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2-3-4 怖すぎた俺、森へ帰る ③

本日2話目の投稿です。


「ワボロさん、俺、あなたとは行けないです」

「いや、しかし」

「へっ、わかってんじゃねえか。昨夜はしくじったが、おまえのソレはおまえがいなきゃ使えないそうだしな」


 昨夜って…もしかして、教会でこの鞄を盗みに来たうちの一組がこいつらってことか?


「おら、来いよ」


 にやっとしたヤンキー拳闘士の後ろから出てきた槍使いが、蜘蛛みたいに長い指の手で俺の腕を掴んだけど、三人に囲まれる前に振り払う。


「でも、あんたたちの仲間にもならないから」

「なんだと!?」


 さっと囲みを抜けて、気合いを入れて猫歩きと隠蔽(ハイド)のスキル発動! 小柄になった体格を活かして、俺は勢いよくにぎわい始めた商店街に飛び込んだ。

 うしろから怒号が聞こえた。ちらっと振り返ったら、あいつらだけじゃなくて別の人相の悪い連中まで増えてる!

 なんて迷惑な!!

 とにかく、あいつらをまかないと! ああでも、どうしよう。あいつらがいるなら、もうどこにも行けない!

 ギルドでも迷惑をかけたし、教会だってもう行けない!

 あそこにはエルフィーネや、幼くてもちゃんと働いてがんばってる子どもたちがいるんだ。

 神父様は強いみたいだけど、エルフィーネが冒険者になろうってほど思い詰めても動かないような大人なんだから、信用できない!

 俺が行くことでなにかあったら大変だもの!!


「はぁっ、はぁ…っ」


 走って、もうやみくもに走って、俺はひどい匂いの狭い路地に出た。


「ひっ」

「!」


 角から誰か来る! とっさに腰のナイフに手をかけて振り返ったら、大きな木の樽を乗せた大八車を引く若い人間(ヒューマン)の男がいた。

 細い通りに点々と設置されてる公衆トイレのし尿を集めてる人だ。あいつらじゃない。


「ごめんなさいっ」


 俺を見て怯えた顔を見て、思わず逃げ出す。

 だって、こんな…とっさに刃物を握るような、そんな生活、俺はしてなかったのに。

 全然そんなことしたことなかったのに、たった数日でこんな、俺は…!


「サトル!?」


 もうなにも考えられなくなって城門から飛び出そうとしたら、今度は兵士に止められた。ガストさんだ。


「どうした、そんなに慌てて。なにかあったか?」

「あ…いえ、ちょっと」

「顔色が悪いぞ?」


 ガストさんが心配そうに俺を覗き込むものだから、いっしょにいる相棒の兵士さんが一人で身分証の確認をしてる。

 今日も大勢並んでるのに邪魔しちゃって申し訳ない。


「大丈夫です。張り切ってただけで」

「それならいいが…また採取か?」

「ちょっと迷い中です。採れたものを買ってもらおうかなって」


 怪しくない言い訳を並べ立てるけど、嘘とか苦手だしこれで大丈夫かわからない。

 でも、早くここを離れないとまたあいつらに見つかるかも知れないから。

 だから薄っぺらい言い訳を並べ立てて、俺はまだ心配そうなガストさんから離れて町を出た。

 森までの公路は草もないから楽だ。


「サトル! バンシィの討伐はまだらしいから、森へは入るなよ!!」


 ごめんなさい、それには頷けない。

 だから町を目指す人とは逆に走りながら、俺は遠目に濃い緑が空から降りた幕のように広がる森を目指した。

 バンシィを警戒して腕に自信のあるパーティしか入っていなのか、それとも規制されてるのか、ほかに森へ行く冒険者の姿はない。

 走って走って、完全に息が切れるまで走って、なんとかたどり着いた。

 昨日出て来たばかりなのに、もう懐かしく感じる入口にほっとする。

 それからやっと思い出した。

 誰にもなにも言ってない。もしかしたら心配してくれる人がいるかも……。

 あ、焼肉の約束もしてた。

 でも今更帰るわけにも行かないし。

 折鶴…じゃなくて、こっちでは小鳥って言うんだっけ。小鳥に印をつけてもらえばよかったな……。

 印ってなんだろう。魔力かな?

 念のために木が入り組んだところまで入って人目を避けて、俺は鞄からごそごそと白い小鳥を取り出した。


「魔力…あ」


 そういえば俺、エルフィーネのハンカチを借りたままだった!


「俺の涙と鼻水つきなんだけど、うーん…」


 取り出してじっと感覚を研ぎ澄ませてみたら、ハンカチからふわっとエルフィーネの魔力を感じた。

 あの花が綻ぶような、暖かくて優しい気持ちがそのまま形になったように、光のマナが小さな蝶の形になって浮かんでくれた。


「本人はいないからさ、これを覚えてくれる?」


 上手くいくかはわからないけど、小鳥の羽を広げてハンカチの上に乗せてみる。

 あ、マナの蝶が吸い込まれて光った! 大丈夫そうだな。

 あとは一言入れられるって言ってたな……。


「……『森へ帰るね』あ、終わっちゃった」


 お肉はみんなで食べてね、までは無理だったか。本当に一言だけなんだな。

 ふうって魔力を意識してお腹に息を入れると、小鳥がふわりと浮き上がった。

 やっぱりハンカチの魔力じゃ印としては足りなかったかな? そよ風にも負けてふらふら頼りなく揺れながら、白い小鳥が飛んで行く。

 力尽きずにエルフィーネのとこまで飛んでくれたらいいな……。

 神父様も、大人としてもうちょっとちゃんとして欲しい。あの教会から離れられない事情がなにかとか知らないけど。

 エルフィーネはまた採取とか行くのかな? いっそダリアさんたちのパーティに入れば安全なんじゃ…って、リリィさんも回復役だったから無理か。

 やっぱり、神父様ががんばって欲しい……。

 はぁ、とため息をついて俺はとぼとぼと歩き出した。

 向かうのはあの小さな森の家だ。まさかたった一日で逃げ帰ることになるなんて思わなかったけど、仕方がない。

 また三日間の野宿は辛いけど、ここなら誰かに迷惑をかけることもないから、出発したときよりはがんばれるかも。

 とにかくなんとかあの家へたどり着かなくちゃな……。

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