2-3-3 勧誘地獄その3、勧誘して欲しい人はしてくれない ②
本日2話目の投稿です。
「いたッ、なんなんですかもう!」
「掛からないだと? おい、ちょっとそれ見せろ」
「いやです!」
「じゃあ今すぐその服掻っ捌いて」
「ぎゃー! 変態、こっち来るな!!」
だからなんでいつの間にダガー握ってるんだ!? この人、レベルおかしくない!?
「そろそろよろしいですか?」
もう絶体絶命、敵に捕らわれた女の人みたいに必死に服を守ってたら、そこでやっとエルムさんが口をはさんだ。
なにか読んでたんじゃなかったのか!? 早く止めて欲しかった!!
「ちッ、いーぞ」
「ピルピルさんはあっち行ってください!」
頭にきてピルピルさんの小人族特有の軽い身体をとうっと向かいに投げたけど、難なく着地して話を聞く体勢に入られた。
くそ、本当に強くなりたい…!!
「ピルパッシェピシェール殿、このほかにはなにかありましたか?」
「いーや、今のところはそんだけだ。少年のソレがどの程度の性能かはまだ未知数。話がでかくなったら厄介だからな。『大したモンじゃない。ありゃ便利程度』と思われるように誘導したぜ」
あ、もしかしなくても俺の鞄か。
なにかしてくれたんだなと思ってピルピルさんを見たら、俺の視線に気づいてちょっとばつが悪そうに小さな肩をすくめた。
「ごめんな。少年のばあちゃんが遺してくれたそれは大したアイテムだ。でも凄いものだって思われない方が安全だからさ」
「はい、わかってるから大丈夫です」
「よし。少年の希望じゃ自分の力でってことだが、独り立ちするまでは名義借りした方がいいなー。少なくともパーティに入ってりゃ、口説くには同格のパーティじゃなきゃならん」
「実際に仲間として行動を共にするわけではありませんが、それでも名義貸しに応じるパーティがあればですね…」
な、なんか名義を借りるとか貸すとか、サラ金とか闇金怖い関わりたくない関わらないが信条だった俺のストレスマッハの予感しかしないんだが!?
やばい…俺が口を挟める隙がない。
「そりゃあいつらが来たら交渉すりゃいいさ。まあ嫌とは言わないんじゃないかなー? 少年自体は無害だし?」
この言われよう! 腹は立つけど言い返せないのがまたイラっと来るな!!
「どこも嫌がったらいよいよその時はボクが引き受けるさ。ただ、ボクだとあんまり壁にはなれないだろうけどね。以上」
あれ、終わり?
「それでは、これにて失礼」
言い終わると同時にぴょんっと立ち上がったピルピルさんが、羽のついた帽子を取って優雅にお辞儀した。売れっ子サーカスの人みたいだ。
「はあぁ…ピルピルさんて、なんか冒険者以外の芸でも生きていけそう」
「潜入時に軽業師を名乗ることもあるそうですよ。貴族に気に入られて身柄を買われそうになったこともあるとか」
「なにそれ、プロじゃん!」
ちょっと見たいかも。
ピルピルさんが出て行ったドアを見ながらしみじみ思っちゃったよ。
「サトル・ウィステリア君」
不意に、エルムさんの声が変わる。
エルムさんはまっすぐ俺を見ながら、ピルピルさんから受け取ったメモを、呪文もなく掌で燃やして灰にした。
「これまで勧誘を受けたパーティのどこかに招かれる意思はありますか?」
「ありません」
「わかりました。すべて断ります。以上で立ち合いを終わります」
あれ、これでいいの!?
なんか拍子抜けした…。そっか、終わったのか。
……いや待てよ。
「あの、このあとも勧誘されたりとかって……」
「それはあります。ですが君の持つマジックアイテムはSランクであり、絶対固定によって君しか扱うことができない。これが悪用されると厄介ですからね。君への勧誘は原則、ギルドを通す必要があります」
「あ、そうなんですか」
よかった、それなら大丈夫そうだ。
だってサイモンさんもおっかないしと気楽に安心したんだけど、それはまだ早かった……。
「表向きには、になりますが」
「裏向きがあるんですか!?」
「当然です。君がこのギルドから離れなければ別ですが、冒険者として依頼を受けて動くなら、いくらでも接触の機会を作れますからね」
「そ…そっかぁあ…!」
「問題のある相手は今回の機会も却下されています。どういう手段に出るかもわかりませんから、十分に用心してください」
「はい…」
どう用心すりゃいいかわかんないけど、しょうがない…んだろうな。トホホだ。
俺は平和に楽しくこの世界を生きたいだけなのに。
とりあえず、もうこの部屋に用はなさそうだ。
そう思って部屋から出て、恐る恐るマイヤさんともう一人受付らしい女性のいるカウンターの方を覗いたら、今のところは静かだった。
さっきまでみたいにいろんな人がいるってわけじゃない。
これなら行っても大丈夫かも。
「あ」
そう思って歩き出したところで、見覚えのある人がマイヤさんのところに来た。
昨日オレンジ玉から俺とエルフィーネを助けてくれたパーティの人だ!
会えてよかった!
「こんにちは!」
「おっ、よう。派手な勧誘を受けてたんだって?」
「はい、まあその、ちょっと…。俺のことより、皆さんが無事でよかったです」
「ゴブリンに負けたりしないよぉ。それより、マジックアイテムの鞄を持ってるんだってぇ? グラスボアを入れたらほとんど埋まるらしいけど、軽いままなんでしょ? 便利だよねぇ」
剣士の人間のお兄さんと獣人族のお姉さんが、笑って声をかけてくれた。巨人族の男性は、バンコで麦酒をあおりながらこっちを見たけど、相変わらず無言だ。
うっ、やっぱり知られてたか。そしてそれぐらいの性能って話になってるんだな。助かる!
ほかの冒険者もいるけど、怖いほどの熱を込めてこっちを見る人はもういないみたいでほっとした。
「実は皆さんのことを待ってたんです」
「ん? うち、パーティメンバーは募集してないぞ」
「超便利なマジックアイテム持ってる子なんて、ウチじゃ守ってあげる余裕もないからねぇ。もしどっか入りたいなら、うんと強いとこにしなよ?」
「そうじゃなくてですね」
しかも、勧誘はしてこない!
どうせなら、こういう人たちが勧誘してくれたらいいのにな…。なんてままならないんだ。
「えっと…これ! 昨日助けてもらったときに落ちてたオレンジ玉の核です」
鞄に手を突っ込んで、大事に取っておいたオレンジ玉の小さな核を差し出すと、二人が顔を見合わせて笑った。え、巨人族の男の人まで? なんで!?
「わざわざそんな、いいのに!」
「欲しかったらその場で拾ってるよぉ」
「だって、俺たちが倒したわけじゃないから申し訳ないし。こうして拾っちゃったから受け取ってくださいよ~!」
これは予想外だった!
パーティ名を知ってたらこの人たちのポイントか報酬に入れてって言えるのに、知らなかったからこうして渡すしかないし。
「素直な子だなあ。じゃあ、ありがたくもらうけど、変なのにひっかかるなよ?」
「ちゃんとしたとこに雇ってもらいなねぇ?」
ひっこめられなくなって困ってたら、苦笑した二人が折れて受け取ってくれた。
「駆け出しのころはほかの冒険者に助けられることが多い。いちいちこんなことをしなくても、次はおまえが強くなった時に駆け出しを助けてやればいい」
「うう…、わかりました」
しかも、寡黙な巨人族の男の人にまで言われてしまった。
確かにそうかも。依頼でどこかを探索してる最中だったりしたら、次にいつ会えるかわかんないもんな。
しっかりその言葉を胸に刻む。




