』その言葉が出てくる前に、言い止まる。
もし、この電話先が聖花のフリをした第三者だったらどうする?
俺は犯行を自供してしまうことになる。
「犯行をバラされたく無かったら、君が私を殺した場所まで来てよ」
もし、このまま犯罪を認めてしまったら、親父にも迷惑がかかる。
だが、もし本当に聖花が生きていたら......俺は、復讐される......怖い。
そんな場所に行くなんて、出来ない。
動機が激しくなり、視界が歪み始める。
そうだ、殺しそびれたなら、もう一度殺せばいいだけだ。
なんだ、簡単なことじゃないか。
「.......わかった、行く......」
軽い足取りで指定された場所まで向かう。
わざわざ生きていたのに、俺を呼び出すなんて、馬鹿なやつだ。
到着すると、そこには見知らぬ女がいた。
赤いメッシュをいれた短髪の黒い髪をした身長が高い女だ。
「お前が、聖花を殺したんだよな?」
電話口の声とは違うが、ここにいるということは、こいつもなにか知っている。
殺さなけば。
懐に隠し持っていた護身用の警棒を取り出す。
「死ねーーー!」
直後、足元に鋭い痛みが走り、倒れた。
足元を見ると、そこにはピアノ線が引かれていた。
「やっぱり、やっぱり、俺を殺そうとしたんだ......!」
「そうだよ」
長身の女が俺の頭に鈍器を叩きつけた。
新たに一名、失踪者が増えた。




