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金蔵院大入道と首継の姫 ― 白首姫清乃は影を継ぐ  作者: ふりっぷ


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12/13

エピローグ:百年分騒いだ翌朝に

どうか最後まで、

白首姫ではない彼女の行く先を、

見届けていただければ幸いです。

 朝靄が、まだ里を離れきらない時間だった。


 昨夜の喧騒が嘘のように、村は静かだったが――

 完全に元に戻ったわけでもない。


 道端には、踏み固められた草。

 空き地には、解体途中のやぐらの木材。

 軒先には、祭りの名残の赤い布。


 清史郎は井戸端で、桶に水を汲んでいた。


 水面に映る自分の顔を見て、

 少しだけ、首を傾げる。


 ――変わったのか。

 それとも、変わった気がするだけなのか。


「おはよう」


 背後から声がした。


 振り返る前に、

 肩に、ぬるりとした感触。


「……っ」


 首だった。


 清乃の首が、いつの間にか伸びて、

 清史郎の肩に軽く巻きついている。


「やっぱり、まだ慣れないね」


「慣れなくていいわよ。

 慣れたら、つまらないもの」


 清乃は、体は少し離れた縁側に座ったまま、

 首だけをこちらに伸ばしていた。


 白い狩衣は簡素なものに戻り、

 髪も結い直している。


 けれど、目だけは――

 昨夜と同じ色をしていた。


「村、静かだね」


「今日ばっかりは特別だ」

 清乃は欠伸を噛み殺す。


「百年分、騒いだもの」


 清史郎は、桶を置きながら言った。


「……みんな、ちゃんと覚えてるかな」


「何を?」


「妖怪と一緒に笑ったこと」


 清乃は、少しだけ黙った。


 それから、首を縮めて、

 清史郎の正面に立つ。


「忘れる人もいるでしょうね」


「……」


「でもね」


 清乃は、指で彼の額をつついた。


「忘れない人が一人いれば、十分よ」


 清史郎は、言葉に詰まる。


「僕……役に立ってる?」


「立ちすぎて困るくらい」


 清乃は即答した。


「あなたがここにいるだけで、

 私は怖がらせなくていい理由を持てる」


 風が吹き、

 庭の木がさわりと揺れた。


 遠くで、子供の笑い声がする。


 昨夜、鬼火を追いかけていた子たちだ。


 清史郎は、ゆっくりと息を吐いた。


「……今日、何するの?」


「そうね」


 清乃は空を見上げる。


「まずは、片付け。

 それから、次の村の話を少しだけ」


清史郎には、清乃の笑い方が、

ほんの少しだけ浅いことに気づいてしまった。


「行っちゃうの?」


「うん」


清乃は少しだけ驚いてから、笑った。


「妖怪たちが馴染むには、まだ時間がいるの。

一度、みんなを連れて山へ戻るわ」


「……そっか」


清史郎は、少しだけ唇を噛んだ。


「でも、また来るんだよね」


「ええ。呼ばれたらね」


「呼ぶよ!」


思ったよりも強い声が出る。


「次は、村長とかじゃなくて、

僕が呼ぶ。ちゃんと、ここを守れるようになってから」


清乃は一瞬、目を見開いて――

それから、ゆっくりと笑った。


「それは楽しみね」


そう言って、彼の額に軽く指を当てる。


「じゃあ、それまでは修行ね」


「あなたが長老になったら、私を山に迎えに来て」


「聞こえたぜ」後ろから赤鬼が顔を覗かせる。


「おい、ご祝儀の準備だ。祭りが続くぞ!」


「ちょっ、まだ早いねって話をしていたの、

やめなさい」


村長が慌てて飛び出してくる。


「こ、こら! また騒ぎになるだろう!」


朝日が昇り、

妖怪と人の影が、同じ地面に並んで伸びていく。


まだ不格好で、ぎこちないけれど、

確かに同じ方向を向いていた。


――百年分騒いだその翌朝は、

新しい約束が生まれた日でもあった。

またどこかの夜で、

人と妖怪が交わる物語を書けたらと思います。


明日、外伝を掲載して終幕です。

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