エピローグ 未来へ
春。
俺は、名古屋大学工学部機械・航空宇宙工学科へ進学した。
我が坂の上高校から旧帝国大学へ進学するのは快挙らしい。
もっとも、俺は受験勉強を死ぬほど頑張ったし、おじいちゃんには予備校にも通わせてもらった。
努力が実を結んだ、その結果だ。
俺がこの大学にこだわった理由は、自宅から通える距離にあることも一つだが、それ以上に、この大学には俺の夢へ続く道があったからだ。
名古屋大学工学部は、自動運転やモビリティをはじめとする未来の自動車技術の研究で、東京大学と並ぶ国内最高峰の一つだという。
世界トップクラスの自動車メーカー、トヨタ自動車のお膝元に位置し、共同研究や企業との連携も非常に盛んだ。
ここで車づくりを学び、大学院では自動運転やAIを研究する。
そしていつの日か、自動車メーカーで未来の車の開発に携わりたい。
それが、今の俺の夢だ。
◇
この世界へ来た頃の俺は、何も知らなかった。
知識も、常識も、この世界ではゼロからのスタートだった。
その遅れを取り戻すように、夢中で学び続けた。
高校一年の冬。
あの一か月。
すべてを注ぎ込み、ハヤトノートを書き上げた経験が、今の俺の原点になっている。
◇
ハルカやサクラたちは、それぞれ地元近くの大学へ進学した。
進む道は違っても、今でも変わらず交流は続いている。
そして――
ハルカとは、高校一年の終わりに付き合い始めた。
別々の進路が決まった日。
「……浮気、しないでね?」
そう言って、じっと俺を見つめてきた。
もちろん心配はいらない。
工学部は女子が少ない。
俺が入る剣道部も、きっと同じだろう。
浮気なんて、できる環境ではない。
……いや、そういう問題じゃないか。
俺は、彼女こそが一番の理解者だと思っている。
だからこそ――
まだ話せていないことがある。
俺が別の世界から来た人間だということ。
もし将来、本当の家族になる日が来たなら。
その時は、すべてを話そうと思う。
◇
時々、あちらの世界に残してきた家族を思い出す。
父さん。
母さん。
そして、ミオ。
元気にしているだろうか、と不安になることはない。
ミオから、二人の未来を聞いているからだ。
未来を知っている家族の安否を案じる。
不思議な感覚だった。
もうすぐ、あちらのミオは十五歳の成人を迎える。
まもなく、あちらのミオは十五歳の成人を迎える。
そして、レクサスに乗り、こちらの世界の過去へ旅立つ。
高校一年生だった俺のもとへ――。
◇
あの奇跡のレクサスは、今も時空のループの中を走り続けている。
もう、俺が、父さんや母さんのもとへ戻ることはないだろう。
それでも――
願っている。
あの王国で。
父さんとミオが、改革を成し遂げることを。
そして俺も、この世界で。
父さんに負けないくらい、未来を少しだけ前へ進められる人間になりたい。
技術で。
知恵で。
そして、人の暮らしを変える仕事で。
父さん。
どちらが、より遠くまで未来を進められるか。
――親子で勝負だ。




