表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/111

第110話:城門圧砕、混迷の檻

古竜の咆哮が、大気と次元を、

そして眼前の漆黒を真っ向から撃ち抜いた。


絶対不可侵と思われた障壁に巨大な亀裂が走り、内側から噴き出した魔力の奔流が地吹雪を白く吹き飛ばす。


「往けッ! 其方の光で、王の喉元を食い破れ!」


古竜の鼓舞を背に、

悠真が爆発的な踏み込みで地を蹴った。


咆哮によって穿たれた「風穴」は、

城の防衛機能によって猛烈な速度で修復を始めている。


肉壁のように閉じようとするその渦中へ、悠真は懐から『黒い結晶』を叩きつけた。


「……楔となれ! 

道を繋ぎ止めるんだ!」


叩き込まれた結晶が風穴の中心で猛烈な共鳴を起こした。

障壁の修復が内側から食い止められ、剥き出しの回廊がその姿を固定する。


バキィッ! 


と空間が悲鳴を上げた。


黒い霧が晴れた先には、

冷徹な石造りの回廊と、

整然と並ぶ無機質な「近衛兵」たちが待ち構えていた。


「開いた……! 

一気に駆け抜けるにゃ!」


リィナが叫ぶや否や、

悠真たちが最前線へと雪崩れ込んだ。


直後、王国軍の指揮官が抜身の剣を天に掲げた。


「全軍、突撃! 魔の根城を灰にせよ!!」


鉄の奔流が、

魔王城の静寂を一気に蹂躙した。


地中から湧き出すような近衛兵の軍勢に対し、先頭を切る悠真、一真、健吾の三人が暴力的な突破力で道を切り拓く。


「……秩序の敵を排除せよ。

王の静域に踏み込む愚者に、永遠の静止を」


感情の欠落した、

氷のように冷たい宣告。


王国軍の怒号と、

近衛兵の冷徹な斬撃が正面から激突した。


さらに、障壁の裂け目を潜り抜けてきた数体の竜が、狂乱の咆哮とともにブレスを吐き散らし、回廊は一瞬で敵味方が入り乱れる極限の混戦へと叩き落とされた。


「……ここからだ! 健吾、リィナ!」


悠真の指示を待つまでもなく、

残りの五人はそれぞれの武器を構え、

混沌の真っ只中へと飛び込んだ。


健吾が《氷界の重力盾》を最前線に突き立て、殺到する近衛兵の包囲を重力波で無理やりこじ開ける。


「どけぇッ! 

ここから先は、俺たちの道だ!!」


重力で膝を突いた敵の頭上を、

リィナの矢が紫電となって駆け抜け、一列をなぎ払った。


「背後は任せたよ!」


「わかってるわ。……凍てつく氷華よ、この閉ざされた城に降り注げ!」


セレスの杖から放たれた氷弾が回廊の天井を正確に削り、崩落した巨大な石材が後続の魔王軍を遮断する。


美咲の魔力が空間を潤し、

王国軍の負傷を癒やすとともに、

魔物たちの動きを深海のように重く沈めていく。


石造りの回廊は、またたく間に鉄と血の匂いに支配された。

王国軍の兵士たちが叫びとともに近衛兵の盾を叩き、竜のブレスが石柱を赤く加熱する。


「勇者殿! 

ここは我らがお引き受けします。奥へッ!」


騎士団長が、迫りくる近衛兵の刺突を盾で弾き飛ばしながら叫ぶ。


その言葉に応えるように、

一真の《嵐焔の龍剣》が空を裂き、

十数体の近衛兵を炎の旋風で吹き飛ばした。


混戦の中、

背後の王国軍が文字通り「壁」となり、

次々と湧き出す魔物の群れを押し止める。


兵士たちの命を賭した献身によって、

魔王城の奥へと続く細い道が、

強引にこじ開けられていた。


「……すまない。一気に抜けるぞ!」


悠真たちは軍に背後を託し、

迷うことなく城の深部へと駆け出した。


しばらくの間、背後からは軍勢の怒号と鋼のぶつかり合う音が響いていた。


だが、幾つかの角を曲がり、

巨大な吹き抜けの渡り廊下を越えたあたりで、世界の「質感」が劇的に変化した。


松明の火は灯っているのに、

なぜか周囲は墨を流したように暗い。


あんなに騒がしかった戦場の喧騒が、

まるで厚い真綿で耳を塞がれたかのように、

急速に遠のいていく。


「……消えた?」


健吾が振り返る。


そこには、今しがた自分たちが走り抜けてきたはずの通路はなく、ただ底の見えない闇が口を開けていた。


魔王城そのものが侵入者を拒絶し、

一行を「迷宮の深奥」へと誘い込んだのだ。


完全な、そして冒涜的なまでの静寂が一行を包み込む。


「……何、これ。空間が、溶けてるにゃ……!?」


リィナが足を止めた瞬間、

足元の石床が「泥」のように形を失った。


影だ。光源のない場所から、

意志を持つ漆黒の粘液が溢れ出し、

六人の視界を一気に塗りつぶしていく。


「おっと……ここから先は、私だけの『檻』なの。勝手に通り過ぎようだなんて、随分と冷たいんじゃない?」


ねっとりとした、

鼓膜を這いずるような声が響く。


影の渦の中から現れたのは、

かつての妖艶さを失い、

憎悪の化身へと成り果てたリシュヴァだった。


王都で逃げ延びた彼女の右半身は、今やどす黒い闇の触手が幾重にも絡みつき、心臓の鼓動に合わせて不気味に脈打っていた。


「リシュヴァ……! その継ぎ接ぎの闇が、お前の新しい『命』か!」


悠真が剣を構えて吠える。

リシュヴァは嘲笑うように、

影の触手で、

自身の崩れかけた右の顔をなぞった。


「命? いいえ、これは『最適化』よ。

……いいわ、王都での敗北は認めてあげる。

でも、ここは私の庭、魔王様に頂いた魔力が満ちる至聖所。


あんな『寄せ集めの連携』が、

二度も通用すると思っているの?」


彼女が指先を鳴らすと、

回廊の壁が砂のように崩れ落ち、

天井の見えない巨大な円形広間が姿を現した。


【血の晩餐閣】——彼女の影が染み込んだ、忌まわしい空間。


「ふふ、驚いた? この広間そのものが、私の影の一部。ここでは、重力も、距離も、あなたの《進化》さえも、私の匙加減一つでどうにでもなるのよ」


彼女が片手を掲げた瞬間、

広間の床一面が「無」の闇へと書き換えられた。


健吾が踏みしめた足元が突如として実体を失い、彼は呻き声を上げて膝を突く。


「なっ、底がねえ……! 踏ん張りが効かねえぞ!」


「そう……そこはもう、あなたの知る『地面』じゃない。沈めば最後、二度と戻れない影の標本室。……ねえ、美咲。あなたの誇るその聖なる力、この底なしの絶望でどれだけ濁るかしら?」


リシュヴァの影が、

前回の戦いとは比較にならない密度で、

鋭い「拘束具ギプス」へと形を変える。


彼女の動きには、

狂気じみた執念が感じられた。


王都での雪辱を果たすためだけに、

この瞬間を待ち続け、城内の魔力を吸い尽くして完璧な罠を完成させていたのだろう。


全方位から、美咲とセレスを狙い定めて漆黒の針が撃ち出された。


退路を断たれ、

足場を奪われた六人は、

底なしの絶望の檻の中で、

リシュヴァの狂った笑い声に包まれた。

第110話、最後まで、ご覧いただき本当にありがとうございます。(^^)


リアクションd(^^) もたくさんいただいて嬉しいです! ありがとうございます!


次回は、

第111話『影の多重、絶望の味』


「透き通った水、純粋な魔力……反吐が出るほどに清らかだこと。だからこそ——泥に塗れて、絶望に濁っていく様を、私の手で完成させてあげたいの」


影の触手が、蛇のようにうねりながら美咲を執拗に追い詰める。


美咲は荒い息をつきながら、背後に迫る「影の沼」を横目で捉えた。


───────────────

ブックマーク・評価していただけると、

更新の励みになります!


(ブックマークすると次回更新のお知らせが来て便利ですよ〜m(_ _)m)


感想やご意見もいつでもお待ちしています!

みなさんの声が本当に力になります。

よろしくお願いします。

次回もぜひお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ