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第11話 Aパート

【前書き】


楽譜の読み方を、アニメ脚本っぽい形で説明します。


当作品は、オリジナル『ガクテン』からR15を削除したものです。R15以外は、そのままですので、二重投稿に近いものです。


人間ドラマなどを削除した楽典のみのものは『ガクテン♪要するに版』をご覧ください。


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■■■■ 第11話。


▼ サブタイトル。   ▼──   ──▼


それ以上でも、それ以下でもない。


▼ OP曲前。   ▼──   ──▼


OP曲前の定型。他の登場人物は知らない、過去の出来事。


ショージの家。小学6年生のハルが遊びに来ている。


ショージ「いいか、俺は中学生、お前は小学生。尊敬しろ」


ハル。土下座のお祈りのように。「ははーッ」


ショージ「これからは、俺を、「ショージ様」と呼べ」


ハル「それはやりすぎでしょ」


ショージ「では、「ショージさん」と呼べ」


ハル「承知いたしました、ショージさん」


ショージ「うん、わかればよろしい。今、コーラ持って来るから」


ショージ。廊下に出て、ドアを勢いよく閉める時、「ほいせっ」と声。ショージの髪がふわりとなびく。ドアは空気圧の影響で、きちんと閉まらない。ゆっくり開いてゆく。


ドアは外開き。


ショージ。お盆に載せてコーラを持って来た。「このドア、自然に開くんだよな。何とかならないかな。もちろん、手でドアノブを回して、カチャっと閉めたら、いいんだけど、勢いよくドアを閉めると、ふわっとなって、閉まらないんだ」


ハル「うーん」


ショージ「紐と滑車を使って、自動的に閉まる方法も考えたけど、大掛かりにしたくないんだよな。開けたままにしたい時もあるから、必ず閉まるってのは困る」


ショージ。ドアの外に出て、ハルに説明。ショージの動作が、説明の簡易な図に変更。滑車を通した紐の、片方に錘、片方をドアに付け、錘が下がることで自動的に閉まる。


ハル。部屋の中からドアを開け閉め。廊下に出てドアを開け閉め。


ハル。心の声。「( )開けたままにしたい時もある。閉めたままにしたい時もある。手を離すと、自然に開くのか)」


ハル。心の声。「( )閉まっている位置で、効果が出るものか。近付いた時に、ドアの位置を保持する工夫。ドアを開けるのも、引っ掛かる仕掛けは駄目だ。手間を増やさず、開けられる)」


ハル。心の声。「( )摩擦で閉まったまま。いや、それなら、閉める手間が増える)」


ハル。心の声。「( )手を離したドアは、自然に開くだけだから、位置を保持するのは、弱い力でいい)」


ハル。ドアノブの上、ドアの上の角( )カド)に、手を伸ばすが、届かない。


ハル。心の声。「( )磁石だな。ドアの角が近付いたら、磁力でドアを維持。磁力だから、ドアを開けるのは簡単)」上の角を見ながら、ドアを少し開け閉め。


ハル。心の声。「( )くっ付いた磁石を、引き離す瞬間は、力が必要。それなら、滑らせて離すなら)」


背景に、くっ付いた磁石を、引き離す方向なら、強い力が必要の様子。2つの磁石の間に、板があり、「板から離す」方向ではなく、「板の上を滑らせる」の方向なら、離す力が小さい様子。


ハル「磁石、あります?」


ショージ「あるよ」


ハル「ボタン型の磁石、2枚あります?」


ショージ「えーっと、あるよ」引き出しを漁る。


磁石は、ボタン型でも、コイン型でも良い。目的は、近付いたらくっ付き、ドアが自然に開くのを防ぐ磁力。


ハル「さすがショージさん。何でもありますね。それから、厚紙も」


ショージ「ホイ」お菓子の箱を渡す。工作用に保存していたもの、または、今食べているもの、または、ゴミ箱から。


ハル。椅子を廊下に出して、短冊のような厚紙を、ドアに貼る。ドアの、蝶番から離れた位置( )回転の先端近く)の、外側の面に、上にはみ出すように厚紙を貼り、画鋲で留める。上端はプラプラしている。


ドアを閉め、壁にはもう1枚の厚紙が、ドアの厚紙と少し重なるように貼る。ぶら下がるように上端に画鋲、下端はプラプラ。


壁からぶら下がった厚紙のプラプラと、ドアの上にはみ出している厚紙のプラプラは、数センチメートルの重なりとなっている。


ハル。両方の厚紙の、重なった部分に、それぞれボタン型の磁石をテープで貼る。


ショージ「完成か?」


ハル「うーん、完成かな」


ドアを開けて、勢いよく閉める。完全には閉まらないが、磁石が寄り、くっ付くことで、ドアがゆるりと開くことにならない。


ハル「良さそうです。しかも、開けっ放しにしたい時は、勝手に閉まらない」


ショージ「すげぇ。シンプルなのに、すごく便利」背景に、喜びの文字「小さな手間で、大きな効果」を表示。


ハル「手品と同じです。目的があって、それを実現させる方法を考えて、シンプルな解決ができたら、葉巻を吸う」


ショージ「バーボンをロックで」表情は、「子供だから、そんなことは、あり得ない」のような、冗談だとわかりきっているような、歯がノコギリ。


ハルは、片方の目と眉が怒った形、反対の目と眉が笑った形。


ハル「数学でも、「エレガントな解法」といって……」何度かやっているうちに、上手くいかなくなる。


ハルとショージ「あ……」


ハル「まあ、何度か調整したり、厚紙の代わりにプラの板を使ったり」


失敗例:ボタン型磁石が、短冊から滑り外れる。テープを十字形にして、磁石を短冊に固定して解決。


失敗例:壁からぶら下げている短冊の画鋲が外れる。短冊を長くし、ドアを開ける方向と、画鋲の抜ける方向で、角度が大きく違うようにして解決。


ハル「手作りでは難しいけど、ドアが閉まるところでは、ダイラタンシーもいいですね」


ショージ「ああ、片栗粉や、コーンスターチの、あれか」


ハルとショージに、指し棒で「ふたりとも、工作が好き」を表示する。


ハル「ダイラタンシーって、速い動きには抵抗して、ゆっくりな動きには従う性質がありますよね」


所謂「科学実験」のような場面を表示する。アニメと実写の、どちらでも良い。ハルとショージが、ダイラタンシーの逆の性質の、チキソトロピーまで思い付くのは難しい。


ハル「それを、例えば病院の引き戸に使ったら、ドアが静かに開閉するかもって」


ショージ「抵抗の度合いを工夫して」


ハル「自転車の空気入れのような、筒状がいいのか」背景に、筒の伸縮する動きを表示する。引き戸の開閉に合わせて伸縮する。


ショージ「筒なら、太さも利用できるかもな」ハルの思い描いた伸縮の隣に、筒の太さが変わる図を表示する。2つの図の案を採用した図も表示する。


ハルとショージは、互いにアイディアを出し合う。「液体だから」「劣化しないように」「可動型だから」など。


▼ Aパート。   ▼──   ──▼


理科室でヤッ子の授業中。ハルとステラがいる。


ヤッ子「分子を登場人物に譬えると、化学は登場人物が多いから苦手だという意見もある」


ヤッ子「しかも、外国文学のように、呼ばれる名前が、苗字だったり、名前だったり、愛称も誰が呼ぶかによって変わるから、わけがわからん」


ヤッ子「まあ、あれこれ化合物が多いが、基本は同じだ」


ヤッ子「原子と原子がくっ付いて、分子になるのだが、どうやってくっ付くのか」黒板に、電子殻が1層の原子。電子は1つだけ。


ヤッ子「原子は、このように原子核の周囲を、電子が周っている。2つの原子で、電子を共有すると、原子と原子がくっ付き、分子になる」黒板に2つの原子が1つの電子を共有する絵。


ヤッ子「原子が共有する電子の数は、このように1つだけの場合と、2つの場合、3つの場合がある」黒板に絵を追加。電子を2つ共有する絵と、3つを共有する絵。


ヤッ子「原子が1つだけで分子になるものもあれば、3つも4つも、もっとたくさんの原子がくっ付いている分子もある。たくさんの原子がくっ付いている分子は「高分子」と呼ぶ」


ヤッ子「分子結合の図で、このようなものを見たことは無いか?」黒板に「H-H」と「O=C=O」「N≡N」を書く。


ここで使っている「-」「=」「≡」の文字( )文字コード)は、実際の構造式で用いているものかは知らない。要するに、この形がアニメで表示されていれば良い。


欄外に、元素の凡例で「H:hydrogen:ハイドロジェン:水素」など、ここで用いている元素を書き加える。


ヤッ子「これまで、「原子がくっ付く」と表現していたが、面倒なので、これからは「結合する」と言おう」


ヤッ子「これは「構造式」といって、いくつの電子を共有しているかを、線の本数で表現したものだ」


ヤッ子「さっき、「化合物」という言葉を、さらりと言ったが、異なった種類の原子が結合して、分子になった物が、「化合物」だ」


ヤッ子「同じ種類の原子が結合すると「等核分子」だ。何にしろ、1つの分子を構成している原子、まあ、「分子の参加メンバー」だな、これが変わるのが、化学変化だ」


ヤッ子「ある種の化合物が発見されたら、工業的に大量生産したいが、それが難しいものも多い。というのは、原子を結合させたり、分解させるには、電子が関わっているからだ」


ヤッ子「原子の1粒を摘まんで、電子の1粒を摘まんで、結合や分離ができない。化合のためには、化合できる環境を用意して、原子に自ら化合してもらうためだ」


ヤッ子「化学変化で、結合の形が変わる、つまり、別な原子と結合すると、共有する電子の数も変わり、電子が余ったり、足りなくなったりする」2つの箱を電線で繋ぐ絵。


ヤッ子「この2つの箱で、それぞれ化学変化が起こり、左の箱では電子が余り、右の箱では電子が足りなくなると、このように電子が移動する」電子が左の箱から右の箱に移動するのを、矢印で書く。


ヤッ子「電子が移動することが、電気が流れるということだが、発電とは電子を作ることではない。元々あった電子を、工夫して移動することが、発電だ。電子は、左の箱にあったものを移動させる」


ヤッ子「モーターを回転させて、電子の移動を促したのが、多くの発電所で使われている。水力発電、火力発電、原子力発電、どれも、モーターを回転させて、発電する」


ヤッ子「それと比較して、電池、バッテリーといった、分子結合を変えて、電子を移動させる発電を……」


ヤッ子「このような仕組みを、何と言う?」生徒を指す。


生徒「電池、または、燃料電池です」


ヤッ子「正解!」


ヤッ子「乾電池などの普通の電池と、燃料電池とは、何が違うのか。というのは、行く行く説明する」


ヤッ子「それでは、この場合、電気はどのように流れているか?」生徒を指す。


生徒「え? えっ? その矢印の向きじゃないですか」


ヤッ子。答えを誤った生徒を責めないような笑いで。「ニヒヒ……。違うんだな。この絵では、左の箱がマイナス極、右の箱がプラス極」絵に「+」「-」を付加。


生徒「ヤッ子先生って、僕達が答えられないと、喜ぶんですよね」


ヤッ子「2つの意味で、嬉しいんだよ。1つは、私の方が、よく知っていることだ。もう1つは、君達が成長する瞬間に、立ち会える喜びだ」


生徒達。笑い汗。


ヤッ子「昔、電気が発見されて、プラスとマイナスがあるとわかった時、「電気はプラスからマイナスに流れる」と決めたんだ」


ヤッ子「その後、電気とは電子が移動することだとわかり、電子はマイナスからプラスに移動するとわかった。だから、電流の向きと、電子の向きは、逆なんだ」


ヤッ子「このように、基準によって方向が逆になるなど、ややこしいのも、科学の特徴だな」


ヤッ子「基準が変わったといえば、余談だが、ガリレオの時代は、地球は宇宙の中心だとされていた」


生徒「天動説ですね」


ヤッ子「そうだ。当時は、万物は宇宙の中心に向かって落ちる、地上では地球の中心に向かって落ちる、宇宙の中心と地球の中心は一致している、だから、地球は宇宙の中心である」


ハル。心の声。「( )無茶苦茶だが、理屈は合っている)」


生徒「無茶苦茶だな」


生徒「今の時代なら、無茶苦茶に思えるけど、理屈は通っているから、当時は正しかったんでしょう?」


ハル。心の声。「( )とはいえ、「万物は宇宙の中心に向かって落ちる」というのが、確認不能の、偽の原理)」


ヤッ子「時代によって正しさが変わったり、基準があれこれあったりする例だな」


ハル「原理は証明不要だそうですが、原理が誤っていたんですね。納得できる理由が見付かったら、それ以外は無いって思って、考えるのをストップしてしまったんですね」


ヤッ子「まあ、そういうことだ」


▽ 場面変更 ● ── ●


放課後。音楽室。


ハル「ヤッ子先生、今日の授業で、時代によって、科学の基準があれこれって言ってましたが、音楽でもそうですか?」


ヤッ子「ああ、そうだな。科学と音楽の、どっちが多いかは、数えてはいないが」


ハル「例えば?」


ヤッ子「そんな、いきなり言われても、思い出せないぞ」


ハル「ですよねー」


ヤッ子「早坂君は、工作が好きなら、レモン電池を作ったりしないのか?」


ハル「本当は、謎が好きなんです、謎解きです。謎解きから派生して、カラクリがわかったら再現する工作や、手品や推理小説、オカルト、あ、それから楽典も」背景に「謎」「謎解き」「派生」「再現」などの文字が、ポンポンと表示。


ヤッ子。ハルの言葉の途中に割り込む。「派生音!」


ハル「え?」


ヤッ子「ああ、済まない。早坂君が「派生して」と言ったもんだから、「派生音」を思い出してな。悪かった」


ハル「派生音って、何ですか?」


ヤッ子「派生音の話題になっていいか?」


ハル「お願いします」


ヤッ子。ピアノの鍵盤をなでる。「これらの鍵盤のうち、主要となるものを「幹音」、それ以外の全部を「派生音」と呼ぶ」


ヤッ子「「幹( )かん)」は、「新幹線」「幹線道路」「木の幹」などだな。それを基準に枝分かれしたのが「派生」だ」


ヤッ子「しかし、幹音の基準が、時代によって3種類あるんだ」背景に「幹音」「派生音」と、そのフリガナ。


ハル「3種類も?」


ヤッ子「最初は、ここ」中央ドを鳴らす。「中央ドからの1オクターブの白鍵が幹音だっだ。次に、白鍵を幹音と呼ぶようになった」


ハル「そんな呼び方じゃなく、「白鍵」でいいんじゃないですか?」


ヤッ子「私もそう思う。その後、そうだ、あの音階スライドがあったな。あれで音階に選ばれた音を幹音と呼ぶようになった」


ハル「それだったら、「音階」でいいんじゃないですか?」


ヤッ子「まあ、より相応しい基準を採用したり、これまでに無い言葉を作って、その言葉を知っている者を仲間としたいのか、知っていることを自慢したいのか、そんな人は、昔からいたんだろうな」


ハル「いつでしたか、ミッツが突然、「思う」の漢字の代わりに「想う」を使うようになりました」背景に「思う」から、矢印で「想う」に変わるを表す。


ハル「小学生の頃ですが、低学年の頃に習った漢字と、同じ意味で違う漢字を知ったら、何だか素敵に感じたのか、こっちの方が高級だとかって」


ヤッ子「気持ちはわかるぞ」


ハル「「幹音」の使い方も、若者言葉みたいですね」


何らかの弊害が無ければ、背景に中二病のキャラと用語。「集会」を「サバト」とするなど。


ヤッ子「江戸時代の若者言葉( )ギャル語)が、今の普通の日本語として辞書に載っているものもある」


ヤッ子「仲間内で通じる暗号を作るだけでなく、使う漢字の選択を変えたり、意味を変えたり。そうして、仲間であることを再認識するなどは、小学生の頃に通過するギャングエイジの特徴のひとつだ」


背景で、古今の若者言葉が、いくつか飛び交う。「夜露死苦」「チョベリバ」など。


ヤッ子「しかし、実は、大人になってからも、使う単語を増やすことはある」


背景で、古今のビジネス新語が、いくつか飛び交う。「御社」「マスト」など。


通常の辞典ではなく、死後辞典なら、当時の新語が多くて資料に有用だが、読みふけって仕事が進まなくなる危険がある。


ヤッ子「そうそう、音階で選ばれた音だけで作られた和音は、「ダイアトニックコード」と言って、よく使う」黒板に3和音を7つ。


ヤッ子「これは、ハ長調の例だが、調が違えば、つまり、音階スライドを合わせる位置を変えると、こうなる」黒板に、変ホ長調も書く。


ハル「ヤッ子先生は、魔法使いのように、あっという間に楽譜を書けるんですね。訓練したんですか?」


ヤッ子「まあ、なぜなのかは、触れないでおこう」


ヤッ子「このうち、ローマ数字の1、4、5が付くものは、特によく使うから「主要三和音」と呼ばれている」ハ長調と変ホ長調で、主要三和音を四角く囲む。


ヤッ子「音階の、音符の玉1つなら、それぞれ「主音」「下属音」「属音」で、それを根音とした和音は「主和音」「下属和音」「属和音」だ」


ハル「第6話で、ロックンロールの、スリーコードの話で教えてくれたものですね」


ヤッ子「そうだ」


ヤッ子「ついでに言えば、主和音は「トニック」、下属和音は「サブドミナント」、属和音は「ドミナント」という呼び方もあるぞ」


ハル「「よく使われる」っていうのは、助かります。ペンタトニックもそうでした」


ヤッ子「そうか。主要三和音は、音階だけと言ったが、短調ではシャープやナチュラルが付く」イ短調の主要三和音。ハ短調の主要三和音。


ハル「本当に、書くのが早いですね」


ヤッ子。素早く書いてくれた妖精ちゃんに向かって。「良かったな、お前たちのお陰だ。ありがとう」


妖精達。喜びの声。


ハル「そっちは、シャープではなく、ナチュラルですか?」


ヤッ子「ああ、そうだな。正しくは、調号の♭を半音上げるから、ナチュラルになったんだ。こうすることで導音になり、属和音には導音を含むってことだ」


背景に「半音」と、そのフリガナと、「ギターでもピアノでも、隣の音」の説明。画像で、ギターの隣のフレット。ピアノでは、「ミ、ファ」と「ソ♯、ラ」に「隣だから、半音の関係」と示す。


ヤッ子「早坂君、第1話の君のアイディアの、鍵盤の手前を隠して、奥側だけが見える状態での、隣の関係が「半音」だ。主音の、半音下の音が、「導音」だ」


背景に、鍵盤の手前側を紙で隠して、白鍵と黒鍵が、白と黒の縞模様に見えるようにする。


ハル「導音って?」


ヤッ子「ああ、実は、音階スライドで選ばれた音には、ひとつひとつに名前があるんだ。「主音」や「属音」だけでなく」


ハル「そうなんですか?! 何だか、覚えるのが多くて、大変だな」


ヤッ子「私もそう思う。だから、覚えていない」


ハル「いえいえ、ヤッ子先生は、覚えているでしょう」


ヤッ子「実は、資料を見て、何度か覚えようとしたが、会話で使うことが無いから、忘れてしまう」


ハル「つまり、覚えていても、得にはならない?」


ヤッ子「これは、私の欠点でもあり、教え方、話し方の特徴だが、早坂君が相手だから、このような順番にしている。まずは驚かせて、続けて「実はこうなんだ」と話す」


ハル「え?」


ヤッ子「つまり、私の音楽活動の中では、会話で使っていないから、忘れるということだ。「万人にとって、無用だ」ということではない」


ハル「はい」


ヤッ子「早坂君にとって、今後、有用になることもある。最初に「覚えていない」と言い、早坂君を驚かせる。早坂君が「なぜだろう?」と、理由の候補を思い付く。そこで、改めて答えを言う。このような順番だ」


ハル「あっ、そうなんですね。納得しました。順番が面白いです」


ヤッ子「そこでだ、音階スライドで選ばれた音のうち、「主音」「属音」「下属音」は、これまで何度も話題になったな。いよいよ「導音」の話だ。私が覚えているのは、これで終わりだ」


ハル「さっき、びっくりして、気が重くなったのに、あっという間に軽くなりました。銭湯の熱いお湯から出て、コーヒー牛乳を飲んだような、心地好さです」


ヤッ子「ハハハ。さて、「導音」だが、これは主音の半音下だ。主音に上がろうとする使い方が多い、主音に導くから、この名になったそうだ」


ヤッ子「音階スライドで、主音の左隣が導音だ。長調なら「ド」の左隣の「シ」が、短調なら「ラ」の左隣の「ソ♯」が導音だな」


ヤッ子「無論、「導音」と名があっても、他の音と同じように、普通にメロディに使うことも多い。しかし、わざわざ「何か、特徴的な」を見付けて、「導音」とした」


ヤッ子「音階スライドを見たまえ。短調の主音のラの、半音下の音は、音階に選ばれていないだろう」


ハル「そうですね」


ヤッ子「だから、音階スライドのソの代わりに、ソ♯なら良さそうだとなった。すると、ファとソ♯が離れてしまうので、ついでに、ファにも♯を付けた」


ヤッ子「短調には、音階が3つもあって、ややこしいと思わないか?」


ハル「あ、思う思う、思います。なになに的短音階ですね。メロディ的短音階とか」


ヤッ子「簡単に言えば、「よく使う音高」が、短調では多いのだが、どんな風によく使うのかの説明のために、3種類あるってことだ」


ヤッ子「私にとっては、ソに♯を付けたいことがとても多い、ファにも♯を付けたいことも少し多い。私は、単純に「そのようなことが多い」と思うだけだが、「なぜなのか」の理由で命名した」


音階スライドの「ソ」を、カーブの矢印で「半音上げたいことがとても多い」を表示する。


音階スライドの「ファ」を、カーブの矢印で「半音上げたいことが少し多い」を表示する。


ヤッ子「どんな時に、なぜ使いたくなるのかの意味から、「自然短音階」「和声短音階」「旋律短音階」の3種類だ。♯やナチュラルを、短調のダイアトニックコードに付けることもあるし、メロディに付けることもある」


ヤッ子「だから、臨時記号が付いても、ダイアトニックコードは音階に選ばれた音だけってことに違いない」


ハル「増えたら、「よく使う」じゃなくなる。結局は、全部が「よく使う」じゃないかと思います」


ヤッ子「ははは、まあ、そうだな。これらは、食器と似ているな。箸は和食でよく使う、フォークとスプーンは洋食でよく使う。場面によって「よく使う」に偏りがある」


ヤッ子「短調では、「ソ」を「ソ♯」にすることがあるが、長調では「ソ」のままだ。長調なのに「ソ♯」が使われたら、「長調なのに、短調の特徴がある」と思う」


ハル「あ、それが、第6話で、ステラから質問のあった「長調と短調」の話で出た、「短調の特徴」ですか」


ヤッ子「そうだ。ただし、短調の特徴でもなく「ソ♯」が使われることもあるがな」


ハル「楽典って、「そういう場合もある」が多いですね」


ヤッ子「第1話で、楽典と音楽理論は、一部の重なりがあると言ったな。これまでの話での「そういう場合もある」というのは、どちらかと言えば、音楽理論の話だ」


ヤッ子「実は、楽典は、音の高さを表す上下方向と、時間の経過を表す音価の、2種類の表記だけなんだ」背景に、1段の楽譜。上下方向の矢印で「音の高さ」、右向きの矢印で「時間経過」を表す。


ヤッ子「そこに、音楽理論の「よく使う」の、和音や調や、その他のあれこれの「便利なもの」の説明が、膨大になっている。楽典と共に、膨大な「よく使う」が、負担になる」


ハル「このアニメは、余談も多いですが、楽典の「よく使う」「便利なもの」の説明も多いですね」


ヤッ子「第1話で、楽典と音楽理論の話をしたが、ざっくりと、大雑把に、乱暴な言い方をすれば、楽典は「上下方向と右方向」で、音楽理論は「よく使う」だ」


ハル「すごい。視聴者から「それは違う」の批判をされそうですが、僕が欲しいのは、そういった分類の情報です」


ヤッ子「導音は、「主音の半音下」だから、イ短調ではシャープが付き、ハ短調ではナチュラルが付く」


ハル「主音の、半音下を含ませるから、そうなるってことですね」


ヤッ子「だから、ここで臨時記号が使われても、転調したのではない」


ハル「転調?」


ヤッ子「ああ、そうか、早坂君には、まだ転調の話をしていなかったか」


ヤッ子「要するに、調の名前が変わることだ。「ハ長調」なら「ハ」と「長」の、どちらかが変わるのが、転調だ」


背景に図を表示。スロットマシンのように、「主音の音名」と「長短」が入れ替わる。指し棒で「どちらかが変われば、転調」を表示する。


ヤッ子。本棚から『ハバネラ』( )ビゼー)の楽譜を出す。


ヤッ子「ここで、調号が変わっているだろう。このように、曲の途中で調が変わることが、転調だ」転調の前後を演奏する。


ハル「なるほど」


ヤッ子「音階スライドがあるだろう。あれの、ドを合わせる鍵盤はどこか。この曲で、転調した後は、Dの鍵盤に合わせる」音階スライドのドをDに合わせる。


ハル「調号に♯が2つありますから、音階スライドでもその通りですね」


ヤッ子「Dの鍵盤が主音なのは、曲の最後がDの鍵盤で終わっているからだな。そこで鳴っている和音はメジャーコードだから、キーはDメジャーだ」セリフの前から、背景に「キーはDメジャー」と表示しておき、セリフに合わせて色が変わる。


ヤッ子「日本語で言えば、ニの鍵盤で終わり、長和音だから、ニ長調だ」背景に、「調はニ長調」と表示。「キーはDメジャー」と並べる。


ハル「長調と短調の話の通り、長だらけですね」


ヤッ子「そうだな。では、転調する前はどうか。短調だから、短調の音階スライドをプレゼントしよう」短調の音階スライドを渡す。


長調の音階スライドは、「ド」から「ド」までの1オクターブ。短調の音階スライドは、「ラ」から「ラ」までの1オクターブで、「ソ♯」と「ファ♯」は、控え目に書いてある。


ハル「すごいですね。まるで、今日はこの話をすると知っていたかのように、用意していたんですか?」


ヤッ子「まあ、そういうことにしておいてくれ」


ハル「要するに転調は、音階スライドの位置がズレたり、短調と長調の音階スライドを取り替えることですか?」


ヤッ子「さすがだな。その通りだ」


ヤッ子「短調と長調の、どちらの音階スライドを使うか、どの位置に音階スライドを合わせるかというのが、転調であり、楽典だ」


ヤッ子「転調の前後で、「どの調から、どの調に」という関係には、名前が付いていて……」


ハル。言葉を挟む。「兄弟の関係とか、親子の関係とかですか? ある人からは親でも、ある人からは姉だったり」


ヤッ子。微笑む。「そうだ。その間柄には、たくさんの名前があるだろう。転調にも名前があり、音楽理論だ」


ハル「うーん……。これまで、たくさんの話を聞きましたが、楽典は簡単で、音楽理論は難しい」


ヤッ子「その感想も、正しい」


ヤッ子「楽典は、自分だけで楽譜を読むことに役立つ」


ヤッ子「音楽理論は、会話に役立ち、作曲に役立つ」


ハル「あれっ、転調って、ミッツから聞きました。ゲオルギアの話で」


ヤッ子「ゲオルギアは、怪しい商品の、あの店だな」背景に、第5話の店の景色を表示する。


ハル「長調なのに、短調の特徴が出たら、短調に転調したのかの判断が難しい」


ハル。受け取った、短調の音階スライドを見る。「なるほど、ラからラまでですね」


ヤッ子「そうだ。音階は「どこから始まって、どこで終わる」も大切だからな」


ハル「ファとソに、右向きのカーブ矢印が付いていますね。調号でこれが白鍵だったら右隣にする♯が付いて、調号でこれが♭だったら右隣にするナチュラルが付くんですね」


ハル「もし、音階スライドのファやソが、調号で♯だったら、どうなるんですか?」


短調の音階スライドで、嬰ト短調に合わせる。


ヤッ子「その場合は、ファやソが、ダブルシャープになる」背景に、ダブルシャープの説明。「ナチュラルの白鍵の、右隣の右隣」「黒鍵になるか白鍵になるかは、場合による」を添える。


ハル「何だか、強引な感じですね」


ヤッ子「教科書には、長調の音階は1種類なのに、短調では3種類あると書かれている。3種類を覚える必要があると考えたらうんざりするが、半音高くすることが、よくあるってだけだ」


ヤッ子「学校だからな、面倒なことも教えるし、テストで出題されることもある。これが、その後の人生で使うかどうかは、それぞれの人生だな」


ハル「ちょっと気になるのが、テストで出題されて答えられる生徒は、個人的にピアノを習っているとか、学校ではないところで教わりますよね」


ヤッ子「そうだな」


ハル「もしかしたら、学校の授業だけで、音楽を勉強するのは、不可能なのかな」


ヤッ子「それは、教科によって異なるのだろう。正確なことは、音楽の先生や、文部科学省の教育要領から確認できるかもな」


ヤッ子「漢字なら、日常生活の中で縁が多い。学校とは違う場所でも漢字に接することはある。しかし、音楽を聞くことは多くても、楽典や音楽理論に接することは少ないだろう」


ハル「そういえば、音階って「よく使う音高を選んだもの」でしたね」


ヤッ子「そこで、主要三和音も、主音から数えて1番目と4番目と5番目の、主音と下属音と属音を根音とした、主和音と下属和音と属和音なんだ」


背景に楽譜。上段に長調、下段に短調。それぞれで、「主音」「下属音」「属音」と、「主和音」「下属和音」「属和音」を示す。


音階スライドを、長調と短調の2つを表示する。それぞれに、「主和音」「下属和音」「属和音」を、それぞれに「根音」「3度音」「5度音」で示す。


ヤッ子「転調する前は短調だから、短調の音階スライドのラを、Dに合わせる」


ヤッ子「そこで、『ハバネラ』の調号を見ると」


ハル「調号は♭が1つですね。主和音の探し方は、曲の終わりの音ですよね。ここは、曲の終わりではありませんよ」


ヤッ子「確かに曲の途中だが、「休憩の区切り」というより、「いったん、ここで終わった感じ」だろう。だから、それが主音で、Dの鍵盤に、音階スライドのラを合わせるんだ」


ハル「区切りの終わりの瞬間に、調号が変わっています」


ヤッ子。微笑んで、芝居じみた演技で。「うーん、困ったな。では、これまでの主音は何か、主和音は何か、どうやって特定するんだ?」微笑みながら、ハルに答えを促すように見る。


ハル「最初の音ならどうです? これって、「レ、ファ、ラ」の和音ですから、それが主和音だと思うんですか」


ヤッ子「どうして、「レ、ファ、ラ」なんだ?」


ハル「コードに使われている音、「和音構成音」でしたっけ? それをオクターブ違いで移動するって、よくありますよね」


ハル「楽譜を見たら、レ、ラ、ファが順番に鳴っています」


ヤッ子「分散和音、アルペジオとも言う」


ハル「そう、和音が分散して鳴っている。レ、ラ、ファを、オクターブ違いの移動をして、積み重なるようにしたら、「レ、ファ、ラ」になります」


ハル「あー、ややこしい。「レ」の鍵盤に、音階スライドの「ラ」を合わせるなんて言い方をすると。えーっと、英語で「D」の鍵盤に、音階スライドの「ラ」を合わせるって言えばいいかな」


背景に、『ハバネラ』の最初の分散和音の、和音構成音のオクターブ移動。玉の中に「レ」などの音名を書き、オクターブ移動した転回形を、いくつか横に並べる。「隙間が無いので、これが基本形和音」と指す。


ヤッ子「「音名」と「階名」の違いは、知っているだろう?」


ハル「はい。音名は、鍵盤にマジックインキで書いて良い。階名は、音階スライドに書いてあるもの……。あっ、そうか、鍵盤モノサシに、音名を書けばいいのか」


ハル。念のため、ヤッ子を見る。ヤッ子が笑顔で頷いたので、鍵盤モノサシの白鍵部分に、英語の音名を記入する。


ハル「これが主和音だと思います。主和音がわかれば、主音もわかって、調の特定ができます」


ヤッ子「その通りだ」


ハル「ヤッ子先生は、「最後の音で特定」って教えてくれましたが、最初の音でも特定はできますよね」


ヤッ子「もちろん、そうなのだが、最後の音を使うように教えたのは、理由がある。楽譜が無い時に、耳で聞いて、楽器の音を出して確認する場合だ」


ハル「耳コピですね」背景に「耳コピ」と「耳で聞いた音を頼りに、楽器で演奏したり、楽譜を書くこと」と表示。


ヤッ子「音楽に不慣れな時期に、和音を特定するのは難しいだろう?」


ハル「そうですね」


ヤッ子「メロディを特定するのも難しいが、和音の特定よりは、メロディの特定の方が簡単だ」


ハル「はい」


ヤッ子「歌の終わりでは、メロディが主音のことが多いが、歌の始まりでは、主音以外から始まることも多いんだ」


ハル「あっ、そうか」


ヤッ子「歌の始まりは主和音で始まることが多いが、和音の特定が難しい。ではメロディでと思っても、メロディの始まりは多彩。だから、歌の終わりを使おうって教えたんだ」


ハル「そこまで考えていたんですね」


ヤッ子「そこで、この曲の主音は、Dの鍵盤だと、特定ができた」


ハル「じゃあ、なぜDの鍵盤に、ラを合わせたんですか?」


ヤッ子「音階スライドは、長調と短調と、2つあるだろう。Dの鍵盤に、長調のスライドの「ド」を合わせるか、短調のスライドの「ラ」を合わせるか」


ハル「どっちのスライドを使うのか、見分ける方法は?」


ヤッ子「調号と合っているかだ」背景に調号の図をいくつか。指し棒で「ト音記号などとセットで書かれている、♯や♭が「調号」です」と記す。


ヤッ子「長調のスライドの主音の「ド」を、鍵盤の主音の「D」に合わせると、調号と合わないだろう? 短調の主音の「ラ」を「D」に合わせると、調号と合う」


ハル「あ、本当だ」


ハル「吹奏楽部の見学に行った時、調号の最後の♯や♭に、音階スライドを合わせるって聞いたんですが、長調だけですか?」第4話の場面を思い出す。


ヤッ子「おっ、いい情報を持っているな。最後に、何を合わせるのか、具体的に、何だ?」


ハル「はい。ええーっと」鍵盤モノサシの裏に自分で書いていた、メモを見る。


ハル。棒読みのように、メモを読む。「最後の♯に、音階スライドのシを合わせる。最後の♭に、音階スライドのファを合わせる」


ヤッ子「素晴らしい。その情報は、長調にだけ有効なのか、短調でも有効なのか」


ハル「どうなんでしょう」


ヤッ子「これは、「言われてみれば、当たり前だね」なんだが、どっちでも使える」


ハル「そうなんですか?」


ヤッ子「なぜなら……。なぜだと思う? ヒントは「長調と短調の違いは、要するに何か」だ」


ハル「ええーっと。ドで終わる、ラで終わる」ちょっと考える。


ハル。謎解きができて、安堵の表情。「音階スライドの、区切りが違うだけ。「どこから始まって、どこで終わる」が、違うだけ」


ヤッ子「そうだ! その通り! さあ、詳しく説明してみよう」


ハル「長調の音階スライドは、ここからここまでの長さ」ピアノの鍵盤の、ドからドまでの1オクターブを、両手の指で幅を表す。


ハル「短調の音階スライドは、ここからここまでの長さ」ピアノの鍵盤の、ラからラまでの1オクターブを、両手の指で幅を表す。


ハル「始まりと終わりの位置が違う……」第4話でショージからもらった、長調の音階スライドと、さっきヤッ子からもらった、短調の音階スライドを少しずらして、重ねて持つ。


ハル「こういうことだっ!」自分の考えを確認するために、2枚のスライドを片手で持ちながら、鍵盤モノサシに合わせる。


ハル「こうして、2枚のスライドを重ね持ったまま、鍵盤モノサシのどこなのかということだ」


ハル「だから、最後の♯に、音階スライドのシを合わせる。最後の♭に、音階スライドのファを合わせる。長調でも短調でも同じ」


ヤッ子「素晴らしい。きちんと説明できたな」


ハル「さっき、ヤッ子先生が言った通り、気付けば当たり前ですね」


ヤッ子「長か短か。名前の由来があるだろう」


ハル「距離が長いか短いかの違いですね」


ヤッ子「鍵盤の上に、これを置いてみよう」手を開くと、ダイヤモンドゲームの駒が出現した。


ハル「ヤッ子先生、手品師?」


ヤッ子。ハルの指摘を無視する。「調号に従って駒を置くと、こうなる。ほら、主音のDから数えて、Fまでは「短い3度」、つまり「短3度」だろう。だから短調だ」


ハル「「長は長だらけ」「短は短だらけ」ですね」


ハル「日本語では、ニの鍵盤で、短和音だから、ニ短調ですね」背景に「調はニ短調」と表示。「キーはDマイナー」と並べることで、漢字とフリガナのように見える。


ハル「主音が同じなのに、短調と長調が変わる……あれ? どこかで聞いたな」


ヤッ子「長調の主要三和音は、全部が長和音。短調の主要三和音は、2つが短和音で、1つが長和音」ダイアトニックコードの楽譜を指す。


ヤッ子「主音から数えて1番目と4番目の和音は、長和音と短和音の違いがある」


ハル「大文字と小文字だ!」


ヤッ子「大文字?」


ハル「済みません、以前、ミッツから聞いたのですが、ローマ数字を使って和音を示す方法があって、主音から数え始めるので、主音が変わると数え直しをするって」


ヤッ子「そう、それが転調だ。調号が変わったり、調号は同じでも長調と短調が変わっても転調だ」


ヤッ子「それにしても、蜜霧君の知識には驚きだな。ローマ数字のことも知っているとはな」


ハル「普段は、どんな生活をしているんだか、謎です」


ヤッ子「あはは、そうだな」


ヤッ子「調号は変わらないで、長調から短調に転調することもある。はっきり転調ではなく、転調したっぽいというのもある」


ヤッ子「こうして、調号を変えて転調することもあれば、ほんの短い部分だけの転調は、調号を変えずに、臨時記号で対応することもある」


ヤッ子「『ハバネラ』は、はっきりと転調だが、一時的な転調の「一時転調」をする曲もある」


ハル「はい」


ヤッ子「臨時記号があれば、必ずしも転調かといえば、そうとは限らないってことだ」


ハル「そりゃそうでしょう。メロディが臨時記号ってことは、よくあるし」


ハル「確かに、音階スライドで選ばれた鍵盤だけを使うから、それ以外の鍵盤なら「スライドがずれる」で転調ですが、時々スライド以外の鍵盤を使う度にスライドがずれたら大変です」


ヤッ子「では、ダイアトニックコード以外の和音が使われていたら? 転調か?」


ハル「コードだったら、転調……かな?」


ヤッ子「これもまた、転調とは限らない。更に言えば、メロディは、必ずしも和音構成音を鳴らす必要も無い」


ハル「とにかく、どっちでもいいってこと?」


ヤッ子「そうなのだ。転調なのかの判断は、時にははっきりわかることもあるし、どっちとも思えることもあるし、どの基準を採用するかで変わることもあるのだよ」


ヤッ子「「ほんの短い転調」や「転調したつもり」というのもある」


ハル「音楽って、厄介だな」


ヤッ子「違うのだ。音楽が厄介なのではなく、様々な解釈があって、どれも否定しないでいたいのだ」


ハル「騙し絵のように、見る角度が変われば、違う絵に見えたりするのと似ているかな」


ヤッ子「そうだな。騙し絵として書かれていない曲なのに、騙し絵のように「この角度で見たら」を探すのが楽しい」


ヤッ子「新たな見方や解釈を発見したことを競うのも面白いが、自分が発見した見方を、相手が見付けていないからといって、相手に対して「君はまだ、この曲を理解していない」というのは、避けたいな」


ハル「つまりは、穏便に、楽しくなるよう、努めようってことですね」


ヤッ子「そういうことなのだよ」


ハル「ヤッ子先生の説明は、「そうとは限らない」とか、「どっちも正しい」が多いですね」


ヤッ子「人との余計なトラブルは避けたいしな。しかし、宇宙人に長調と短調の説明をするように、シンプルな説明をしている時に、「そうとは限らない」なんて言うのは無粋だな」


▽ 場面変更 ● ── ●


吹奏楽の練習。


全員、楽器は用意していない。


吹奏楽の先生「先日、提出された『木星』のアナリゼですが、全部読ませていただきました。みなさん、よく頑張りましたね」


背景に、イタリア語「アナリゼ」「analisi」と、英語の「アナライズ」「analyze」と、意味「分析や解析」をフリガナ付きで表示。


BGMは、『木星』( )ホルスト)の中間部分、有名なゆっくりの箇所。


吹奏楽の先生「一部、年代や人間関係など、誤りもありましたが、どれも真摯に書いて下さり、頼もしく感じました」


吹奏楽の先生「情報が異なれば、答えも異なるのは当然です。情報とは、アナリゼに用いた資料だけでなく、皆さんのこれまでの人生も含みます」


吹奏楽の先生「ということは、アナリゼについて語り合う時、「相手は情報が乏しいから、まずはそれを与えないと、正しい会話ができない」と思っても、そうではないかもとも思っていてください」


吹奏楽の先生「相手だって同じことを思っているかも知れません。相手が知っている情報を、自分は知らないのかも知れない。だから、話が噛み合わないのかもと」


吹奏楽の先生「互いに「話を進める準備を与える」であれば、互いに、相手が話している上に、自分の言葉を重ね、いつまでも話が進まずに、言い合いになります。これでは、「会話が成立しない」になります」


吹奏楽の先生「『木星』の話からは逸れますが、情報に関する、一般的な話になります。皆さんは、情報の正しさを、どうやって確認しますか?」


部員達から、いくつかの声が聞こえる。


吹奏楽の先生。部員からの、いくつかの声掛けに答える。「そうですね。では、富士山の高さは、何メートルですか?」


部員「3776メートルです」


吹奏楽の先生「はい、3776メートルですね」黒板に、「3776m」と書く。


吹奏楽の先生「テレビのクイズ番組だけでなく、世の中は、これで正しいとして動いています」


吹奏楽の先生「実は、これは、測量した人が記録する際、誤って書いたものです。正しくは、これです」黒板の「3776」の下に、並べて「3766」と書く。


吹奏楽の先生「同じ数字が並んでいると、このような誤りが誘発されます」


吹奏楽の先生「富士山の高さを確認するために、自分で測量した人はいますか?」


部室内で、軽い笑い声。


黒板に「3766」と書く場面から、誤解を防ぐ目的で、字幕で「この「3766」は、吹奏楽の先生の創作です」の表示を継続する。


吹奏楽の先生「いませんね。ということは、先程の、皆さんが挙げた確認方法は、どれも「伝言ゲームの誤りが無い」というものであり、「3776」と「3766」という異なった情報があれば、どちらが多いかで、確認としていると思います」


吹奏楽の先生「クラシック音楽の、アナリゼのために集めた情報の中には、誤った伝説が混在することもあるでしょう。インターネットや、あちこちの書籍などで、その伝説の種類がたくさんあれば、正しいか誤りかは、判断できません」


吹奏楽の先生「なお、念のために言っておきます。この「3766」というのは、僕の創作です。「3766」は誤りで、「3776」が正しいのです」


吹奏楽の先生「まあ、簡単に言えば、「みんなが言っているから、正しい」というのではなく、「みんなが言っているから、正しいのかも知れないが、未確認だ」ということなので、安直に人を非難することは避けましょう」


部室内で、あちこちから部員達の声がする。富士山の高さに関しては「やっぱりな」「おかしいと思った」「今の時代に、標高を誤るのは、ありえない」など。人を非難することに関するざわめきもある。


吹奏楽の先生。部室内のどよめきがおさまるのを待ってから。「これから、『木星』の練習をします。僕のアナリゼと、みなさんのアナリゼ、異なる箇所はありますが、どれを用いるのかは、僕が統一します」


吹奏楽の先生「僕が統一して、練習を進めます。楽団としての統一が、より良い演奏になると思うからです」


吹奏楽の先生「ただし、現時点での僕の選択が最終的な結論ではありません。練習を繰り返し、これから選択が変わったり、新しいアイディアを思いつくこともあると、承知しておいて下さい」


吹奏楽の先生「では、皆さんのアナリゼを紹介しながら、僕がまとめたお話しをします」スクリーンに、スコアを投影。「指揮者が見るこのスコア、総譜で説明しますので、皆さんは適宜、ご自分の楽譜にメモをお願いします」


吹奏楽の先生「そして、この後、今日の練習は終わりにしますので、皆さんは、今日ここで紹介された他の人のアナリゼを新たな資料として、更に考えてみてください」


▽ 場面変更 ● ── ●


音楽室。さっきの続き。


ハルとヤッ子が、転調の話をしていた。


そこに、ミッツが音楽の先生を、強引に連れて来る。『月の光』( )ドビュッシー)の話題。


ミッツ「『月の光』の下行部分は、フォルテからデミヌエンドか、ピアニシモからクレシェンドか、どっちが正しいか、実際に聞いて、感想をお聞きしたいんです」


背景に楽語と記号の一覧。不等号記号を横に伸ばしたような、クレシェンドとデミヌエンドの楽譜を、上下に並べる。それぞれ「クレシェンド 段々強くする」などの説明。


文字で書く場合もあるとして、「cresc.」「dim.」など、略記と略さない書き方も併記。デミヌエンドはデクレシェンドとも書く。


音楽の先生「ですから、それはご自由にと」


ミッツ「アナリゼをしたんですが、どうしてもわからなくて」


ハルとヤッ子。大声で入って来るミッツに驚く。


ミッツ。ピアノの椅子に座る。音楽の先生に、開いた楽譜集を強引に渡し、「弾きますよ」嬰ハ短調の終わりの、F♯m7の2小節と、続く変ニ長調の始まりまで演奏。F♯m7の部分の強弱の変化を変えて、2回演奏。


ミッツ「どうですか?」


音楽の先生。返答に困る。「どちらも、それぞれの良さがあります」


ハル「それより、アナリゼって何だよ」


ミッツ「解析」


ハル「解析? 解析とは?」


ミッツ「解析は解析。それ以上でも、それ以下でもない」


ヤッ子「まあまあ、早坂君。蜜霧君は今、いつもの落ち着きではないから、私が代わりに答えよう」ハルの頭を、軽く鷲掴みする。


ミッツが、放置されている不安感の表情。音楽の先生が楽譜を指でなぞることで、ミッツの表情が落ち着く。


ハル。ミッツの視線が、こっちから離れたのを確認し、ヤッ子を見上げて優しい笑顔を見せる。ミッツが月経中であることを納得したと、目で伝える。


ヤッ子「アナリゼ、解析とは、作曲者がどんな気持ちで作曲したのか、この曲はどんな構造なのか、調べたり考えたりすることだ」


ヤッ子「さっきの転調の話でも、転調したか、していないか、あれこれ解釈はあるだろう」


ハル「それが、どんな役に立つんですか?」


ステラが入って来る。


ステラ「お邪魔しまーす」


ミッツ「あれ? 吹奏楽部は?」


ステラ「今日は、もう終わりました。『木星』のアナリゼの話だけだったので」


ハル「アナリゼだって? 今、アナリゼの話をしていたんだ。知ってるか?」


ステラ「はい、研究するんでしょ。作曲者が、曲にどんな演奏を求めているか、作曲者の人生や、当時の暮らしを勉強して」


ハル「そう、それが、何の役に立つのかって」ヤッ子を見る。


ヤッ子「より、楽しくなる。例えば、蜜霧君、ピアノを貸してくれないか」


ミッツ「え?」


ヤッ子「アナリゼの話をしてから、『月の光』を聞いてもらおうじゃないか」


ミッツ「あ、はい」


ヤッ子「ベートーベンの、有名な『エリーゼのために』で、こんな箇所があるだろう」左手がラを連打する部分を、サンプルとして数小節。


ヤッ子「これを、どんな曲想にするか。1つは、望みが叶わぬ切なさと、その理由に対する怒りだとすると、それだけでも2通りの演奏ができる。簡単に言えば、右手だけが強いか、左手だけが強いか」


左手連打の部分を、2種類の演奏で、それぞれ途中まで。左手が弱い演奏では、右手は各小節の先頭だけにアクセント。


ヤッ子「別な解釈。『白雪姫』のようなメルヘンで……」ステラの表情が反応する。「……魔物が忍び寄って来る不気味さだとすると、左手は連打の3番目だけ強くする」


左手連打の部分を全部演奏。左手は、各小節3番目の8分音符にアクセント。右手は弱めだが、連続している箇所はクレシェンド。


ハル「おおー」


ヤッ子「同じ楽譜でも、アナリゼによって表現が変わるだろう。どちらが正しいかというより、どちらが好きかだな。正しさだったら「諸説あります」ってことだからな」


ハル「正しさを求めたら駄目なんですか?」


ヤッ子「唯一の正しさは無いと自覚した上なら、議論を楽しめそうだな」


ヤッ子「ついでに言えば、私の姉は、連打の3番目を、1オクターブ低くした。魔物のおそろしさが強くなるとして」数小節、弾く。


ヤッ子「こうすると、ベートーベンの楽譜を書き変えることになるから、冒涜だと非難されることもある」背景に「冒涜」と、そのフリガナ。解説で「神を尊敬しない、けしからん行い」を添える。


ヤッ子「アナリゼは、作曲者の研究だけでなく、曲の構成で「転調したか、していないか」の判断、曲をどのように解釈するかなど、広い意味もある。『エリーゼのために』では、途中で長調に転調している」


ハル「構成の解釈?」


ヤッ子「ショパンの『英雄ポロネーズ』を、姉は蒸気機関車と解釈した。機械が連携して作動するとか、乗っている人と、沿道にいる人が、手を振り合っているとか」


ヤッ子「『英雄ポロネーズ』で、こんな部分があるだろう」少し弾く。ホ長調の左手連打の箇所。前半の途中まで。


ハル。ヤッ子の手元を凝視。


ヤッ子「ここ、「前半の前半」と呼んで伝わればいいのだが、左手の呼応が、右手にある。これを、「コール・アンド・レスポンス」と考えてもいいな」その部分だけを弾く。


ヤッ子「演奏の時、ここに気を付けて弾くか、ただ弾くかには、違いがある。ここがかっこいいと思ったら、自分で作曲する時、この手法の真似をするのも、広い意味での音楽理論だ」


ハル「うん、ちょっと、かっこいいですね」


ヤッ子「この後には、変イ長調なのに、変イ長調では使わない和音がたくさん使われている。隠し絵のように、着目の方法では別な形が見えるような音の隠し絵で、どの調の和音を借りてきているのか」


ハル「どの調からって、知らなきゃダメなんですか?」


ヤッ子「そんなことはない。料理の隠し味を言い当てられなくても、食べて美味しいなら、それでいいだろう」


ショージが入って来る。


ショージ「うん、賑やかですね」


ミッツ。ステラを庇うように、先に声を掛ける。「『エリーゼのために』のアナリゼをしていたの」


ショージ「『エリーゼのために』?」


ハル「左手が連打するところ、3種類の演奏を、ヤッ子先生がしてくれたけど、どれが正しいかというより、どれも面白い」


ショージ「ベートーベンに聞けばいいだろう。恐山に行けば、話くらいは聞けるだろ」


ミッツ「じゃあ、『月の光』はどう?」ちょっと意地悪に聞いてみる。「恐山に行ってくれるかな」


ショージ「やだよ、めんどくさい」


ハル「『英雄ポロネーズ』ってタイトルは、ショパンじゃない、別な人が付けたって、本当ですか?」


ヤッ子「よく知っているな。ショパンは、曲は曲だけでと思っていたらしい。だから、タイトルという言葉を用いなかったという話がある」


ハル「だったら」


ショージ。ハルの言葉に割り込む。「恐山には、行かないぞ」


ハル「どんな解釈が正しいのかは、わからない。現に、ヤッ子先生のお姉さんだって、『英雄ポロネーズ』を蒸気機関車と解釈したり、『エリーゼのために』を白雪姫と解釈したり」


ショージ「かの有名なノストラダムスも、ある研究者は「この予言は、あのことを言い当てていた、すごい」と解釈して、別な研究者は、同じ予言のことを、別な事件を予言していたって」


ハル「え? 1つの予言を、ある人は「これを当てた」と言って、別な人は「あれを当てた」って?」


ショージ「そうなんだ。研究者なのに」


ハル「研究者でも意見が違うんだから、もしかしたら、ヤッ子先生のお姉さんの解釈が正解だとしても、おかしくないですよね」


ヤッ子「もしかすると、作曲者は、楽譜を書いたところで役目を終えて、「後はご自由に」の気持ちだったかもな」


作者の意図とは異なった楽しさの例:おもちゃの「黒ひげ危機一発」の当初のルールは、海賊はロープで縛られて、樽に入れられている。ナイフでロープを切れば救出成功。しかし、海賊が飛び出したら負けのルールが「楽しい」として広まった。


音楽の先生。ミッツに提案。「蜜霧さん。こうして人数が増えましたので、もう一度弾いていただけますか?」


音楽の先生。ミッツに耳打ち。「解説せずに、先にあなたの解釈の演奏、次に一般的な演奏の順で」


ミッツ「はい」


ハル。ステラに小声で教える。「ノストラダムスって、大昔の予言者だよ。詳しくは覚えていないけど、ある研究者は、ノストラダムスは1999年に地球が滅亡すると予言したとか、別な研究者は、滅亡ではなく、惑星直列を予言したとか」


ステラ。ハルの言葉の内容よりも、ハルが教えてくれたことに感動する顔。


ハルの言葉に合わせ、字幕。「ハルは、オカルトも好きですが、曖昧な記憶で話しています」


ミッツ。該当の箇所の、数小節前から演奏する。


ミッツ「まずはこれ」ピアニシモからクレシェンドで演奏する。


ミッツ「次はこれ」フォルテからデミヌエンドで演奏する。


ミッツ「どっちがいい?」ステラを見る。


ステラ「1回目の方が好き。迫って来るような」


ショージ「荘厳な月の光が?」


ステラ「そう、神々しいエネルギーが降って来て、何て言うのかなあ、命がふりそそいで、地球の生命が始まるような」


ハル「俺は、2回目の方がしっくりする。爆音が静まって、月の表面のように石だらけの荒野って感じ」


ショージ「そこの前は、静かなんだから、最高音だけ、いきなり強くってのは、おかしくないか?」


ショージ「まあ、俺は、どっちもいい、というか、どっちでもいいや、って感じだ。俺はアイドル音楽が好きで、クラシック音楽は専門外だし、細かな感情表現は、よくわからない」


ミッツ「デタラメだなあ」


ショージ「デタラメって」少し不機嫌になる。


ヤッ子「さっきも言ったように、料理の隠し味を言い当てられなくても、食べて美味しいなら、それでいいだろう。それから、『月の光』というタイトルはあるが、作曲者であれば、「その感じ方は誤りだ」とは言わないだろう」


音楽の先生「こだわり無く聞くのも楽しいものです。演奏者や評論家などの細かな気遣いに、興味が薄いこともあります」


ミッツ。音楽の先生を見て「先生はどうですか? どっちの演奏が良いですか?」


音楽の先生「三者三様の好みがありましたね。僕はどちらも素敵だと思いますが、「本木に優る末木( )うらき)無し」という言葉を思い出しました」


ミッツ「どういう意味です?」


音楽の先生「元々の意味は、「不満があって交換したが、最初のものが良かった」というのだそうです。僕は、最初に慣れ親しんだ方に愛着があるという意味で用いています」


ショージ「シメジ婆さんが言ってたな。「懐かしさは、幸せによく似たニセモノ」だって」


ミッツ「そうだっけ? 「懐かしい頃には戻れないが、幸せな気持ちは味わえる」じゃなかったっけ?」


ステラ「先生の仰ったのは、どのような意味だったのですか?」


音楽の先生。申し訳なさそうに、ヤッ子を見る。


ヤッ子「ああ……」言い淀む。「……人それぞれの好みなのに、自分と同じ意見の人を集めようとする気持ちはわかる」


ヤッ子「同じ意見の人が多くても、それは正しさの証明にはならない。趣味ならば、正しさではなく、楽しさで演奏方法を選ぶのも自由だ」


ヤッ子「もし、プロとして生活するのなら、お客様の期待に応えなければならない。そうでなければ、お客様を喜ばせる驚きか」


音楽の先生。ヤッ子に向かって「申し訳ありませんでした。どうしても、僕には……」


ヤッ子「いえいえ。先生は、姉のことをご存知ですから」


ヤッ子「蜜霧君。偶然だが、私の姉も、よく似た解釈だった。解析もしたが、自分なりの解釈や、自分の好みも大きいな」


ヤッ子「きっかけは、『牢獄のバイオリン職人』という絵だった」


絵の名は、正しくは『牢獄でヴァイオリンを作る職人』らしい。映画『耳をすませば』( )スタジオジブリ)。


ヤッ子「ある時、『月の光』を弾いていて、その絵を思い出したそうだ」


ヤッ子「深夜、山に囲まれた広い湖があり、まるで鏡のようにまっ平らな湖面に、屋根を開けたグランドピアノが置かれている。凍っていない水の上に、ピアノが置かれているなんておかしいが、そんな印象だと」


ヤッ子「空は、凛とした静けさで、星は全く無い。ただ、満月だけが、真夜中の天空にある」


ヤッ子「『牢獄のバイオリン職人』のように、月から一条の光が、ピアノを照らしている。月の光がスポットライトのように、一条の光とはおかしいがな」背景に「一条の光」と、その意味「1本の筋のような光」を添える。


ここ部分は、背景の解説文を読みながら、セリフを聞くので、セリフは単語で少し間を空けながら。


ヤッ子「月の優しい眼差しなのか、空気も無い宇宙空間を、約束を守るように届けられた光……」


ヤッ子「それは、マグリットの絵画にも似た、曇天の大海原を、たった一羽で飛ぶ、シルエットだけが見える小さな鳥のように、約束を守ろうとする想い、孤独な、遠い……」


ヤッ子「姉は自分の中から湧き出る想いを、物語や、絵や、詩作で表現するのが好きだった。しかし残念ながら、自分の想いを表現することを、周囲の大人達から否定され続けた」


ヤッ子。『月の光』の楽譜を手に取る。「この曲だけでなく、様々な曲に物語を見出し、自分の信じた演奏を頑なに続けたため、デビューはできなかったんだ」


背景に、第6話の美音の場面をいくつか。コンクールで悪魔の妄想シーン、ポピュラー音楽のバックバンドのコンサートで失敗するシーン、投身自殺で光る粒子になるシーン。


ヤッ子「みんなが知っている表現、みんなが「正しい」と思い、「こうあるべき」に応える、安心して聞ける表現をしなかったから」


背景に、頑固オヤジが「納豆は、こうあるべき!」と言っている絵を表示。


ミッツ「安心して?」


ヤッ子「お客様にとって、知っている曲を期待と違う演奏にされたら、奇異に感じるだろうな」


ミッツ「確かに。『月の光』が、タンタンタン……」F♯m7の下行を、フォルテからデミヌエンドで歌う。「……を期待している人にとっては、タンタンタン……」今度はクレシェンドで歌う。「……となると、期待外れかも」


ここで、ミッツの歌声は、歌うというより、しゃべる表現。または、歌わずに、「強い音から、弱くして行く」の言葉でも良い。手振りをする。


ハル「良い意味での期待外れ、うーん、心の準備とは違うものでも、期待以上の楽しみがあれば、それはそれで、喜ばれるけど。手品って、そうだし」


ヤッ子。気分を変えるように「まあ、姉がデビューできなかったのは……」


ヤッ子。心の声。「( )絵を描くことと比較して、興味の薄いピアノを強要され、ピアノと「厭なこと」がセットになり……)」眉を顰め、頸を横に振る。


ヤッ子「姉はそもそも、プロのピアニストになる気持ちが無かったことと、ピアノに限ったことだが、人付き合いが苦手だったってのが、大きな要因だがな」表情は、清々しくはないが、もう、どうにもならない、受け入れた表情。


この時のヤッ子の表情は、映画『大病人』( )伊丹十三、三國連太郎)で、主人公が逝去した後の、医者( )津川雅彦)の帰路の表情を参考にする。


ハル「人付き合い?」


ヤッ子「そりゃそうだ。誰だって、一緒にいて楽しい相手と、仕事をしたがるからな。あの人となら、もう一度、仕事がしたいと思ってもらえる」


ヤッ子「人付き合いが上手だったら、みんなの馴染みの無い演奏をしても、そんなキャラとして受け入れられる可能性も、無いではなかったのだがな」


ヤッ子「姉は、自分の好きなようにピアノを弾くことを好んだが、自分勝手ではない。頼まれてピアノを弾く場合は、誠実に期待に応えようとしていた。しかし、内気であり、次の仕事の紹介には二の足を踏まれる」


ヤッ子「内気を大きくする理由は、もうひとつある。姉は、クラシック音楽だけを専門にしていたので、リズムが複雑なポピュラー音楽は、技術に含まれていない、沁みついていなかった」


ヤッ子「完成された楽譜を受け取って、練習して、上手に弾ける技術は持っていた。しかし、本番前に向けて、合同演奏しながら完成に向けて楽譜を書き換えることは、大きな文化の違いとして、対応できなかった」


ヤッ子は、この場の主題に範囲内で、姉の生涯を知らないハルとミッツにもわかるような言い方をした。


ショージは、第6話で詳しく聞いたが、重い話なので、ここでは口を出さない。


ヤッ子「蜜霧君」


ミッツ「はい」


ヤッ子「仮に、ピアニストを探している人がいるとしよう。君と一緒に仕事をして楽しいと思った人がいたら、君が紹介される」


ミッツ。笑顔が止まらない。


ヤッ子「もし、デタラメな人を紹介すると、責任問題だからな。紹介するからには、紹介して喜ばれると確信している必要がある。こうして、良い人脈が広がる」


ヤッ子「ピアニストといっても、分野はいくつもあるが、ピアノが弾けるのは当然の条件だ」


ヤッ子「芸能界は、他人を蹴落としてでもとか、根回し上手だとか、周囲への気遣いが大切だとか。プロの芸能界の都市伝説の、どれが本当か嘘かは知らないが、仕事を受ける始まりは、責任を伴った紹介が多い」


ヤッ子「仕事とは、誰かから「ありがとう」の言葉と共にお金をもらう。お金をくれる人に好かれる、「人柄」というのも、重要な条件なのだ。そのために、君達はこうして、人柄を作る試行錯誤の学校生活をしている」


ヤッ子「ということは、どんなにピアノが上手でも、性格が悪ければ、呼ばれることは減るだろうな」


ミッツ。笑顔が固まる。黒目が急激に小さくなる、口の形が変わるなど。


ハル。ミッツに、小馬鹿にする顔を向ける。「性格が悪ければ」


ミッツ。少し怒った様子で。「でも、音楽も美術も、芸術って、芸術の技量で評価されるべきなんじゃないですか!」


ヤッ子「蜜霧君が悪い人ではないとは、私も知っている。芸術に限らず、商業商品でも、商品の質そのもので評価されるべきというのは理想だ」


ミッツ「昔は、性格が破綻していても、芸術の質そのもので評価されていましたよね」


ヤッ子「否定されていると感じたのなら、申し訳ない。現代の時代の話をしているので、違う基準を持ち出したら、話がややこしくなる」


ショージ。ヤッ子に向かって。「福岡で生まれ育った人は、それだけで、芸能人になる資質の、半分を得られるって、本当ですか?」


ミッツ。ヤッ子を見る。これまで、地域の名前が出ると、過去の恋愛遍歴の思い出で、愉快な反応をしているため。


ヤッ子。意外にも、普通の態度。


ヤッ子「それは、福岡県が出身の芸能人が、冗談で言ったことだろう。確かに、土地柄はあるが、全員がそうとは限らないのは、どの地域にも当てはまる」


ヤッ子「土地柄や、家庭での育てられ方や、本人の才能や、様々な要因が複雑に干渉する。要するに、「育ち方で人生が決まる」を、簡単に予測したり、過去を推測するのは、そのような傾向というだけで、正確なことは無理だ」


ショージ「その、様々な複雑さの結果で、様々な人柄となって、様々な人生になるんですね」


ハル。改めてミッツに、小馬鹿にする顔を向ける。


ヤッ子「ところで、早坂君」


ハル「はいっ」その顔のまま、ヤッ子に向く。


ヤッ子「人付き合いで思い出した。解析や解釈の話題から変わるんだが、実は、君に対する心配が、2つあるんだが」少し、真面目な雰囲気。


ハル「え? はい、何でしょうか」


ヤッ子「ひとつは、君に楽典を勧めたのは私だが、余計なことだったのではないか。もうひとつは、楽典だけでなく、音楽の質問をいくつも受けているが、私の説明で理解できているか」


ハル「いえいえ、楽典の謎解きは楽しいですし、説明もわかりやすくて、助かっています」


ショージ「でも、俺にはなんだか、理屈っぽくて、難しい」


ヤッ子「それは済まなかった。東海林君への説明だったら、もう少し別な言い方だったろうな」


音楽の先生「人によって、受け取り方が違うことは、よくありますね」


ステラ「どういうことですか?」


音楽の先生「東海林君は、既に楽典を知っていますので、簡素な話し方をしても通じるでしょう。既にある知識を流用して、次の説明に役立てることもできます。けれど、それは、知っている者同士のことです」


ヤッ子「校内放送で、ああ、校内放送だから、ゆっくり丁寧に、こう言ったとしよう。「進路指導です。部活動に、所属している、2年生と、3年生は、体育館に、集合してください」と」


ハル「それって……」気になって、問いただそうとする。


ショージ「ああ、進路指導のですね」


ハル「え?」


ヤッ子「東海林君は、3年生の全員だと知っているだろう?」


ショージ「はい」


ヤッ子「しかし、早坂君は、さっき気になって、問いただそうとしただろう。「どっちの意味だろう」と気になって、次の話が耳に入らないのではないか?」


ハル「そうなんです。2年生は、部活動をしている人だけですよね。でも、3年生は、部活動をしている人だけなのか、全員なのか、どっちなんですか?」


音楽の先生「2年生と3年生向けの進路指導があるとは、現在2年生の東海林君は知っています。しかし、1年生の早坂君はそれを知りません」


その他の、使えそうな表現。テレビ番組『所さんの目がテン!』( )日本テレビ)で、減量と食事の話題で、「食事の回数を、5回にする」があった。「5回に増やす」か「5回に分ける」のどちらかは、放送の続きで明らかになる。


この食事回数の話を使う場合、注意喚起。食事は、健康に関わること。素人がうろ覚えで中途半端な知識で行うと、健康に害を及ぼすこともある。


その他の、使えそうな表現。拳銃の2種類。「シングルアクション」「ダブルアクション」。拳銃を撃つには、「撃鉄を起こす」「撃鉄が弾を叩く」の、2つの動作が必要。この2つの動作を、「人間が行う」「銃が行う」のどちらか。


その他の、使えそうな表現。液体の洗濯洗剤が品切れ。ボトルが空っぽ。予備の、詰め替え用の洗剤がある。袋には「液体洗剤」とある。これだけでは、洗濯洗剤か、食器洗剤か、不明。


今は、洗濯用洗剤を探しているから、ショージなら洗濯用洗剤と思う。ハルなら、食器用洗剤かもと思い、確認する。袋の後ろ側には、絵で、盥で手洗いするなどが描かれている。小さな文字で「洗濯用合成洗剤」とある。


その他の、使えそうな表現。「コップの底」は、コップの内側と外側のどちらの意味にもなる。「外側なら、コップの裏と言うだろう」は、迷う前には思い付いていない。


音楽の先生「ですから、音楽用語を使って、意味を教えると、東海林君は理解してくれます。しかし、早坂君に対しては、その教え方は不適切です」


ハル「それを考慮して、説明のしかたを変えているんですか? すごい」


ヤッ子「それが仕事だからな。授業でみんなに「わかりましたか」と問い、「はい」という返事があったからといっても、わからない生徒は、わからないと言い出しにくい」


音楽の先生「2つの解釈、AとBのどちらの解釈もできるのに、片方の解釈だけだと勘違いしていたら、後で面倒なことになります」


ミッツ「Aの解釈に決まっていると思って説明していて、Bの解釈に決まっていると思って聞いていたら、聞いている方は「さっきと矛盾する」になりますね」


ヤッ子「どこがわからないのか尋ねても、「全部がわからない」の返答だ。自戒を含めて言うと、「こいつは、馬鹿か」と非難する前に、「知らない相手が、誤解可能か」と、振り返る」


この気遣いは、第1話の、トロンボーン先輩も受け継いでいる。転校生のステラは、転入したばかりで、しかも、楽器の初心者であるから、覚えることが多い。


大変な状況のステラに対して、「既に教えた専門用語だとしても、まだ定着していないうちに、その専門用語を多用して説明すると、理解が追い付かないよね」と言った。


その他の例。電車に乗るには、乗車券を買う必要がある。乗車券は、いつまで持っているのか不明。乗車券を持っていれば、改札を通らずに、近道で柵を乗り越えてもいいと勘違い。


買うのは「乗車券」であり、「切符」「きっぷ」は俗称。「電車」と言えば、路面電車を思い浮かべ、停留所で乗降するのが常識の場合もある。


ミッツ「知っているからこそ、Aの解釈しか、思い付かないこともありますね」


ショージ「詐欺対策として、どちらの意味にも解釈できる返答ではなく、きっぱり断る言い方を紹介していますね」背景に、「結構です」「じゃあ、契約」の絵と、「いりません」の絵。


ヤッ子「既に教えた用語を用いての説明も、用語に馴染みが薄いので、多用は避けたいな」


ミッツ「あっ、わかります」


ヤッ子。ハルに向かって。「下属調に転調し、完全終始した後、元の調に戻ると、属和音から再開する印象になる。どこか、わからないことは、あるか?」


ハル「全部、わかりません」


ショージ「えっ、今の説明で十分だろう」


ハル「まだ頭の中に、専門用語の意味が定着する前だから、専門用語で意味を説明されても、理解が追い付かない」


ここで、『春の小川』で実演する場面は、無くても良い。


ヤッ子「では、これはどうだ」ピアノで、『春の小川』を、ハ長調で演奏。リハーサルナンバーは「A、A'、B、A''」として説明。


ヤッ子。『春の小川』のA'の終わりからBに変わる時に、少しゆっくりと演奏する。


ヤッ子「ここの感じを覚えておいてくれ」


ハル「はい」


ヤッ子。アドリブで短い曲を演奏。ト長調のAメロが、コード「C」で完全終始し、またAメロが始まる。


ハル。気付いて納得したように。「あ、似たような雰囲気」


ヤッ子「さっきの『春の小川』では、Aメロが終わって、Bメロに変わる時に、この感じだった。今、弾いたのはアドリブだが、Aメロの繰り返しで、似た雰囲気になった」


ハル「どういうカラクリですか?」


ヤッ子「『春の小川』はハ長調で、和音はこれ、メロディはこれで終わる。ハ長調だから、ドが基本だな」


鍵盤の図形。左手の和音の鍵盤を水色にする。右手のメロディの鍵盤はピンクにする。右手と左手は、1オクターブ以上の余白を設ける。色の変わった鍵盤に「ド」「ミ」「ソ」の階名を付ける。


ヤッ子「これで一区切りして、再開は、ソが基本のト長調の和音とメロディだ」


ハ長調の鍵盤が画面上部に移動し、画面下部にはト長調の音階に印を付けた鍵盤が出現する。上部の押さえる鍵盤から、下部の押さえる鍵盤まで、線で繋げる。


ハル「へえ、そんな移動をすると、こんな雰囲気になるんですね」


ヤッ子「そこで、アドリブで弾いたのは、Aメロがト長調で始まっているが、いつの間にかハ長調になって一区切りする。再開すると、似た雰囲気になる」


ハル「あ、そういうことですか。ト長調がハ長調に変わっていたんですね。えーっと、転調したんですね」


ヤッ子「そう、転調だ。ハ長調の主音はこれで……」鍵盤のドを指す。「……ここから5番目のソ……」鍵盤のソを指す。鍵盤には、階名と数字を記す。「……は、属音と呼ぶ」


ハル「あ、そうか、属音でしたね」


ヤッ子「そこで、ドが主音のハ長調にとっては、ソは属音なのに、ソを主音としているト長調は「属調」なんだ」


ハル「ということは、区切りのところで属調に転調すると、さっきの雰囲気になるんですね」


ヤッ子「そういうことだ。勿論、これは音楽の技術、音楽理論だから、いつでも必ずこうなるとは限らないがな」


ヤッ子「正しく言うと、『春の小川』は属調に転調したのではなく、区切りからの再開に属和音を使っているだけだがな」


ヤッ子「ざっと、こんな説明方法だ。さっき東海林君に言ったのは……」背景に、ショージに言ったセリフを文字で表示。「……意味を用いた説明だ。これなら、「全部がわからない」になるだろう?」


ハル「さすが、ヤッ子先生は、よくわかっていらっしゃる」


ヤッ子「東海林君は、わかるだろう?」


ショージ「ばっちり、わかりますが、理屈っぽくて難しいという感じもします」


ミッツ「でも、楽典はちゃんとした書籍もあるし、受け取り方の違いは少ないんじゃないでしょうか」


音楽の先生「世の中、様々な解説本があって、しかも、同じジャンルの新たな解説本が出版されています。音楽に限らず」


ミッツ「コンピュータの本なんて、同じジャンルでも、どんどん出ていますよね。どうして?」


音楽の先生「もちろん、経済活動として新刊を作るのもあるでしょうが、既存の書籍を読んで「自分なら、これよりもっと、わかりやすいものを書ける」って思うのも、きっかけのひとつと推測します」


ステラ。目からウロコが落ちたように「あ……」


音楽の先生「だから、「最もわかりやすい書籍は?」の問いには、自分には合っていても、他人にも合っているとは限りません」


ハル「そうですよね、僕に楽典を勧めたヤッ子先生」


ヤッ子「そうだったな。市販の楽典は、早坂君には面白くないだろう。そう言った記憶がある」


ミッツ「でも、そろそろ、市販の楽典を読んでもいいんじゃない?」


ヤッ子「それなら、音楽の事典がいいだろう。こればかりは、ネットよりも、書籍の事典が良さそうだな」


ステラ「ちょっと思ったんですが、ちゃんと書いてある楽典を読まない理由はなんですか?」


ハル「それはきっと、楽典の書籍なら「これを覚えなさい」ってもんだから、謎解きとは違うから」


ステラ「興味を引かないってこと?」


ハル「うん。調べものは謎解きで好きだけど、何て言うのかなあ、もっと根本的な……」


ステラ「根本的?」


ハル「じゃあ……。ステラ、頭の中で数を数えてごらん。できる?」


ステラ「はい……」数える。「……普通にできますが」


ハル「じゃあ、これはできるかな?」


ハル。指を1本出す。「何かをしゃべりながら、数えること」


ハル。指を2本出す。「何かを読みながら、数えること」


ステラ「え? え?」


ハル「みんなも、できるかな? ヤッ子先生も」


しゃべりながら数える。全員が、それぞれ別なことをしゃべりながらなので、混沌とする。


読みながら数える。全員が、それぞれ何かを見ている。急に静かになったので、不気味な雰囲気。全員の口は、おちょぼ口の口角が下がった形で、黙っていることを表す。心の声が、あちこちに吹き出しで、1文字ずつ表示される。


ショージ「俺は、読みながらはできるが、しゃべりながらはできない。こんなこと、できる奴がいるのか?」


ミッツ「あたしは、読みながらだったら無理。しゃべりながらはできた」


ステラ「不思議。どうして?」


ハル「頭の中で数えるっていう、こんな単純なことなのに、「全員が共通の方法だ」というのではなく、人によって方法が違うんだ」


ステラ「はい……」


ハル「ということは、どんな説明がわかりやすいかも、人によって異なる」


ヤッ子「授業で、先生の説明では、よくわからなかったのに、後で友達から聞いたら、すぐに理解できたという経験はないか?」


ステラ「あ、あります。理科の授業が、わかりにくくって」


ヤッ子「耳が痛いな」


ハル「頭の中で数える方法が違うことに加えて、好みも人それぞれだから、「この説明でわからないなんて、お前は馬鹿だ」なんて思わない方がいいな」


ヤッ子「重ね重ね、耳が痛いな」


ハル「いや、だから、ヤッ子先生の説明はわかりやすくって、助かっています」


ステラ。ハルに憧れの眼差しで「早坂さんって、気遣いが素敵ですね」


ヤッ子「早坂君は、蜜霧君から、痛みを伴って女心を教わっているからな」


ハル「言わないでください」


ステラ。少しうつむく。心の声。「( )やっぱり、早坂さんと、蜜霧先輩は、とても親密な関係なのかな)」


▼ CM明け。   ▼──   ──▼


CM明けの定型。他の登場人物は知らない、自宅などの場面。


ヤッ子。自宅。ボロアパート。


室内はファッション的に工夫されているが、簡素であり、余計な装飾ではない。


よく片付けられており、室内の各領域は明確。洋風と和風( )板の間と畳の間)の使い分けと、家具などの実用的な配置。


半分ふすまが開いている押し入れの中には、本棚があり、年代別の書類ケースがある。


ふすまの右側( )左右の2枚のふすまのうち、手前側)には、ロートレックの大きなポスター。


ピアノは生ピアノではなく、いわゆる「電子ピアノ」だが、すごく高級なもの。


ピアノの隣の書架には、大量の楽譜。埃除けの布( )カーテン)は、セザンヌの絵。


ヤッ子。外出前の服装。


ヤッ子「まだ、時間に余裕があるな。コーヒーでも飲むか」持っていた楽譜を、セザンヌのカーテンを開けて、書架にしまう。


台所に行く。加湿器が稼働している、または、それに類似する状況。当アニメでは季節感が稀薄なので、加湿器があると、冬を強調してしまうかも。


マグカップで、インスタントコーヒーの準備。


砂糖壷を見ると、蓋が少し空いている。砂糖壷は、サラダポットや、ピクルス入れのような、ガラス瓶で、蓋がレバーで閉まるもの。


ヤッ子「あ、しっかり閉めてなかったか。失敗したな」


砂糖壷の中で、砂糖が固まっている。スプーン( )プラスチック製)で突いても、崩れない。


砂糖壷の蓋を閉め、砂糖壷で踵を叩く。両脚が数字の「4」の形。まだ崩れない。何度も叩いて崩す。


叩く時には、気合の「ふんっ! ふんっ!」の声、または、想像を絶する間抜けな音。または、「ふぎゃ」などの奇声。


インスタントコーヒーを入れる。


別な日の、ヤッ子の自宅。別な日であることを示すために、アパートの外観の風景を、ト音記号か何かが横切り、天気が変わっても良い。


寝起きのパジャマ。あくびをしている。眉尻は、休日で剃っていないのが、少しわかる。眼鏡をしていない。裸足で、くるぶしとアキレス腱が色っぽい。くるぶしの後ろ( )外果後部)の凹みがあり、アキレス腱を少し強調。


ここでは、小説『雪国』( )川端康成)にある「足指の裏の窪みまできれいであろうと思われた」の表現は、過剰。


髪の毛は、妖怪のように広がったまま、固まっている。ふわふわしても良いが、固まったままの方が面白そう。


インスタントコーヒーの準備。


砂糖壷の中が、ほとんど空っぽ。僅かな残りを、マグカップに入れる。


新品の砂糖の袋を開ける。端に空気穴を開け、少しずつ空気を入れる。袋を揉んで、砂糖を崩しながら、空気がたくさん入ったところで、角を鋏で切り落とす。


この、砂糖の袋を開ける描写は、ヤッ子目線。眼鏡型小型カメラでの撮影を参考にすると良さそう。


袋を逆さまにし、袋をもみもみしながら、砂糖を補充。「もみ」の文字が、いくつか出現しては消える。


あくびをしながら、袋の口をくるくると、幾重にも折り畳み、洗濯ばさみで留める。


砂糖壷を見ると、空っぽ。頭に「?」が浮かぶ。


マグカップを見ると、砂糖がどっさり。


スプーンは黒で、音符の形。台所のお玉も音符と同じで、ヤッ子の自宅には、隠し絵のように。あれこれ音楽関係の形の道具がある。


冷蔵庫のドアの取っ手は、サックス。サックスのベル( )朝顔)には、造花による小さな花束( )サイズがぴったり)を入れていたり、何か実用的な物( )調味料、ストローなど)を入れているなど、装飾か実用的か、利用している。


キッチンラック( )格子の20cm程度のテーブル)はハープ。


アニメで表現しやすければ、どんなものでも良い。



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