19 勇者と傭兵、ようやく蚊帳の内
「仲良しって………。気持ち悪い事言わないで、ティーア」
「なに、我からすれば孫のようなものだしな。これは今までの魔王の中でも特に面白い」
顔を顰めたヴィリディスと、いかにも愉快、という風なエリアディールの様子に、ティレーリアはどうやら『仲良し』らしいと、がっくりと脱力する。
「あー……あの、何だか盛り上がってるところ申し訳ないのですが………」
ベルトールが、申し訳なさそうにそぉっと手を上げる。
「花嫁とか、盟約って……何、かな?」
「―――あ。」
ベルトールの問いかけに、事情を知らない男性陣への説明を失念していた。
という事に気づいたコーデリアが慌てた様にコホンと咳払いをする。
「ごめんなさい。本来魔王の城に到着した時点で説明をするはずだったのだけれど――」
色々めちゃくちゃになってしまったから忘れていたわ、と、コーデリアは勇者一行に――というよりベルトールとバルドルフに対して、盟約についての説明を行った。
随分遅れて事の次第を理解したベルトールとバルドルフは、今更ながらに「何やってんだ、この王様」という視線を、あからさまにならない程度にエリアディールに送ったが、お綺麗な微笑みの前にあっさりと溶けて消えた。
ちなみに盟約について、コーデリアは王族教育として子供の頃から知っており、
エレナにも花嫁候補に選ばれた時点で人の王と精霊王から説明がなされていた。
リュシアンは精霊術師である為、精霊の噂話を聴いていたから何となく知っていた。
という事を聞いた精霊王は、「噂好きな風妖精らの仕業かな?」と少しばかりお怒りだったようだ。
どうやら精霊族でも盟約については誰もが知っていて良い話ではないらしい。
「精霊族も魔族も、盟約の詳しい内容について知らせるのは種族長までに限定している。……が、風妖精の長には少し仕置きが必要のようだの」
「僕が勝手に聴いてしまったのです。どうか風妖精たちへのお怒りは……」
慌てたリュシアンの悲しそうな表情に、エリアディールはふむ、と腕を組む。
「そなたに弱いのは、我も変わらぬな。風妖精への咎めは――今回だけは見送ろう」
「ありがとうございます」
「……リュシアンって何者だ?」
精霊王から愛し気に頬を撫でられているリュシアンをぽかーんと見ていたバルドルフの呟きに、コーデリアが精霊術師ですもの、と返す。
「精霊術師は精霊との相性が良くないとなれないわ。相性の良い人が精霊に選ばれる、というべきかしら。特にリュシアンは〝精霊の愛し子〟とまで言われているのよ。精霊王であるエリアディール様ですらメロメロよ。長年守護を得ている王家も嫉妬するくらいに、ね」
ズルいわ、と心の声が漏れたコーデリアに、リュシアンがすみません、と苦笑する。
リュシアンのような〝精霊の愛し子〟は極稀に誕生する。
そこらの精霊はおろか、精霊王までもその愛し子には甘々になってしまうらしいと聞いて、バルドルフが首を傾げる。
「それって、仮にリュシアンが精霊に『人間を襲えー』とか言ったら大惨事になるって事か?」
「精霊に愛されるのだ。悪意を持つような人間がなれるわけがないさ」
何をぬかしておる、とエリアディールに笑われて、バルドルフはそういうもんか、と頷く。
「じゃあ魔王と花嫁みたいに、精霊王サマも愛し子を夫に迎えたりするのか?」
バルドルフの言葉に、精霊王がおやおやと笑う。
「人の子は物事を知らぬのだな。精霊王は夫も妻もとらぬよ」
「え、じゃあどうやって――」
「我の寿命が尽きた瞬間、どこかで次代が産まれるのさ」
「へぇ…………じゃあ精霊王サマって処jy…………」
途端、バルドルフに向かって稲妻のようなものが落ちた。
「うおっ、あっぶね!!! 何すんだよ、姫さん!!」
僅かに服を焦がすだけで避けたバルドルフは、さすが『伝説』と謳われるだけの実力者なのだろう。
「バルドルフ、あなた、エリアディール様に対して、なんっ……! なんてことをっ!!!」
顔を真っ赤にして手の平の上で雷をバチバチさせて次の攻撃準備をしているコーデリアに、エリアディールがこらこらと手を振る。
途端霧散してしまった雷に、コーデリアがでも! とエリアディールを振り返る。
「人と恋に落ちる精霊もいるし、過去には精霊王でも人の伴侶を得た者はいたらしい。精霊と人とのそういう行為も不可能ではないのだろうよ」
我は興味がないがな、と付け足したエリアディールに、バルドルフが「じゃあ俺立候補」と言って、再びコーデリアから稲妻を落とされた。




