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金蔵院大入道と首継の姫 ― 白首姫清乃は影を継ぐ  作者: ふりっぷ


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白首姫清乃と金蔵院の影

村に祀られる白首姫と、その背後に潜む影の物語です。

妖怪譚と継承の話を、少しだけ不気味に描きました。

 村の外れ。苔むした石段の先に、

金色の装飾だけがわずかに残る廃寺がある。

 人はそこを――金蔵院と呼んだ。


 夜ごと、山のように巨大な大入道が村を巡り、

欲深い者を金銀の鎖で縛り、闇へと引きずり込む。


 そんな噂があるせいで、誰も近寄らない。


 だが、そこに通う“白い影”が、ひとつだけあった。


「白首姫様のお通りじゃー! 土下座せい!!」


 春の祭礼の日。

 神輿がゆっくり進む。

その上に座るのは、十四、五の少女。



――そして、

彼女の首は肩から離れ、ふわりと宙に浮いていた。


 雪のように白く、美しく、落ち着きなくゆらめく“首”。

 最上級のろくろ首。


「これがわしの跡継ぎ、清乃じゃ」


 背後に立つ金蔵院大入道の声に、

村人は一斉に額を地へ擦りつける。


「白首姫様万歳ー!」

「今年も豊作でございますー!」


 清乃は静かに微笑み、

 首だけをすうっと伸ばし、村を見下ろした。

 月光のように冷たく、ひどく美しい。


 ――その夜。


 森の奥、古木の根元。


「またあの娘、ちやほやされてやがる」

「ゼニじいの財を独り占めする気か」

「首伸びるだけで偉そうにしやがって

 ……いっそ殺すか?」


 化け狸、木霊、猩々。

 古くから山に棲む妖怪たちが、嫉妬の牙を剥いていた。


「今夜こそあの娘の首、引きちぎってやる」

「生きたまま飾りにしてやればいい」


 嘲笑が闇に響く。


 そのとき――。


 ざざざざざざざざざ……!

 風もないのに木々が激しく揺れた。


「なんだ……?」


 月明かりの天頂に、三十丈を超える白い首が現れた。


「――見つかっちゃった」


 清乃の声。

 だが、その響きは昼間とは違い、

底冷えするほど冷たかった。


 白い首が、音もなく降下する。

 月が落ちるように静かに。


 妖怪たちの頭上、十丈の位置で止まった。


「な、なんでここに……!」


 化け狸が叫んだ瞬間――首の影が裂けた。

 いや、違う。影が膨れ上がったのだ。


 山を飲み込むほど巨大な黒い輪郭。

 金蔵院大入道の姿が、清乃の首とぴたりと重なる。


 『……お前ら』


 声は大入道のもの。

 だが、口を動かしているのは清乃だった。


「ひ、ひいっ! ゼ、ゼニじいまで……!」


 妖怪たちが震える。


 清乃(大入道)はゆっくり微笑んだ。


「首を伸ばすだけが能じゃないって、

教えてくれてありがとね」


 瞬間、金銀の鎖が森じゅうに走り、妖怪たちを絡め取る。


「ぎゃあああああ!!」

「やめろおお!! 首が、首が締まるううう!!」


 悲鳴。

 締め上げられる首。

 逃げ場はない。


清乃は、妖怪たちの悲鳴を聞きながら、三つ時を数えた。


「次は、本当に千切るから」

 清乃が静かに告げると、鎖はすうっと消える。

 妖怪たちは這いずって逃げていく。


 森に残されたのは、清乃の首だけ。

夜気が伸びきった首筋をすり抜けた。


 少女はぶるりと身を震わせると、

ゆっくりと首を縮めながら、小さく呟く。


「……ゼニじい、私はどんどん嫌われていく」


 背後から、巨大な手がそっと頭を撫でた。


「わしの後継者はお前だけだ。それだけで十分じゃろ」


 清乃は振り返らない。

 ただ、ほんの少しだけ頬を染めた。


 ――翌朝。


「白首姫様が悪霊どもを片っ端から始末したらしい!」

「これで村は安泰だ!」


 村には新しい噂が広がっていた。


 清乃はいつものように微笑む。

 傷ひとつない白い首で。


 しかし誰も知らない。

 その笑みの裏に、どれほどの重さが横たわっているかを。


 ただ、風が吹くときだけ――

 少女の首は、かすかに震えた。


 月夜。


 金蔵院の奥、本堂の裏手。

清乃は一人、首を最大限に伸ばして空を見上げていた。


 首は十丈、二十丈と伸び、

星に触れそうなほど高く昇る。


 遠くでまた悪口をいう声が聞こえる。

その数は前より増えていた。


「あいつら、仕返しに来るのかな…」

その頂で、少女はぽつりと呟く。


 振り返ると、金蔵院大入道が立っていた。

山のような巨体が、月光にぼんやり浮かぶ。


「ゼニじい……」


 清乃は首を縮めながら、初めて弱音をこぼした。


「私、本当に後継者になってよかったの?

怒っても、耐え忍んでも、誰も付いてこない……」


 大入道は答えない。

 ただ、巨大な手で伸びきった首を

森の下まで降ろしてやった。


 その手は冷たく、金の延べ棒のようだった。


「一人で首を伸ばして、皆の様子を伺って…馬鹿みたい」


「お前はまだ、首の使い方を知らんな」


「え?」


「伸びるだけが能じゃない。

……縮めることも、大事じゃて」


「私、ろくろ首なのに?」


 大入道は低く笑った。

「影はな、お前を生かしもすれば、

 殺しもする」


 ふぅぅううぅぅぅ。


「金蔵院大入道おぅっっ!!」


 ゼニじいの大声で清乃の髪はすべて後ろになびき、

木々が揺れる。


 少女の頰に、涎が降りかかった。


「まずは、自分に自信を持つことじゃな。わしのように」


 清乃は口をへの字に曲げ、そっと頰を拭った。


――でも、少しだけ、胸のつかえが取れたようだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

清乃はまだ“白首姫”になりきれていません。


三日間、連続更新いたします。

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