25 一つ目の儀式
「一つ目の儀式は、血を交わすだけ」
「血……?」
「そう。ティーアが〝魔王の花嫁〟だという、徴をつける為のもの」
ふわりと抱え上げられて、ティレーリアは寝台へと連れていかれる。
そしてティレーリアを寝台の真ん中にゆっくりと下ろして向かい合うように座ると、ヴィリディスはティレーリアの着ているワンピースのボタンを器用に外していく。
ワンピースの肩を落とされて、ティレーリアの胸元が空気に晒された。
「あ、の………」
胸元を隠そうとしたティレーリアの手首をやんわりと掴んで、ヴィリディスがそっと左胸の内側に唇を落とす。
「ごめん、少しだけ、痛いかも」
ぺろりと肌を舐められてぴくんっと肩を跳ねさせた次の瞬間、その場所にちくりと痛みが走る。
痛みの次に、痺れるような不思議な感覚に襲われて、ティレーリアは咄嗟に瞑ってしまっていた目をそっと開けた。
そうして目にした光景に、ティレーリアはひゅっと息を飲んだ。
ティレーリアの胸に、ヴィリディスが牙を突き立てていた。
牙――なんて、ヴィリディスにはなかったはずなのに。
「っヴィー……?」
確かにヴィリディスの牙が、自分の胸に食い込んでいる。
なのに痛みはほとんど感じずに、そこからはじんわりと痺れが広がって――
そしてヴィリディスが何かを啜る音が聞こえたと思ったら、ぞくりと背中を駆け上がって、くすぐったいような感覚に襲われた。
「ふぁっ……!」
背中を駆け上がった甘やかな痺れと漏れてしまった吐息を誤魔化すように、ティレーリアはきゅっとヴィリディスの頭を抱え込む。
「ヴィー……やっ、むね…………」
身体を捩ろうとしたティレーリアの胸で、じゅっと啜り上げる水音を響かせてから、ヴィリディスが顔を上げた。
「――次は、ティーアの番」
口元に零れている紅い雫をぺろりと舐めて、ヴィリディスはどこからか出した小さなナイフをティレーリアに握らせた。
「………え?」
ティレーリアは、握らされたその冷たい感触に目を瞠る。
「僕の、ここを切って。少しだけで大丈夫」
ヴィリディスが自分の左胸、ティレーリアの胸に痕をつけたのと同じ場所をトンと指す。
「で、も…………」
「血を交わすっていうのは比喩じゃなくてね。本当にティーアと僕の血を、互いに交らせるんだ」
着ていたシャツを自ら脱いで、ヴィリディスがどうぞ、と腕を広げる。
「で……でも、ヴィーの肌を……切る、なんて……」
ナイフを握ったまま震えるティレーリアの頬に口付けると、ヴィリディスはティレーリアの手を握る。
「少しくらいの傷ならすぐ塞がるから、大丈夫だよ」
ゆっくりとナイフを誘導されて、刃先をヴィリディスの胸に押し当てるところまで持っていかれて、ティレーリアはこくりと喉を鳴らす。
「い……痛かったら、ごめんなさい」
すーはーと深呼吸をして、そうして覚悟を決めてから、ティレーリアはヴィリディスの胸の上で浅くナイフを滑らせる。
一拍の後にじわりと滲んできた血にヴィリディスを見上げれば、促すように頷かれて、そして持っていたナイフがふっと掻き消える。
ティレーリアは空いた手をヴィリディスの胸に添えて、おずおずと、傷口をなぞるようにして、その血を舐めた。
口の中に広がった味は、指なんかを怪我をした時に舐めとった自分の血と同じ味だと、
ティレーリアはヴィリディスの肌に舌を這わせながらぼんやりと思った。




