18 その扉は最初からそこにあったかのように自然に出現した。
謎の地下室、その正体は。
その扉は最初からそこにあったかのように自然に出現した。色々とガチャガチャ歯車が動く音がしたと思ったら大時計が奥の壁に引っ込み、人1人が通れるぐらいの隙間と、奥へと下っていく階段がバキバキと降りていく。
「ホーリー?」
「知らないですって。」
僕は知らないことだったので嘘は言っていない。知識として知っている「俺」のテンションがちょっと面白ことになっているけど、この先に進む勇気はない。
「隠し部屋か・・・。これはローガンに伝えておくべきか、とりあえず、勝手に閉まらないように何かつっかえ棒になりそうなものは・・・。」
驚いて動かない僕を横目に、ラルフさんは応接間を見回して、1人掛けのソファーを持ち上げて隙間に置く。そういえば、この仕掛けってどうやって閉めるんだろう?ゲームでは、ラスボスを倒すと自爆装置が発動して、崩落してしまうから閉め方の説明はなかった・・・。
「あの、これ大丈夫なんですか?」
「どうしたホーリー?」
「いや、だって、こんな手の込んだ仕掛けをした人が侵入者対策をしてないってことありますかね?」
この地下にあるものがゲーム通りならば、かなりの大空間が広がっている、はず。それを為したのは「リドル」を使ってウッディ・リドルが作り出したモンスターたち。
「敗北しているなら、危険はないと思うけど。」
「なるほど、ここが舞台になるはずだったわけか。」
リーフさんに聞こえるかもと思って言葉少ないやりとりになってしまうが、ラルフさんは経験者で僕には「俺」の知識がある。そんな2人からして、この扉の先に危険はないはずだった。
少なくともリドル関連のあれやこれやは機能していないはず。
それならばどうする?少なくとも一般市民である僕たちにできることはない。
「・・・今の音なに?」
「ばうばう。」
どうしたものかと思っていたら、リーフさんがのんびりと戻ってきた。服やらぬいぐるみの詰まったカゴを両手で抱え、その足元をエメルがうろちょろしていた。
「リーフさんお疲れ、手伝う?」
「そうだね、車ならもっと運べるよ。」
「・・・そっか、それならまだ持ち出せるね?」
そう言ってカゴを床に置くリーフさん。手伝ってもらうという発想がなかったらしい。
「・・・で、あれはなに?」
「それは、できたら僕が聞きたいんだけど・・・。」
改めて自分の家にある見慣れない隙間にリーフさんは首をかしげる。
「私も知らない。もしかして警察?」
「いや、さすがに警察だってこんな大穴はあけないよ。」
疑わし気な瞳がラルフさんに向けられるが、それも違う。
「・・・じゃあ、パパが?」
「あんがい、引っ越す前からあったかもしれないね。そこの時計って大分古い物でしょ?」
「・・・うん、引っ越す前からあった。見た目がかっこいいからってパパがそのままにしてた。」
そんな会話をしながらも、リーフさんの前髪の隙間から見える瞳は、部屋の大穴に注がれていた。
「・・・入る?」
「「いやいや、やめよう。」」
「ならいい。」
リーフさんもあまり興味がないようだったので、扉は放置、
「バウ―――。」
だが、ケダマもといエメルがリーフさんの足元から飛び出し、そのまま隙間に飛び込んでしまう。
「エメル!」
驚いてリーフさんが後を追おうとするが、その腕をつかんで止める。
「まって、そのままじゃ危ないよ。」
「で、でも。」
よほど心配なのか、リーフさんはすごい力だった。腕に抱き着くようにしがみついているのにそのまま引きずられそうになる。
「あっそうだ。灯り、懐中電灯とかない?」
「・・・たしか、そこの引き出しにあったと思う。」
隙間の先は真っ暗で何も見えない。どこかにスイッチがあるかもしれないけど、灯りなしで飛び込むのはあまりに危ない。
「そうだね、車にも積んであるから持ってくる。いいかい、2人だけで行ってはいけないからね。」
もっともな理由をつけて、リーフさんを足止めすると、ラルフさんは慌てて外へとでていった。
「・・・ごめん。」
「いいよ、いきなり飛び出したなら心配するのは当然だよ。」
「・・・ごめんなさい。」
エメルに言ったつもりだったけど、よく考えればリーフさんに向けていった意味にもとれてしまうなこれ。てか、がっつり抱き着いてない。
「ああ、ごめん、そんなつもりじゃ。」
「・・・エメルは暗いとこが好きみたいで、軒下とか隙間に入りたがるの。」
慌てて離れようとしたら、逆につかまれた。
「ねえ、あれってネコなのかな、それとも犬?ホーリーはどっちだと思う?」
いや、知らんがな。
「・・・あれかな。さすがにローズさんのところじゃ飼えないよねー。」
「うーん、そうだね、飲食店にペットってたしかに。」
それに、いつまでもローズさんのところにいるわけにもいかないんじゃないだろうか?リーフさんはそう思っているのかもしれない。
「せめて、エメルは連れていきたいなあ。」
ああ、そうか。この光景に一番ショックなのは、リーフさんだ。
疑問を抱き予想をしていたけど、父親が犯罪者であり、自分が被害者であった事実。暮らしてきた家に帰れなくなった。戻ってみれば知らない扉。
そして、友人でありペットが離れてしまった。
彼女が何をしたというのだろうか。何も悪いことはしていないのに。
「うん、入ってみよう。懐中電灯はそこ?」
恐怖に足が竦んでいた自分が情けない。結果として平和になったとしても、歯車を狂わせたなら、僕は彼女に寄り添うべきなんだ。
マイペースなモフモフは話の展開に便利だなー。そして、次回は微ホラーとなります。




