2-3-2 勧誘地獄その2、たまに天国 ①
本日2話目の投稿です。
「おじゃまするよ!」
「おじゃましまぁす」
さて、今度はどんな怖い人たちがと思ったら、意外だ。女性だけのパーティだった。
「こんにちは、サトルくん!」
「こんにちは~」
リーダーらしい長身の若い女性は体格のいい獣人族で、洋猫っぽい毛がふよふよした耳に柔らかそうな赤毛、浅く日焼けした肌と軽鎧越しにもつい目が行く膨らみと、後ろでゆら~りゆら~りとしてるふっさぁあっとした見事な赤い長毛のつやつや尻尾に目を奪われる。なにあの尻尾、超触りたい!
隣の女性は栗色の髪を綺麗にまとめていて、少し眠そうな泣きぼくろのある目元と微笑みの形の厚めの唇が優しそう。槍を持ってるけどなんとなくシスターっぽい衣装の上にごく細い金属の輪を編んだ帷子を着てた。スレンダーでエルフと並んでも違和感がなさそうな体格だ。
「こ、こんにちは…」
初めて名前を呼んでくれたのがうれしくて、つい俺も会釈だけじゃなくて声に出して挨拶しちゃったよ。
「わー、マイヤに聞いた通りの子ね! あたしは『ソレイユ』のリーダー、ダリア。ランクはBよ」
「私はリリィ、ランクはCです。いつも勢い余ってしまってるせいか、『ソレイユ』より『ソレイケ』って呼ばれてますけど」
「それ言わないで!」
ぱっと赤くなったダリアさんが隣に座ったリリィさんを小突くけど、俺もつい笑っちゃった。
そっか。こんな若いお嬢さんたちだけでもちゃんとパーティで活躍できるのかと思ったら、ほっとする。
「失礼ですが、ソレイユは三人パーティだったのでは?」
「はい。さっき魔法使いの子が一人抜けました」
「脱退手続きは済んでいます。元々、タロイソからナーオットまで同行して欲しいということでパーティに入ったんです」
タロイソといえば、鉱物がいろいろ採取できる町だ。確かナーオット側とはべつのドワーフの里もあったかな。
「駆け出しの女の子じゃ、あたしたちを護衛で雇うと支払うのきついしね」
「私たちは前衛ジョブのダリアと、中衛ジョブ兼回復術士の私。魔法使いのあの子とは相性がよかったので、あの子さえよければこのままパーティを続けられたらと思ってたのですが…」
「まあ、魔法使いとしての修行のためって言ってたからしょうがないわ。でも心配になっちゃうのよね。お節介だってわかってるんだけど」
二人の表情は浮かない。へへっと顔は笑ってもダリアさんの尻尾がふしゃん…っと垂れて、すごくかわいそうな気になる。
護衛で雇われたらポイントや報酬も稼げただろうに、わざわざパーティメンバーにしてあげるなんて、優しい子たちだなあ。
二人ともしっかりしてるけどまだ二十歳ぐらいじゃないか。いい子過ぎておっさん、心が洗われたよ。
「なるほど。状況はわかりました」
「はい。さて、じゃあ次は報酬関係よね。サトル君」
「は、はい」
「あたしたちは、一時契約ではなくて、本契約を希望してる。貴重なアイテムを持っているだけに、なるべくあなたの希望する報酬を出せたらいいとは思うけど、パーティの力量以上のことはできません」
「パーティの中でのサトルくんのお仕事は、まず荷物持ちね。目指すジョブがあるなら協力するし、あなたのメリットはうちは荒っぽいパーティじゃないから、あんまり怖い思いはしないってことかしら」
「討伐依頼は君の様子を見ながら難易度上げるとか、調整するわよ」
ぱたぱたっと尻尾を揺らしてにこっと笑ったダリアさんの隣で、リリィさんもゆったりと頷く。
今までの中では一番条件がいいと思うけど、俺はともかくこの人たちにあんまりメリットが感じられない。
そりゃ俺の鞄は便利には違いないけど、そんな採取をガツガツしたいって感じでもないし。
不思議に思っていたら、そこはエルムさんが聞いてくれた。
「サトル・ウィステリア君以外の補充はお考えですか? 魔法使いの仲間が抜けて代わりに戦闘力の乏しい新人冒険者を迎え入れるだけでは、ソレイユの大幅な戦力低下になりますが」
「んー、補充は考えてるけど、今のナーオットではたぶんしないわ」
「皆さんマジックアイテム持ちの新人に夢中で、その本性がよく見えました。現在ここに集まったスカウト可能な冒険者の中に、迎えたい人はいません」
「ただでさえうちは女だけだしね。もしかしたらうちに移籍希望の女の子の荷物持ちがいたら、拾って行くかも知れないけど」
うわ、一刀両断! 清々しい!!
あれ、でもそれじゃ…俺もダメなんじゃないの?
「あの…」
おずおず手を上げると、二人がこっちを見た。
うう、テーブルが間に挟まってても、若い女の子と話すのは緊張する…!
「俺は男ですけど、いいんですか?」
ぱっと顔を見合わせた二人が小さく笑ったり肩をすくめて、…うん。なんかわかった。
「君は大丈夫よ!」
「私たちに悪いこと、しないでしょう?」
しませんよ。しませんけどね!
「お断りします。やっぱり女性だけのパーティに男が自分一人というのは、落ち着かないんで」
妄想なら俺だって憧れるけど、現実となるとなあ。
そんな環境を喜べるのは、ハーレムを作る財力と根性と度胸がある男だけだ。
あとは幼馴染とか、いっそ同性が好きとか。そうでもないと神経が持たないと思う。
「あら残念! 稼ぎが落ちる分は君の鞄を使って交易で稼ごうって思ってたんだけどな~」
「そうね。わかりました。ただほかに組めそうな人がいなくて、一人ではどうしても困るような状態になったら思い出してください。二、三日はこの町にいる予定ですから」
ダリアさんはあっさり笑って両手を上げて、リリィさんも頷きながら腰を上げてそう言ってくれた。
くうう、ダリアさん、俺のためにはその尻尾をふしゃあ…と落ち込ませてはくれないんですね!
ひらひらっと手を振って、「じゃあね」ってそのままさくっと出て行っちゃったんだ。
あれ、全然粘られなかった。拍子抜けっていうより、なんかすっきりしないなあ。
「本気じゃなかったんでしょうか?」
「本気ではあったでしょう。ただ性別を出されると、どうしようもない部分はありますからね」
「やっぱり、そういうものですか」
「ええ。男女が同じパーティになる場合、どうしても恋愛関係のトラブルが起こりがちです。夫婦であってもね。それが小人族と巨人族、ドワーフとエルフであれば問題になったケースはほとんど報告されていませんが、人間が加わればなにかしら起こります」
こういう世界観だと、なぜか人間がやり玉に上がりがちなの、むっとするんだけど!?
「人間がすべての種族の中で最も繁殖力が高く、環境適応力に優れ、すべての種族と婚姻できる差別意識のなさ…いえ、愛情深い性質だからでしょうね」




