3-1-2 旅は道連れ、みんな辛い ①
本日1話目の投稿です。
「さあね。俺の魔力が育ったら、容量も大きくなるって言われてたけど…」
「ああ、魔空間ね。それもあんたにしか使えないようにして…うーん、こっちの術式はわからないわね」
「え…術式とかあるの?」
「当たり前でしょ。どうやって魔道具を作ってると思ってるのよ」
呆れたって顔で言われたけど、知らなかった!
いや…思い出してみたら、ばあちゃんがなんか…なんかしてたな? マリーベルにあげた袋にも…なんだったっけ、あれ…。
「この袋と、さっきも言ったけどこっちの虫と魔物避けもよ。術式はわかるけど、すごく繊細なコントロールが必要だから…ううん…」
じっと袋を見ながらマリーベルがタクトみたいなクリスタルワンドで空中にくるくると精霊文字で呪文? みたいなものを描く。
火が得意だけあって、赤く光るインクみたいだ。
そうそう、ばあちゃんもこんな風にやってたな。
マリーベルがああでもない、こうでもないとがんばってるのを見ながら、俺は鞄から外套を取り出した。
草が多いところを選んで、ばさっとその外套を敷く。よく考えたら俺、せっかくアイテムボックスを持ってるんだし、旅暮らしをもっと快適にシリーズを揃えてもよくない?
テント…は一人で使ってたら不味いな。魔物が近づいても気づかないし、せめてタープかなあ。
「マリーベル、君はこっち」
「えっ。でも…あたし、泥だらけよ。汚れちゃうわ」
「外套ってそういう使い方をするものでしょ。寒い時期なら俺も譲れないけどね」
そう言ったら、マリーベルは遠慮がちにちょこんと外套の上に座る。
「ここは水のマナが豊かだし、日が落ちたらどうしても少し冷えてくるからね。それに、俺の方が厚着だし」
「……ありがと」
マリーベルが自分の鞄から水筒を出した。俺も水は欲しいけど、トレントと戦ってるときに撒いちゃったんだよね。しょうがないから、現地調達だ。
「サトル? なにしてんの?」
「喉が渇いたから水を採るんだよ」
「水場があるの!? 浴びたい!」
「遠いからダメ」
風邪でもひいたらどうする気なんだろ?
「え? え?? ツタ???」
「そうだよ」
水場に行けないときは、これ。でっかい木にぐるぐる巻きついてるこのツタから水を取るんだ。
太いところをナイフの柄で叩いて柔らかくする。それからその部分をナイフで切ってチュウっと吸い取って飲む。
「お腹大丈夫なの? 水わけようか?」
「平気。マリーベルも慣れたら? それだけじゃ家まで持たないよ」
マリーベルは「うわぁ」って顔をしてるけど、実はこの水、かなり美味しい。
このツタの根っこは相当深く潜ってるそうで、地下水から水をたくさん引き上げてるんだよね。上等なミネラルウォーターみたいで、初めて飲んだときは感動したけどな。
このツタはあちこちにあるし、慣れた冒険者はこの森を水筒要らずって思ってるそうだ。
「へえ…ところ変わればってことなのね」
「うん。それよりマリーベル、食べ物はある?」
「パンを持ってるわ」
「それならよかった。じゃあその火で炙るといいよ」
さて、俺はどうしようかな。まだ保存食はあるけど……。
ちらっと目を向けてサーチすると、いくつか小さな魔物の気配を感じた。ホーンラビットだな。
捕れたら食べたい。干し肉ばっかりだし。
いや、でも…この前のグラスボアの解体がトラウマで、もうしばらくはいいかな!
あいつは小さくてすばしっこいし、弓で狙うにしてもまた膀胱を破ったら結局食べられないし。
それより、その奥をうろつく魔物が気になるな……。動き方から見て、草玉じゃない。ゴブリンっぽいけど、ナーオットに向かうときにはこんな何回も襲われることはなかったし、そもそも俺のサーチ範囲をうろついてることもなかったのに。
うーん……。やっぱり、これもバンシィの影響なのかなあ?
まあ、考えてもしょうがない。まずは腹ごしらえだ。
「はぁ…しょうがないけど、保存食ばかりになるよね」
「まぁね。でも食べられるんだからましな方よ」
干し肉を出して少し火で炙る。……まあ、食べたくなるよね。
焚き火越しにマリーベルの視線を感じて、俺は苦笑して一切れ差し出した。
「どうぞ」
「え、でも…」
「お腹空いただろ? いいよ。持ちつ持たれつだ。魔物が出たらマリーベルに頼らないといけないしね」
これは本当だ。マリーベルは魔力が高い分MPも多いから、頼りになる。
俺だけだと勝てない魔物だって一撃で倒せるだろう。当たればだけど。
第一、食べ盛りの子が目の前でお腹を空かせてるのに、俺だけたんぱく質をムシャアなんてできないよ。
「そうね。じゃあもらうわ。あと、こっちも半分」
「え、いいよべつに」
「あんたには、ほら。これを借りたから。これで貸し借りなしだからねっ」
「わかった」
渡してくれたのは、焚き火でほかほかになったパンだ。小さい割にずっしりと重いのは、中にナッツやドライフルーツ、雑穀をみっちり入れて、ラードを加えて焼いてあるから。
味は、不味くはない。美味しくもないけど、栄養は摂れる。
炙った塩漬けの干し肉といっしょに食べたら、異国の野性味溢れるキャンプごはんって感じで好きな人は好きな味じゃないかな。
それに、ちょっとひと手間かけたらめっちゃ美味しいおやつパンになりそう。カロリーお化けだから、量を食べたら太るだろうな。
できたらスープが欲しいけど、水が足りないから我慢。
二人とも噛みしめるように大事に食べて、俺はツタの水をもう一本、マリーベルは水筒の水を飲む。
「その水、次は沸かした方がいいよ。お腹を壊すといけないし」
「そうね。明日からはそうするわ」
俺も水筒にツタの水を入れたいけど、ひっくり返してもなかなか落ちてこないし、吸い出す方が早いんだよね。
食べ終わったら、交代でお花摘み。ずばり、トイレだ。
「マリーベル、あんまり遠くに行ったら危ないからね」
「わかってるわよっ」
俺がするときは遠慮なく近くに立って見張るくせに、自分は離れたがるんだよな。
文化は違っても、こういうことに羞恥心があるのは面白い。
茂みに隠れてしたい気持ちはわかるけど、蛇や虫が怖いからね。よくばり避けの煙をたっぷりスカートに吸わせて行ってもらった。
終わったら寝る前に俺命名、歯磨き草を摘んで二人でごしごし。
これは茎が太目なミントっぽいやつで、荒野以外のどこにでも生えてる。茎の繊維質が強いから、葉っぱといっしょに揉んで解してそれで口の中を綺麗にするんだ。
家とか街だったら馬や豚の毛で作った歯ブラシが使えるんだけど、野営じゃ洗えないからね。
ごしごししたら、ツタの水で口を漱ぐ。マリーベルもここで初チャレンジして、美味しいって感動してた。
「タロイソじゃこの草は採れないから、わざわざ買うのよ。歯磨きに使うなんて贅沢よね。あっちじゃ薬草扱いだわ」
「薬草には違いないよ。あと、煮出したら胃腸薬になるんだ。食べすぎて消化が辛いときに使ったりね」
胃腸薬にするにもいろんな組み合わせがあるけど、これはよくばあちゃんが使ってたな。
「ふうん。お貴族様たちが晩餐会のあとによくこれのお茶を飲んでたの、そういうことね」
納得顔になったマリーベルがいくつか摘んで持って行こうとしてたけど、それは止めておいた。
持ち歩くならちゃんと乾燥できるようにしないと、傷んじゃうからね。そこら中に生えてるし、ナーオットに帰れば道具屋で安く買えるはずだ。




