[13] 1210.
#12. Complete 細胞の記憶 [5]
開設して数年。
ヘンリーとジェレクは、何度も祖父の海洋バイオテクノロジー研究所に赴いていた。
大海原に聳える人工島。
高層マンションのような白い建物が2基。
それらよりも半分の高さの1基の、計3基が建つ。
それらが建つ横の敷地は、青い芝生の広間になっていた。
敷地の縁や内側の所々には、木も並んでいる。
中央には、陽光を受けながら吹き上がる噴水。
淡い茶色をした石畳の通路は、見ていて温かさを感じる。
自宅やその周辺とは違い、まるで別世界であるここは開放的で、過ごしやすい場所だった。
学校の長期休暇ではよく、敷地内に建つ職員用住居にある祖父の部屋で、寝泊まりをした。
日中は、仕事を見学したり手伝いもした。
時に船着場に来る客人とも対面し、紹介もしてもらった。
その船着場は特に、ヘンリーのお気に入り。
陸地が見えない、どこまでも続く大海原が捉えられる。
自然の姿を見渡せる、最高のスポットだ。
船の出入りも近くで見られ、外国語を聞く事もできる。
それもまた心地よかった。
この場所は、好きな世界にとことん浸っていられる。
ある日、最近興味を持った美術に没頭するようになった。
(光ってどうやって描くんだ……
色が無いから作るのか……
そんな色、生み出せるのか……)
晴れた大海原の景色を完璧に描こうと、かれこれ2時間、スケッチブックと向き合っている。
木造の地面に座り込んだ周辺には、クレヨンや色鉛筆、絵具がとっ散らかっている。
水面に反射する光を表現する事に、苦戦していた。
炎天下の午後。
サマーバケーション中である彼は、研究所の手伝いを終えたらすぐ、ここに噛りついている。
(ああ。離れて見てみたらいいのか…)
脇にある簡易事務所の壁にスケッチブックを立てかけ、少し離れてそれを眺めてみる。
様々な種類の青と、時折見せる白と黒で、輪郭を持たない世界を表現していた。
(違う…光を描くんじゃなくて…
途切れさせて白を残して、光に見立てるのか…)
そこから1時間。
まだ、彼の追求は止まらない。
塗り過ぎた青を、爪で削り取っている。
青みがかった白が生まれ、それは水面の光に似始めた。
(これか……こっちにもいる……
こっちはあまり削らないで……)
更に1時間。
日が傾いてきている。
潮風に当たったままとはいえ、真剣な彼の肌には汗が浮かび、顔に伝う。
(あれ…しまった…
さっきの雲、先に描いとけばよかったな…
形変わったよ…
こんなにぼやけてたら、また水色を削るか…
滲ませるか……)
しかし、空には形がはっきりとした夏の雲が浮かび、一切ぼやけていない。
(何でこんな…白いんだ……)
手元の絵は、確実に青を基調とした海が描かれているが、彼にはぼやけて白く見え始めている。
そこへ、チラチラと点滅する細かい砂嵐のような模様まで現れ、周囲が徐々に暗くなり始めた。
(あれ、何でだ…?
何でこんなに、白くなって……え?
…黒?
…何で横から黒が入っ……)
刹那、床に散らばる道具に大きな振動が走る。
彼は真横に大きく倒れ、意識を失った。
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




