表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/43

第27話: 《烈光の壁》と《炎光のランタン》の力

 悠真は丘の上から弓を構え、次なる矢をつがえていた。その矢は通常のものとは違い、白く淡い光を帯びている。


 「浄化の矢……!」


 低く呟くと、次の瞬間、矢が放たれた。

 軌跡はまっすぐ健吾へ――。


 「お、おい!?」  


 矢は彼の体に届く寸前で霧のように消え、代わりに白い光が健吾を包み込む。

 眩い輝きが走り、彼の腕を覆っていた黒い毒痕が薄れていった。


 「――毒が……消えた?」


 健吾は驚愕しながら、自分の手を見つめる。先ほどまで黒ずんでいた指先が、元の色に戻っていた。


 「助かった……のか?」


 呆然とする彼の前で、悠真は弓を背に収めると、言葉もなく、ただ戦場へ駆け出していく。


 「おい、何やってんだよ!」


 一真の怒鳴り声を背に受けながら、悠真は前方へと踏み込み。

 そして、迫りくる魔物の群れを前に、彼は毅然と立ちはだかった。


 「後ろは任せろ。」


 落ち着いた声で告げ、腰から盾を外すと、健吾に放った。


 「健吾、これを使え!」


 健吾が慌てて受け取った盾には、見たことのない文様が浮かび、光が宿っていた。


 それは進化したアイテム、**「烈光の壁」だった。


 《烈光の壁》

 ──灼熱の加護を宿した盾。

 ①物理攻撃を防ぐだけでなく、受けた衝撃を熱波として放出する。

 ②一定時間、防御力が大幅に上昇し、接触した敵に火傷を与える。


 「な、なんだこれ……!」


 健吾が驚きながらも盾を構えた瞬間、魔物たちの猛攻が襲いかかる。


 だが――


 ドンッ!


 烈光の壁が激しく輝き、衝撃とともに魔物を弾き飛ばした。さらに、盾の表面から灼熱の熱が放たれ、接触した魔物たちが苦しみながら後退する。


 「これは……!」


 「反撃の熱波を放つ盾だ。防ぐだけじゃなく、敵を寄せつけない」


 悠真が説明する間にも、次々と魔物が襲いかかってくる。


 その声に、美咲が魔法陣を展開しようとした。

 「それなら――!」


 だが悠真が、小さなランタンを放った。

 「美咲、こいつを使え」


 「え?……これは?」


 受け取ったランタンは、内側で赤い炎が揺らめいている。


 「……魔道具?」


 「炎光のランタンだ。お前の魔法と組み合わせろ!」


 《炎光のランタン》

 ──炎の精霊の力を封じた魔道具。

 ①周囲の魔法エネルギーと共鳴し、特定の属性魔法を強化する。

 ②水魔法と組み合わせることで、超高温の蒸気爆発を引き起こす。


 美咲は少し迷ったが、悠真の言葉を信じて魔法陣を展開する。


 「行くわよ……!」


 彼女が詠唱を紡ぐと、炎光のランタンが反応し、水の奔流に赤熱の輝きを纏わせた。


 「え?....何よ...これ……!」


 即座に魔法の方向を調整し、魔物たちの群れに向けて解き放つ。

  「水華の奔流すいかのほんりゅう!」

 ゴオオオオオッ!!


 水と炎が絡み合い、灼熱の蒸気が爆発的に吹き荒れる。

 轟音とともに、前線の魔物たちがまとめて吹き飛んだ。


 「凄い.....!」


 「あ、あいつらが……消えていく……!」


 健吾が驚愕する。ランタンの力が加わったことで、美咲の魔法は通常の何倍もの威力を発揮し、魔族の軍勢を一掃していた。


 「水魔法に炎の加護を重ねた。蒸気爆発の魔法だ」


 悠真の言葉に、美咲は信じられないように息をのむ。


 「やるじゃないか……!」

 健吾が思わず声を上げる。


 一真はその光景を見つめながら、顔をしかめた。

 「……本当に、こいつがやってるのか?」


 納得できないような表情で呟いたそのとき――


 魔族の幹部が最後の力を振り絞り、一真に剣を振り下ろす。


 「ッ……!」


 迎え撃とうとするが、その前に、悠真の矢が走った。

 鋭い音を立て、幹部の腕を貫く。


 「ぐあああッ……!」


 男が叫び声を上げると、一真はその隙を逃さず、渾身の一撃を叩き込んだ。


 「……チッ、余計なことを」

 一真は不満げに舌打ちする。


 だがその背後から、穏やかな声が届いた。


 「助かったぜ、悠真」

 「……ありがとう」


 健吾と美咲の声が重なった。

 その声には、明らかに悠真への感謝が込められていた。


 一真はわずかに視線を逸らし、何かを言いかけて口をつぐむ。


 戦いは終わった。


 ーーそれでもなお、彼の中にはまだ納得できない思いがくすぶっていた。訝しげな視線を向ける一真に、悠真はただ静かに弓を収めるだけだった。


♢エルバーナでの一触即発


 戦いを終えた悠真たちは、傷ついた体を引きずりながら、エルバーナの宿屋へ戻ってきた。


 部屋に入るなり、一真がベッドに腰を下ろし、肩を回してから悠真を見やった。


 「……ふん、運が良かっただけだな」


 「運?」


 悠真が問い返すと、一真は鼻で笑った。


 「助けたとか勘違いすんなよ。たまたま魔物の動きが鈍っただけだろ」


 「……」


 予想していた反応だったが、あからさまに見下されると苛立ちを覚える。

 悠真は言葉を飲み込み、無言で視線を落とした。


 「そもそもさ、お前の“進化”ってやつ? どこまで役に立つのか知らねぇが、そんなもんに頼って戦う時点で終わってるだろ。俺たちは“本物”の剣と魔法で戦ってんだぜ」


 一真は悠真の武器にちらりと目をやり、侮蔑するように口元を歪めた。


 「ま、お前みたいなやつが勘違いするのは勝手だけどな」


 悠真の拳が静かに握られる。


 (……こいつ、何があっても俺の力を認めないつもりか)


 とはいえ、ここで言い争っても意味はない。悠真は小さく息を吐き、怒りを押し殺した。


 そんな中、健吾が気まずそうに口を開く。

 

 「でもさ悠真、お前……いつの間にあんな戦い方、できるようになったんだよ?」


 「……」


 「ほら、前はさ、どっちかといえば戦うタイプの加護スキルじゃなかっただろ? それが急にあんな風にバッチリ戦ってるんだからよ」


 健吾は素直に驚いているようだったが、一真の顔色をうかがうように、それ以上は踏み込まなかった。


 その横で、美咲が興味深そうに悠真を見つめていた。


 「ねえ、あのランタン、一体どうやって作ったの?」


 「あれか?」

 炎光のランタンに手を伸ばす。


 「普通の魔道具とはちょっと違うみたいだけど....あんなの見たことないわ」


 「偶然だよ」


 悠真は肩をすくめて答えた。


 「手に入れる機会があったから、ちょっと試しただけさ」


 「ふぅん……」


 美咲は何か考えるように沈黙した。


 場の空気が、一瞬だけ静まり返る。


 「しかし……」


 健吾が酒を一口あおり、ぽつりと呟いた。


 「こうして話すの、初めてみたいなもんだよな」


 「そうかもな」

 悠真は眉をひそめながら答える。


 それは事実だった。


 召喚され日、彼らと交わした言葉はほんのわずか。

 王城の広間で神託を受けた彼らは、すぐに王の側近と行動を共にし、悠真にはほとんど目も向けなかった。


 そして悠真もまた、冷ややかな視線と重い沈黙に追い立てられるかのように、城を後にしている。


 それ以来、彼らとは一度も交わることはなかった。


 「お前、あの日、すぐにいなくなっちまったよな?」

 健吾が思い出すように言った。


 「だから俺たち、ほとんどお前のこと知らねぇんだよ」


 悠真は杯を回しながら、小さく息を吐いた。


 「知る必要もなかったんだろ?」


 「まあ、そりゃそうかもしれねぇけどよ」

 健吾は苦笑しながら肩をすくめた。


 「でもさ、こうしてみると、なんか変な感じがするんだ。元々は、俺たち……一応、同じ境遇だったわけだし」


 「境遇だけはな」

 一真が不機嫌そうに口を挟んだ。


 「こいつは結局、俺たちとは違う道を選んだ。それだけのことだ」


 悠真はそれ以上何も言わなかった。


 しばし沈黙が流れ、美咲が小さく息をつく。


 「……でも、こうして再会できたのは良いことだと思うの」


 「俺もそう思うよ」


 悠真は短く答え、杯を口に運ぶ。


 「……それにしても」

 ふと、口をついて出た言葉に、自分でも驚いた。


 「何?」


 美咲が興味を引かれたように顔を上げる。


 悠真は少し考えてから、言葉を続けた。


 「俺の作ったアイテム……正直....お前たちが使うことで、あれほどの力を発揮するとは思ってなかったんだ」


 「へえ?」

 美咲が少し笑う。


 「つまり、自分の力に驚いたってわけ?」


 「違う、そうじゃない。性能は充分把握してたし、試してもいた。でも、それを扱う人間の力量で、ここまで力が引き出されるとは思ってなかった。」


 「ははっ、それは俺たちが優秀だからだな」

 一真が鼻で笑う。


 「…まあ、認めるけど」

 悠真は小さく笑みを浮かべて応えた。


 「それにしてもさ……」

 健吾が腕を組み、感心したように目を細めて言った。


 「確かに、お前の作ったあの盾やランタン、今までにないくらい扱いやすく、力強かった。でも、どうやったんだ?そんな技術、いつどこで身につけたんだ? それがお前の本当の能力ってことか?」


 「さあね」


 悠真は曖昧に答え、杯を揺らす。

 その横で、美咲がじっと彼を見つめていた。


 「……本当に、ただの道具屋だったの?」


 悠真は口の端をわずかに上げる。


 「道具屋は道具屋さ」


 美咲はしばらく視線を外さずにいたが、やがて小さく息を吐いた。


 その時だったーー


 宿屋の扉が勢いよく開かれ、慌てた様子の男が駆け込んできた。


 「おい、大変だ! 黒炎の城の方角から、新たな魔族の動きが報告された!」


 「……なんだと?」


 一真が顔を上げる。


 「この前の残党か?」


 「違う! 今回は、もっと強力な個体が混ざってるらしい!」


 部屋の空気が一変する。


 「強力な個体、ねえ……」


 一真は不敵に笑ったが、さすがに警戒しているのがわかった。


 「そいつらがこっちに来る可能性は?」


 「それはまだわからない。ただ、エルバーナがさらに危険になったのは確かだ、警戒してくれ!」


 男はそう言い残し、慌ただしく去っていく。


 悠真は無意識に炎光のランタンを握りしめた。


 (黒炎の城、まだ何かあるな)


 一真、美咲、健吾ーーそれぞれ思案するように黙り込んだ。


 エルバーナの夜が、静かに、不穏な気配を帯びていく。


第27話、最後まで、ご覧いただき大感謝。嬉しいです。ありがとうございます。


次回、第28話『魔族の追撃と進化の真価』も

是非【応援よろしくお願いします。】

ブクマ、評価、お願いします。

いろいろなご意見、お待ちしています。感想もm(_ _)mです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ