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3-1-2 旅は道連れ、みんな辛い ②

本日2話目の投稿です。


 そうしてるうちにすっかり夜になった。辺りは真っ暗で、焚き火のそばだけが明るい。

 フクロウの鳴き声、獣の気配。空は今日も晴れてる様子だけど、木の葉に遮られて二つの月明りはほとんど見えない。


「はあ…野営って、こういうところが辛いわね…」

「マリーベルも冒険者になりたてだよね」

「そうよ。あんたもでしょ?」

「うん。俺も野営は家からナーオットまで向かったときが初めてだから、最初はドキドキした」


 寂しさに耐えかねて一人で歌いまくったりしたもんな。


「あたしは…まだ一人で野営したことはないわね」

「もしかして、ダリアさんたちと?」

「そう。とっても良くしていただいたわ。お二人とも強くてね。駆け出しのあたしなんか、パーティメンバーにしてくれなくたってちゃんと依頼料を払うつもりだったのに」

「あの人たち、面倒見がよさそうだもんなあ」


 勧誘に来てくれたときの様子を思い出しても、目に浮かぶようだ。


「うん。冒険者登録に行ったらね、その場でいろんなパーティが声をかけてくれたのよ。でもみーんな下心のある男ばっかりのパーティでさ」

荷物持ち(ポーター)で?」

「そう。それぐらいしかできないだろって。失礼しちゃうわ!」

「そうだね。少なくとも君は攻撃魔法(スペル)が使えるし」


 とはいえ、やっぱりその恰好も問題だと思うんだよね……。

 ちらっと動いた俺の視線で気がついたんだろう。マリーベルも自分の着ている服を見て、バツが悪そうに姿勢を正す。


「あたしがなにを着てたって関係ないでしょ」

「うん。でも、それだと目立つよ。森でも草原でも。タロイソは鉱石で有名な町だし、あっちでもそうなんじゃない?」


 もちろん、魔女ならばあちゃんみたいに地味な色を着ろとは言えないし、言わないけどね。


「こだわりがあるなら、いいと思うよ。ただ、目立つからには狙われる覚悟もしておかないと」

「………」


 そう言うと、むっとしてなにか言いかけたマリーベルがきゅっと小さな唇を噛んで俯いた。

 それから小さく、丸くなるように膝を抱える。

 焚き火があって目に入らないからいいけど、スカートの女の子がそういう姿勢はやめた方がいいと思うんだよね。

 こんなこと口にしたらセクハラ扱いされそうだし、目のやり場に困る。


「この下、ちゃんと履いてるわよ」

「そ、そりゃそうだよね。よかった」


 ひい、気にしてるのがバレてた! 気まずいけど、マリーベルは呆れつつも笑って教えてくれた。


「見えてもいいやつ。わざわざめくらないけど」

「そう…それなら、まあ」


 いや、でもズボンじゃないよな。履いててもせいぜい短パンじゃないか? ってことは太ももががっつり…いかん。やっぱりその姿勢はダメだ!


「あんたって、わかりやすいわね」

「悪かったな…」


 み、耳が熱い! これは焚き火のせいだから!!

 マリーベルの太ももなんて俺からしたら幼稚園児の姪っ子のと変わらないけど、あれだ。スカートから太ももって思うと、昼間に見ちゃったアイシャさんの魅惑的な脚が頭を過ぎって困る!


「この服はお世話になった人がくれたものなの。あたしを引き取ってくれたお家の奥様でね」

「えぇ…着替えちゃダメなの?」

「バカね、お世話になってるって言ってるでしょ? あんたは自分で服を買ったり縫ったりしないから知らないでしょうけど」

「あ、いや。服っていうか布が高いのは知ってる。っていうか、引き取られたって……」


 マリーベルの出身地は魔女の里のセリカのはずなのに、どういうことだろう?

 個人的なことにうっかり踏み込んでしまって、やっぱり今のなしって言いたかったんだけど、マリーベルはなんでもないことのように教えてくれた。


「あんたがそんな顔するようなことじゃないわ」


 そ、そうか。本人がそう言うならもう実家のことはいいや。


「じゃあ、その奥様は、君が…冒険者になるってわかっていて、そんな服を寄こしてきたの?」

「まさか。一番最近に渡されたのがこれなの。息子ばっかり三人だから、女の子がいたら可愛い恰好をさせたかったんですって」

「ああ、そういうことか。させられる財力があったらしちゃうだろうなあ」


 前世でも親に服を買ってもらってるうちは、あれこれ言われたりしたもんね。俺は男だし服の好みがうるさいわけでもないから困らなかったけど、女の子はそうはいかないだろうし。


「そういうこと。あたしもこの服が嫌いなわけじゃないのよ? ただちょっと、冒険者向きじゃないなって思うだけで」

「うんうん、そうだね」


 苦笑しながら頷くと、マリーベルはなにか言いかけて黙って、またきゅっと膝を抱え直してやっと口を開いたんだ。


「あとね…あたしが冒険者になったことは知ってるけど、その足で出て行くとは思ってなかっただろうなって」

「え、家出してきたの!?」

「で、でも、ちゃんと書置きはしてきたからっ。修行が終わったらちゃんと帰るわよ。だってあの家にいたままじゃ、あたし魔女の修行できないもの!」


 いやでも、そんな風にかわいがってくれてるようなご家庭なら、めちゃくちゃ心配されてるんじゃないかな!?

 俺だったら心配するよ!

 姪っ子はまだ幼稚園児だったけど、あの子がもしマリーベルと同じぐらいの歳だったとして、書置き一つで家出なんかされたら兄貴と嫁さんはもちろん、祖父母である父さんと母さんも、もちろん叔父の俺も絶対! 超! 心配するから!!

 

「マリーベル、それはダメだよ。一回、ちゃんとお話しした方がいい」

「うるさいわね。あんたには関係ないでしょ?」

「関係ないけど、言わせてもらう。きっとすごく心配してるよ。今も必死に君のことを探してると思う」

「もう、なによそんな真剣な顔で。あたしが可愛いからってあんたまで心配してるわけ?」


 うわあ、自分で言うか!

 ……うん。まあ、容姿については自信持って当然だと思うけど。

 俺も人生で一回ぐらい俺ってかっこいいでしょ? って言ってみたかった!


「ちょ、ちょっと、なんで真顔で黙ってるのよ。そこはノリなさいよっ」

「あーごめん。そうだね。マリーベルはかわいいよ。そんな君に『魔女修行してくる』の書置き一つで飛び出されたら、心配するよ」

「!」


 あれ、これは焚き火越しでもわかるぞ。絶対赤くなってる。


「照れるなら自分で言わなきゃいいのに」

「うっさいわね! 『俺の方が可愛い』ぐらい言い返してくるかと思ったのに!」 

 そんな思い上がれる性格だったら、もっと人生エンジョイしてたと思うんだよね!!

 …あ、でもそうだった。今の俺、確かに「かわいい」なら自称しても違和感はないか。

 こっちじゃ鏡を見る習慣がないから、いまいち実感ないけど。


「かわいいとかうれしくないよ。いつか『かっこいい』って言われたい……」


 今からたくさん食べて寝たら、せめて元の自分ぐらいの大きさにはなれるかな?

 そう思ってしみじみ項垂れてたのに、マリーベルは酷かった…!


「あんたの場合、まず一人で魔物を倒せるようになってからじゃない?」

「うるさいな」


 自分のステータスをこっそり見たら、バーがちょっとだけ前より伸びてた。

 ステータスの伸びだけで魔法(スペル)が使えるようになるかどうかはわかんないけど、せめて空の宝珠に魔力を自力で入れられるぐらいになれたらいいんだけどな。

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