24 年の差婚でした?
「あ……そうだわ。どうしても気になっている事があるんだけど……聞いても良い?」
「良いよ、何?」
「えっとね……ヴィーって今、何歳なの?」
ティレーリアの髪に顔を埋める様にしていたヴィリディスが、あー、と呟く。
「今は、六十くらいかな」
「………え」
ぽかんっとしたティレーリアにヴィリディスが小さく笑う。
「胎から産まれる魔族は、母親の胎内にいる時間が短い代わりに、幼少期が長いんだ。だからティーアと初めて会った頃は五十歳くらい」
「どう見ても、十歳くらいの……私より少し上かなって感じだったけど………」
「魔族も本来三百年以上は生きるんだよ。魔王は花嫁に力を分ける様になったから二百年行くかどうかってくらいだけど。三百年生きても、せいぜい人間でいう五十代くらいの見た目までしかならないから、見た目の変化は人間と比べたらゆっくりだね」
「ゆっくりどころじゃないわ……あら? でもそうしたら、今のヴィーは少し育ちすぎって事にならない?」
「育ちすぎって……。何でか分からないけど、六十前後の――魔王として覚醒する前になると、見た目が急に育つ期間があるんだ。僕はちょうどティーアと会えなくなった頃に育っちゃったんだよね」
「この先も、急に……って事があるの??」
「どうだろう。個体差があるみたいだけど……この先は基本的にゆっくりのはずだよ。もしかしたら、六十前後で急に育つっていうのも人から花嫁を娶る事になった影響かもしれないね。ティーアくらいの年の娘が花嫁になるのに、十歳くらいの見た目の魔王が出てきたら、多分花嫁は引いちゃうよね」
言われて、ティレーリアは出会った頃のヴィリディスと今の自分が並んでいる姿を想像して……夫婦っていうのはないわね、と呟いた。
「私、あっという間にヴィーの見た目を追い越しちゃったりは、しない?」
「力を分けた時点で、ティーアもゆっくりになるよ」
「私とヴィーの見た目の年齢に大きな差は出ない、のよね?」
「出ないから、大丈夫だよ」
可笑しそうに「安心して」と笑われて頬にキスを落とされて、ティレーリアはほっと息をつく。
ヴィリディスだけ若くて綺麗なままで、自分だけ老けていくのは何となく辛そうだな、と思ったのだ。
けれどその心配はしなくても大丈夫そうだ。
「じゃあ、ヴィーは百六十歳くらいまで魔王なの?」
エリアディールが言っていた〝百年ぽっち〟発言を思い出して、何となく呟いたティレーリアに、ヴィリディスがどうだろうと首を傾げる。
「実際のところ、魔王の在位期間って結構差があるんだ。先々代は百二十年務めてるけど、父は七十年程度」
「魔王の覚醒って……どういう仕組みなの??」
「先代の力が弱って次代の力が高まるのか、次代の力が高まるから先代の力が弱まるのか、どっちが先なのかはよく分からないけど。とにかく、少しずつ高まっていた次代の魔王としての力が、ある日突然どーんっと膨れ上がる」
「……苦しかったり、したの?」
そっと頬を撫でられて、ヴィリディスは目を細める。
「大丈夫、辛いとか苦しいとかはなかったよ。本当にある日突然〝あ、来た〟って感じ」
「じゃあ、あの時……ヴィーがもう来られないって言った、あの頃から……?」
「そう。魔王としての力の高まりが始まると、いつ〝来る〟かは分からないんだ。だから、もう村の近くまで行く事が出来なかった。でもティーアがあそこに来てたのは、視てたよ。――僕を待ってくれてるティーアの元に駆けつけたかった。泣いているティーアを、抱きしめたかった」
ごめん、とまたぎゅうっと抱きしめられて、ティレーリアは小さく首を振る。
「視てた……って、どうやって?」
「これを、使って」
ヴィリディスが短く何かを唱えると、初めて会った日に村まで連れて行ってくれたのと同じ水色の小鳥が姿を現した。
「この子……」
「うん。これの見たものを僕にも見える様にして、あそこに飛ばしてた」
「視られてた、なんて……恥ずかしいわ」
「何で? いつでもティーアは可愛かったよ」
「……ヴィーの感覚って、少しおかしいと思うわ」
ティレーリアの容姿はごくありふれた茶色い髪に茶色い瞳、顔立ちは少し童顔で、可愛らしいと言われる事はあったけれど、平凡の域を出てはいない。
数人の青年から一緒にならないかと言われた事はあるけれど、それだって手近なところで手を打ったまでの事だろう。
だからとても整った造作の、綺麗なヴィリディスに「可愛い」なんて言われると、少しばかり卑屈な気分になってしまうのに……。
「どこが? ティーアは誰よりも可愛いよ」
「だから、それがね………」
おかしいわ、と続けようとしたティレーリアの両頬を包み込んだヴィリディスが、ゆっくりと唇を重ねてくる。
「……んっ」
ちゅっと、小さな音を立てて離れたと思ったら、またすぐに重ねられる。
そうして何度か唇を重ねられて、ティレーリアが息苦しさを覚えてぼんやりし始めた頃――
「ティーア…………そろそろ、良い?」
限界、と呟かれて、ティレーリアは吐息と一緒に、はい、と小さく頷いた。




