[6] 1430.
#07. Cracking 処分 [14]
#08. Reboot 脱出 [7]
#12. Complete 細胞の記憶 [8]
やがて、大粒の雨が急に車体を叩き始めた。
雨脚は強く、2人をみるみる濡らしていく。
しかし、彼女の涙はそれ以上だった。
咽び泣き、その後も自分を責め立てる言葉を連ね続ける。
ヘンリーは、そこに浮かび上がる彼女の目つきが、まるで自分を見ているようでならなかった。
見入ってしまう中、あの子は死んじゃったというワードが引っ掛かる。
それが、彼女を突き放そうとする手を完全に止めた。
“仲良くしてもらえると、とても嬉しいんだけど……”
あの晩の、レアールの言葉を思い出す。
“彼女……どうしようもなく寂しがり屋だから……”
「……ど…け………どけっ……」
「嫌よっ!」
レイシャは血相を変え、ヘンリーを睨みつけた。
「これもっ…これだって私のせいじゃないっ!
そうでしょっ…」
雨は、2人をすっかりずぶ濡れにした。
ヘンリーは、予定外の事が起きて苛立つのだが、腹の底から押し切ろうとしない。
できなかった。
「私がっ…私が貴方をそうさせたっ……」
そこへ即、右手で彼女の口をそっと塞ぐ。
「違う………違うよ……」
引き金はもっと他にある。
決して、殺人のキッカケは彼女ではない。
「違う……だからもう……責めるな……
もう…忘れろ……行け……」
彼女は尚も首を振り、彼を睨む。
そして彼の手首に掴みかかると、その手を激しく振り解いた。
塞いでいたその手もまた、弱々しいものだった。
「もう嫌っ!嫌よっ!ねぇお願い、何でもする……
何でもするからっ……
あの子と…あの子と連れてって…お願いっ……
お願いよ…」
彼女は顔を彼の胸に押しつけ、懇願し続けた。
身動きできず、しばらくそのままの体勢で、ヘンリーは目を覆う。
連れて行ったところで、行き着く先は決まっている。
もう、決めているのだ。
しかし、彼女もまた、過去に自殺未遂を犯していると聞いている。
どうしても捨てきれなかった。
こんなに汚れて最悪な自分を、彼女は一向に放さない。
ふと、震える溜め息と共に白い息が立つ。
海に飛び込んだように、全身がすっかり湿って重く、寒い。
早くせねばと気が急く中、彼女の肩を掴んで強引に離し、顔を覗き込む。
もう、決めている事がある。
歯止めが利かない体である。
そんな自分も、長く生きる事はない。
そんな事、許されやしない。
「………従う…か…?」
(いや……違う……)
レイシャは激しく肩で息をしながら、体を震わせ、耳を澄ませる。
「…………最終判断には………絶対従え……」
「……何…それ………」
「来るなら従えっ!でなきゃ消えろ…
どこへでも行って…勝手に…
勝手に通報でもなんでもしろっ!」
(ほら……行け……行けよ……)
中身の無い馬鹿げた指示を、つい怒鳴りながら放った。
しかし、彼女はそれに怯まず考えている。
ここで別れてしまえば、今度こそ会えない。
これ以上、彼を放っておきたくない。
もう、独りにさせやしない。
独りに、なりたくない。
「……………分かった…」
互いの視線は、そっと同時に落ちていく。
互いに酷く虚ろな状態だ。
髪や鍔から雫を滴らせ、俯き、どこかを凝視している。
(ああ……何でだ……バカ野郎……)
右手は彼女の肩をいつまでも掴み、放さない。
それが最大の答えではないか。
最高で、最悪の再会を結局、手放せない。
都合がよすぎる生き物らしく、その時がくるまで貫いてやる。
遠雷が聞こえる、凍てつくような冷たい雨の夜。
事件があった日を思い出させるこれに、ヘンリーは、引き起こる痛みと怒りを堪える。
考える事を止めようとキャップを脱ぎ、髪を血液で汚した彼女に被せた。
「………乗れ…」
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




