1-4-5 教会の子供達 ②
本日4話目の投稿です。
そして、実はそうなんだよ……。
エルフィーネ、腕に大きな痣ができちゃっててさ。グラスボアに転ばされたときにぶつけたらしいんだけど、痛かっただろうに俺、気がつかなくて…。
エルフィーネが先に水浴びをしてたところにレジェが行って気がついて、湿布はどこだって大騒ぎしたり、騒動で泣き出した赤ちゃんとか幼児でてんやわんやになってしまった。
とりあえず、俺も杖は一応使えるから借りて治癒をかけたんだけど、やっぱり魔力の高さが違う。
俺の深い切り傷はエルフィーネのおかげですぐ治ったけど、エルフィーネの打ち身が治るまでには結構な時間がかかってしまった。
いや、治せただけよかったんだけどね!? 治癒の宝珠は魔力分だけ回復だから、これはもうどうしようもない。
「わたしが言わなかったんです。それよりも弓だけじゃなくて治癒の宝珠も使えるなんて、サトルは器用なんですね」
「いや…でも俺、魔力はあんまりないし。神父様を呼んで任せればもっと早く治せたよね? 気が利かなくて本当にごめん」
「使えるだけでもすごいですから、自信を持ってください。それに、教会では自然に治る傷にわざわざ治癒の宝珠を使ったりしませんから」
「勝手をしちゃって、ますますごめん…!」
笑って励ましてくれたエルフィーネは、デザインは同じだけどちゃんと清潔なワンピースに着替えてる。
俺も裏の井戸を借りて血を流せたし、着替えられたからさっぱりした。しかも血まみれの服を洗ってもらえたのがありがたい。
「まあけど、あんたにはこうして美味い肉を分けてもらったわけだしな」
「そうそう。ここはよくぞ来てくれましたサトル様ってとこだぜ!」
真面目ながらもなんかニヒルな言い方をするのはさっき棺を担いだ細くて背の高い犬型の獣人族の男の子、ジュスト。薄い垂れ耳と細くて平たい尻尾がどことなく温厚な猟犬を思わせる落ち着いた見た目と物腰だけど、なんとこの身体と同い年の十五歳だ。身長をちょっとわけて欲しい…。
その次はこの中では最年長の十七歳だけど、小人族だから俺の胸ぐらいの身長のプリモ。金属っぽい緑のくせ毛で髪と同じ好奇心旺盛そうなキラキラした目がご機嫌に俺を見上げてる。
まだそんなに何人も知り合ってないけど、なんとなくわかった。小人族はきっといくつになってもいたずらっ子だと思う。
だって俺が鞄からグラスボアのお肉を出したら、プリモのやつ! 目を輝かせて「すげえ! ほかはなにが入ってるんだ!? 俺も入れるかな!?」って頭を突っ込もうとしたからな!
エルフィーネが「プリモ! おやめなさい!」って怒ったのが怖かった…。
まさか鞭でも出して叩くのかと思ったら、あのショートロッドでばしんとお尻を叩いて、しかもいい音がしてたのがまたいっそう怖かった!
「でも晩御飯が終わってたから、間に合わなかったね」
「明日のごちそうになるから十分です。だからどうぞ泊って行ってくださいね」
「そうだよ! それにご飯も食べてね!!」
エルフィーネに続いて上からぐいっと覗き込んで言ってくれたのが、女の子の中ではエルフィーネの次にお姉さんな巨人族のベッラ。
褐色の肌でポニテにしたドレッドヘア、まだ十四歳らしいけど身長はすでに俺より頭一つ分高いし、体つきもしっかりしてる。
巨人族は女の子でも体格がいいなあ…。あの腕の筋肉、ちょっと分けて欲しい。
俺に声をかけてくれたというか、寄ってきてくれたのはこの子たちだけで、少し離れたところにはいはいぐらいの赤ちゃんを抱っこした、まだ十歳になってないぐらいの人間の男の子がいる。
つんつん頭で目つきが悪いから、なんかハリネズミみたいだ。
仲良くなりたいけど、そばに寄ったらめっちゃ威嚇されそう。
そしてなんか覚悟の違いとか肝の坐り方っていうのかな。絶対勝てない。
だから自分が傷つかないためにもそばには行かず、俺は敵じゃないですよ~なにも悪いことはしませんよ~って態度で地道にアピールすることにした。
「さあ、あなたたちはもう寝なさい。ジュスト、プリモ、ベッラ、お願いできる?」
「はいよ、りょーかい」
「もちろん! もっとあの鞄を見たかったけどな~」
「いいよ。ほら、プリモも、お客様の持ち物に勝手に触っちゃだめ! みんな行くよ!」
エルフィーネに言われて、ジュスト、プリモ、ベッラが子どもたちを引き連れて二階へ連れて行った。
残ったのは神父様とエルフィーネと俺だけ。やっと静かになった。
いや~、実はテーブルに食事の支度をしてくれてて、早く食べたくて仕方なかったんだよね。
お腹の音が聞こえちゃうんじゃないかってひやひやしたよ。
「遅くなったが、さあどうぞ。これでは礼にもならないが、よくエルフィーネといっしょに行ってくれたね。この子は言い出したら聞かない上に、私が兵舎に呼ばれている隙に行ってしまって、本当に心配していたんだ」
「ええ~…それはだめだよ、エルフィーネ」
お招きいただいて椅子に腰を下ろしながら思わず突っ込むと、エルフィーネは赤くなって恥ずかしそうに俯く。
「それは…はい。心配をかけてしまった自覚はあります……」
そう言いながらパンが入ったバスケットをこっちに寄せてくれるあたり、本当に優しいなあと思うんだけどね。
「私が口に出したせいだけれど、まずは食事をしなさい。二人とも」
「あ、はい」
「女神よ、今日の恵みに感謝をいたします」
なるほど、こっちの世界の「いただきます」はこうか。
「俺も感謝します。じゃあ、いただきます!」
でもやっぱりこっちじゃないと落ち着かない。
両手を合わせて挨拶してから、久しぶりにちゃんとした食事を楽しんだ。
ここのパンはちょっとすっぱめで固い。黒くはないけど白くもないし、なんだろう。雑穀っぽいのが入ってる感じか。貴族なんかは白いパンを食べてそう。
あとは肉より骨の方が多いなにかの肉が少しと、ジャガイモと細長い玉ねぎっぽいのがたくさん入ったシチュー。
味は薄い。牛乳…なのかな? とりあえずなんかの乳より水の方が多いし、教会で塩が足りないっぽい話をしてたから、そのせいかも。
でも美味しい!
ここのところずっと干し肉だったし、昼間に食べたあのパンと串肉も美味しかったけど、あれとはまた全然違う。
誰かが手をかけてきちんと作ってくれた料理だもの。贅沢に慣れた人は文句を言うかも知れないけど、俺にとってはなによりのご馳走だよ。
おかわりがないことが本ッ当に残念だ!
「サトル、これでは足りないのではないですか? よかったらグラスボアのお肉を焼きますよ?」
「大丈夫! 明日のお楽しみに取っておくんだ」
うーん、お腹がいっぱいになったらいよいよ眠くなってきた……。
元々魔力切れで眠くなってたし、自然回復もそんなに多くないからしょうがないか。
「サトルくん、もう休みなさい」
食後のお茶ならぬお湯をいただいてるところでかくんと寝落ちしそうになって目元をこしこししてたら、苦笑した神父様に頭を撫でて言われてしまった。
いかん。この孤児院の子たちの中では、俺はお兄さんの方なのに。
っていうか中身で言ったら神父様を含めても最年長かも知れないのに、なんて思い通りにならない身体なんだ!




