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第1話 Bパート


楽譜の読み方を、アニメ脚本っぽい形で説明します。


オリジナル『ガクテン』では、楽典以外の物語部分に、R15の暗い箇所がありました。暗い箇所を、ほぼ単純削除して、ほのぼの会話を中心にします。


※ R15以外は、そのままですので、二重投稿に近いものです。


◆ ご感想を頂けると嬉しく思います。ログイン不要ですので、お気楽に一言をお願いします。


◆ 「評価」はログイン必要ですが、「感想」はログインせずに、どなたでも書けます。



▼ Bパート。   ▼──   ──▼


Aパートの音楽室の続き。


ヤッ子。第6弦で、2倍音から8倍音まで鳴らす。「この弦は、ミに調律してあるから、ミの倍音だな」


ヤッ子。ミッツに向かって。「蜜霧君、私と一緒に、ミの倍音を鳴らしてくれないか」


ミッツ。ヤッ子の「2倍音」「3倍音」……「8倍音」の、言葉と演奏に合わせて、ピアノを鳴らす。


ハル「9倍音は?」


ヤッ子「理屈では倍音は無限だが、物理的な限界はある」


ハル「あ、それ、わかります。工作をしていたら、理屈では上手くいくはずなのに、作ってみたら、思ってもいない理由で、上手くいかない」


ミッツ「要するに、下手だってことね」


ハル「違うよ。机上の空論は、経験不足ってことだ。自動車が、制限速度が時速40キロメートルの道を走っても、1時間で40キロメートルを進めない。実際は、カーブでの減速もあるし、信号待ちもあるから」


ミッツ「そんなの、当たり前でしょ」


ハル「新聞紙を、10回、折り畳むことはできない」背景に、2頭身のハルが、新聞紙を折り畳む姿。「1回目」「2回目」「3回目」と、いくつかの姿。


ミッツ「そうなの?」


ハル「ミッツは、今は、「できるはず」って思っているだろ。でも、やってみたら、できないのが当たり前だと気付く。気付いたら、なぜなのかがわかって、説明できる」


ミッツ「わかんないけど」


ハル「じゃあ、簡単に説明すると」黒板に、新聞紙の大きさの長方形を書く。


ハル「新聞紙の広さは、1回、折る度に、半分の面積になる。1回、2回、3回……」言いながら、長方形を半分に、片方の長方形を半分にという、線を書き足す。


ハル「この面積まで小さくなる」


ハル「では、厚さは何倍になるか」黒板に、上から「1回」「2回」「3回」……を書く。「1回」の右に「2倍」、「2回」の右に「4倍」、「3回」の右に「8倍」……を書き足す。


ハル「見ての通り、10回も折ったら、厚さは千倍を超過する。ということは、この小さな面積で、折り目の外側は、この厚さの分だけ迂回する。それは、不可能だ」


ハル。黒板に、折り目の外側が迂回する図を書く。トイレットペーパーを円形に見て、ぺちゃんこに潰したような図。


ハル「折り紙で鶴を折ったら、綺麗に折ったはずなのに、変な広がりができるのは、こんな感じに、外側が迂回するからだ」


ミッツ「でも、新聞紙って、薄いよ」


ハル「コピー用紙の、500枚パックが、あの厚さだから、それよりも新聞紙の方が厚いだろう」ここで、コピー用紙よりも馴染みのある紙があれば、それで説明する。雑誌のページ数、書道の半紙のパックなど。


ハル「ミッツも、実験したら、納得できるだろうな」


ヤッ子「わかりやすい例を出したな。経験した人なら当たり前でも、未経験なら思い付かないことも多いってこと」


ミッツ「そりゃ、そうだけどさ」


少しの沈黙。


ヤッ子。仁王立ちする。「さてと。倍音が音の幾何学で、謎解きができたところで、この先、もっと楽譜の謎解きができたら面白いと思わないか?」


ヤッ子。腰を90度曲げて、ハルに顔を近づける。白衣と、その下から伸びた脚が美しい。全身を横から見ると、カタカナの「ス」のような形。この時、後ろ側の脚の膝を、曲げるか曲げないかは未定。


仁王立ちの際に、手を腰に当てるが、その際に、両手で白衣を広げると、より美しい。


ハルから見ると、ヤッ子の顔は、美しい大人の女性。


ヤッ子「どう? 楽譜の謎解き、楽典。楽譜は謎が多いだろう。その謎を解く鍵が、楽典という鍵だ」


ハル「音楽をするつもりはないよ」


ヤッ子「音楽のための「学問」じゃない、「楽典」だ」黒板に「学問」「楽典」「字典」「辞典」と、そのフリガナ。


ヤッ子「こう並べたらわかるだろう。音楽の豆知識だ」


ヤッ子「無理強いされるものでもないが、謎解きゲームの標的が、楽譜だと思えば、早坂君も楽しめるだろう。好みじゃなければ、そのうちに疎遠になり、放っておくだろうし」


ハル「確かに」


ヤッ子「だから、私から楽典の進み具合を聞くことは無い。質問があれば、答えられる範囲なら、協力しよう。素朴な疑問や余談から、楽典の話になることもあるだろう。早坂君は、余談は嫌いじゃないだろう?」


ハル「大好きですね」


ヤッ子「楽譜の読み方を教わりたいが、知らない音楽用語の説明に、知らない音楽用語を使われたら、困るだろう」


ハル「困ります」


ヤッ子「ここは、コードが「C7からFmに進む」の意味が分からず、「C7って何ですか?」と質問すると、「長和音に、短7度音を付加する」となり、「長和音って、何ですか?」という状態になる」


ミッツ「ああ、そうなんですよね。ひとつのことを教えたいのに、前提知識が必要になる」


ヤッ子「そこでだ、ピアノの鍵盤の手前を隠して縞模様のように見えたり、振動数が2倍の2倍のという関係は同じ名前だとか、そういった余談から始まると、早坂君の興味に沿うだろう」


ヤッ子「演奏が目的なら、いきなり難しい曲は演奏できない。簡単な曲を上手に演奏できるまで練習する期間で飽きてしまう。楽譜の謎解きだから、簡単なことを理解したら、それを資料とした次の話に進める」


ハル「僕に、ぴったりですね」


ミッツ「演奏できる楽しみもあるし」


ヤッ子「そうなんだが、早坂君の誤解があるといけないので、今のうちに話しておくが、「楽譜の通りに演奏」とはいっても、必ずしも同じものにはならないぞ」


ハル「え? じゃあ、何のために楽譜があるんですか? 同じ演奏をするために、楽譜があるんでしょ?」


ヤッ子「音楽は音の芸術だが、それを頑張って、紙に書いたのが楽譜だ。別な形にしたのだから、完全再現は無理なのは、承知しておいてくれ」


ヤッ子「朗読劇というのがあるな。それは声による演技だが、それを頑張って台本にしても、完全再現はできない」


ミッツ「え? 演技を台本にではなく、台本を読むんでしょ?」


ヤッ子「そうだが、読み物としての台本と、声による演技とは、別なものという意味だったんだ。わかりにくくて申し訳ない。蜜霧君のイメージに沿うと、作者が頭の中で空想した演技を、台本を経由して、役者が読んでも、完全表現はできない」


ミッツ「あ、はい」


ヤッ子「台本には、セリフだけではなく、どんな言い方なのか、早口なのか、怒鳴るのか、あれこれ文字で書かれているが、同じ台本を使っても、違う演技になることはあるな」


ヤッ子「演技まで行かず、小説のように、読むまででも、人によって感想が違う。同じ人でも1回目と2回目で、読んだ感想が違う。小説の作者の頭の中の風景や味や香りを、小説で完全再現はできない」


ハル「それはそうでしょ」


ヤッ子「そこで、楽譜だ。台本なら文字を勉強して演技に変換する。楽譜は記号を勉強して音に変換する。なぜ、この記号だらけの楽譜を見て、演奏者が音にできるのか、その謎解きだ」


ハル「確かに、謎解きです。手旗信号やモールス信号、点字もそうですね」


ヤッ子「音は時間に伴っているから、完全再現は無理とか、無意味とかもあるが、再現したいから記録することもある。時間と共に瞬時に消えてしまう音を、頑張って記録する方法を工夫したもののひとつが、楽譜というわけだ」


ハル「なるほど。作曲者が、頭の中の音を、頑張って楽譜にしても、完全再現は無理。演奏者が、楽譜の記号を忠実に演奏しようにも、演奏者によって違う演奏になる」


ヤッ子「蜜霧君なら、経験があると思うが、演奏依頼に楽譜を渡す場面は多いな。無論、楽譜に限らず、録音物を渡したり、音楽以外の何かを渡すこともあるがな」


ヤッ子「西洋音楽だけでなく、他の民族音楽でも、西洋音楽の楽譜を便利に使う例はある。その逆があるのかは、私は知らないが、あってもおかしくないな」


ヤッ子「意外と思うかも知れないが、点字の楽譜も、あるんだ」


ハル「本当ですか!」


ヤッ子「音楽活動をしていると、ダンサーとの交流もある。「ダンス・ノテーション」や「舞踊譜」と呼ばれる、ダンスの動きを、紙に書く方法がある」


ミッツ「盆踊りの振付の絵のことですか?」


ヤッ子「そうだ。少し教わったが、舞踊譜だけでは、私にはよくわからない。やはり、慣れているダンサーと比べると、私は慣れていない」


ヤッ子「早坂君にとっては、楽譜は「高い音と低い音」くらいはわかるけど、正直な話、よくわからないだろう。なぜ、そんな楽譜を読んで、蜜霧君がピアノを弾けるのか、謎解きだ」


ミッツ「でも、楽器の演奏もしないのに、楽典を押し付けても、困るんじゃないかな」


ヤッ子「いや、これは楽器演奏のためじゃない。さっきも言っただろう、謎解きだ。必要があって学ぶのではなく、「楽典そのもの」を楽しむ」


背景に「楽典そのもの」を表示し、強調する。


ヤッ子「有名な「ドミソ」の和音は、なぜ有名なのかは、よく使われるからだが、なぜ、よく使われるのか。それは、いくつもの理由があるが、そのひとつは、倍音から作られたからだ」ピタゴラスが書いた、倍音と音階の黒板の前に立つ。


ヤッ子「振動数の比が、近過ぎたら響きが良過ぎて味気ない。遠ければ響きが悪いことは、さっき話したな」


ヤッ子「そこで、この4倍、5倍、6倍は、振動数の比が、4:5:6ってことだが、ドミソの和音だ。響きの濁り具合がちょうどいい」その部分だけを、四角く囲む。


ミッツ。ピアノで「ド、ミ、ソ」を鳴らす。


ハル「あ、ほんとだ」


ヤッ子「ついでに、さっきのギターでは、一番太い6弦を基音とすると……」ミからの倍音を、違う色のチョークで黒板に書く。「……こうなる。蜜霧、この音をピアノで弾いてみてくれないか」


ミッツ。ド、ミ、ソをポンポンポンと弾く。ミ、ソ♯、シをポンポンポンと弾く。


ハル「あ、似てる……のかな? よくわからない」


ミッツ。コード「C」から、半音階で「E」まで上がる。


ハル「あ、同じ感じのまま、上がった」


ヤッ子「どうだ、これが和音の謎解きのひとつだ。楽典を、謎解きとしてみないか?」


ハル「約束はしないけど、面白そう」


ヤッ子「ただし、その辺で売られている楽典の書籍は、読んでも面白くないぞ」


ミッツ「どうして? ちゃんと書いてあるのに」


ヤッ子「ああ、誤解させて申し訳ない。蜜霧君のように、しっかり学びたい読者向けだということだ。早坂君の好みとは、違うのでな」


ヤッ子「決して、楽典の書籍を否定する意味ではない。あれは、学問として「覚えるべきもの」だから、謎解きでは楽しめない。早坂君なら、どうせ本文より、欄外の余談が面白いんだろうが、余談ばかりの楽典は無いだろうしな」


ハル「あはは……」


ミッツ「余談だけが好きな人もいるけど」ショージを思い浮かべる。


ハル「ショージさんは、旅行先の案内パンフレットの、余談ばかり読んでる」


▽ 場面変更 ● ── ●


回想。


ショージ家族と、ハル家族が、旅行先の観光地にいる。


ショージ。ハルに向かって。「このお寺は、小説の舞台になっているのは有名だけど、小説家が取材に来る度に、同伴者が違ったそうだ。お寺が何年に建てられたのかは知らないが」


ショージ。ハルに向かって。「あの五重塔は、湖に映るように建てたかったから、湖をわざわざ大きくしたんだ。本来の湖の大きさは、現在の半分だったって。五重塔が何年に建てられたのかは知らないが」


ショージは、話しながら、鼻に花が咲く。ここまで、ショージの登場が少ないので、印象付けるため。お調子者で、偉ぶって話したがる性格で、鼻が特徴的というキャラ設定だと、視聴者に思わせるため。


▽ 場面変更 ● ── ●


回想が終わり、さっきの続き。


ヤッ子「楽典の書籍などは、早坂君にとっては、謎解きに行き詰まった時や、確認しておきたい気持ちになった時に、役立つだろう」


ヤッ子「音楽に限らず、様々な分野であることだが、よく似た用語があって、紛らわしいこともある。そんな時には、いわゆる「正式な資料」として、楽典の書籍や、インターネットの情報も、役立つだろう」


ミッツ「そのうち、スコアも読めるようになるかも」オーケストラを前にした、指揮者の楽譜。『青少年のための管弦楽入門』|( )《 》ブリテン)の演奏。


著作権の制限があるなら、『ボレロ』|( )《 》ラベル)、『シェエラザード』|( )《 》コルサコフ)なども可。


スコアには、「トランペット」「ハープ」を囲み、指し棒。その楽譜の通り、印象的なトランペット、ハープ、鈴などの打楽器の演奏。


ミッツ「オーケストラを聞きながらスコアを見ると、あ、読めなくても、何となくスコアを見ていたら、書いてある通りにトランペットが鳴ってる、ハープが鳴ってるって、面白いから」


ヤッ子「そうだな。ただし、それを目標とされるのは、早坂君には荷が重いだろうから、面白がる道具がスコアだと思いたまえ」


ハル「さすが、ヤッ子先生は、よくわかっていらっしゃる。なんとなく、面白そうってだけ」


ミッツ。教科書をメガホンのように丸めて、ナレーションのような口調で。「こうして、音楽活動とは無関係に、ハルの「ガクテン」が始まるのであった」背景に「楽典」と、フリガナの「ガクテン」が光る。


ハル「何だ? そのナレーションは」


ヤッ子「今日は、さっきから定義の話をしたな」


ハル「はい、「生徒」の定義や「晴れ」の定義とか」


ヤッ子「はっきり決まる定義もあれば、場合によって変わる定義もあったな。楽典もそうなんだ」


ミッツ。驚く。「え? 決まっていなければ、演奏できません」


ヤッ子「はっきり決まっているものと、どちらでも良いからと選択を決めるものがある」


ミッツ「あっ、そうですね。確かに、どっちでもいいって、少なくないです」


ハル「じゃあ、何のための楽譜ですか?」


ヤッ子「楽譜に「公共交通機関で」と書いてあるとする。徒歩でもない、自転車でもない、自家用車でもないのは、わかるな。じゃあ、どれだと思う?」


ハル「えーっと、電車かな?」


ヤッ子「それも正解だ。乗合馬車でも正解だ」


ハル「いまどき、馬車は無いでしょ」


ヤッ子「そういうことだ。現代の日本なら、電車、バス。電車でも、駅で乗降する電車と、停留所で乗降する電車があるな」


ハル「なるほど。そのような曖昧さが、楽譜にはあるんですね」


ヤッ子「蜜霧君はわかっていると思うが、音楽教育を受けた君にとって当たり前の知識でも、早坂君は迷いながらだから、丁寧に頼むぞ」


ミッツ「はい、わかってます」


ヤッ子「それから、早坂君。学校とは違って、順番に整ったカリキュラムは無い。たまたま縁があって、君が早いうちに知っていたからって、常識じゃないこともあるぞ」


ハル「はい。え? そうですよね。何の注意です?」


ヤッ子「君が知った楽典の知識のうち、蜜霧君が知らないこともあることを、気にしておいてくれよ」


ハル「ははは、大丈夫です。でも、改めて、これからも気を付けたいと思います」


ヤッ子「じゃあ、何か謎解きしたかったら、聞きにおいで。さあ、そろそろ帰るぞ。片付けなさい」音楽室を出ようとする。


ミッツ「あ、待ってください、あたしも帰ります」


▽ 場面変更 ● ── ●


吹奏楽部の練習。


トロンボーンでは、「管」は「かん」と読む。


吹奏楽の先生「はーい、休憩は終わりです。席に着いて。ここからは、少しの時間、個人練習をしてください」


席に向かう別な女子部員が、ステラに「あせらないでね」の声かけをする。


ステラ「ありがとうございます。あ、糸くず」つまんで取り、ゴミ箱に捨てる。この動作は、ささやかな伏線。


トロンボーン担当になったステラに、同じくトロンボーン先輩が教える。


トロンボーン先輩「新しいことを始めた頃は、あれこれ教わって、その全部を覚えているって、難しいよね。だから、同じことを何度も言うけど、できてないことを責めてるんじゃないよ。早く、自然にできるように、応援する気持ちだからね」


ステラ「はい、ありがとうございます」


トロンボーン先輩「できるだけ、専門用語の説明には、専門用語を使わないように、気を付けるから」


ステラ「はい?」


トロンボーン先輩「例えば、「長調と短調」の説明として、「長音階が使われているか、短音階が使われているかの違いだ」と言っても、わからないだろう?」


ステラ「全然わかりません」


トロンボーン先輩「既に教えた専門用語だとしても、まだ定着していないうちに、その専門用語を多用して説明すると、理解が追い付かないよね」


ステラ「そうですね。「今の専門用語の意味は、何だっけ」って、思い出しながら、新しい説明を理解するのは、頭が破裂します」


トロンボーン先輩「説明して、「わかりましたか?」「はい、わかりました」となっても、まだ理解が定着していない、一時記憶のような状態だよね。しかも、よく似た用語があると、分類を誤りやすいし、混乱するよね」


トロンボーン先輩「もしも、何かの一覧表を受け取って、軽く目を通しただけの状態なのに、もう熟知しているように次々を話を進められたら、困るよね」


ステラ「困ります、困ります。だって、軽く目を通しただけなら、覚えられませんし、単語の記憶の定着もしていませんから」


トロンボーン先輩「カタカナ語ばかりで困るという話があるけど、よく使う単語が、コミュニティによって違うから、お互いに気を付けたいね」


ステラ「よく使う単語ですか」


トロンボーン先輩「例えば「スケール」って、どういう意味で使う?」


ステラ「スケールが大きいとかです」


トロンボーン先輩「ところが、音楽では「音階」のことを「スケール」と言って、同じ意味なんだ」


ステラ「そうなんですか?! 「音階」なら、意味はわからなくても、音楽の話だと思います。「スケール」なら、音楽の話だと、思い付きません」


トロンボーン先輩「衣服でも、上と下は、体の上半身と下半身の意味で使ったり、「上着と下着」という、外側と内側の意味で使ったり」


ステラ「そこで、「肌着」という言い方を使ったり」


トロンボーン先輩「そうそう、そんな感じ」


トロンボーン先輩「自動車の運転をする人なら、国道何号線とか、何々街道とか、それで話が通じるけど、違う地方から来た人なら、1つの道路に「国道何号線」と「何々街道」の、2つの名前があると、迷うよね」


ステラ「「国道何号線」と「何々街道」は、同じ道の別名のはずなのに、途中から分かれることも、あるそうですね」


背景に、簡単な路線図。


トロンボーン先輩「おっ、詳しいね」


ステラ「親戚が、引っ越しの打ち合わせで話していました」背景に「吹奏楽部の新人のステラは、引っ越して、転校して来たばかり」を表示する。


トロンボーン先輩「「鎌倉街道」なんて、あちこちに、あるらしい」


ステラ「そうなんですか?! だったら、説明に使えないじゃないですか」


トロンボーン先輩「そう。僕が頭の中に地図を思い描いて言葉で説明して、君が言葉から地図を作ろうとしても難しいだろう」


トロンボーン先輩「方向も距離も地名も、たった今、教わったばかりだし、「温泉」「坂道」は知っている単語でも、地名と合わさると、わけがわからないだろう」


ステラ「コミュニケーション実験のゲームみたいですね」


トロンボーン先輩「ここが地元の僕達、吹奏楽部員は、音楽の専門用語や、地元の地名の話を、日常会話として話すけど、近くで聞いている君にとっては、何の話をしているのか、わからないだろう?」


ステラ「全然わかりません」


トロンボーン先輩「演奏技術なら、「教えたから、できるだろう」は無茶だよね。練習して上達するんだからね。長期記憶とか、短期記憶とかは、よく知らないけど、説明を受けても、情報の定着だって、すぐにはできない」


トロンボーン先輩「演奏技術の定着に、期間が必要なのと同じで、情報の整頓と定着にも、期間が必要だよ。だから、「既に教えたはずだ」とは言わずに、思い出しやすい糸口も添えながら、話すから」


トロンボーン先輩「それでも、まあ、教わる方は難しいんだろうけど」


ステラとトロンボーン先輩。笑い合う。


ステラ。心の声。「|( )《 》長期記憶とか、短期記憶の話をしたい)」ステラに指し棒で、「生物学や解剖学が好き」と表示する。


ショージ。後ろから聞こえた笑い声が気になる。


トロンボーン先輩「マウスピースは、口に押し付けない。唇の振動を邪魔せずに、空気が漏れないように、触る程度でいいから」


ステラ「はい」


トロンボーン先輩「唇を硬くしたり、柔らかくすると、出る音が変わる」下からド、ソ、ド、ミ、ソを鳴らす。


トロンボーン先輩「これは、ギターで「ハーモニクス」という演奏方法で、「倍音」なんだ」背景に、音楽室でハルが教わった、弦が8の字に振動する倍音列を表示する。


ステラ「ばい……おん……ですか」


トロンボーン先輩「そう。音は、空気がブルブルするよね。ブルブルが速いと高い音だよね。ブルブルのスピードが「2倍」「3倍」「4倍」など、どの倍音を鳴らすのか、唇の具合で選べるんだ」


ステラ「それが、さっきの、プ、プ、プ、プ、プ、なんですね」


トロンボーン先輩「そう。スライドの位置は同じで、唇の具合を変えるだけで、いくつかの音が出る。けれど、倍音は飛び飛びだ。その、飛び飛びの隙間を埋めるために、スライドを使う」


トロンボーン先輩。ファンファーレ、または、進軍ラッパのようなサンプルを吹く。第1から第4ポジションの順に、下がって行く。


ステラ「わっ、素敵」


トロンボーン先輩「吹いてごらん」


ステラ「はい」吹いてみる。それなりに、音が出る。


トロンボーン先輩「そうそう、上手い。今のは、スライドを伸ばさない第1ポジション。スライドを、この間隔……」トロンボーンの骨格を示す。「……だけ伸ばすと第2ポジション、更に伸ばすと第3ポジションとなる」ポジションを半音ずつ伸ばしながら吹く。


トロンボーン先輩「この、ポジションが第1、第2、第3とすると、管が伸びる。これは、ギターでは1フレットずつ下がって弦が長くなるのと同じ」また、半音ずつ伸ばしながら吹く。画面半分では、ギターで1フレットずつ下がりながら弾く。


トロンボーンとギターで、長くなる方向が同じになるようにする。トロンボーンとギターのどちらも、長くなる具合を、ストロボアクションのように表示する。


ステラ。吹いてみる。それなりに、音が出る。


トロンボーン先輩「ギターなら、弦の長さを、段々と短くするよね。トロンボーンは、管を伸ばすけど、ギターに合わせた説明にするなら、ここから段々と短くなる」


トロンボーン先輩。スライドを最も伸ばした所から、半音刻みで短くしながら鳴らす。


トロンボーン先輩「さっきは「この間隔」と言ったけど、伸ばして行くと、間隔は少しずつ広くなる」


ステラ「同じ間隔ではないんですか?」


トロンボーン先輩「そうなんだよ。スライドを伸ばすのは、トロンボーン全体の管が長くなる」


ステラ「はい」


トロンボーン先輩「トロンボーンの管の伸ばし方は、比率なんだ。わかりやすく言うと、ゴム紐を伸ばすのと同じ」


ステラ。少しわからないという顔。


トロンボーン先輩「ギターの、ここの刻みの幅が、少しずつ違うのと同じなんだ……」ギターを弾く仕草。「……ギターは、弾いたことがあるかい?」


ステラ「いいえ」


トロンボーン先輩「ギターの刻み、「フレット」っていうんだけど、この幅は、ゴム紐が伸び縮みするように、変わるんだ」ギターの弦の伸縮を表す。右手は固定。左手が伸縮で移動。


ステラ「そうなんですか」


トロンボーン先輩「刻みの幅も、ゴム紐のように、広がったり、狭くなったりする」


トロンボーン先輩。左手をチョキの形でフレットの幅を表す。ギターを持った姿勢で、弦の短い位置から、長い位置まで、チョキの幅を変えながら、何度も往復する。


トロンボーン先輩。弦の短い位置のチョキで言う。「刻みの幅が狭い」


トロンボーン先輩。弦の長い位置のチョキで言う。「刻みの幅が広い」


チョキの幅を広げたり狭くして、何度も往復する。ゴム紐が、かなり短い位置からの往復なので、チョキの幅が大袈裟に見える。


狭いチョキと、広いチョキの、それぞれに「幅が狭い」「幅が広い」の文字を表示。両方向の矢印の表示でも良い。


指の間隔が変わっているのが、よりわかりやすくするために、分身の術、ストロボアクションのように、手が4つくらいになる。


ステラ「なるほど。この幅は、比率で変わるんですね」


トロンボーン先輩「そう! そういうこと」


トロンボーン先輩「第3ポジションは、ベルを目安にしてもいいな。これが第3ポジション」第3ポジションにする。


ステラ「あ、目安だから、少し違いますね」


トロンボーン先輩「今日は、曲じゃなく、好きに鳴らしていいから」


ステラ「はい。え? 個人練習だから、廊下に出ますか?」


トロンボーン先輩「いやいや、ここでいいよ」


ステラ「でも、変な音なら、みんなの練習に迷惑でしょう」


トロンボーン先輩「いいから、いいから。みんなが演奏している時に、何となく拍が合っていたら大丈夫。一人くらい音程が違っていても、大したことないから」


トロンボーン先輩「みんなの演奏を聞きながら、体で拍を刻む……」上半身を、少し上下に揺らす。「……拍のタイミングに合わせて、音を出す」


トロンボーン先輩「どんな高さの音が出るのか、よく分からなくても、いい」


ステラ「そうなんですか?」


トロンボーン先輩「拍のタイミングが合っていないと、違和感が大きいけど、拍のタイミングが合っていれば、高さがデタラメでも、違和感が少ないんだ」


トロンボーン先輩「楽器の初心者がいるって、みんな知っているよ」


トロンボーン先輩「息を出してから、実際に音が鳴るまで、ちょっとの時差があるんだ。今日は、思った通りのタイミングで、音を鳴らすのを、練習しよう」


トロンボーン先輩「それから、後で教則本を渡すから」


ステラ「ありがとうございます」


トロンボーン先輩「楽譜は読める?」


ステラ「あ、はい。でも、学校で習った程度ですが」


トロンボーン先輩「十分だよ。普通の人は、日頃から楽譜を読んでいないから、習ったこともほとんど忘れていて当然だよ」


ステラ「はい」


トロンボーン先輩「必要なことはその都度、教えるよ。小学生の頃から、ちょっとだけど縁があったんだから、思い出しやすいしね」


ステラ「ありがとうございます」


トロンボーン先輩。少しゆっくり、思い出しながらのように話す。「あとは、えーっと、これは今すぐでないけど、大切なことがあるんだ」


ステラ「はい」


トロンボーン先輩「どんな音を出すかを、思い描きながら、演奏する」


ステラ「は、はい?」


トロンボーン先輩「ピアノだったら、思い描いた音の高さと、弾いた鍵盤が違ったら、弾いた鍵盤の音が鳴るよね」


ステラ「はい|( )《 》そうですねの意味)」


トロンボーン先輩「でも、さっきのように、唇の具合で音の高さも、音色も変わるよね。デタラメに音を思い描いたら、それによって唇の具合も変わって、鳴る音もおかしくなる」


ステラ「え? スライドのポジションが正しくても、正しい音が出ないことがあるんですか?」


トロンボーン先輩「そう、出ないんだよ」


ステラ「不思議ですね」


トロンボーン先輩「慣れたら感じると思うけど、唇の具合で「この音を出せ」と思って吹いたら、楽器が振動して、楽器の振動が唇に帰って来る」


ステラ「あ、確かに、さっき感じました」


トロンボーン先輩「|( )《 》喜んで)おっ、素晴らしい。その、帰って来た振動と、唇の具合が、ぴったりだったら、音色がいい」


ステラ「そうですか」


トロンボーン先輩「唇の具合は……」第1ポジションで倍音をいくつか吹く。「……飛び飛びの、どれにするかを選ぶだけでなく……」中央ドの下のシ♭|( )《 》4倍音)から、スライドを伸ばしてファまで順番に吹く。「……スライドを伸ばしながらも、唇の具合が変わる」


ステラ「ええーっと、それは、楽器から帰って来る振動も変わるから? ですか?」


トロンボーン先輩「その通り! そして、さっき……」同じく、シ♭からファまで下がる。「……この、最後の音は、第1ポジションのこれ……」ファ|( )《 》3倍音)を吹く。「……と、同じ高さ」


ステラ「あれ? ちょっと、音色が違います」


トロンボーン先輩「そうなんだ。ギターだって、5フレット目を弾くと……」ギターを持ち、フレットを上がる仕草。「……隣の高い弦と、音の高さは同じで、音色が違う。トロンボーンでも、音の高さと、音色を思い浮かべて吹く」


ステラ「難しそうですね」


トロンボーン先輩「そう、難しいんだよ。だからそれは、今すぐではない。これから感性を磨いて、身に付くことだから」


ステラ「はい」


トロンボーン先輩「大袈裟に「感性を磨く」って言ったけど、慣れというか、馴染んだら自然にできるようになるよ。住み慣れた家なら、壁にある電灯のスイッチを、見ないで押せるだろう?」


ステラ「あ、そうですね」


トロンボーン先輩「まあ、言葉で説明するのが難しいよね。どんな音を出したいかを、思い描くって、音感とか、色々とあるから、いつの間にか、わかるものだよ」


ステラ「はい、ありがとうございます」


▽ 場面変更 ● ── ●


ここからは、第1話ということもあり、「定義」「評価の基準」を話題が多い。アニメのテンポに合わせ、大幅に情報の取捨選択と、各話に分散、会話に忍び込ませるなどの表現にする。


さっきの、音楽室の続き。


ハル、ミッツ、ヤッ子。音楽室から出て廊下を歩いている。


ハル「そういえば、音楽で勉強っていえば、音楽理論ってありますよね」


ヤッ子「あるな」


ハル「音楽理論と楽典は、違うものですか?」


ヤッ子「別ではあるが、一部は重なっている。譬えれば、楽典は国語辞典や漢字の字典で意味の説明、音楽理論は作文など文筆のアドバイス、「読本」とも言える」


背景に「読本」のフリガナ「とくほん」と、その意味「文書表現の技術の教科書」を添える。


ハル「音楽理論がアドバイスなら、守らなければいけないんですか?」


ヤッ子「そうでもない」


ミッツ「でも、「音楽理論に反している」なんて聞くけど」


ヤッ子「芸術だから、やってはいけないのは、誰かに迷惑を掛けること。迷惑でなければ、何をやってもいいんだ。まあ、音楽理論に反することが迷惑なら仕方ないが」


ミッツ「シメジ婆さんが言ってたよ。「遊びでも何でも、やってはいけないのは、人に迷惑を掛けること。迷惑でなければ、何をしてもいい」って」


ハル「あれ? 「迷惑を目的としちゃ、いけない」じゃなかったっけ? 工事は、騒音と悪臭が迷惑だけど、必要だからって」


ミッツ「あ、そうだっけ。工事現場の近くを通り過ぎたら、もううるさくないし、臭くない。でも、工事の人は、一日中、うるさくて臭い場所にいるって」


ヤッ子「大切なことだな。研究や実験も、時には迷惑を伴うこともある。机上の空論という言葉があるが、やってみることで気付くこともある。実験と思考を繰り返して、ルールを導き出すのは、科学と芸術にも共通しているな」


ハル「でも、音楽理論って大切なんですか? 音楽は感性だから、理論じゃないと思うんですが」


ヤッ子「「理論」なんて名前が誤解されるのだろうな。かっこいいアイディア集だと思えばいい。作品がつまらなければ、勉強しろと言われる」


ヤッ子「先人の研究による報告書のようなもので、先人が経験上「これは失敗する」というのは、アドバイスとして「禁止」と記した」


ヤッ子「音楽理論で紹介されている「直進行」「反進行」「斜進行」は、アイディアの参考になる」


ヤッ子「合奏で、2人がメロディを鳴らす場合、2人とも上がる、2人とも下がるという方法や、2人が逆方向に行くか、片方が同じ高さのままで、もう片方が上がったり下がったり」


ヤッ子の言葉に合わせて、2人のメロディを2本の折れ線グラフ、または、ピアノロール|( )《 》長方形の帯)で表示し、音を鳴らす。それぞれに「直進行」「反進行」「斜進行」の文字と、フリガナを添える。


ヤッ子「これは、音を鳴らしたままの例だが、2人が交互に音を出す方法もある」


さっきの折れ線グラフを、2人が交互に音を出していることがわかる、ピアノロールにする。直進行で「ド、ミ、レ、ファ、ミ、ソ」、斜進行で「ド、ミ、シ、ミ、ラ、ミ」などを演奏。


ハル「話を聞いただけでは、よくわからないですね」


ヤッ子「だったら、美術で譬えよう。絵を描くのが好きだった姉が教えてくれたんだが、遠近法を知っているか?」


ミッツ「知っています」


ヤッ子「子供が街並みの絵を描いたら、建物を正面から見た絵を描くだろう。建物によって大きさは違うが、遠近法ではない」


ハル「子供の絵って、10件くらいの建物の全部が、正面から見えるように描くんですよね、すごく遠くから見ないと、あんな風には見えませんよね」


ミッツ「子供って、見たものを描くんじゃなく、知っていることを描くから……って、美術の授業で教わった」


▽ 場面変更 ● ── ●


回想。美術の授業。


先生はトロール将軍だが、ここではまだ、トロール将軍の全身|( )《 》ジャージと笛)は描かない。トロール将軍は、第6話で体育の先生と勘違いしていたという話があるので、ここでは「トロール将軍は美術教師」の紐付けはしない。


ここでは、トロール将軍は、手と声と、後頭部の特徴的な禿|( )《 》ハゲ)だけの出演。クレジットでも、声優紹介は「トロール将軍」ではなく「美術教師」としておく。


先生「小さな子供は、対象物を見て確認しながら絵にするということはできませんね。例えば、これを見てください」


子供の描いた、象の絵を見せる。首が象よりも長い。馬か犬のような体形に、長い鼻が付いているようなもの。


先生「子供が知っている象の知識は、いくつかあります。「動物なので、四足歩行する」「鼻が長い」「耳が大きい」「脚が柱のように太い」などです」


先生「それに加えて、絵本などで見た、象のキャラクターの表現方法です」


先生「これらの知識を集めると、この絵は、知識に従っていますから、正しいのですが、なぜか、おかしいですね」


ここまでの説明の間は、子供の描いた象の絵と、教室内の風景を、交互に。


先生「では、みなさんに、3つの課題を出します」


先生「まずは、資料を見ないで、象を描いてください」


先生「次に、資料を見て、象を描いてください」


先生「最後に、とんでもなく面白い象なのに、ちゃんと象だとわかる象を描いてください」


▽ 場面変更 ● ── ●


回想が終わり、さっきの続き。


ハル、ミッツ、ヤッ子。廊下を歩きながら、音楽理論の話をしている。


ヤッ子「音楽理論を、美術の遠近法に譬えると、遠くのものは小さく見えると教わった子供は、正面から見た建物のまま、大きさだけを変えるだろう」


ハル「ああ……そうなんですよね」


美術の授業の回想の、すぐ後に、先生ちゃんになるので、この「さっきの続き」は、もう少し長くても良い。または、構成を変える。


▽ 場面変更 ● ── ●


先生ちゃん。


説明用の別世界。背景は無地。


先生ちゃんは、ピカソ、または、エッシャー。


ピカソはキュビスムで知られている。


エッシャーは、著作の中で、消失点に収束する平行線の線路は、足元で幅が最も広く、後ろ側で消失点に収束するとある。直線の平行線の線路が、直線でなく平行でもない見え方になる。


先生「色んな角度から立体を見て、平面に表現することなら任せなさい」


先生「図面の等角図なら、平行線は平行に書くが、絵画では平行線の遠くの方を狭く書く。遠くまで真っすぐに続く線路は、無限遠距離に向かって、1点に集まる」


線路に立つ人。ドローン画像のように、その人を正面から、頭上から、後ろからと移動し、その人の視線で、遠くまで続く線路を見る。


先生「線路の脇に立つ電柱があれば、電線も同じ消失点に収束する」さっきの風景に、電柱と電線を加える。背景に「消失点に収束する」の文字と、そのフリガナ。


先生「平行線は、どれも同じ点に収束するんだな」


先生「ところで、サイコロには3組の平行線があるな。ということは、消失点も3つある」


2つのサイコロが出現。


先生「左のサイコロは等角図だから、平行線は平行に書いている。右のサイコロは絵画として、平行線は収束する」左右に2つのサイコロ。平行線を補助線として、薄い色の線で延長し、平行の線と、収束する線。


右のサイコロの消失点は、3つとも画面内にある。これにより、遠近感が大袈裟になり、消失点の具体的表示になる。


平行線とサイコロの出現の順番は、サイコロが先にある。左右のサイコロの、x軸の平行線|( )《 》片側のサイコロで3本、左右のサイコロで計6本)が点滅しながら現れる。次に、y軸の平行線が同様に現れる。次に、z軸の平行線が同様に現れる。


サイコロが角ばっていると、無味乾燥で絵画っぽくないので、面取り|( )《 》料理で大根の角を丸めるように)する。


先生「これを、街並みの風景画に取り入れると、それぞれ、建物の大きさは違うが、平行線は1つに収束する」街並みの絵に、補助線を加える。


街並みの絵は、交差点の中央から、右方向の道路沿いの街並み、左方向の道路沿いの街並み、上方向には柱の鉛直線。


先生「理想の絵にならなかったら、遠近法に限らず、絵画の理論が役に立つかも知れませんよ」


▽ 場面変更 ● ── ●


先生ちゃんの説明が終わり、さっきの続き。


ハル、ミッツ、ヤッ子。廊下を歩きながら、音楽理論の話をしている。


ここでは、第1話であるので、当アニメのテーマのひとつである「定義は様々」「知らない者が置き去りは寂しい」を、会話で表現する。


ヤッ子「街並みを描いた絵なら、ごちゃごちゃしているが、そこに遠近法を示す線を加えると、なるほどと思うだろう」街並みの絵に、遠近法を示す補助線を加える。


ヤッ子「譬えた言い方をすれば、「音楽理論」に対して「絵画理論」があるなら、遠近法は絵画理論のひとつだな。うまくいかないなと思ったら、理論を参考にするのも、役に立つ」


ヤッ子「音楽理論の書籍の解説に、納得できない理由のひとつは、遠近法の補助線だけで解説しているからじゃないかな」遠近法を示す補助線だけの図に、解説文「平行線は、消失点に向かって収束する」を添える。


ハル「補助線だけで説明されても、街並みの絵を想像するのは、難しいです」


ミッツ「学んでいる方は、わからないから勉強しているんですから」


ヤッ子「そうなんだ。絵画で、遠近法に従った例と、従わない例を並べて説明されればわかるだろう。音楽理論も、従った例と、従わない例を並べてくれれば、わかりやすいのにな」


ミッツ「理論書から、音が出ればいいのに」


ハル「理論を知った上で、逆らうってことは、ありますか?」


ヤッ子「遠近法を知らなければ思い付かなくても、遠近法を知っているからこそ、それを利用して逆らったトリック写真もできるな」


ハル。喜んで「トリック写真?」


ヤッ子「遠くの自動車が小さく見えることを利用して……」スマホから、目的の写真を探す。「……この写真が出来上がる」スマホの写真を見せる。トリック写真。モデルの女の子の、手のひらの上に、自動車が乗っている。


モデルの女の子は、子供の頃のヤッ子。


自動車に乗ろうとしている人がいると、自動車がおもちゃでないことを知らせられる。絵では不思議さが小さいことも考えられるので、実際の写真を用いるべきか。


トリック写真のモデルの視線は、自動車を乗せた手のひらを見る。自動車は、本当は遠くにあるので、小さく見える。写真の枠を、手の厚みの半分の位置にすると、手のひらに、自動車が乗っているように見える。


ミッツ「あ、可愛い。誰ですか? この子」


ヤッ子。顔を赤らめ、咳払い。「私だ」


ヤッ子の子供の頃の話は、第6話にあるので、キャラデザインを合わせる。


ミッツ。想像を絶する嬌声。「ええー!」


ハル「おおーっ。ヤッ子先生!」スマホを奪い取り、ヤッ子に詰め寄る。


ハル「僕、今からこっちの趣味になります!」


ヤッ子「そういうことは、大声で言うな!」


ここに、料理の譬えを入れても良い。


カレーライスを作る際、肉と野菜の、どっちを先に入れるかは、世界の各地で似ていて、肉が先。しかし、ジャガイモが溶けるほどに煮込む場合など、バリエーションもある。


料理の種類によっては、調味料の順番や分量も違う。世界中で同じことと、違うことがある。ジャガイモの芽をとる。同じ名前で地域が違えば、毒の有無も違う。


電子レンジの登場で、天ぷらも電子レンジで作れる。


いつでも新発売される、料理の本は、これらを踏まえている。


掃除でも、順番や洗剤の選び方など、多くの工夫がある。


掃除なら、洗剤で「まぜるな危険」があるが、音楽では、危険は無い。


ヤッ子「音楽理論に逆らってはいけないのは、例えば課題がある場合とかだな」


ハル「課題?」


ヤッ子「美術で、鉛筆画の課題なのに、絵の具を使ったら、どうだ?」


ミッツ「ルール違反」


ヤッ子「そうだな。この場合は、「音楽理論に逆らう」ではなく、「課題のルール違反」だ」


ハル「じゃあ、自分で自由に作曲するなら、音楽理論に逆らっても、いいんですか?」


ヤッ子「当たり前だ。音楽理論は法律ではない。ただし、せっかくのアドバイスを無視するのだから、責任は自分にあるぞ」


ハル「そうですよね」


ヤッ子「音楽理論は、文化に依存する。ある時代の、ある地域での、……何に譬えればいいか、そう、ファッション誌や、マナーの本だと思ってくれ」


ミッツ「ファッション誌って?」


ヤッ子「フランス革命の頃の、マリー・アントワネットの物語で、貴族の髪型に、チョンマゲ人がいたら、おかしいだろう?」背景に、ルイ16世などの社交パーティーで、チョンマゲの人が、数人いる。


ミッツ「想像させないで!」


ヤッ子「フランス革命の前後で、男性の髪型が変わったんだ」


ハル「本当ですか? フランス革命って、身分制度とか、政治的なことですよね。髪型が変わるなんて、意味がわかりません」


ヤッ子「簡単に言えば、貴族の見栄っ張りのファッションから、平民の気楽なファッションになったんだな」


ミッツ「そういえば、かつらを使わなくなったのは、フランス革命が境目ですね」


ミッツ。両手に数枚ずつのカードを持っている。両手とも、ババヌキのように、カードを扇状に持っている。片方に「フランス革命前」、もう片方に「フランス革命後」と指し棒。


カードは、クラシック音楽の作曲家達の肖像画が多いが、より一般に知られている人がいれば、音楽家以外でも良い。馴染みのある人が含まれることで、当アニメの敷居を下げる。


ミッツが両腕を挙げると、カードが宙を舞い、カードが「フランス革命前」「フランス革命後」の2つの円形に並び、ミッツの頭上を廻る。やがて、二列に直線状に並ぶ。


ハル「それぞれの作曲家の活動した時代を、覚えているのか?」


ミッツ「一応、これでも、片足だけクラシック畑に入っているからね」


ヤッ子「チョンマゲは、頭のこの辺りを剃るが、フランス革命の頃のファッション誌には、「男が髪の毛を剃るのを禁止」と書いてある」


ハル「本当ですか?!」


ヤッ子「譬え話だ、そんなファッション誌は、知らない。譬え話で、音楽理論に禁止とあるのは、そういった意味だろうってことだ」


ハル「では、江戸時代の、町内の風景を描いたとして、人物の服装も髪型も正しい、長屋には井戸があって、平屋だってことまでは正しいのに、玄関が引き戸ではなくドアだったら、違和感がある」


ヤッ子「そうだ。目的の雰囲気があって、それに似ているが違和感があるのはなぜか。目的が達成できないのはなぜか」


ハル「その答えを探すための資料が、音楽で言えば音楽理論なんですね」


ヤッ子「そうだ」


ハル「楽譜に「公共交通機関」とあって、現代では乗合馬車は無いですね。ショパンの時代では、電車は無いけれど、蒸気機関車が商用として営業されていたと聞きました」


ミッツ「ハル、詳しいねえ」


ヤッ子「音楽理論は、「時代考証の資料」ではない、つまり、「正誤の判断」には使わないことは、覚えていてくれ」


ハル「どういうことです?」


ヤッ子「昭和の日本の、街並みを描いた絵があったとしよう。自動車が右側通行している。誤りか?」


ミッツ「誤り……ですよね」


ハル「テレビで見ましたが、電車の路線の都合で、自動車が右側通行している時間帯があるそうです」


ヤッ子。ちょっと、困った様子。「ああ、そういったことがあるのは、想定外だった。私が言いたかったのは、戦後の日本で、沖縄県は、自動車が右側通行だった時代があったんだ」


ミッツ「本当ですか?」


ヤッ子「早坂君の例も、私の例も、資料に基づいて「正誤の判断」に使える。音楽理論は、正誤に使わない」


ヤッ子「昭和の中期の、男性の髪型は、資料からわかるように、パターンが少なかった。その当時、男が長髪で、後ろで束ねるなんて、珍しい性格の人だと思われていた」


ヤッ子「資料から、「当時は、スマートフォンが無かった」は正誤に使えるが、ファッション誌に載っていないからといって、「当時は、男性の長髪はいなかった」は正誤に使えない」


ミッツ「そうですよね。テレビで時々見ますけど、大体こんなパターンですね」


ヤッ子、ハル、ミッツの髪型が、昭和中期の男性の髪型になる。ヤッ子が坊主刈りで、指し棒で「色っぽい」と表示しても良いが、淫靡にもなるので、避けるべきか。


3人の髪型だけでなく、服装も変えても良い。料理人の角刈り、サラリーマンの七三分け、リーゼント、パンチパーマ、オールバック。


ヤッ子「昭和の中期では、男性の髪型はこうあるべきだ、場所柄によってどうする、場所柄にかかわらず禁止というのもある」


ヤッ子「髪型に限らず、ファッションに限らず、料理、言葉遣い、芸事、恋愛……。世界中で、研究者が手引書を書いては、重版もされずに廃れたり、永く継承されたり」


ミッツ「当時のファッション誌に従えば、当時のファッションが再現できる」


ハル「当時のファッション誌に従えば、時代劇を作ることができる。現代劇を作るなら、当時のファッション誌に逆らうことになる」


ヤッ子「そういうことだ。古代ローマのファッション誌を使えば、古代ローマの劇の衣装を作れる。「ところ変われば品変わる」だな」


ミッツ「じゃあ、現代の劇を作るなら、音楽理論に従う方が、おかしい」


ヤッ子「そんなことはない。ファッション誌やマナーの本には、当時の文化だけではなく、人間として変わらないことも書かれている」


ハル「例えば?」


ヤッ子「季節によって、衣服に暖かさを求めるのは変わらない。ファッション誌には、文化によって変わる事柄と、時代が変わっても継承される事柄の、両方が書かれている」


ヤッ子「だから、書いてあることの、どれが当時の流行なのか、どれが今も通用するのか、なんとなく気にしながらが良さそうだな」


ハル「あ、そうか。音楽理論の、「全部に従うべき」と、「全部に逆らうべき」の、ゼロか百かは、危険な思想ですね」


ミッツ「「危険な思想」って、その言い方が大袈裟」


ヤッ子「大袈裟ではあるが、正しい。「ゼロか百か」にこだわるのも、「こうあるべき」も、文化や時代で変わることもある」


ヤッ子「髪型と同様、音楽でも、リズム、メロディー、ハーモニーで、昔は「そりゃ、おかしい」というものが、今は普通のものがあり、今も「そりゃ、おかしい」というのがある」


ヤッ子「音楽理論の書籍を書いた人が、その時代の感性で、「そりゃ、おかしい」と思うか、「どちらかといえば、これが安心する」と思うかで、「禁止」「許容」「良好」と書いたのではないかと推測する」


ヤッ子「感性は経験で磨くというから、その地方に何年か住んだり、そのジャンルに何年か接したりなどで、自然と身に付くようになるとかな。その地方で何年間か暮らしても、その時代だけしか経験していない」


ヤッ子「音楽理論書を書いた人にとっては、読んだだけの私には、まだまだ実感が少ない、感性が鈍いと思われるかもな」


▽ 場面変更 ● ── ●


校内のどこかで、偶然にも、関連する話をしている。


生徒「ひな祭りの日に、テレビの『笑っていいとも!』で、タモリが男雛|( )《 》おびな)の衣装を着たんだ」


生徒「へえ」


生徒「頭の飾りが何かにぶつかって、「昔の人は、馬鹿だったんだな」なんて言ってた」


生徒「今となっては、おかしなファッションなのに、当時は正しいと思われていたんだな」


生徒「知ってるか? ネクタイは、ルイ何世だかの肖像画にある、あの、首のビラビラが由来なんだって」背景に、ルイ16世だか何かの肖像画。


生徒。大きく同意。「そう! ネクタイって、前屈みになると、ラーメンに入るんだよな」背景に、椅子から立ってテーブルに前屈みになると、ラーメンなどに入る絵。


ラーメンの失敗は、生徒本人のものでなく、その場面を見たとしても良い。学校の制服で、ネクタイの有無が未定のため。


生徒「ネクタイの文化が、夏の猛暑で、少しずつ減っている。制服の、このネクタイも、将来は無くなるかもな」


生徒「未来のタモリが、ネクタイをして、「昔の人は、馬鹿だったんだな」なんて言うかも」


生徒「昔じゃ考えられなかった文化が、現代では普通なのって、たくさんありそう」


生徒「女の水着のビキニ、女が人前で喫煙」


生徒「男の長髪、しかも茶髪」


生徒「沖縄の県議会だったっけ? アロハシャツが正装になった」


生徒「ネイルアート」


生徒「缶ジュースを開けられない!」


生徒「逆に、現代では信じられない、未来のファッションって、無いかな」


生徒「ネイルアートのように、デンタルアート」


生徒「デンタル?」


生徒「歯に、マニキュアのような色や、飾りを付ける」


生徒「それなら、トゥースアートだな。デンタルは歯医者。歯そのものはトゥース」


生徒「歯の矯正から発展して、ファッションになる」


生徒「夏の猛暑で、男のミニスカート」


生徒「うわっ、満員電車で、おっさん同士で、汗まみれのヌルヌルの太ももが触れる」


生徒「男のワンピース。風通しがいい」


生徒「ワンピースは、せめて、スカートの代わりに、キュロットがいいな」


生徒「温度や湿度で、色変わりする衣服」


生徒「紫外線でも、色変わりしてほしい」


生徒「今更ながら、かつら。衣服のように、手軽に着替えられる」


生徒「それ、いいな。これまで、最後の砦のように、頭髪は自前にこだわっていたが、かつらのために、剃るのが当たり前」


生徒「大人の男で、自前の髭をファッションにする人が少ないように、自前の頭髪をファッションにする人が少ない」


生徒「スカートめくりのように、ウィッグめくりが、いたずらになる」


生徒「かつらも、頭髪の模倣なら洗濯が大変だから、頭髪の模倣に限らないファッションが当たり前になる」


生徒「コスプレのコストダウン」背景に、コスプレ用のウィッグネットが大変な様子を表示する。その上部に、ウィッグが待っている。


生徒「抗癌剤|( )《 》抗がん剤)の副作用の悩みが減る!」


生徒「忍者の服の復活」


生徒「忍者って、あの服は、実際とは違うんだろう」背景に、いかにも忍者らしい服装を表示する。


生徒「忍者もサンタクロースも、架空の話も多いが、忍者のあの服は、横走りしながら、ションベンができるんだってよ」


生徒「顔は、頬の部分が何も無い広さで、さびしいから、化粧をする」


生徒「アニメ『巨人の星』|( )《 》梶原一騎、川崎のぼる、東京ムービー)の、子供の頃の星飛雄馬みたいに」


生徒「映画『竜とそばかすの姫』|( )《 》細田守)の、そばかす」


生徒「そばかすの点々と、グラデーションの化粧」背景に、そばかすを模したドット柄と、その下にグラデーション。


生徒「そばかすもいいが、眼鏡ストラップを拡張して、紐がブラブラ」眼鏡を首から下げるストラップ。眼鏡フレームから、紐暖簾のような、プレスリーの袖のようなブラブラ。それが、首の後ろに周るのも良い。


▽ 場面変更 ● ── ●


さっきの続き。


ハル、ミッツ、ヤッ子。廊下を歩きながら、音楽理論の話をしている。


この、廊下での話は、音楽理論の是非の話題で、中学生らしい「こうあるべき」といった議論が多いので、大胆に削っても良い。


まるで、学校がとても広くて、長い廊下をいつまで歩いても、目的地に着かないよう。アニメでは、この会話を大胆に削除しても良い。


または、字幕で「三人は、話に夢中になり、学校の中で時空の歪みに迷い込んだことに、気付いていません」を表示する。


ヤッ子「クラシック音楽の音楽理論の書籍は、当時だけのものと、今でも通用することの、両方が混在しているが、現在の音楽理論の書籍は、「知っていて当然」が、ほとんど説明されていないものもある」


この「ほとんど説明されていないものもある」の箇所は、「蔑ろにされているものもある」でも良い。


ハル「それだったら、その「知っていて当然」の事前知識が無いと、読んでもわかりませんね」


ヤッ子「その事前知識は、ほとんどが楽典だ。音符の名前、音の高さの名前、手拍子の名前など、事前知識のおさらいだから、改めて説明すると、理論書の目的から逸脱し、冗長になる」


ミッツ「楽典を知らないと、読む資格が無いって、言われているような気持ち」


ハル「課題のルール違反じゃなくても、何でも批判する人っていますよね」


ヤッ子「作品の魅力よりも、規則だけ覚えることを「愚の骨頂」と言う人もいる。作品を非難する道具に音楽理論を使うのは避けたいな」


ヤッ子「作品を非難する道具ではなく、単に音楽理論を面白がって勉強するのは、趣味として楽しいかもな。旅行はしなくても、国旗と国名と首都を覚えたり、テレビの旅行番組を見るのが好きってのに、似ているかな」


ハル「音楽理論って、どれだけあるんですか?」


ヤッ子「数え切れないな。有名なのは「和声学」「対位法」、それから「コード理論」もある。だが、自分なりの工夫も、広い意味での音楽理論だから、そんなものは書籍にもなっていないし、名前も付いていない」


ハル「料理に似ていますね。広く知られている工夫もあれば、地域性の工夫、それぞれの家庭の工夫。創作料理の本も出版されますが。あ、だったら、シメジ婆さんが教えてくれたのは、広く知られている工夫かな?」


ミッツ「ハルって、よく料理に譬えるよね」


ハル「音楽理論の全部を覚えないと、作曲してはいけませんか?」


ヤッ子「そんなことはない。アイディアに詰まったら、ネタ探しに使うのもいいだろう。書籍を読むだけでなく、既存曲を聞いたりな」


ヤッ子「実際の作品から得られるアドバイスは、少なくないぞ。「そんなことができるなら、こんなこともできるかも」とかな。科学の発展に似ている「できるはずがない」というのが、できるようになったりな」


ハル「手品でもそうです。手の甲に両面テープでコインをくっ付けるのをトリックにしたなら、コイン以外もくっ付けられるし、こうして指の爪に種をくっ付けたり」


ハル。片手を前に出し、手の甲を上向きにする。手の甲に漢字の「種」があり、大きな矢印を表示。


ミッツ「手の甲はわかるけど、爪に何を隠すの?」


ハル。小さな含み笑いで「それは秘密」


ヤッ子「ただし、既存曲を聞いても、遠近法の補助線のようなものが無いから、自分で理論を見付けるのは、難しいがな」


ミッツ「音楽理論を勉強しなさいとか、音楽理論の基礎ができていないとか」


ハル「いきなり、難しい料理を作ろうなんて無理。愛こそはすべて」


ミッツ「また料理に譬えるぅ」


ヤッ子「何の資料も無く、初めて料理しても、失敗するだろう。長い歴史の中で、ずっと使われている手法の、昔ながらの食べ物は安心する。そういったアドバイスのように、音楽理論を勉強しなさいとは言うだろうな」


ヤッ子「ゆで卵は、普通は鍋で茹でるが、ゆで卵用の機械を使うのも良い。しかし、電子レンジでゆで卵を作ってはいけない」背景に、ゆで卵が破裂する動画。注意書きで「危険なので、まねしないでください」を表示。


ミッツ「駄目なんですか?」


ハル「電子レンジの説明書に書いてあるだろう」


ミッツ「新しい料理も、新しい音楽理論も、試行錯誤なのは同じだね。だけど、料理も音楽理論も、初めてでの試行錯誤と、経験があっての試行錯誤は違うよね」


ハル「だから、浅い経験を補うために、納得できるアドバイスとしての音楽理論や、既存曲の解析も役立つんですね」


ミッツ「美味しいお店で、「この食感がたまらない」っていうのを真似したり」


ハル「その効果を知った上で逆らうと、より効果的になったりするけど、何も知らなかったら、ちぐはぐになったりするよな」


ヤッ子。ハルとミッツの会話を聞きながら、心の声。「|( )《 》ギャングエイジを過ぎた中学生なんだな。わかったような気持ちで、理想論を楽しむのは、自信を持って社会に出るための準備、第二次反抗期に繋がるのだろう)」


ヤッ子。心の声。「|( )《 》崇高な理想をもって、それが理解できない大人を見下し、自分が本気になれば、指一本で世の中を変えられるはずだと思う。驚く程に急成長する精神と身体に、自ら驚き、自信と歯噛みをする年頃か)」


ヤッ子。ハルとミッツの会話が迷走し始めたので、話題を変える。「逆に、的外れの「勉強していない」の批評もあるな」


ハル「的外れの批評?」


ヤッ子「舞台衣装で、和服にマジックテープを使っていたら、「和服の基礎ができていない」「そもそも和服とは」と批評しても、舞台衣装だからな。違う基準で批評は筋違いだ」背景に、マジックテープでベリベリ剥がす動き。


ハル「基準の違いといえば、お客様を待つ、あるいは、お客様の言葉を待つ間に、手を前で組むか、後ろで組むか、国によって文化が違うらしいですね」背景に絵。レストラン、ホテルなどで、立って待つ姿。


ヤッ子「使う基準によっては、態度が悪いと思われるだろうな」


ミッツ「スマイルマークのような、簡単な顔を書く時に、感情表現に目を使うか、口を使うか。日本と欧米では違うらしいから、音楽理論でも、ジャンルによってアドバイスが違うかも」


背景に、スマイルマークをいくつか。目が笑っている、泣いている。口が笑っている、泣いている。


ハル「だったら、両方を使えば、組み合わせで多様にできないか?」


ヤッ子「早坂君は、好みに合った困難に立ち向かう時に、こういう表情をすることも、あるだろう。」スマイルマークで、眉と目は怒ったように、口は不二家のペコちゃんのように舌を出す。


ここで、漫画の例を出しても良い。


板井れんたろう、吾妻ひでおの笑い汗。笑顔で涙。笑顔で冷や汗。


ジョージ秋山。『銭ゲバ』。顔の左右で、目の形、牙の有無が違う。顔の左右のどちらかを、指で隠すと、セリフの雰囲気が異なって読める。


スマイルマークに、眉を加え、眉と瞼で、上向きと下向きが異なる。更に、眉の下の眼球の輪郭線を加え、眉と瞼と輪郭線で向きが異なる。輪郭線は短い。


ヤッ子「蜜霧君は、『ハバネラ』|( )《 》ビゼー)を知っているだろう。「♪ダッッタラッタッ」という曲だ」イントロを歌う。『ハバネラ』の、ゆっくりなテンポ。


ミッツ「知っています」


ヤッ子「『ハバネラ』のメロディは使わず、伴奏部分のリズムをメロディに使い、テンポを速くすると、ダンスができるようになる。ファッションで言えば、異なった時代や国の、服装と髪型を合わせると、面白い効果になることもある」


ハル「そうすると、「ハバネラのテンポに違反している」ですが、「面白いから」の基準が使えますね」


ミッツ「音楽理論によっては、矛盾もあるんですか?」


ヤッ子「あってもおかしくないぞ。日本の民謡を西洋音楽の基準で批評すると、「勉強していないから、3度音が無いんだろう」ってことになる。西洋音楽でも、わざと3度音を省いて、宇宙の空虚感を表現することはあるのに」


ハル「「3度音」って、何ですか?」


ヤッ子「和音の部品だが、細かなことは、これから知るだろう。譬えれば、米飯はそれだけでも美味いが、独立した食事ではない。3度音を加えることで、カツ丼、カレーライス、ドリア、チャーハン、様々に変わる」


ハル「え、3度音って、そんなにすごいんですか」


ヤッ子「まあ、ちょっと大袈裟な譬えだったな。音楽だったら、何も加えない米飯だからこそ、効果的な場面もある」


ハル。この辺りから、ミッツとヤッ子の会話が、意味不明という顔になる。


ミッツ「和音には、根音と3度音が無ければならないって、ピアノの先生が仰っていました」


ヤッ子「蜜霧君のピアノの先生は、クラシック専門ではないか?」


ミッツ「はい、そうです」


ヤッ子「音楽理論で有名な和声学では、そのようになっているな。しかし、ベートーベンの『運命』では、最初の2つの和音のうち、1番目は根音省略、2番目は根音と3度音の両方が省略されている」


背景に、『運命』のタイトル「交響曲第5番 ハ短調 作品67」を表示する。楽譜を表示しても良い。楽譜を表示する場合、「3度音」「5度音」「根音が省略されている」などを添えても良いが、ハルが「?」を出す絵も添える。


ミッツ「それじゃあ、全く和音として、成立していないじゃない」


ヤッ子「これは、曲の構成として「伴奏が無い、歌だけの部分」と考えれば、「和音として不足」には当たらないな」


ヤッ子「同じくベートーベンの『エリーゼのために』でも、ミとシだけで、短調の導音であるソ♯を含まない属和音の箇所がある」


ミッツ「でも、ソ♯を含む箇所もあるから、無くても「あるつもりで聞きなさい」とも思えます」


ヤッ子「ベートーベンの曲だから、努めて「正しい理由を考えなさい」と指示されても、身近な凡人の作品なら、「あるつもりでなんて、通じない」と否定するのだろうな」


ハル。まだ、ミッツとヤッ子の会話が、意味不明という顔のまま。


ハル。心の声。「|( )《 》こんな話、楽譜を読めない視聴者に、通じるのだろうか)」ハルに指し棒で「わざとらしい心の声」を表示する。


ヤッ子「和声学では「完全5度の連続は禁止」「直行8度は禁止」だが、「内声音を含み、導音から主音に行く場合は許容」とか、あれこれある」


ミッツ「聞いたことがあります」


ヤッ子「シューマンの『トロイメライ』という曲があるだろう」


ハル。心の声。「|( )《 》宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』で、ネズミがリクエストした『トロメライ』のことかな?)」


ヤッ子「あの曲の中には、隣り合った声部での、上行の直行5度や、隣り合った声部で増4度から減5度、これは音程の呼び名は違うが同じ距離だが連続していたりする」


ミッツ「禁止だらけじゃないですか」


ヤッ子「和声学を勉強したのか?」


ミッツ「勉強ではなく、小耳に挟んだ程度ですが」


ヤッ子「そうか。『トロイメライ』には、上行の直行8度、上行の連続8度、下行の直行7度、下行の連続完全5度、その他、あれこれあるぞ」


ミッツ「知らなかった……」


ヤッ子「しかし、それらの多くは、「転回形だ」「片方が順次進行だ」などの理由から、禁止ではないものもある」


ミッツ「だから、大丈夫なんですね」


ヤッ子「ガーシュウィンの『ラプソディー・イン・ブルー』では、コード進行で、完全5度の連続がある」


ミッツ「それは……、明らかに違反ですね」


ヤッ子「ところが、これは「コード進行」ではなく、「コード推移」だから良いという話もある」


ミッツ。嫌な気分になって、顔をしかめる。「うわっ、それって、「石を投げたら攻撃だが、食べ物である玉子なら攻撃ではない」って言うのと似ている」


ヤッ子「違反していると思える箇所でも、シューマンの作品に対しては、努めて「このように考えたら許容だ」の理由を探し、身近な凡人の作品に対しては、努めて「このように考えたら禁止だ」とすることがある」


ヤッ子「腑に落ちないが、考え方を変えることで、禁止と許容が変わるらしい。正直に言うと、私には、なぜ禁止なのか、なぜ許容なのか、わからない」


この話は、第5話と第8話で、「音楽理論と、虐めの構図」として続く。


ヤッ子「なぜ、完全5度の連続が悪いのか、禁止の理由が納得できるように、わかるように努力はしたが、未だにわからない」


ヤッ子「食生活など、健康被害があるのなら、悪いことがわかるようになりたい。しかし、芸術だから、無理して悪い理由を探すのは楽しくない」


ヤッ子「だから、わかる人は楽しめば良いと思うし、法律家ではないから、実害も無いのに、禁止箇所を探すのも趣味ではないのでな」


ミッツ「ショパンの曲の左手では、禁止がどっさりありそうですね」


ヤッ子「ピアノの演奏で、右手でメロディ、左手で和音の場合、そんな禁止の規則からは対象外で、聞いていて不快でもないし、誰も困らない」


ハル。まだ、ミッツとヤッ子の会話が、意味不明という顔のまま。一緒に歩きながら、ただ聞いているが、話の意味はわからない。


ハル。心の声。「|( )《 》知らない単語ばかりで、話が通じている。不思議だ)」ハルに指し棒で「視聴者向けの、わざとらしい心の声」を表示する。


ヤッ子「ギターの演奏で、声部の概念がある場合もあれば、コード弾きでは、和声学で扱う「声部」という概念が無い場合もある。ショパンの曲の左手も、ギターのコード弾きになぞらえると、和声楽の禁止には該当しない」


ミッツ「そうですよね」


ヤッ子「なのに、禁止の規則を用いて批判することはある」


ミッツ「わっ、やだなー」


ヤッ子「音楽理論を学んで、禁止事項が「なぜ禁止なのか」に納得ができなくても、避けられるなら避けた方が無難だな。批判されないというだけでなく、感性が高まった未来の自分が褒めてくれるかも知れないし」


ミッツ「そうですね」


ヤッ子「逆に、禁止事項を使っている作品があっても、自分が納得できない禁止事項だったり、困りもしなければ、批判しない方がいいな。面倒な言い争いも避けられる」


ミッツ「それは音楽理論に反しているから駄目って言うのは、何となく、犯罪は法律に反しているから駄目ってのと似ているのかな」


ヤッ子「悪いことをしない理由が、相手が困るからなのか、そう教わったからなのか」


ハル「さっきから、何を言っているんですか? 完全なんだかとか、セイブ|( )《 》声部)なんとかって」


ヤッ子「ああ、済まなかった。クラシックの音楽理論は、愛好者がまるで一般常識のように話すのだ」背景に、セリフの「まるで一般常識のように」を字幕表示する。


ハル「それぞれの単語に意味はわかりませんが、要するに、ベートーベンやシューマンは天才だから、音楽理論に反してもいいってことですね」


ヤッ子「そのような言い方をする人もいる」


ミッツ「同じ言葉を言うんだから、人によって意味が変わるのは、納得できないなあ」


ハル「じゃあ、ミッツ。とても偉いお坊さんが、お経の説明や、仏教説話の中で、「人生とは、楽しむものだ」と言ったら、どうだ」


ミッツ「とても深い意味があるんだろうって思う。当たり前でしょ。宗教って、人の幸せを目的としているんだから、幸せは正しい」


ハル「じゃあ、同じく、「人生とは、楽しむものだ」って言葉を、働きもしない、いつも遊び歩いている怠け者が言ったら」


ミッツ。笑いながらのツッコミ。「働けよっ。楽しみは、働いた報酬なんだから」


ヤッ子「その通りだ。偉い人の言葉なら、努めて良い意味に理解する」


ハル「名前は忘れたけど、ある写真家は、わざと画素の粗い、白黒のフィルムを使って、下町だったか、裏通りだったか、撮影したんだ。すると、すごくいい雰囲気になったって」


ミッツ「あっそうか。確かに、わざと美しくない写真の撮り方をすることはあるよね。わざと脇役にピントを合わせて、主役をピンボケにしたり」


ハル「写真は、最も大切なものを、あるがままに、より美しくあるべきっていうのは、絶対的な基準ではないってこと」


ミッツ「基準から外れたら、「そんなやりかた、聞いたことが無い」って、一蹴されそう」


ハル「基準から外れても、試してみることで、新たな芸術表現が生まれる。迷惑でなければだけど」


ヤッ子「「どこの世界にも」とは言い過ぎだろうが、自分の好みと違っていたら「正しくない」と否定する人はいるもんだ」


ヤッ子「それから、身近な人がすごい人になるとは思えないから、例えば、漫画は下等だと思っている人が、身近に漫画家を目指している人がいたら、否定することもある。身近な人が、世界的なヒット作を描くことは、あり得ないとかな」


ヤッ子「漫画を下等だと思っていなくても、世の中には既に良い作品があるのだから、わざわざ新しく作る必要も無く、また同じ話になるが、身近な人が、世界的なヒット作を描くことは、あり得ないとかな」


ハル「身近な人が、すごいことをできるなんて信じられないからって、粗探しの目的で音楽理論を利用することもありそう」


ミッツ「そんな風に言われた経験が、あるのか無いのか知らないけど、クライスラーは、自分が作曲したと言わずに、「モーツァルトの隠れた名曲発見」とか、偽って発表していたらしいですね」


ヤッ子「そうらしいな」


ハル「虎の威を借りる狐だな。作品よりも、作者で評価されていたのかな」


ヤッ子「価値判断の一部を、他人に委ねることはある。これからの君達にも関係がある」


ハル「本当ですか?」


ヤッ子「企業の採用基準、つまり、就職だ」


ミッツ「あ、それ、聞きたい」


ヤッ子「どこの学校を卒業したかを、基準にする」


ハル「あ、ずるい」


ヤッ子「インターネットで、企業説明会などの申し込みをする時、学歴を記入して、希望日時を選択して、ボタンの「次へ」をクリックする。そうすると、次の画面に進むのだが」


ハル「はい」


ヤッ子「いわゆる「一流大学」であれば「受け付けました」の画面になり、いわゆる「三流大学」であれば「定員に達したので、受け付けできない」の画面になる」


ハル「それなら、嘘の学歴なら?」


ヤッ子「さすがだな。可能性をあれこれ考慮するのは、早坂君の長所だ」


ハル。ミッツに向かって、ガッツポーズ。


ヤッ子「希望日時は同じで、学歴欄を変えたら、受け付けできることもある」


ミッツ「あたし、転校しようかな?」


ハル「それは、ヤッ子先生に失礼じゃないか?」


ヤッ子。微笑んでいる。「ただし、これは必ずしも、学歴の上下とは限らず、その会社がこれからどんな仕事をするのか、そのために、目的の専門分野を学んで来た人を、多く雇いたいこともある」


ミッツ「じゃあ、一流大学と三流大学っていうのは?」


ヤッ子「その会社にとって、必要な専門分野を学べる大学が一流ということだ」


ハル「だったら、他人任せじゃないでしょう」


ヤッ子「必要なことを、大学を卒業できる程度に学んだので、試験の手間が少し減る。人を選ぶのは難しいからな」


ハル「評価の基準は、様々ってことですね」


ヤッ子「人を悪く評価する基準に、「みんなが努力していた時間に、お前は遊んでいた」と言うことがあるが、スポーツ選手が選手になるために練習しただろうし、医者は医者になるために勉強しただろう」


ヤッ子「スポーツ選手が練習している間に、医者は遊んでいただろうし、医者が勉強している間に、選手は遊んでいただろう。評価のために、採用する基準は、フェアでありたいな」


ヤッ子「会社にとって、練習を積んだスポーツ選手が必要か、勉強を積んだ医者が必要か、どちらの人を採用するか、会社の基準による」


ミッツ「音大卒業していないと弾けないピアノがあるんですって」


ハル「なんでだよ!」


ミッツ「知らないよお。コンサートのリハーサルで、とても高級なピアノを弾いていたけど、その人が音大出身でないと聞いたら、係の人が本番前に、ピアノを交換したんだって」


ヤッ子。悲しみで、少し喉を詰まらせる。これは、姉と自分に対する、不遇な扱いに繋がるため。


ハル「家庭電気用品店|( )《 》家電品店)の、名物社長が、いたずらでジーパンを売ったんだって」


ミッツ「電気屋さんで、ジーパン?」


ハル「そう。それも3か所で。1か所は店の入り口の外で、百円で。1か所は1階の奥で、千円で。そしてもう1か所は、2階の奥で1万円で」


ミッツ「3種類もジーパンを?」


ハル「いや、同じ商品を、3か所で、違う値段を付けたんだって」


ミッツ「それなら、あたしなら絶対、百円のを買う」


ハル「それは、同じ商品だからと知っているから。並べて見比べてもいないから」


ヤッ子「それで、どれが最も売れたか……という落ちを言いたいんじゃないか?」


ハル「そうです。なぜか、1万円のジーパンが、最も売れたんだって」


ミッツ「呆れた……」


ヤッ子「お客さんにとっては、自分にはわからない、何らかの理由で、百円にしていると考えたんじゃないか?」


ミッツ「クライスラーみたい。1万円だから高級だろう、百円だから粗悪品だろう。モーツァルトだから名曲だろう、目の前にいる人だから凡人だろう」


ミッツ。良い思い付きをした。「身近に、世界一の素敵な人がいるなんて、普通なのに」


ハル「え?」


ヤッ子。気付く。「あっはっは、そういうことか。結婚した人は、相手が世界一の人だと思ったんだものな」


ミッツ「異論は無いでしょッ!」


ヤッ子「まあ、音楽理論はギャグみたいなものだな。いつでも受けるとは限らないし、使いどころも大切だ。お客様を馬鹿にすることだって、漫談で上手くいくこともあるが、まずいこともある」


廊下の分かれ道で、3人がそれぞれ別の方向に向かう場所に着いた。


ヤッ子「あっ、そうだ、忘れていた」


ハル「何です?」


ヤッ子「音楽理論は、アイディア集と言ったな。楽譜は読めなくても、ピアノ演奏ができなくても、ピアノの黒鍵だけを、何となくメロディっぽくデタラメに弾いたら、昔の中国っぽく聞こえる」


ハル。驚く。「本当ですか!」


ヤッ子。にやりと笑う。「中国は広いから、「どの地方でも」とは言わないが、日本と同様に、西洋音楽が日常で使われることが多い。だから、「昔の中国っぽく聞こえる」なんだ」


ハル「昔の中国?」


ヤッ子「外国に対しては、とんでもない誤解を含んだ印象もあるもんだ。日本には今も忍者がいて、全員が相撲レスラーで、芸者の服装でアニメを凝視している」


ミッツ「そんな、信じられません」


ヤッ子「今のは大袈裟だが、現代の日本と、昔の日本を、混在させた印象を持つ人も、いるらしい。同様に、日本人の中にも、現代の中国と、昔の中国を、混在させた印象を持つ人もいるだろう」


ヤッ子「そこで、さっきの「黒鍵だけを使う」の手法なら、勝手な印象で「昔の中国」を連想する。これも、音楽理論だ」


ハル「詳しく教えてください」


ヤッ子。わざとらしく時計を見る。時計は、近くの教室内の時計を、廊下から見るのでも良いし、腕時計でも、スマホでも良い。「おお、もうこんな時間だ。早く帰らないと、門が閉まって、学校に閉じ込められるぞ」


▽ 場面変更 ● ── ●


吹奏楽部の練習が終わって、ステラが学校の門を出る前。門の横に立っている。


ステラ。スマホで、数枚の写真を確認している。


吹奏楽部で、練習の休憩時間や、練習が終わって片付けている時に、こっそりトロンボーン先輩を撮影した画像が数枚ある。


スマホを見ているステラの顔は、やや赤く、目は笑っている。口は、様々な形に変わる。口の形は、中カッコが横に寝た形が上向きと下向き、猫のみつくち、あひる口、横向きピーナツの殻が上向きと下向き。


この描写により、ステラが吹奏楽部への入部の初日に、トロンボーン先輩に片想いを始めて、すぐに行動していることを表す。


▼ Cパート。   ▼──   ──▼


ヤッ子。先生ちゃんのように、顔だけ、または2頭身。


説明用の別世界。背景は無地。


ヤッ子「早坂君は、ギターの弦で倍音を鳴らしていた。実は、倍音は、管楽器でも使われているんだ」


この説明により、吹奏楽部でのトロンボーンの話の補強となる。


画面上部に、ピアノの鍵盤を表示する。基音から8倍音までと、それより少し広い範囲。黒鍵は、薄い灰色。


鍵盤の色は、これから、「今、鳴らした音」が赤、「既に、鳴らせるのがわかった音」がピンクと変わって行く。


ヤッ子「この弦は、「ド」に調律されている」弾く。弦の振動がわかりやすいように、マルカッコのような、点線と実線を表示する。


弦の、振動の形を表示したまま、鍵盤の左端の「ド」の下に設定する。「基音|( )《 》1倍音)」の文字を添える。鍵盤には「ド」の文字が書かれる。


ヤッ子「弦の長さの、2分の1の箇所を、そっと触って弾くと、弦が8の字に振動する」弾く。8の字の、マルカッコのような、点線と実線を表示する。


弦の、振動の形を表示したまま、鍵盤の左から2番目の「ド」の下に設定する。「2倍音」の文字を添える。鍵盤には「ド」の文字が書かれる。


ヤッ子「弦の長さの、4分の1の箇所を、そっと触って弾くと、このように8の字に振動する」弾く。4倍の8の字の、マルカッコのような、点線と実線を表示する。


弦の、振動の形を表示したまま、鍵盤の左から3番目の「ド」の下に設定する。「4倍音」の文字を添える。鍵盤には「ド」の文字が書かれる。


ヤッ子「弦の長さの、8分の1の箇所を、そっと触って弾くと、このように8の字に振動する」弾く。8倍の8の字の、マルカッコのような、点線と実線を表示する。


弦の、振動の形を表示したまま、鍵盤の左から4番目|( )《 》右端)の「ド」の下に設定する。「8倍音」の文字を添える。鍵盤には「ド」の文字が書かれる。


ヤッ子「ここまで、「2倍の、2倍の、2倍」としたものは、全部同じ名前の「ド」だな。弦の長さの「半分の、半分の、半分」の場所を、触った」


ヤッ子「では、3分の1の場所を触った3倍音は、何かと言えば、「ソ」だ」鍵盤の「ソ」を、これまでと同様に。


ヤッ子「3倍の2倍は、同じ名前の「ソ」だ」鍵盤の「ソ」を、これまでと同様に。


ヤッ子「基音から8倍音までを、一気に示そう」倍音の鍵盤を、これまでと同様に。


ここまで、「ド」の倍音は、説明の度に赤くなっている。


ヤッ子「トランペットには、たった3つのピストンしかないな。押すと押さないの組み合わせは、ピストンが3つなら、8通りだ」


ヤッ子「トランペットは、ピストンを押すと、息は迂回路を通るようになる。管が長くなるので、低い音が鳴る」


トランペットの簡略図。ピストンを押すと、迂回路を息が通る様子を表示。


ここでは、鍵盤との対比で説明するので、C管トランペットを使用する。


ヤッ子「トランペットの、ピストンを押さないで、鳴らせる音は、これだ」鍵盤の、2倍音から8倍音までの赤が点滅。1倍音の赤は、白に戻る。


ヤッ子「ただし、7倍音は、少しズレがあるので、使わないようにしているので、ここでは「鳴らないつもり」として、無視しよう」鍵盤の、7倍音の赤は、点滅しながら白に戻る。


ヤッ子「ところで、『おもちゃのチャチャチャ』の歌詞の「トテチテタ」は、唇を硬くしたり、柔らかくしたりの、唇の形を表現しているんだ」


『おもちゃのチャチャチャ』は、著作権が現存。


ヤッ子「唇の具合を変えることで、何倍音を鳴らすかを、選ぶんだ」


ヤッ子「倍音は、ギターの弦に触れて演奏する「ハーモニクス」と同じ。ということは、ギターの弦の1本だけのハーモニクスで同じことができる」


弦が1本だけのギターを用意する。トランペットと同じ調律。倍音の「8の字」をいくつか表示する。ハーモニクスだけで、進軍ラッパを演奏しながら、「8の字」のどれかが強調。


ギターでの進軍ラッパと、トランペットでの進軍ラッパを交互に演奏。


実写のギターでは、指が弦のどこに触れているのかわかりにくいので、予め触る場所を図示しておく。図示のうち、触っている部分だけ、色を強調。弦の8の字を強調する線を合成しても良い。


画面では、ギターの糸巻きが上になるようにする。


ヤッ子「トランペットの2番ピストンを押すと、この音が鳴る。ピストンを押さない音と比べて、低い音だ」


これまでの鍵盤の赤が、ピンクになる。2番ピストンで鳴らせる音が、赤くなる。この、色の変化は、視聴者が迷わない順番にする。


ヤッ子「2番ピストンを戻して、1番ピストンを押すと、この音が鳴らせる」鍵盤の色が変わる。


ヤッ子「1番と2番のピストンを押すと、この音が鳴らせる」


このように、ピストンと鍵盤の色変化をして、「倍音の飛び飛び」の隙間が埋まるまで続ける。


ヤッ子「トロンボーンは、ピストンを使う代わりに、スライドの伸縮で行う」トロンボーンの伸縮を、ストロボアクションのように表示する。


ヤッ子「ただし、ピアノの調律は、この倍音とは、ほんの僅かにずれている。倍音に忠実な調律は「純正律」で、倍音に合った和音なら溶け合って美しいが、倍音からずれた和音なら汚くなるからだな」


ヤッ子「倍音を基準とした調律の皺寄せを、1オクターブの12個の鍵盤で、均一にしたのが、普通のピアノで行われている「12平均律」という調律だ」


ヤッ子「ギターの調律で、ハーモニクスを使う方法が紹介されていて、それでは合わないという意見もあるのは、「純正律」と「12平均律」の違いだ」


ヤッ子「ハーモニクスは「純正律」で、ギターで使うのは「12平均律」。この僅かのずれが、「ギターをハーモニクスで調律しても、合わない」という理由だ」


ヤッ子「さて、第1話で、既に、主要な登場人物が出揃った。ここで改めて紹介しておこう。全員、この中学校の関係者だ」


各人の紹介の時には、顔と全身、名前とフリガナを表示。


ヤッ子「まずは、ハル。早坂春弥|( )《 》はやさか・はるや)、1年生だ。謎解きが好きで、手品のトリックを知って、トリックがシンプルだったら、演出の素晴らしさに拍手を惜しまない」


ヤッ子「次は、ハルの従姉のミッツ。蜜霧多岐|( )《 》みつきり・たき)、2年生だ。ぶっきらぼうで中性的で、飾らない人柄が人気だ」


ヤッ子「転校生のステラは、星山空見|( )《 》ほしやま・くみ)、1年生だ。メルヘンをこよなく愛するだけでなく、実は、陰ながらの努力もしているんだぞ」


ヤッ子「ショージ、東海林翔児|( )《 》しょうじ・しょうじ)は2年生だ。主要な登場人物なのに、出番が少なかったな。ふざけた奴だという理由は、からかわれ続けたという生い立ちなのだが、それを知る者はいない」


ヤッ子「吹奏楽部の、トロンボーン先輩は、あることを隠している。それを言い当てるのは、偶然にも東海林君なんだ」


ヤッ子「音楽の先生の言葉は、私も勉強になる。気付いている人もいるだろうが、顔の皺の具合で、上下を逆さまにしても、顔に見える」


音楽の先生の顔の、上下を逆さまにする話題は、ここでは触れず、第7話の終盤で見せても良い。


ヤッ子「これら、誰一人として、意地悪を目的とは、しない人々ばかりだ。中学校が舞台ということで、人格が未熟な中学生だから、失敗も多いが、そこからの成長も見届けたい」


ヤッ子「そして、この私は、理科の教師だ。ジャズピアニストでもあるが、副業という程ではない」


ヤッ子「改めて言うが、セ……」画面が途切れる。


▼ 次回予告。   ▼──   ──▼


玉がなぜだか傾いて、


カレンダーは、2か月間も足りなくて、


ステラは、自宅じゃ、こんなことをしてるんだ。


ブイブイ鳴らすぜー。


▼ 1コマ漫画。   ▼──   ──▼


ステラが、自室の壁のコルクボードに、トロンボーン先輩の写真を追加。先輩の顔は、デコレーションとして、ハートマークで囲まれている。


コルクボードに貼ってある場面は、第2話であるので、ここでは、机上で、細かなビーズなどでデコレーションする様子でも良い。座っているステラの姿と、机上を指す吹き出しに写真とステラの指のアップで、2枚の絵を1コマに表現。


ステラ「ムフフ、隠し撮り」ステラの顔は、少し赤らんでいる。


この描写により、ステラがトロンボーン先輩に片想いしていることを表す。



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