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#08. Reboot 脱出 [6]
ある平日の晩、研究所からこちらに戻っていたシャルが訪問した。
祖父に頼まれていた書類整理を終え、ついでに立ち寄ったと言う。
もう傍につく必要がなくなったとはいえ、相変わらず家にはヘンリーとジェレクの2人きりが殆ど。
彼女は、隙があれば顔を出していた。
また、ヘンリーの事は祖父や父を通して聞いており、ここ最近の事を尋ねてくる。
話す気は殆ど起こらない。
たまにとは言え、不要な訪問だと思っていた。
しかし、このような態度もまた、我が儘か。
彼はうんざりする気持ちを隠しながら、適当に最近あった事を告げる。
「………チームで動く事を…学べって…」
彼女は深い溜め息をつく。
まだそんな事を言ってるのかと言いたげだ。
「だから、勉強ができるだけでは駄目って、何度言えばいいの?
また誰もついて来てないじゃない。
学校でもそうだったでしょう?現実から学んで。
そんな事ではいつまで経っても無理よ?
お爺様やお父様の立場を、そろそろ考えられるようになってもいい頃なのに。
将来、貴方がチームを持つと本気で言うのなら?
尚の事、人との関わりについて、振り返りと修正は必要よね?
発言も一方的過ぎ。
そんなの、誰だって受け入れ難いわ。
集まりに同席させてもらえなくなったのはそういう所だって、分からない?
一度、機械や薬品開発から離れなさい。
いい加減、未だにできてない、人と世間の学習に集中して。
今のままでは駄目。
何かを得る為の我慢なんて、皆してる。
こんな事、当たり前よ。
子どもじゃないのよ。面倒ばかりかけないで。
お二人が気の毒だわ」
そしてこれだ。
いつからか、声を聞くだけで拒否反応が出るようになっていた。
顔に焦燥が滲んでいるかもしれず、突っ伏し、流れ込む発言にじっと耐える。
初対面の時とは比較にならないくらい、彼女は変わった。
尊敬する祖父や父に頼まれたからやっているという態度が、露骨になっている。
変わらずこんな瞬間が多々あり、鬱陶しくてならなかった。
弟の高校進学を機に、彼女の手が離れるようになったが、その影響か何なのか、以前より母親面をするようになっている。
その態度や言葉が飛び込む度、嫌な思い出が勝手に掘り起こされ、良い気が全くしない。
それでも言い返しにくかったのは、自分に欠如しているものを的確に突いてくるからだ。
違和感だらけな言い方でなされるアドバイス。
それに従わねば、得られないものがあるのか。
ヘンリーは溜め息をつく。
これまで、機械や海洋生物といった、夢に関わる事ばかりに噛りついてきた。
知識が偏っているのは事実だ。
そうなってしまう理由はあったのだが、それも言い訳なのだろう。
この先、仕事はせねばならない。
その為にも、大きく欠如している部分は埋める必要がある。
そしてシャルが言う、人の勉強とやらに全力を尽くす決心をした。
しかしその期間は長く、苦しいものだった。
新たに集めたのは、人間関係やコミュニケーションスキルに纏わる本。
また、新聞やテレビにも多く触れた。
ニュースは聞けても、バラエティは理解に苦しんだ。
冗談を言い合い、人が笑っている。
それらに合わせられたらいいのだろうが、笑っている理由がどうしても知りたくなる。
何が皆をそうさせているのか、そこばかりが気になる自分に苛立った。
真に受ける必要はない。
笑って聞き流せばいい。
それが難しかった。
しかし、問い質す事でトラブルを生んできた。
それをする訳にはいかないと、只管呑み込んだ。
父に怒鳴られ、思考を切り替えて以降、職場やチームの作業に問い質す事を止めた。
代わりに、合間で飛び交う世間話によく耳を傾け、それに頷く程度の反応を示す事から始めた。
時に聞かれた学校生活の事。
成績が良かったのなら、人気だったのではないかと言われ、それに頷いて笑った。
本当の事など、話せる訳がなかった。
彼等が膨らませる想像に、ただ合わせ続けた。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続きお楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




