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[7]          1800.



#05. Error 誤搬送 [4]






 豪雨が叩きつけるフロントガラスを、ワイパーが高速で雨水を振り払う。

泣き喚き疲れたレイシャは、寒さに震えながらもじっと黙っている。






 ヘンリーは、表に出さないだけで混乱していた。

何もかもが予定外で、新たに別の動きを考えている。




 冷たく、非情な空気で充満する車内。

レイシャは時に、車が停止するとヘンリーを僅かに見た。

聞きたい事が山程あるが、彼から放たれている恐ろしい何かが、それをさせない。

正面をただただ一点凝視する眼差しは、最後に見た優しさなどもう、どこにもなかった。




 彼女はバックミラー越しに、後ろで横たわる白いシーツに固く包まれた物体を見る。

どういう訳か、中身が人であると冷静に分析していた。

それが誰なのか、これを招いた経緯は何か。

彼から打ち明けられる事はなかった。

乗車するよう言われたきり、目が合わない。

ただ、今はレイシャに言われたルートを進み、レアールを迎えに行っている。






 聞いているのか、いないのか。

レイシャは、ガラスを激しく流れる雨を凝視し、聞かれてもいないのにレアールを目にした時の事を話す。

身を震わせたまま、胸痛と共に涙は流れ続けた。

そこに纏うのは、事態に対する大き過ぎるショック。

横にいる彼にもし、突き放されていたならば。

その先は容易に想像がつく。




何も言わないヘンリーだが、恐々と振り返った時に捉えたその表情は、少し変わっていた。

重い瞼をしながら、遠くを見つめて聞いている。








 レアールの自宅に着くと、レイシャは彼女に付着した血液を拭えるだけ拭い、傷口も布で何重にも縛った。

軽過ぎる彼女を、ヘンリーは淡々と背負って階段を下りていく。

彼が持っていた清掃用具と薬品を使い、時間をかけ、バスルームや他に目についた箇所を掃除した。




レアールがここからいなくなる。

その手続きも必要で、貴重品や家、会社関係の書類、金銭などを回収した。






 これから向かうのは、海洋バイオテクノロジー研究所。

レイシャにとって、そこは記憶の片隅に置かれていた存在。

まさか彼がそこのトップとは思いもしなかった。




 防腐処理の環境は整っている。

数ある得意先へ、新開発を理由にサンプルとして薬品が必要な旨を伝えると、容易く入手できた。

医療業界に携わる職業故のルートを、上手く利用する事に成功。




 しかし、技術が無い。

レイシャは、もしも自分が同行していなかった場合、どうなっていたのだろうと想像した。

運転する彼を振り返ると、益々その横顔が恐ろしくなる。






 車は直に、波止場の縁に着けられる。

レイシャは広いボートに圧倒されながら、ヘンリーと搬送準備をした。

彼は2人を乗せると、一時この場を後にする。

車内に必要な処置を施した後、近くの店舗へ車を返却しに向かう。




 何もかも用意周到なところや、環境設備そのものからして、資産やこの先の動きも隈なく段取りしている事を、瞬時に思わせる。

独りでやる予定だったのであれば、自分が同行する影響で動きも変わっているだろう。

しかし、悩む素振りは見せない。

強いて言うなら、詰め寄って泣きついた時くらいだ。






 30分程で彼が戻り、無言のまま、ボートが発進する。

その加速に度肝を抜かれ、聞き出そうとしていた事などそっちのけになった。




 自動運転機能が働くと、彼は小さく一息つき、携帯電話を弄る。

レイシャは後方スペースに腰掛けていたところ、助手席に移動した。

液晶の光を受けて浮かび上がる彼の顔は、今はどこか落ち着いているのか、怖い表情ではなくなっている。




「…ねぇ!」




雨の影響もあり、声を張った。

しかし、彼は振り向かない。

自分にしては、十分大きな声だった筈だが、振り向いてもらえなかった。

そこへ、肩を掴んで揺らしてやる。




 すると、ジリジリと流し目を向けた後、振り向き、僅かに首を傾げた。

聞こえていなかったのか。

その様子を見て、彼女は思い出す。




庭で話していた時、何度呼んでも振り向かず、体を揺さぶってやっとこちらに気づいた事があった。

彼には、他の人には無い何か別の特徴があるのではないか。

それにどのくらいの人間が気づき、理解されてきたのだろう。

父親に怒鳴られている時を思い出すと、受け入れられている様子は微塵もなかった。




 彼が彼女を見る顔は今、極めて普通である。




(…普通……)




受け入れられてもいい筈だ。

レイシャは、徐々に悲しさを目に滲ませる。

彼の肩からそっと手を放すと、何でもないと首を振り、助手席に座った。

その場は再び、到着まで無言になった。









SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~


初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。


2024年 次回連載作発表予定。

活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。

気が向きましたら、是非。




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