151 交渉
「しゃべるなよベッキー、舌噛むぞ」
「・・・・・」
俺はベッキーを抱えて全速力で走る
サジンたちからかなり離れた廃屋へ入る
「ここで隠れて待ってろ」
「おじさんは?」
「俺はあいつをぶっ飛ばしてくる」
「このまま逃げられないの?」
「できるがそれだと意味がない、しっかり決着をつけとかないとな」
「うん、わかった」
ベッキーの頭を軽く撫でて俺は廃屋から出る
そのまま全速力でサジンのところへ向かう
サジンも俺の方を追っていたのですぐに再会できた
「いよう、待たせたな♪」
「このまま逃げるものだと思っていたが戻ってくるとはな」
サジンが意外そうな顔をする
「あのガキはどうした、どこへ隠してきたんだ?
まあ素直に教えるわけはないよな」
「教えるぜ♪」
「はあ?」
俺はニヤリと笑い悪い顔をする
「俺はお前と交渉するために戻って来た」
「交渉だと?」
「あの子は交渉材料だからな、だから隠してきた
交渉成立したらお前に引き渡すぜ」
サジンが訝し気に俺を見る
まあ普通に疑うよな
「何を企んでいるかは知らんがお前を殺して探せばいいだけだ
だいたいあのガキどもに親身になっていたじゃないか
こんなところまでわざわざ助けに来るぐらいだしな」
「そんなのあの子らを利用するために良い顔していただけさ
お前だって利用するためにシッドさんに良い顔してたろ」
サジンが構えていた剣を少し下ろす
「俺のパーティーの雑用係としてタダ働きさせるために騙していただけさ
金に困ったら売り飛ばすこともできるしな♪」
サジンが剣をおさめる
「まだ信用はできんが案外お前もこっち側なんだな」
「あの子を隠したのは聞かれたらこれまでの苦労が水の泡だからな」
「なるほど、しかしお前の仲間たちは知っているのか?」
「知らない、というかあいつらも騙して仲間にしているしな♪」
サジンがニヤリと笑う
「面白いなお前、いいだろう、どんな交渉か聞かせろ」
「おう♪」
さあ交渉開始だ
「俺の知りたいことを教えてくれたらあの子は引き渡す」
「何が知りたい?」
「あの地下迷宮の10層ボスを囮を使って周回してるんだろ?
そんでドロップ報酬の1億の金塊を荒稼ぎしてるだろ」
「ほう、よく調べたな、思っていたよりやるじゃないか」
「俺もそのやり方を真似させてもらおうと思った
やっぱり金はあればあるほど良いからな♪
子供を売るよりも手早く稼げそうだし?」
「わかってるじゃないか、この世は金だぜ♪」
守銭奴の同類を見つけたようにニヤつくサジン
「どうやってシッドさんを騙して利用したんだ?
囮だってさすがに進んでやるわけないしな
断られたり抵抗だってするだろ」
「そうだな」
「上手いやり方があるんだろ? 教えてくれよ」
「だがあそこはAランク以上でないと入れんぞ?」
「そんなの探索申請書を誤魔化せばいいだけだ
おまえらだって未登録者を一人連れて行ったじゃないか」
「そこまで調べていたのか、本当に調査能力は高いようだ」
呆れ顔で感心するサジン
「いいだろう、教えてやる」
サジンがようやくやり口を話し出す
元々マニーがあの喫茶店でベッキーを見かけたのが始まりだった
ロリコンのマニーはベッキーを手に入れるために画策する
病気のポリーさんはどうとでもなるので邪魔なのはシッドさんだけだった
そこで地下迷宮で囮を使って荒稼ぎをしている風の戦士団に依頼した
風の戦士団はシッドさんに近づき数回合同で依頼をこなす
シッドさんに信用させて狙いの地下迷宮へと誘う
このとき未登録の男を一人連れて行く
地下迷宮10層ボス部屋、いよいよ囮作戦が始まる
シッドさんに初手の攻撃を任す
この一回目は普通に連携だと思っていたシッドさん
しかしボスはシッドさんにしか攻撃して来ないことにすぐ気づく
倒したあと金塊をゲットして喜ぶ風の戦士団
シッドさんはどういうことか説明を求めた
ボスは最初に攻撃してきた相手にだけ向かってくることを知る
なら次は他のメンバーがやるのかと問いかける
普通であればローテーションするのが当然だ
しかしサジンは次からもシッドさんが初手攻撃担当だと言う
もちろんシッドさんは怒って拒否する
そこでサジンは未登録の男を縛り上げて人質にした
こいつをボスに投げつけて囮にすると脅す
男は助けてくれと泣き叫ぶ
シッドさんは見殺しにできない性格なので囮を引き受けた
風の戦士団は4人だがボスと戦うのは3人だけ
一人は人質の男を捕まえておかないといけないからだ
そのためボスを倒すのに時間がかかった
何周も続くボス戦、囮役のシッドさんは疲労困憊でフラフラになる
サジンは回復薬を三回に一回しか渡さなかった
まともに回復できない状態が続く
そしてついにシッドさんはボスの攻撃を回避できなくなる
大ダメージを負ったシッドさんは倒れる
息のあるうちにボスは倒されたがそのまま放置される
シッドさんの遺体を放置して風の戦士団と男は撤収した
未登録の男はもちろんグルで人質役をやっていただけ
「・・・なるほど」
「やり方は簡単だろ?」
「そうだな、ところであの子らの家を燃やしたのもおまえらか?」
「いや、それはマニーさんの部下だろうな」
「そうか」
たしかに簡単なやり口だ
「拳を握りしめているようだがどうした? 血が出てるじゃないか」
ああ、痛えよ
「なんだ? なぜ睨んでいる、稼ぐ方法がわかったんだ喜べよ
それより聞きたいことには答えてやったんだ、そろそろガキを引き渡せ」
「そうだな」
だがな
「渡すわけねえだろバーカ」
「はあ?」
「ありがとうよ、ベラベラと白状してくれて」
「ふん、やっぱり何か企んでいやがったか」
サジンが剣を抜く
「シッドさんがどうやって騙され殺されたのかやっとわかった
これで遠慮なくてめえをぶっ飛ばせる!」
話を聞きながらイラついていたが我慢していた
だけどもう我慢しなくていい
「なるほど、だが知ったところでお前はここで死ぬ
無意味なことをしたと後悔しながら朽ち果てろ」
「死なないし無意味じゃない、ここで潰れるのはお前の方だ!」
サジンが斬りかかってくる
俺は銀の短剣を手にして構える
マニー、風の戦士団、謎の男、全員許さねえ!




