3-3-4 撤回、イケメンやっぱり怖い ①
本日1話目の投稿です。
「どうしたー? 髪を洗ってやろうか?」
にしし、って笑顔はからかってるんだろうけど、俺が甘えたらちゃんと洗ってくれそうな包容力を感じる。
「肩も上がるようになったし、もう自分でできるよ」
お風呂って多少のことは我慢できるぐらいリフレッシュ効果があるからね。俺は言い訳にヴィントのことを出した。
「ヴィントって見かけはあんなに怖そうなのに、優しいなーって思って」
「ああ、あいつは狼だからなー」
狼だからなんだろう?
お湯だけじゃ物足りないけどしょうがない。
がしがし頭を洗うと、あちこちに残る小さなたんこぶっぽいのに当たって痛かった。頭をぶつけた覚えはあんまりないけど、覚えてないだけでぶつけてたらしい。
黒っぽい汚れが流れてこなくなるまでがしがし流して顔を上げたら、近くの岩に腰かけたピルピルさんが頬杖をついて、俺の着替えについてわあわあとにぎやかな三人を優しい目で見ながら教えてくれた。
「狼ってのはな、獣人族の中でも特に愛情深い性質なのさ。獣人族全般が一度懐に入れた相手をとことん大事にするってところがあるが、狼はその中でも群れの幼い仲間を特に愛情深く守って育てる。これは魔物の狼にもある特徴だな」
「うわあ、もろに子ども扱い…」
「拗ねてやるな。子離れ、親離れも獣人族の中では一番遅い。あれは狼の本能だし、それを活かせる仲間があの坊主にはもういないのさ」
「え…」
むっとしたことなんか忘れた。
ルーファスネイトが抱える俺の着替えのチェックをしてるヴィントを慌てて見ると、ピルピルさんは小さく笑って続ける。
「昨日は少年が痛めつけられてたとこにあいつが助けに入ったんだろう? それにおまえ、全然動けなくなってたし、あの様だったからなー。おかげであの坊主の持て余し気味だった狼の本能大爆発ってやつだ。こりゃもう、おまえが髭の生えたオッサンになっても構われるから覚悟しとけー?」
「髭が生えたらさすがに勘弁して欲しいかな!」
俺としてはどうして「もういない」のかが気になるのに、絶妙にはぐらかされた気がする!
でもまあ、なんとなくわかった。
ヴィントの構い方って、「お父さん」でも「お兄さん」でもなく、「お母さん」なんだよなあ。
ぱちっと目が合ったら驚きのイケメンスマイルをくれたけど、あれも小さい子がお母さんを見たときにもらう笑顔といっしょって言うか。
どうにもむずむずするけど、それで少しでもヴィントがうれしいなら、いいか。嫌われるよりずっとありがたいもんな!
「親父殿、タオルと着替えを持ってきたぞ」
「おー、ご苦労。パンツはあったか?」
「うん、どちらもヴィントが貸すそうだ」
そこにルーファスネイトがのんびりやって来て、親父殿発言にもびっくりしたけど、それよりパンツ…いや、着替えだ!
「俺の鞄の中に着替えが入ってるから、鞄をください!!」
「そうか。わかった」
あ、どうしてタオルまで持って行こうとするかな!?
慌てて俺が引き留めるより先にピルピルさんがタオルを取ってくれて、俺はもう一回慌ててざぶんとお湯に沈む。
マリーベルは…よかった、こっちに背中向けて座ってる! セーフだ、セーフ!!
「ピルピルさん、あの…」
「んー? もう出るか?」
「あ、はい。ピルピルさんって、ルーファスネイトのお父さんなの?」
「そうだぞ」
びっくりだ!
いや、種族が違うし、もちろん実の父親じゃないんだろうけども!!
「サトル、これで良いか」
「あ、はい! どうもありがとう」
「礼には及ばんさ」
「あ、待って。そこに立ってて!」
「うん? こうか?」
「そう。動かないでね」
今度はちゃんと早く戻ってきたルーファスネイトにお礼を言って、すぐ向こうに行きかけたところを引きとめて、その陰で手早くタオルを使う。
鞄からパンツと着替えを取り出すと、「おお…」とルーファスネイトに覗き込まれた。
パンツをはくところなんだから、覗くのはダメでしょ。女の子だったら殴られてるよ!
「なるほど。本当にマジックアイテムの鞄なのだなあ。収納、重量無効、時の天秤か。その三重付与は見事だ。狙われるのも無理はない」
「隠すことでもないけど、大っぴらに言うことでもないな。それはわかれよ?」
「はい…」
「少年といっしょさ。ボクとかみさんがルーを拾って育てた。ずいぶん昔の話だがな」
「そうなんだ……」
育ての親か……。俺はこの世界に転生したけど、実はこの身体の両親には興味がなかった。いや、むしろそんなものいるのかな? ってぐらいの気持ちでいる。
でも、あの人は違うよな。
捨てられたのか、はぐれたのか、細かい話はわからないけど、みんな寂しい思いをしてるんだなあ……。
「育てた時間はボクの方が長いんだが、おっとりしたところは気が優しかったかみさんの影響もあるかもな。どんな男に育つやらと思ってたけど、いいダチに出会えてなによりだ」
確かに、ヴィントとはボケとツッコミで素晴らしいバランスだと思うよ。
普段どんなところを冒険してるのか見てみたいけど、俺がついて行ったら最初の会敵で人生が終わりそうなのが残念だ。
「いいかい、少年? ダチってのは大事だぞー? 親じゃ教えてやれないことをあの子に教えてくれた。感謝してるさ」
「はい」
にっと笑った笑顔に、俺も笑って頷いた。
これ以上は聞かなくてもいいな。
俺が聞いてもいいことかどうかわかんないし、好奇心はあるけど土足で踏み込むようなことはしたくない。




