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レクサス逆転生――異世界育ちの俺、父さんの世界で科学文明を学ぶ  作者: しばたろう


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16/19

16新幹線の先にあったもの

 食後のお茶を飲んでいると、玄関のほうが騒がしくなった。


「おはよう!」


 元気な声とともに、サクラがリビングに入ってくる。

 朝からやけにテンションが高い。

 というか――目が輝いている。


 そのサクラに、ミオがすっと立ち上がり、軽く頭を下げた。


「あなたが、サクラちゃん? はじめまして、ハヤトの妹のミオです」


 サクラは目を見開いた。


「はじめまして! すごい、ハヤトに似てるね!」


 感心したように、ミオの顔をまじまじと見つめる。


 いや――。


 似ているのは、どちらかと言えば。


 サクラとミオのほうだ。


 背丈も、雰囲気も、どこかよく似ている。

 並んで立っていれば、姉妹だと言われても、誰も疑わないだろう。


 おばあちゃんも、目を細めて言った。


「ふたり、なんか似てるわねぇ」


 その言葉に、サクラとミオは顔を見合わせて、くすりと笑った。



「しかし――」


 お茶をすすりながら、サクラが口を開く。


「妹までやってくるって、なんかすごいねー」


「おじいちゃんもなぁ、まさか孫が二人そろうなんて、ちょっと前までは考えてもいなかったぞ」


 おじいちゃんが、嬉しそうに笑う。


 なんだか、不思議な光景だ。


 ミオが別の世界から突然やってきた――。


 本来なら、もっと驚いたり、戸惑ったりしてもおかしくないはずなのに。


 俺という前例があるせいか、みんなやけにあっさりしている。


 ……この分だと。


 もしこのあと、俺の両親が突然現れても、

 「おかえりなさい」と、あっさり出迎えられてしまうのかもしれない。


 そんなことをぼんやり考えていると、話は自然と外出の流れになった。


「ミオちゃん、街を案内してあげる」

 サクラが胸をドンとたたく。


「夕食までには帰ってくるのよ」

 おばあちゃんが言う。


「はーい!」

 サクラが元気よく返事をする。

「ミオちゃん、行きたいところある?」


「私、ドーナツ、食べてみたい!」

 ミオが即答した。


「いいね! じゃあ決まり! 連れてってあげる!」


 勢いよく立ち上がるサクラ。


 そして、くるりとこちらを振り返った。


「ハヤトはどうする?」


「いや、俺は……今日はやめておく」


 そう答えると、ミオがまっすぐ俺を見る。


「兄さん、今日――大切な日なの」


 その一言に、サクラが小さく首をかしげた。


「ふーん。そうなんだ。じゃあ、二人で行こうか」


 深くは聞かない。


 そういうところが、サクラらしい。


「行ってきまーす!」


「いってきます」


 軽やかな声を残して、二人は玄関の向こうへ消えていった。



 二人が出かけると、部屋は少し落ち着いた。


 湯のみから立ちのぼる、わずかな湯気。


 その向こうで、俺はひとり、考えた。


 昨日、ミオに言われた言葉。


「元の世界に戻るか、それとも、この世界に残るか」


 あの問いが、何度も頭の中で繰り返される。


 今日、答えを出さなければならない。



 その後、少ししてから、

 俺も、ひとり、家を出た。


 一瞬だけ迷ってから、スマホを取り出す。


「今から会えないかな?」


 ハルカにメッセージを送った。


「OK。」


 すぐに返事がきた。



 駅近くのスターバックスで待っていると、しばらくしてハルカがやってきた。


「おはよう」


「おはよう。今日は、どうしたの。急に?」


 いつも通りの口調。

 だが、その視線はわずかにこちらを探っている。


「ああ、急に呼び出して、ごめん」


「ちょっと、今日、付き合ってほしいんだ」


「いいわ。どこ行くの?」


 迷いのない返事。


 俺は、サクラの言葉を思い出していた。


『機会があれば、新幹線にも乗ってみるといいよ』


 ――この世界を知るには、きっと必要な体験だ。


「新幹線に、乗りたいんだ」


 ハルカは少しだけ驚いたように目を見開き、それから頷いた。


「いいわ。案内してあげる。

 で、新幹線に乗ってどこまで行くの?」


「そうだな……京都に行ってみようか」


 たしか、新幹線なら、一時間もかからずに到着する距離だ。



 地下鉄に乗り、新幹線の駅へ。


 ハルカが券売機で手際よくチケットを取ってくれる。


 改札をくぐり、ホームへ上がると、人であふれていた。


 その中を、のぞみ号が静かに滑り込んでくる。


 長く、無駄のないフォルム。


 ――これが、日本最速。


 列に従い、乗車する。


 ハルカは窓際に座り、俺は通路側に腰を下ろした。


 発車。


 ゆっくりと動き出し――やがて、一気に加速する。


 景色が、流れる。


 いや、飛ぶ。


 今まで乗った電車とは、まるで別物だった。


 それなのに、車内は静かで、揺れもほとんどない。


 ――どういう技術だ。


 理解しようとする思考を、感嘆が軽く追い越していく。


 ただ、純粋に――すごい。


 気づけば、窓に身を寄せていた。


 そんな俺を見て、ハルカがくすりと笑う。


「高瀬くん、ほんと、こういうの好きよね」


「ああ……これは、すごい」


 それしか言えなかった。



 あっという間に、京都に着いた。


 駅から電車を乗り継ぎ、伏見稲荷へ向かう。


 稲荷駅を降りると、観光客の流れが自然と神社へと続いていた。


 その流れに乗る。


 やがて、目の前に現れる――鳥居の列。


 写真で見たことはあった。


 だが、実際に目にすると、まるで別物だ。


 冬の澄んだ空気の中、真っ赤な鳥居が連なっている。


 幻想的な光景だった。


 しかし――


 人が多い。


 ふと気づくと、ハルカの姿が視界から外れかけていた。


 思わず、手を伸ばす。


 そのまま、握る。


 ハルカは一瞬、はっとした表情を見せた。


 だが、何も言わず――握り返してくる。


 その手は、少し冷たかった。


 心臓の鼓動が、やけに大きく響く。



 鳥居をくぐり、山を登っていく。


 途中の茶屋で、足を止めた。


 温かいお茶と、団子。


 そこから見下ろす京都の街。


 静けさと、遠くに広がる都市。


 ――この国は。


 これほどまでに発展していながら、

 こうして古いものを残している。


 技術と文化。


 どちらも、当たり前のように共存している。


 俺が知っているこの国は、まだほんの一部に過ぎない。


 そんなことを、改めて実感する。



 神社を一回りし、下山する。


 下りは比較的人が少なかった。


 それでも――手は、離さなかった。



 その後、バスで河原町へ向かう。


 人の流れ。

 店の並び。

 にぎやかな空気。


 食べ歩きをしながら、歩く。


 笑い声。

 すれ違う人々。

 何気ない日常。


 そして、鴨川のほとりへ。


 川の流れは穏やかで、空はゆっくりと夕色に染まっていく。



 この世界に来て、1年半。


 目まぐるしい日々だった。


 もちろん、故郷は懐かしい。


 両親にも心配をかけているだろう。


 元気な顔を見せてやりたい。


 そして、あの世界で――


 はじめての車を作るという夢も、確かにある。


 だが。


 この世界で見つけたものも、同じくらい――大切だ。


 目標。


 夢。


 そして――人。


 隣を歩くハルカを見る。


 つないだ手の温もり。


 言葉にしなくても、そこにある距離。


 ――俺は。


 簡単にこの世界を去れるほど、

 何も持っていないわけじゃなかった。



 日が傾くころ、俺たちは新幹線に乗って戻った。


 別れ際。


「春になったら、今度はお花見に京都に行こうよ」


 ハルカが、少しだけ照れたように言う。


 その言葉に、ほんの少しだけ間を置いて――


「ああ」


 そう返した。


 だが――


 その中に、答えは、すでに込められていた。

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