血に染まる月と巫女9
大好きだった笑顔が二人の目に映る。
名前を呼ぶ声、差し出される手。
母は、綺麗で優しくて、いい匂いがした。
抱きしめて頭を撫でて愛情をくれる。
「あなた達は、半分だけ悪魔なの……だからきっと人間に怖がられたり嫌われたりすると思うけど、傷付けてはいけない」
そう言って悲しそうな顔をする母。
どうして、そんな顔をするんだろうと二人は顔を見合わせる。
「俺、嫌われるくらいなら人間とかかわりたくない」
長髪の子供が言う。
さらに悲しそうな顔をして笑う母に夜は慌てて声を発した。
「俺は、人間と仲良くなりたい!」
「えー、嫌われてるのに仲良くなんてなれねーよ」
「なれるよ、ジンもなれるよ!」
長髪の子供、ジンは口を尖らせてそっぽを向く。
どうせ本当の姿を見せたら悲鳴をあげて嫌われる。
自分とは違う姿の者を嫌うのが人間なんだ。
そう言ったのに、夜は本当の姿を見せてしまった。
一度ではなく何度も。
「……結果的に、お前は潤と那智以外に友人なんていないじゃねーか、巫女にも逃げられて……馬鹿だよ、ホント」
ベッドの上に座る長髪の少年は悲しげに真紅の瞳を揺らして呟く。
発した言葉に答えるように胸が痛んだ。
唇を噛みしめて苛立っていると、部屋の扉が開く。
ニッと白い歯を見せて訪問者に声をかける。
「待ちくたびれたぜ、さっさと血をよこせよ」
訪問者は舌打ちをすると少年の前に立つ。
暗くて顔は見えないが月に照らされた肩は白く、既に古い噛み跡があった。
少年は肩に噛みつくと喉を鳴らして血を飲み込む。
ようやく見えた少年の顔は夜と同じ顔をしていた。
違うのは眼帯の位置と目の色、髪の長さのみ。
「……っ」
吸血されている人物は辛そうな声を上げるとそのまま少年の肩に両手を置いて項垂れる。
一瞬だけ申し訳なさそうな表情をすると目を閉じて口を離した。
肩から流れる血を舐め、人物の頭を撫でる。
「魔力も回復したし、怪我の回復してやるからここに座れ」
ベッドに座らせると少年は手を伸ばして笑った。
回復をしている間、顔の見えない人物は拳を握りしめている。
何を思っているのか、一言も話さずにただ少年の為に血を差し出す。
声には出さないが唇が「ジン」とゆっくり動く。
「……お前だけかもな、あいつの他に俺の名前を知っているのは」
少年、ジンは切なそうな顔で隣にある肩へ頭を置く。
ビクッと震える肩。
なんともいえぬ溜息を耳にしてジンは目を閉じる。
「……」
その姿を横目で見ている人物にジンが聞く。
「なんで、人間って俺達を拒絶するんだろうな」
「……」
答えは返って来ない。
だが、頭を置かれていないほうの手でジンの髪に触れる。
「巫女も、夜の姿を見て悲鳴を上げた」
おかげで、出てこなくなったと文句を言うと再び溜息が聞こえた。
やっぱり何も言ってくれない。
諦めて肩から離れるとジンはベッドの上に寝転んだ。
「さて、これからどうすっかな」
誰に言うでもなく呟かれた言葉。
やはり、言葉は返って来なかった。




