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金蔵院大入道と首継の姫 ― 白首姫清乃は影を継ぐ  作者: ふりっぷ


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2/13

白首姫と、首を失った少年

首を伸ばす妖の娘と、

首を失いかけた少年の話です。


村に、首を失った死体が出た。

それは――清乃の名を呼びながら、首を探していたという。


長老の家に呼び出された、その日の夕方だった。


村一番の古い屋敷の土間に入ると、

囲炉裏の煙がゆらゆらと立ち、

煤けた梁の間に蜘蛛の巣が光る。


「白首姫様、どうぞお掛けください」


長老はいつになく緊張した声で言った。


清乃は正座し、白い首をわずかに傾けて待つ。


長老が手を叩くと、奥の障子が開いた。


そこに立っていたのは、少年だった。


年の頃は清乃と変わらない。

黒髪は短く切り揃えられ、

着物は村の者にしては上等な藍染め。


顔立ちは整っているのに、

どこか病弱そうな青白さがあった。


「こちらが清史郎じゃ」


長老が紹介する。


そのとき、

清史郎の首が――ほんのわずか、

遅れて戻った気がした。


襟元から覗いた首の付け根に、小さな赤いあざが見える。


指先でそっと隠す仕草は、あまりにも自然で、

あまりにも慣れていた。


清乃の瞳が、かすかに揺れた。


(あれは……)


少年は顔を上げると、静かに微笑んだ。


「はじめまして、清乃様。

村の者として、今日までお守りいただき感謝しております」


声は澄んでいて、どこか遠くを眺めるような響きがあった。


「白首姫様と呼ばんか」

「よい、いつも年寄に囲まれていると息がつまるの」


「では…」


長老が続ける。


「清史郎は遠縁の出じゃが、妖の血を濃く引いておって

これからの村を、白首姫様と共に支えてほしいと

……跡継ぎとして呼び寄せました」


清乃は黙って少年を見つめた。


首を伸ばしたい衝動にかられた。

ほんの少しだけ、襟元を覗いてみたい衝動に。


だが、それは失礼だと知っている。

だから首は動かさなかった。


「よろしくお願いします、清史郎さん」


清乃は微笑み、丁寧に頭を下げた。


その瞬間、少年の指がぴくりと震えた。



その夜、清乃は一人、金蔵院の裏山を歩いていた。


月は欠け、風は冷たい。


すると、背後から小さな石が転がる音がした。


振り返ると、そこに清史郎が立っていた。

一人で、灯りも持たずに。


「……こんな夜更けに、どうしたの?」


清乃が訊ねると、少年は少し困ったように笑った。


「清乃様こそ」


「私は、首を伸ばしに来たの。

誰も見てないから、思いきり伸ばせるでしょう?」


清乃は悪戯っぽく笑って、首をふわりと浮かせた。


五丈、十丈……

月明かりに白い首が伸びていく。


清史郎はそれを見上げて、静かに息を呑んだ。


「綺麗だ……」


呟きは小さすぎて、清乃には届かなかった。


そして少年は、自分の襟をそっと掴んだ。

指先が震えている。


「……僕も、見せてもいい?」


清乃の首が、ぴたりと止まった。


少年はゆっくりと襟をめくった。


そこにあったのは、ただのあざではなかった。


赤黒い、縄のような痕が、

首の付け根をぐるりと一周していた。


まるで、かつて首が千切れて縫い付けられたような、

恐ろしい痕。


「僕……昔、首が落ちたことがあるんだ」


清史郎は掠れた声で言った。


「五歳のとき、熱を出して死にかけた。

助からないと首を落とされた後、


妖混じりだとわかって縫い直してくれたって……

親がそう言ってた」


清乃の瞳が、大きく見開かれた。


「だから僕、首が弱いんだ。

伸ばすことはできないけど……

縮めることは、誰よりも上手い」


少年は微笑んだ。


その笑顔は、どこか清乃と同じ匂いがした。


孤独の匂い。

秘密を抱えた者の匂い。


清乃はゆっくりと首を縮め、少年の前に立った。


そして、初めて、本当の声で呟いた。


「……ねえ、清史郎くん」


「はい」


「私たち、似てるね」


――でも、貴方の首は切り落とされたりしないでしょう。


少年は咄嗟に首を背けたが、

清乃は首の痣をぺろりと舐めた。


二人の影が重なり合った後で、月が雲に隠れた。


(ゼニじい。私、見つけたかもしれない)


清乃の動機は止まらなかった。


それが――恋なのか、影の兆しなのか、

彼女にもまだ分からなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

清乃が見つけたものは、

仲間なのか、獲物なのか

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