第28話: 魔族の追撃と進化の真価
エルバーナの夜は静かだった。
長旅の疲れを癒やす者、明日に備えて武器を磨く者、酒場でささやかな宴を楽しむ者。
誰もが、いつも通りの夜を過ごしていた。
悠真もまた、その中の一人だ。
彼は勇者たちとは別の宿に泊まっていた。
元より一線を置くつもりだったし、彼らの宿は人も多く、やたらと騒がしい。
静かに休める場所を求めて、町外れの小さな宿を選んだのだった。
そして、深夜も遅い時間、、、
ズドォォォン!!
突如として、宿の外から爆発音と悲鳴が響き渡った。
悠真は反射的に身を起こす。
枕元で寝ていたリィナも、耳をぴくりと動かした。
「……にゃ?」
ただの喧嘩や盗賊騒ぎではない。
建物が崩れるような重い衝撃音。怒号と叫びが入り混じり、空気が震えている。
悠真は窓際に駆け寄り、カーテンを少しだけ開いた。
そして、息をのむ。
「……マジかよ」
黒煙が立ち上り、、炎が夜空を赤く染めていた。
「魔族の……奇襲だ!」
街の門が破壊され、そこから次々と魔族の軍勢が雪崩れ込んできていた。闇色の鎧をまとった兵士、鋭い牙を剥き出しにした魔獣たち、そして空を舞う翼の生えた影。
地獄が、エルバーナを呑み込もうとしていた。
「ついに来やがったか……」
リィナも隣に並び、細い瞳をすがめながら街の惨状を見下ろした。
「悠真、すぐに動くにゃ!」
悠真はうなずき、武器を手に部屋を飛び出そうとする。しかし、ふと路地の片隅で、何かを抱えて逃げる影が見えた。
中年の太った武器商人だった。
必死に走りながら、両腕に一本の剣をしっかりと抱えている。
「こ、これだけは……! これだけは失うわけにはいかん!」
商人は汗まみれになり、足をもつれさせながらも剣を離さない。
背負っていた荷物は道に散らばり、手に残っているのはその一本だけだった。
「……逃げるなら、荷物なんか置いてくのが普通だろ」
悠真は思わずつぶやいた。
商人がどれほどその剣を大事にしているかは、一目でわかる。
だが、こんな状況で命がけで持ち逃げするほどの価値があるのか?
「悠真! そんなこと言ってる場合じゃないにゃ!」
リィナの叫びと同時に、魔族たちが街道を占拠し、宿の前を猛スピードで駆け抜けていく。その勢いに巻き込まれた人々が、次々となぎ倒され、踏みつけられていた。
悠真は即座に飛び出し、剣を抜く。リィナも短剣を手にし、影のように動いた。
だが、その向こう側――。
街の奥に、異様な“巨影”があった。
「……あれは……」
背丈が三倍はあろうかという魔族。
黒い鎧に包まれたその巨体が、ゆっくりと街に向かって進軍してくるのが見えた。
悠真は唾を飲み込む。
「……こりゃあ、マズいな」
リィナも、牙を剥き出しにして小さく唸った。
「悠真、急ぐにゃ!」
戦火に包まれるエルバーナの街。その混乱の中、悠真たちは戦いの渦に巻き込まれていった。
♢魔族の奇襲、迫る戦火
悠真は剣を振るいながら、前方の魔族たちをなぎ倒していった。リィナも短剣と弓矢を駆使し、敵を翻弄している。
しかし、次々と押し寄せる魔族の大群は尽きることなく、倒しても倒しても街の奥へと雪崩れ込んでいく。
「……キリがねぇな」
悠真は息を整えつつ、ふと視線を上げた。その先には、遠くからゆっくりと近づく巨人の姿。圧倒的な体躯、全身を覆う黒い甲冑、そして巨大な戦鎚を肩に担いでいる。
「……あいつ、こっち来るにゃ!」
リィナが警戒しながら言う。悠真も同感だった。通常の剣では到底歯が立たないだろう。何か別の手が必要だ。
「……あいつを試すか」
悠真は剣を腰に収め、片手を前に突き出す。すると、青白い炎が渦を巻き、次の瞬間――悠真の手には一本の槍が握られていた。
天穿の槍――貫通と蒼炎の力を秘めた槍。
悠真はその長い槍を構え、巨人を真正面から睨みつけた。
「久しぶりだな...こいつなら……やれるかもしれねぇ」
巨人が大地を揺らしながら一歩踏み出し、悠真めがけて戦鎚を振り下ろした。
「くっ……!」
悠真は瞬時に槍を構え、その軌道を読んで横へと跳ぶ。戦鎚が地面を砕き、瓦礫が飛び散る。だが、その隙を逃さなかった。
「喰らえッ!」
悠真は天穿の槍を突き出した。蒼い炎をまとった槍先は、巨人の分厚い黒甲冑を貫き、そのまま深々と突き刺さる。
「グオオオオォォォ!!」
巨人が苦痛の叫びを上げた。悠真はさらに力を込め、槍を捻る。すると、貫通の極みを持つ槍は肉を断ち切り、蒼炎の加護がその内部を焼き尽くす。
「やったにゃ!」
リィナが喜びの声を上げる。しかし、巨人は倒れない。
「……またかよ」
悠真が低く呟いた。
焼け焦げた皮膚の下。
そこにあるのは、生者の肉ではなかった。
「……これ、死体を……繋ぎ合わせて作ったのか?」
「気持ち悪いにゃ.....」
リィナの声が震える。
しかも、戦鬼のように霧や闇でできた存在ではなく、呪術で操られた魔物の気配とも違う。
――それは、まるで無数の命の残滓が一つの肉体に押し込められているような、不気味な違和感だった。
悠真は息を呑み、槍を握り直す。
巨体の表面、甲冑の継ぎ目の奥で、うごめくような影が脈打っている。まるで、内部から誰かが這い出ようとしているかのように。
「こいつ……魔族じゃないにゃ」
リィナが低く唸る。
悠真は無言のまま頷き、冷静に敵の動きを見極めた。
その動きは鈍重だが、拳の一撃はまさに地を砕く威力。下手に踏み込めば、一瞬で肉片になる。
次の瞬間――
「グォォォォッ!!」
巨人が腕を振り上げ、風を巻き起こすほどの勢いで振り下ろした。地面を叩き割り、破片が弾丸のように飛び散る。
悠真はとっさに身をひねって回避するが、衝撃波が身体を打ち、足元が揺れた。
(……今のをまともに受けたら終わりだ)
すぐさま体勢を整え、風裂の刃を召喚。空を切るような斬撃を飛ばすが、巨人の皮膚は硬く、かすり傷を残すのが精一杯だった。
「にゃ〜……手強いにゃ!」
リィナが背後へと回り込み、背後を狙う。
だが、その巨体は信じられない反応速度で振り返り、腕を横薙ぎに振るう。
リィナが吹き飛ばされそうになるのを見て、悠真は即座に槍を投げ放った。
蒼炎をまとった槍が腕に突き刺さり、炸裂。熱と衝撃で巨人の動きが一瞬止まる。
リィナはその隙に距離を取ったが、巨人はすぐに反撃の姿勢に入った。
「……こりゃ、勝てる相手じゃないにゃ」
息を切らして呟く。
悠真も同意だった。これ以上の消耗戦は無意味。奴は再生している。傷の隙間から、再び黒い影が滲み出していた。
(くそっ……もっと強い武器さえあれば……)
脳裏に、ふと先ほど見かけた武器商人の姿がよぎる。
彼が抱えて逃げていた、あの一本の剣――。
「リィナ、あの武器商人を探すぞ!」
「にゃ? 今そんな場合――」
「いいや、あいつの持ってた剣。あれが鍵になるかもしれない!」
リィナは一瞬驚いたようだったが、すぐに頷いた。
「……わかったにゃ!」
2人は、巨人との距離を取り、一気に建物の影へと飛び込んだ。
背後で地面を割るような咆哮が響く。だが、振り返る暇などない。迷わず駆け出した。
(間に合え……!)
混乱の街を駆け抜け、倒壊した建物の陰を縫うように進んでいく。逃げ惑う人々の間をすり抜けながら、悠真は必死にあの武器商人の姿を探していた。
(どこだ……さっきの男……!)
「悠真、あそこにゃ!」
リィナが指をさした、瓦礫の隙間――そこには血まみれで倒れる男の姿があった。
「くそっ……遅かったか!」
悠真は駆け寄り、膝をついて男の肩を揺さぶった。しかし返事はない。すでに息絶えていた。
「ひどいにゃ……」
リィナが眉をひそめる。
男の体の周囲には数体の魔族の死体が転がっていた。最後まで抵抗したのか、それとも偶然巻き込まれたのか――だが、今は考えている時間はない。
悠真は視線を走らせる。そして、腕の中にまだしっかりと握られた剣を見つけた。
「これだ……!」
商人が死んでもなお離さなかった剣。
悠真は慎重に男の手から剣を引き抜いた。(美しい...)そして、ただの骨董品とは思えない奇妙な重みを感じる。
「こいつ……間違いなく、ただの剣じゃねぇな」
その時、地響きのような音が背後から響いた。
「悠真、まずいにゃ!」
振り向けば、巨人が瓦礫を踏み潰しながら近づいてくる。黒い瞳が、真っ直ぐこちらを射抜いていた。
「行くぞ、リィナ!」
悠真は息を吸い込み、剣を強く握った。
焦げた風が吹き抜ける中、2人は巨人の待つ戦場へと駆け戻る。
瓦礫を蹴散らしながら、手の中の剣を見つめた。それは、見事なまでに傷一つなく、輝きを保っていた。どれほど大切に扱っていたのかが伝わってくる。
「....っ――進化!」
悠真の手が熱を帯びる。刹那、剣の周囲に光が渦巻き、空気が震えた。
まるで封印が解けるように、剣の表面に刻まれた紋様が浮かび上がる。そして、次の瞬間――刃が赤く燃え上がった。
第28話、最後まで、ご覧いただき大感謝。嬉しいです。ありがとうございます。
次回、第29話:『焼き尽くせ!灼熱の刻印』も
是非【応援よろしくお願いします。】
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