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金蔵院大入道と首継の姫 ― 白首姫清乃は影を継ぐ  作者: ふりっぷ


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10/13

白首姫はもう姫じゃない ――満月の夜の大祭

血も影も、まだ残っています。

けれど、今夜だけは――


どうか一緒に、

祭りを見ていってください。

村長屋敷の座敷に、

どさり、と黄金が落ちた。


赤鬼が差し出した籠から、

大判が溢れ落ちる。


村長は腰を抜かしそうになりながら、

必死に土下座の姿勢を保っていた。


「ほんのご挨拶でございます。

来月の満月、盛大なお祭りをしたいと思っています。

準備には、これをお使いください」


清乃は丁寧に三つ指をついたまま、

にこりともせずに告げた。


「そ、そんな大金を……!」


村長の声が裏返る。


「私にわかるのは、

ここにある財宝の使い道を、

誰もわかってなかったってことだけ」


清乃はゆっくりと顔を上げた。


「前の大入道は、自慢げに見せびらかしていた。

……あれでは、ただの馬鹿よ」


赤鬼が「ぐへへ」と低く笑う。


「この無意味な財宝を納めるために、

人間は田畑を切り開いた。

そのせいで木霊の半分がいなくなった」


清乃は籠の中から一枚の大判を摘み上げ、

指先で軽く弾いた。


きーん、と澄んだ音が座敷に響く。


「だから、今度は逆よ。

この財宝を祭りで使えば、


大工も、布職人も、酒屋も、反物屋も、

細工師も、大道芸人も、

みんなが潤う」


彼女は立ち上がり、

村長の前で軽く腰を折った。


「私は金剛院大入道を名乗りません。

ただ妖怪和尚とだけお呼びください。

以後お見知りおきを」


「お、おお……白首姫……

い、いや、妖怪和尚様に頭を下げられると、

腰が抜けて立てませんわ……!」


村長は額の汗を袖で拭いながら、

必死に笑顔を作った。


「貢ぎ物を戻して金剛院大入道を名乗らぬとは、

 儂らの村をお見捨てに?

 な、何か粗相がございましたか…」


「いいえ。

あなたのお子さん、清史郎君とはお友達なのです。

友好もかねて、来月の満月にお祭りをしたいということです」


「は、はあ……

そこまで人が集まるかどうか、

今月のお布清もままならぬ状態でして……

稲刈りが済めば、多少は……」


清乃が小さく指を鳴らした。


ガラガラガラ――


入り口の窓が激しく震え、

巨大な赤鬼の顔が、近づいてくる。


「ひぃぃぃぃっ!!」


村長の背中が、

一瞬で汗でびしょ濡れになった。


「あれを出しなさい」


清乃の声に、赤鬼がにやりと笑って、

もう一つ、

もっと大きな籠をどすんと置いた。


中身は――


金貨、古銭、宝石、翡翠の勾玉、

純金の髪飾り……


村の一年分の年貢を、

軽く超える量だった。


「人は、お金があれば動けると聞いております。

こちらも祭りの準備にお役立てください」


「ご謙遜を……村を蘇らせるため、でございますな」

村長は赤鬼をちらりと見て、

震える声で答えた。


「では!

金剛院大入道改め、新たに妖怪和尚お披露の祭りを開催、

今から触れを出しておきましょう!」


「ありがとう。

準備は私たちも協力するから」


清乃は赤鬼を指さして、くすりと笑った。


「彼、とっても力持ちなの。

山の古木を一本、担いで持ってきてもらうわ。

祭りのやぐらにちょうどいいでしょ?」


赤鬼が「任せな!」と胸を叩く。


ドン、という音に、

村長の肩がびくっと跳ねた。


清乃は立ち上がると、

まるで何事もなかったかのように微笑んだ。


「それじゃ、よろしくね」


そして、ふっと首を伸ばして――


五丈ほど伸びた首で、

村長の耳元に顔を寄せ、

小さく囁いた。


「怖がらせてごめんなさい。

でも、最初だけは許してちょだい、

お祭りはきっと楽しいよ」


村長はぽかんと口を開けたまま、

ただ頷くしかなかった。


清乃は首を縮めて、

赤鬼と並んで屋敷を出る。


外では、秋の陽が眩しかった。


「次はどの村に行こうかしら」


清乃は空を見上げて呟いた。


背後で、村長の震える声が遠く響いた。


「すごい……すごいことになったぞ……!

満月の夜は、百年ぶりの大祭じゃあ……!」


風に乗って、

どこかで小さな太鼓の音が、

もう鳴り始めていた。



清乃は“救われた”わけでも、“浄化された”わけでもありません。


ただ、

「恐れられる役目を引き受けるのをやめた」

それだけです。

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