第29話: 焼き尽くせ!灼熱の刻印
悠真の手の中に現れたのは、漆黒の柄に炎を纏った刃を持つ剣――**烈火の刃**だった。
《烈火の刃》
特性① : 炎龍の咆哮 (一振りで炎の龍を生み出し、周囲の敵を焼き払う。)
特性② : 灼熱の刻印 (斬撃が当たった箇所に灼熱の紋様を刻み、継続的なダメージを与える。)
特性③ : 不滅の焔 (使用者の魔力を吸収し、刃の炎が消えることはない。)
悠真は、目の前にそびえる巨人を見据えた。
「さあ――行くぞ!」
巨人が咆哮し、地面を砕く勢いで戦鎚を振り下ろす。その一撃はまるで雷鳴のように重く、街の石畳を粉々に砕いた。
だが、悠真は一瞬の隙を突き、地を蹴った。
烈火の刃の焔が舞い、悠真の周囲を渦巻く。
「炎龍の咆哮――!」
刃先から解き放たれた炎が、龍の形をとって咆哮を上げる。
灼熱の奔流が巨人の胴体を呑み込み、黒鉄の甲冑を熔かし裂いていく。巨人は苦悶に顔を歪め、のけぞった。
しかし、それでも倒れない。
「それなら……直撃させる!」
悠真は駆け出し、炎の刃を高く掲げた。
拳が迫る。瓦礫が砕け散る中をすり抜け、一直線に駆け抜けた。
「灼熱の刻印――!」
紅蓮の軌跡が夜を裂き、刃が巨人の胸を深々と切り裂いた。
その瞬間、炎の紋様が刻まれる。
ドゴォォォン!!
燃え上がる紋様が爆発し、巨人を体の内側から粉砕する。
「これで、どうだ!」
巨人が断末魔を上げ、ゆっくりと膝をつく。
刹那、紋様から炎が吹き出し、そこから、さらに灼熱の炎が広がっていった。
「ぐおおおおお……!!」
胸に刻まれた紋様がじわじわと広がり、体の奥深くまで焼き尽くしていく。
悠真は剣を構えたまま、慎重に間合いを取る。
「な……何だこの圧倒的な威力は……」
巨人は全身から黒煙を噴き出しながら焼かれていく。
やがて腕が力を失い、最後の抵抗を試みるように手を伸ばしたが、その指先すらも赤熱し、炭のように崩れ落ちていった。
「ぐ……ぉぉ……!」
悠真は息をのんだ。
(すごい......たった一撃で……!)
悠真はしばらくその光景を見つめ、 ――そして手にした剣へと視線を落とした。
刃に刻まれた紋様が、かすかに揺らめいている。
どこかで見覚えのある文様だった。
(……そうだ。あの時、古代遺跡の壁に刻まれていた印……あれに、よく似ている)
遺跡で見た不可解な光の紋――あれと同じ形が、今、烈火の刃に浮かび上がっている。
まるで、何かを呼び覚ます“鍵”のように。
「……やっぱり、この剣も……あの遺跡も、ただのものじゃない」
悠真は柄を強く握り、炎の揺らめきを見つめた。
――この剣なら、戦える。
悠真は剣を振り、次なる戦場へと駆け出した。
ーーーー
巨人を倒したとはいえ、戦況が好転したわけではなかった。
街の至る所で悲鳴が上がり、剣戟と魔法の衝突音が鳴り響いている。
遠くでは城壁が崩れ、戦火に包まれた建物が軋むように崩れていくのが見えた。
(このままバラバラに戦っていても押し潰されるだけだ……!)
悠真は奥歯を噛みしめ、視線を遠くへと向けた。
最前線では、勇者たちが奮闘しているはずだ。彼らと合流し、戦力を一点に集中させれば、流れを変えられるかもしれない。
「リィナ、前線へ向かうぞ!」
「にゃっ!? このまま進むのにゃ!?……でも....確かに、悠真の言う通りかもしれないにゃ!」
リィナも状況を理解し、すぐに駆け出した。2人は街の瓦礫を踏み越えながら、戦場の中心へと向かう。
途中、市街地を蹂躙する魔族の小隊が目に入った。
生き残った兵士や傭兵たちが必死に応戦しているものの、数で圧倒され、じりじりと押し込まれている。
悠真は疾走しながら剣を抜き放った。
「リィナ、援護を頼む!」
「任せるにゃ!」
《烈火の刃》が閃き、炎を纏った斬撃が魔族の群れを切り裂く。
刃が通った軌跡に炎が走り、敵の鎧を溶かすように焼き払った。
リィナも背後から飛び込み、短剣で魔族の足を切りつけて動きを封じる。
「す、すごいにゃ、……!」
「これが、この剣の力か……!」
その動きを見た兵士たちは驚愕し、士気を取り戻したかのように再び戦い始めた。その隙に悠真とリィナは駆け抜け、さらなる前線を目指す。
やがて、遠くに見慣れた人影が見えてきた。
「……勇者たちだ!」
一真、健吾、美咲。三人の勇者は、圧倒的な魔族の大軍を相手に死闘を繰り広げていた。
健吾は巨大な盾を構え、迫りくる魔族の攻撃を受け止めている。
その体勢は崩れることなく、盾の表面には淡い青い魔力が流れ、光の膜のように防御を強化していた。
その背後では、美咲が次々と強力な魔法を放ち、敵を吹き飛ばしている。しかし、それでも数の差は歴然だった。
一方、一真は最前線で剣を振るい、素早い動きで無数の敵を斬り伏せていた。だが、その顔には疲労の色が濃く、剣勢に僅かな鈍りが見える。
敵の刃を完全に捌ききれず、鮮血を散らしながら傷を重ねていた。血潮が頬を伝い、呼吸は荒い。
(まずい……このままじゃ、勇者たちも押し潰される!)
悠真は迷わず、剣を振りかざした。
「みんな、援護する!」
その声に、戦場の視線が一瞬だけ彼に集まる。
「悠真……!? お前、どこにいたんだ!」
健吾が驚きと安堵を滲ませて叫ぶ。
しかし、悠真は答えるよりも先に、敵へと飛び込んだ。
「話は後だ!」
烈火の焔が軌跡を描き、彼の姿が炎の中に溶けていく。
再び戦場の熱が、激しく燃え上がった。
烈火の刻印が魔族の体を焼き尽くし、苦しみながら崩れ落ちていく。美咲がすかさず援護の魔法を展開し、敵の陣形を乱した。
「悠真! 助かるわ!」
「ふんっ!今更!」
一真も剣を振るいながら応じる。だが、その口元には安堵の色が見え隠れしていた。
悠真は短く息を整え、勇者たちと肩を並べた。
「ここからが本番だ。全員の戦力を一点に集中させる!」
その声が戦場に響いた瞬間、周囲の空気が変わった。
王国兵たちは突然現れた悠真と、彼の手に握られた灼熱の剣に一瞬目を奪われた。だが、彼が次々と魔族を斬り伏せる姿を目にした途端、士気が一気に跳ね上がった。
「おおおお! 反撃だ!」
誰かの声が上がると同時に、兵士たちの剣が魔族を押し返し始める。
悠真は炎を纏う「烈火の刃」を振るいながら、戦場を駆け抜けた。火炎が魔族を焼き払い、彼の動きに合わせて紅蓮の光が軌跡を描く。
そのとき――視界の端に、健吾の姿が映った。
「ぐっ……! くそっ!」
健吾は大型の魔族と交戦していたが、盾には亀裂が走り、今にも砕けそうだった。血に染まった腕を震わせながら、必死に防戦を続けている。
悠真は即座に駆け寄った。
「健吾、盾を貸せ!」
「えっ……!? お前、何を――」
戸惑う健吾の声を遮るように、悠真は盾へと手をかざした。
「進化──!」
次の瞬間、眩い光が溢れ、健吾の盾が一瞬で姿を変えた。
《守護の砦》
【特性】
•特性①:不動の壁(強力な衝撃を受けてもびくともしない絶対的な防御力を誇る)
•特性②:衝撃吸収(受けたダメージの一部を吸収し、衝撃を軽減する)
•特性③:庇護の加護(盾を構えている間、周囲の味方に防御力上昇の効果を付与)
•特性④:守護者の決意(持ち主の意志が強いほど、防御力と耐久力が向上する)
盾は全くの別物へと変貌していた。
重厚な蒼の輝きを放ち、表面には複雑な魔法陣が刻まれている。その存在感はまるで動く城壁のようだった。
「な、なんだこれ……?」
健吾が驚いている間にも、巨大な棍棒が唸りを上げ飛んでくる。
「うわっ!」
反射的に盾を構えると――轟音と共に魔力の波紋が広がり、その攻撃を完全に弾き返していた。
「すげぇ……!」
「それはお前の防御をさらに強化する盾だ、今ならどんな攻撃も通しにくいはずだ!」
悠真は短く告げると、再び戦場を駆け抜けた。
次に目に入ったのは、美咲だ。
遠距離から魔法を放ち続けているが、明らかに消耗している。
周囲を抑え込むために必死に呪文を詠唱していた。
「美咲!」
悠真は左手を翳し、《炎光のランタン》を召喚。素早く彼女へと投げ渡した。
「前に渡したやつと同じだ! これを使え!」
美咲はそれを受け取り、すぐに理解した。
「ありがとう!使わしてもらうわ!」
ランタンの炎が再び力を増し、彼女の魔法にさらなる輝きが宿る。火と水の魔力が交じり合い、戦場に轟音が響き渡る。
「っしゃあ! いいぞ、美咲!」
健吾が叫び、魔族の列が一気に崩れる。
そして、悠真の視線が――最後の一人、一真へと向く。
一真は相変わらず険しい表情で敵を斬り伏せていた。だが、その剣はすでに刃こぼれし、光を失っている。
それでも彼は一歩も退かず、前線で仲間を守っていた。
悠真はわずかに息を吐き、剣を見つめる。
(これを渡せば……あいつも、少しは認めるか?)
《烈火の刃》を軽く振ると、紅蓮の炎が噴き上がり刃を包んだ。
そして、躊躇なくその剣を一真へと放る。
「これを使え!」
炎が弧を描き、剣が空を裂いた。
戦場の熱が、一瞬だけ静止する。
第29話、最後まで、ご覧いただきありがとうございます。嬉しいです。
次回、第30話『炎の勇者と烈火の刃』も
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