35.まもののむれが あらわれた
咲夜を救出し、シェルターへと送り届けた翔真は、休む間もなく再び外へと駆け出した。
手にするのは――鈴鳴りの弓。
チリン、チリンと鈴の音が響く度にモンスターが大地に倒れ込んだ。
しかし、翔真が慌てて飛び出したのには別の理由があった。
「さっきの反応はアイツのものか」
狐のお面が捉えた大型モンスターの反応。
シェルターは頑丈に作られている。とはいえ、どんなモンスターの攻撃にも耐えられるわけではない。
じわりじわりと近づいてくるのは、10メートルはあろうかという巨大なスライムだ。
これだけの質量がシェルターを襲ったとき、果たして耐えることができるのか。
野放しにしておくことはできない。
「お稲荷さん、でしたよね」
凛と透き通った声が翔真を呼ぶ。
振り向くと、巨大スライムを見据えた琴莉がいた。
「プロハンターの部隊が高濃度魔素エリアに到着したそうです。ガーディアンを倒してダンジョンコアを破壊するまで、おそらくあと10分ほど」
ゆっくりと翔真の隣まで歩いてきた琴莉が、少し気まずそうな表情を浮かべて言った。
「本来、アマチュアのあなたを巻き込むのはプロとして恥ずべき事ですが、面子のためにシェルターに避難している人たちを危険に晒すわけにはいきません。ここを一緒に守って頂けませんか?」
言われるまでもない。翔真はそのためにシェルターを出てきたのだから。
一も二もなく、しっかり首を縦に振る。
「そのつもりです」
ゆっくりとした動きで、踊るように近づいてくる巨大なスライム。
揺れるたび、その内部で不気味に光る無数の核がちらついた。
通常、一匹につき一つのハズの核が、巨大スライムの中にいくつも浮かんでいる。
百目の妖怪を彷彿とさせる異様な威圧感。
巨大スライムの周囲にはゴブリンたちに、鎧武者。さらに、黒い魔狼が牙を剥く。
すでにただの群れではない。秩序と目的を帯びた軍勢だ。
だが、翔真は動じなかった。
「いきます」
小さく呟くと、翔真は再び鈴鳴りの弓を構える。
引き絞られた弦が、魔素の流れを一点に集中させて見えない矢を形成する。
チリン。
――狼の眉間を貫く。
チリン。
――鎧武者の兜が飛ぶ。
チリン。チリン。チリン。
――三体のゴブリンの胸に穴を穿つ。
矢を射るたび、モンスターの死体が地に落ちて消えていく。
「……やはり、並みの腕ではありませんね」
アマチュアとは名ばかりの射撃精度、反応速度に琴莉が感嘆の声を漏らす。
だが、そう簡単には終わらない。
後続のゴブリンたちが突然、鎧武者の骸に飛びつき、その鎧兜を剥ぎ始めた。
「……え?」
その場にいた誰もが息を呑んだ。
鎧武者の装備を剥ぎ取ったゴブリンたちが、その場で歪な融合を始めたのだ。
その異形の塊が、魔狼の背に躍りかかった。
「マジかよ!?」
鋼の甲冑を纏った異形が、魔狼の背にまたがり、咆哮した。
名づけるならば『ゴブリン武者ライダー』といったところか。
全身に、先ほどまでとは比べものにならない禍々しい魔素のオーラを帯びている。
ただの小型モンスターだった存在が、別格の脅威へと変貌していた。
「くそっ……ッ!」
翔真はすぐさま弓を引いた。
……カシン。
ゴブリン武者が刀を抜いた。
放たれた矢は、まっすぐ心臓を狙って飛ぶ。
だが――
キィィンッ!!
刀が振るわれ、矢は弾かれた。
分厚い金属板にでもぶち当たったように、何の抵抗もなく矢は弾かれ、霧散した。
ニヤリと笑うゴブリン武者ライダーの表情が、さっきまでと同じだと思うなと語っている。
これまでのように一撃では倒せない。
速度、反応、そして知性すらも、格段に上がっている。
魔狼が地を蹴り、翔真へと飛びかかる。
ゴブリン武者ライダーが真っ直ぐに突撃してきた。
慌ててロトリーナイフを抜こうとするが、想定の何倍も素早く接近してくるゴブリン武者ライダーの動きに対応が追いつかない。
「くっ」
ガキィン!
振り下ろされた刀が、金属音と共に止められた。火花が散る。
カバーに入ってくれた琴莉が、振り下ろされる刃を大剣で真正面から受け止めたのだ。
「足です! 足を狙ってください」
「…………そうか! 了解っす」
翔真は距離を取ると、再び矢をつがえる。
琴莉からのアドバイスに気づきを得た翔真は、腰を落として鈴鳴りの弓を低く構えた。
チリン。
放たれた矢は低く、刀の届かない高さを疾走する。
その矢は、ゴブリン武者ライダーが跨っている魔狼の脚を正確に撃ち抜いた。
「グギャッ!?」
脚を失った魔狼が地面へと倒れこみ、ゴブリン武者ライダーはその背から振り落とされる。
その隙を、琴莉の大剣は逃さない。
上段から振り抜かれた刃が、もはやライダーではなくなったゴブリン武者を左右に割った。
翔真と琴莉は、肩越しに一瞬だけ視線を交わす。
「いい腕ですね」
「西海さんの方こそ」
翔真は「すごいパワーですね」と言いかけて飲み込んだ。
女性に対する、適切な誉め言葉ではない気がしたのだ。
「続けていきますよ」
「はいっ!」
ゴブリン武者ライダーは一匹ではない。
次々と襲い来るモンスターたちを、翔真と琴莉はただ倒し続ける。
足となる魔狼に狙いを定め、何度も、何度も、弓を引いては矢を放つ。
腕の筋肉が悲鳴を上げる。呼吸は浅くなり、目の端がちらついてくる。
だが、息をつく間もなく、次の波が押し寄せてくる。
モンスターの群れの向こうには、じわりじわりと近づいてくる巨大スライムの影。
ダンスライムが飛びつくようにくっ付いて、そのまま巨大スライムの一部と化していく。
巨大スライムの大きさが、いつの間にか一回り大きくなったようだ。
「西海さん……あのスライムって」
琴莉も同じことに気づいてたらしく、表情が引きつっていた。
その間にも巨大スライムはどんどんダンスライムを取り込んで、目玉のような核を増やしていく。
「……このままでは、手がつけられなくなります」
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次の人、キリ番ですよっ!!




