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#08. Reboot 脱出 [7]
ジェレクが高校に入り、家に友達を連れ込む頻度が増えた。
休みだったある日、ヘンリーがバスルームに行こうと部屋を出ると、賑やかな声を聞きつけ振り向く。
話しに聞くばかりで、対面をした事はない。
自室から現れたジェレクが、彼に大きく目を剥いた。
ジェレクは咄嗟に奥から出てこようとした友達を自室に押し返し、慌ててドアを閉め、ヘンリーを部屋に押し戻した。
「ちょ、戻れ戻れ!入れ!」
ヘンリーは訳が分からず、怪訝な顔をする。
「今は出て来ないでくれ!
あいつらには兄弟いない事で通してんだ!」
「は!?」
彼の一驚に、ジェレクは静かにと音を立てて訴える。
「対面されたら、色々厄介なんだよこっちは!
変に音立てんなよ!」
「おま…どういう意味だ!?ふざけんな!」
ヘンリーはついジェレクの袖に掴みかかるが、彼はそれを乱暴に払い除け、焦燥した顔を向ける。
「ああもう!何で分かんねぇかな!?
苦労ばっかなんだよ!
本当に兄弟なのかって比較されて!
どこ行ってもまずは絶対それ!うぜぇんだよ!
虐めの歴史まで流れ込んで笑ってきやがる。
俺は関係ねぇのに。
俺はあんたと違って仲間も引き連れて、上手くやってんだ!」
互いに別の学校に通学していても、兄が成績優秀者である噂は広がっていた。
そしてまた、彼には揶揄われていた経験がある事を知る学生もおり、その噂も回っていた。
ジェレクにとって、兄が絡む事の何もかもが億劫だった。
彼もまた成績は優秀だが、兄程ではない。
少々荒っぽい性格で、揶揄われたら言い返し、喧嘩をしてきた。
普段はムードメーカーで友達が多い。
周囲からしてみれば、兄弟には思えない部分が沢山あった。
それを口にされる事が、嫌でならなかった。
とは言えその晩、ヘンリーはとうとう抑えきれなかった。
自分を兄や名前で呼ぶ事をせず、まるで他人呼ばわりをする弟が許せなかった。
他州から訪れていた友人を見送り、ジェレクが帰宅して早々、その胸倉を掴んで壁に叩きつけた。
たまたま泊まりに在宅していた祖父が、その仲介に慌てて入る。
「ヘンリー止めろ!何だ急に!?放すんだ!」
しかし彼の胸倉を掴む手は、気づけばジェレクの首を掴み、力が加わっていく。
瞬きも忘れ、目は血走り、怒りに震え、汗が滲んでいた。
「ここは……俺の……家だろう……?」
「放すんだヘンリー!おい!」
「俺は……お前の……兄貴だろう………?」
窒息しかかり声を失うジェレクに、アルフの焦る手が必死で介入する。
「俺は……お前を……
そんな風に……扱った事は……無い……
のに…か……?」
声など聞こえやしない。
ヘンリーの拘束は強まっていく。
「言えよっ……俺がっ……お前にっ……
何をしたっ……なあっ!?」
震える低い声は、途端、拘束と共に激しく断たれる。
彼は後方へ引き剥がされ、背中から倒れた。
休日だったノーランが騒ぎを聞きつけ、自室から飛び出し、ヘンリーを投げ飛ばした。
「この馬鹿が!何してる!?餓鬼じゃあるまいし!」
「ああ煩ぇんだよ!」
「「「!?」」」
屋根を突き破るような長男の怒鳴り声。
そんな事は初めてで、窒息しかかり咽ていたジェレクも、瞬時に凍りつく。
ヘンリーもまた、自分の怒鳴り声に驚きを隠せず、滾っていた怒りが引いていき、目を激しく泳がせていた。
祖父がふと、彼の名前を呼ぶのだが
「出てく…………ここに……居たくない…………」
急な選択だったが、もともと出る予定ではあった。
それが少し、早まるだけだ。
何を言われる訳でもなく、ヘンリーはそのまま逃げるように部屋に籠ると、暫くベッドに突っ伏していた。
少し時間が経ち、そこへ祖父が入ってくる。
直ぐに家は見つからないだろうと、空き家状態の自分の家を使えと勧められた。
父と話し、環境を直ぐに変える方がいいと思ったのか。
だとすればそれも、偉くあっさりしたものだ。
ヘンリーの手に、力が込められていく。
小さな焦燥がまた、沸々と沸き起こるのを隠した。
翌日、仕事を早めに切り上げ、実家からそそくさと祖父の家へ移った。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




