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金蔵院大入道と首継の姫 ― 白首姫清乃は影を継ぐ  作者: ふりっぷ


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11/13

満月の夜、火と笑いの海

満月の夜。


山も里も、人の波で埋まった。


村長は都から取り寄せた陣羽織を着込み、

べっこうの扇子をぱちりと広げて高らかに宣言した。


「新たな妖怪和尚のお披露目じゃ!

今日の祭りの主催でもある、

清乃様に盛大な拍手を!」


どっ、と拍手が沸き起こる。


清乃は白い狩衣に紅の袴という出で立ちで、

やぐらの上に立った。


「清乃でございます。

皆さん、今日は驚くこともあるかも知れませんが、

最後まで楽しんでいってくださいね」


そして、小さく手を振ると、

いきなり首をにゅるっと十丈伸ばして、

夜空に浮かぶ満月を指さした。


「わあっ!」

「首が!」

「やっぱり本物だ!」


悲鳴と歓声が半々で上がる。


清乃は満足げに首を縮め、

隣に立つ清史郎に手を差し伸べた。


「私も率先して楽しみたいと思います。

ほら、清史郎くん。行くわよ」


二人はやぐらを降り、

人波をかき分けて歩いていく。


川辺では河童が意を決して鬼火ジャグリングを披露。

三つ、四つ、五つ……と火の玉を回す。


が、途中で一発顔面直撃。


「あちっ! 熱っ!」


河童が火の玉を落とした瞬間、

一瞬だけ、場が凍りついた。


だが次の瞬間、

子どもの笑い声が弾ける。


「もう一回!」


その声に、河童は目を丸くして、

それから照れたように嘴をかいた。


からかさ一本足が傘を広げて宙に舞うと

くるくる回り、お膳立てを整える。


その背後で火車が夜空を縦横無尽に駆け巡り、

炎の軌跡で巨大な龍を描いた。


火の粉が降り注ぐたび、

子供たちが「危ない!」と叫ぶが、

赤鬼がそっと手を翳すと、

粉は優しく風に乗り、

花びらのように散っていく。


歓声が山に谺した。


妖怪たちは、初めて味わう。


「怖がられる」のではなく、

「笑われる」「喜ばれる」という、

不思議な熱を。


やがて太鼓の音が少し遠のき、

笑い声も、夜気に溶けていく。


喧騒の輪から外れた土手には、

虫の音と、川の匂いだけが残っていた。


清乃と清史郎は並んで腰を下ろし、

指を絡ませて夜空を見上げた。


「あの……本当に僕でよかったんですか?」


清史郎がぽつりと呟く。


清乃は不機嫌そうに首をにょろにょろ伸ばし、

清史郎の肩にゆるく巻きつけた。


「あなたじゃなきゃダメなの。

何度も言わせないで。

今度また聞いたら、本当に絞めるから」


「……っ」


清史郎は真っ赤になって口をぱくぱくさせる。


清乃はふっと息を吐いて、

首を縮めながら続ける。


「あなただって、村長の息子だったけど、

爪弾きにされていた。

誰にも相談できずに生きてきたんでしょ」


「……どうして、それを」


「私がそうだったから。わかるの。

逃げ出すこともできなくて、


周りで遊ぶ子たちを遠目に見て、

近づいたら逃げられて」


清史郎は俯いた。


「僕は……君みたいに笑えない」


「いいのよ」


清乃は優しく、しかし確かに言った。


「あたしに全部任せておけば。

あなたには、今は私がいるでしょう」


そして、にっこりと笑う。


「大丈夫。悪いようにはしないから」


月明かりが、

二人の指の傷跡を白く照らした。


古い傷、新しい傷、自分でつけた傷。


すべてが、今は静かに疼いている。


けれど、それはもう「痛み」ではなく、

「ここまで生きてきた証」だった。


遠くで、祭りの太鼓が鳴り続ける。


鬼火が舞い、

火車が咆哮し、

人間と妖怪が、

同じ笑い声を上げている。


滅びは、まだ遠のいた。

影は、まだ少し残っている。


でも、今夜だけは――


満月の下で、

誰も泣いていない。


清乃は清史郎の肩に頭を預け、

小さく呟いた。


「ねえ、清史郎くん」

「なに?」


「明日からも、ちょっとだけ頑張ってみようか」

「……うん」


二人の影が、月明かりに長く伸びて、

やがて祭りの灯りに溶けていった。


――物語は、まだ終わらない。


白首姫は、もう姫じゃない。


ただの清乃と、ただの清史郎と、

少しずつ変わっていく妖怪たちと人間たちが、

これから紡いでいく、

新しい夜が始まるだけ。


満月の夜は、まだ続いていた。

今回は「怖がられる側だった存在が、笑われる側になる夜」

を描いてみました。

清乃と清史郎、それぞれが抱えてきた孤独が、

少しずつほどける回でもあります。

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