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105話: 進化の"複能"~未完成の光~

王都の戦場を駆け巡った漆黒の衝撃波は、物理的な破壊以上に人々の「魂」を凍りつかせた。


「……消えた」


悠真の手から力が抜け、

静まり返った戦場に、

槍の石突きがカラン……と虚しい音を立てた。


それは、

世界という器の底が抜け落ちたような、

底知れぬ喪失感だった。


自分たちが依って立つことわり

その巨大な支柱が、今まさに音もなく根こそぎ引き抜かれたような虚無。


「あはは……あはははは!

すごい、すごいわ! 見た? 今の空の色!

あの忌々しいトカゲどもの『支配』が、跡形もなく消え失せたのよ!」


リシュヴァと、

彼女に従う三頭の巨蛇が歓喜に身をよじる。


「……終わったぞ。

世界を繋ぎ止めていた、

古臭いくさびが。

後に残るのは、ただの静寂と、

果てしない空白だけだ」


グローデンの言葉の意味を正確に理解できた者はいなかった。


だが悠真の肌は粟立ち、

心臓が狂ったように警鐘を打ち鳴らしている。


遥か遠方の地で、

バルザークの『常闇の剣』が、

自分たちですら知り得なかった「最強」をも一撃で無に帰したのだ。


(何かが……消えた。この世界にとって、

絶対に失われてはいけなかった何かが、今――!)


既存の進化、既存の武器。

どれだけ積み上げても、

あの「完成された終焉」には決して届かない。


悠真は膝をつき、荒々しい息を吐く。


(俺に何ができる?

何を強化すればいい……いや、違う。

そんな次元じゃない)


絶望が広がる中、

視界の端で一人の冒険者が、

魔物の爪に引き裂かれ、

力なく崩れ落ちるのが見えた。


その瞬間、

悠真の目に飛び込んできたのは、

若者の首筋から滑り落ちた、

ちっぽけなお守りだった。


銀メッキの剥がれたありふれた量産品の「首飾り」。


駆け出し冒険者なら、

誰もが母親や恋人、

あるいは師匠から「生きて帰れ」と渡される、何の変哲もない既製品だ。


ふと、無意識に懐に手をあてる。

そこにも、同じような「首飾り」があった。


王都へ向かう道中、名もなき見習い冒険者の少年から「お守り」として手渡された、安物の、ありふれた首飾りだった。


『これ、僕の村に伝わるおまじないなんです。才能を、ほんの少しだけ引き出してくれるって……』


少年の無垢な笑顔が脳裏に蘇る。

伝説の素材でもなければ、

強力な魔道具でもない。


ただの、使い古された革紐と、

くすんだ石ころ。


悠真はそれを引き出し、掌に載せた。


弱くて、未完成で、だからこそ「誰かと共にありたい」と願う――世界中に溢れる、祈りの小さな象徴。


「……悠真? 何してるの、こんな時に!」


リィナの悲鳴のような声が飛ぶ。


悠真は首飾りをじっと見つめた。


これまで進化の能力は、

常に「対象を強くすること」に使ってきた。


だが今、少年の言葉が、

絶望に沈みかけた思考を激しく揺さぶる。


(――才能を、引き出す?)


視界が、急激にクリアになっていく。


(俺がしてきたのは、

ただの「上書き」だったんじゃないのか?


強い素材を足して、鋭い刃に変える。

それは「武器」の限界を広げるだけで、

俺自身の限界は、ずっと変わらないままだった……)


「……そうか。進化させるべきなのは、

伝説の武器なんかじゃない。

この、どこにでもある『生きたい』という願いそのものだったんだ」


悠真の独り言に合わせ、

掌の首飾りが、かつてないほど激しく熱を帯びた。


少年の願い、未来を信じる想い。

そんな「不完全で、未熟な可能性」が、

悠真の魔力と共鳴し、眩い光を放ち始める。


「そうだ!進化させるべきなのは

――俺自身だ!」


パキィィィィン!!


首飾りが砕け散り、

その破片が悠真の魔力によって再構築されていく。


もはや安物の首飾りではない。

鈍色の石は透き通った水晶へ、

革紐は光を編み込んだ鎖へと変質した。


悠真の視界に、

新たなアイテム特性が刻まれる。


《未知への羅針盤》


• 特性①:可能性の解放

(持ち主の潜在能力を極限まで引き出し、

能力のランクを強制的に一段階昇華、覚醒させる)

• 特性②:因果の糸車

(仲間の「願い」や「記憶」を魔力へと変換し、

才能の種火とする)

• 特性③:未完の地図

(まだ存在しない未来の形態を幻視し、

その創造を補助する)


その瞬間、

悠真の視界に映る世界が反転した。


隣で戦うリィナの短剣。セレスの杖。

一真の折れかけた剣、美咲の魔力、

健吾の砕かれた盾。


そして、彼らが抱く「死にたくない」「仲間を助けたい」という、未完成で、バラバラな、けれど純粋な願い。


(見える……繋がる。

一つでは届かなくても、

重ね合わせれば、それは新しい『完成』を超える力になる)


悠真の身体から、

黄金の光が溢れ出した。

バルザークの「常闇」とは正反対の、

眩いばかりの『未完成の光』。


さらに視界の文字が激しく書き換わっていく。


《加護の拡張を確認》


《進化の権能から、進化の"複能"へ》


羅針盤が胸元で輝き、

魂を縛っていた「権能」の鎖が弾け飛んだ。


黄金の光が収束する。

悠真の瞳には、

戦場のすべてが「進化の系譜」として刻み込まれていた。


「――健吾! その盾を俺に!」


悠真の叫びに、健吾は即座に応じた。

躊躇はない。


重力波を纏った《重絶の盾》が空を舞い、

悠真の左手に召喚された《氷柱の盾》と空中で交錯する。


「進化しろぉ!」


重ね合わされた二つの盾が融合を始める。


物理的な結合ではない。

二つの盾が持つ「重力」と「冷気」の概念が、悠真の《進化の複能》によって強引に書き換えられ、一つの巨大な「理」へと再定義されていく。


「重なり合え(オーバーレイ)!」


再構成された盾は、

深淵の重力を湛えた暁黒の核を、

極寒の氷雪が幾重にも守護する、

禍々しくも美しい大盾に生まれ変わった。


視界に飛びむ文字。


《氷界の重力盾》


特性①:絶対凍結の重力場

(領域内の敵を凍らせ、超重力で大地へ叩き伏せる)

特性②:重氷反衝

(攻撃を氷柱で反射し、対象を内側から重力粉砕する)

特性③:極地崩滅

(大地に突き立て、範囲内のすべてを凍結・圧壊させる)


(詳しい説明は後書きに記載)


健吾がそれを受け止めた瞬間、

大地がズシリと沈み込んだ。


「……ぐっ、すげえ圧力だ!

だが、力が漲ってくる……!」


襲いかかってきた魔物の群れが、

そのまま盾に叩きつけられる。

盾の表面に刻まれた氷柱が、

瞬時に魔物を貫き凍結させる。


その直後、

盾の核から放たれた極限の重力が、

凍りついた魔物の肉体を分子単位で粉砕した。


「重力反衝と凍結反撃の同時発動だと……!?」


リシュヴァの妖艶な笑みが凍りつく。


グローデンの咆哮が戦場を揺らすが、

健吾が盾を大地に突き立てると、

重力と氷の結界がドーム状に展開され、

棘の雨を完全に遮断した。


「ぐぉおお……! 重いぜ、

だが――止まる気がしねえッ!!」


健吾の咆哮とともに、戦局が一変する。


だが、その光景を目の当たりにしたグローデンの瞳に、真紅の殺意が灯った。


「面白い。……なら、

その『おもちゃ』ごと、潰してやる」


グローデンが巨大な拳を天高く振り上げる。


その拳が空気を孕んだ瞬間、

周囲の空間が歪むほどの超重質量が宿った。


ただの打撃ではない。それは一撃で城塞都市をも粉砕せんとする、魔将としての「本気」の暴力。


悠真の《進化の複能》が反撃の狼煙を上げた。

しかし、それを嘲笑うかのように、

二人の魔将がさらなる絶望の深淵を解き放とうとしていた――。

第105話、最後までご覧いただきありがとうございます。


ちなみに、

本文の内容に出てきた進化装備について補足です!↓。


■装備メモ


《氷界の重力盾》

①絶対凍結の重力場アブソリュート・ゼロ・グラビティ

盾を中心に展開される常時発動型の領域。領域内に侵入した対象の運動エネルギーを「氷結」で奪い、同時に「重力」で大地へと叩き伏せる、その場に固定する。

重氷反衝じゅうひょうはんしょう

敵の攻撃を受けた瞬間に発動、衝撃を起点に「超重力を纏った氷柱」が敵を貫き、内側から重力で粉砕・凍結させる。

③極地崩滅・きょくちほうめつ・ゼロ

盾を大地に突き立て発動する広域殲滅奥義。一定範囲を極限の重力で押し潰すと同時に、分子運動を停止させ消失させる。

④理の守護ガーディアン・オブ・ロジック

重力と冷気という相反する負荷を調和。使用者の身体能力を強制的に盾の重厚さに適応させ、防御ランクを一段階上の領域へと固定。


こちら↓は、過去話で登場済みですが、復習用にどうぞ。


《氷柱の盾》

① 雪崩や氷雪の衝撃を吸収し、氷の障壁に変える

② 敵からの物理・魔法攻撃を受け止めると、表面に氷柱が形成され、反射的に凍結反撃を行う。

③ 短時間であれば巨大な氷壁を展開し、仲間を包み込む防御障壁として機能する。

④ 盾を大地に突き立てることで、大規模な氷結結界を展開できる。



重絶じゅうぜつの盾》

特性①:重力反衝(攻撃を受けると、衝撃点に重力波を逆流させて敵を弾き飛ばす)

特性②:重圧崩滅じゅうあつほうめつ(一定範囲に極限の重力場を展開し、敵の骨格・装甲・結界などを強制的に押し潰すほどの圧力を発生させる。範囲内の敵は徐々に地面にめり込み、動きを奪われた末に圧壊する)

特性③:反動無効(重力発生による使用者への負荷を軽減し、長時間の展開や複数回の発動にも耐えられる)


リアクションd(^^) もたくさんいただいて嬉しいです! ありがとうございます!


次回は、

106話『魔将粉砕、蒼き雷光の穿孔』


風を極限まで圧縮された「真空爆炎」。


その一点突破のドリルが、氷の亀裂を通じてグローデンの魔核を直撃した。


――勝った。


誰もがそう確信した瞬間だった。


「…………ぐぉおお、……舐めるな……ッ!!」


氷の棺が内側から爆発した。


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