表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
39/63

36.巨大スライム


 チリン、チリン、チリンと鈴の音が鳴り、弦から放たれた不可視の矢が巨大スライムの核を破壊する。

 一つ、二つ、三つ、――二十、二十一、二十二。


 しかし、いくら核を破壊しても巨大スライムが動じる様子はない。

 それどころかダンスライムを吸収して核を増やすスピードの方が速いくらいだ。


「くそっ! これじゃ、(らち)があかない」


 こうしている間にも、巨大スライムは着実に翔真たちとの距離を詰めてくる。

 それはシェルターまでの防衛ラインに迫っていることと同義。


「一つずつ破壊していては間に合いません。一気に核を破壊しないと。しかし……」


 琴莉が自身の手元を見て、顔をゆがませる。

 彼女が持つ大剣も、巨大スライムに対して有効な武器とはいえない。


「一気に核を破壊すれば、アイツを倒せるんすね?」

「恐らく、ですが。あの巨大スライムが周囲のダンスライムを吸収するスピードは体積に比例しているようです。一気に核を破壊すればそれだけ体積を減少させられるはず。同時に吸収スピードも落ちていくと考えられます」


 翔真は腰に下げた巾着を見て、小さく息を吐く。

 それなら手はある。


 蜘蛛鳥山のダンジョンバーストで倒した『サイコロプス』がドロップした武器。

 まだ実戦で使ったことはない。

 正直なところ、翔真の手に余る代物なのだが。


「俺が、やります」

「……ッ!?」


 巾着の中から、異様に分厚い金属の塊を引きずり出すと、その質量に腕がわずかに軋んだ。


 ヘッドの中央にサイコロが埋め込まれた無骨なハンマー。

 黒光りする金属に、梵字のような紋様が浮かび上がっている。


 名を『ダイストライク』という。


 持った瞬間、足元の土がわずかに沈む。

 ずっしりとした重みが両肩に食い込み、息を吸うだけでも体幹が揺れた。


「やっぱ、重っ」


 翔真は歯を食いしばり、ハンマーの柄をしっかりと握った。

 サイコロがカタリと振動し、出番を今かと待っている。


 自分にこの武器が扱えるのか、という不安は拭えない。それでも、やるしかない。


「その……失礼ですが、私が持った方が良いのでは?」


 琴莉の不安げな視線が突き刺さる。

 気持ちは痛いほどわかる。翔真だって、今の自分が頼りない自覚はある。しかし――、


「コイツを扱うのは俺じゃないとダメなんすよ」 


 アーティファクトであるこのハンマーには、特別な能力が宿っている。

 そしてそれを最大限に引き出せるのは、翔真のユニークスキルだけだ。


「…………わかりました。それでは、露払いは私がやりましょう。あなたのおかげで、ウルフェゴルはあらかた片付きました。鎧を着たマイゴブリンくらいなら私だけで十分です」


 琴莉が大剣を構え直し、翔真の前に立った。


「あの巨大スライムをお願いします」

「はい!」


 先に琴莉が駆け出し、ゴブリンたちを次々に斬っていく。


 道を切り拓くために走る琴莉の大剣が、風を裂くようにモンスターの群れを薙いでいく。

 鋼の軌道が残像を残し、ゴブリンの頭部が風船のように弾け飛んだ。


 残り少ない狼が吠え、襲いかかってくる。

 だが琴莉は微塵も動じず、その体を肩口から真っ二つにする。

 返す刃で鎧武者を一刀のもとに斬り裂くと、後続のモンスターが一斉にたじろいだ。


 みるみるうちに翔真の前に道ができた。

 巨大スライムへと繋がる一本の道が。


(絶対に仕留めてみせる)


 その間に翔真は走った。

 ダイストライクのヘッドが重さで下がり、地表をわずかに擦る。


 土と草の混ざる匂い。焦げた魔素の匂い。

 耳元では風が裂ける音が唸り、足元では地面がきしむ。


 目の前では、巨大スライムが今なお肥大を続けていた。

 うねるような粘体が地を這い、まるで小さな山が這い寄ってくるかのようだった。


 翔真は叫ぶ。


「くらええぇぇぇぇぇっ!!」


 ハンマーが空気を裂く。ヘッドのサイコロが回転し、『六』の目が出る。

 その一撃は、落雷のような轟音と共に巨大スライムに叩き込まれた。


 次の瞬間――大地が、山が揺れた。


 振動が地面を駆け抜け、岩が跳ね上がる。遠く離れた樹々の枝がざわめいた。

 スライムの体内で複数の核が爆ぜ、まるで巨大な水風船が中から破裂したように、粘液と破片が四方へ飛び散る。


 数十個の核が一気に破壊され、巨大スライムが悲鳴のような揺れを見せる。

 核の破片が、金属にも似た音を立てて跳ねた。


「もういっちょおぉぉぉぉっ!!」


 二撃目。

 二回りほどサイズダウンした巨大スライムに、再度ダイストライクを叩きこむ。


 翔真は咆哮と共に再びハンマーを振り抜く。

 サイコロが再び六の目を出し、強烈な衝撃が顎蛇山に響き渡る。


 着弾と同時に、山の斜面がわずかに崩れた。

 弾けた空気によって、周囲の木々がざわめく。


 打ち込まれる度に、多数の核を失っていく巨大スライム。

 表面にびっしりと浮かんでいた核が、どんどん数を減らしていく。

 その姿はもはや巨大とはいえない姿へと成り果てた。


 ダイストライクを振り回し、いや振り回されている翔真にも余裕はない。


 呼吸が乱れている。

 汗が額から目元へと伝い、土混じりの地面に滴る。

 指の感覚はとうに麻痺し、ハンマーの柄を握る手も震えていた。


「ハァ、ハァ、ハァ……よぉ、だいぶ小さくなったじゃん」


 翔真は自分の身長よりも低くなったスライムに目を細め、二ッと笑った。


 残った核は五つ。

 まるで動揺した人間の瞳のように、核がスライムの身体の中を動き回っている。


 翔真は、もう一度だけ息を吸い込んだ。

 力を振り絞り、ダイストライクを持ち上げる。


「もう、眠らせてやるよ」


 ハンマーヘッドを重力に任せて振り下ろす。

 振り下ろされたダイストライクが、残った五つの核を正確に砕いた。


 ズドン、という大きな衝撃音と共に、スライムの身体が四散した。


 見届けた翔真も、その場に崩れ落ちた。

 視界が揺れ、太陽の残光が滲んで見える。


(もっと鍛えないとダメだなぁ)


 地面に背を預けながら、空を見上げる。

 モンスターの下卑た鳴き声の代わりに聞こえる、風の音。鳥の声。

 木々の葉が揺れ、小さな虫の羽音がどこからか聞こえた。

 失われていた日常が、少しずつ息を吹き返していくようだった。


 ダンジョンバーストは終わった。

 時を同じくして、ダンジョンのコアが破壊されたのだ。


 駆け寄ってくる琴莉の姿が、ぼんやりと視界の端に映った。


「やっと、終わった……いや、まだだったな」


 翔真にはまだ大事な役目が残っている。

 大切な妹を兄として迎えに行くという、何よりも大切な役目が。


 咲夜を不安にさせるわけにはいかない。

 その一心で、翔真は体力の限界を越えて立ち上がる。


「すぐ迎えに行くから。待ってろよ、咲夜」


ごめんなさい。更新が遅くなりました。

第三柱も次回の掲示板まとめ回で終わりです。

引き続き、宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ