[14] 1470.
#05. Error 誤搬送 [4]
#12. Complete 細胞の記憶 [5]
「ああもう…職場でまで止めてもらいたいわ……」
脱水症状によるそれは、初めてではなかった。
自宅でも、気づけば倒れている。
ヘンリーは没頭し過ぎるあまり、自分の体調に気が回らない。
何度言って聞かせても、改善されなかった。
横に水を置いても、結局飲む事を忘れてしまう。
シャルはそれに度々悩まされていた。
自宅でならまだしも、職場で起こっては仕事も止まる。
それが厄介でならなかった。
祖父は、目覚めた彼に言う。
「こればかりは体の事だ、ヘンリー。
体があってこそだ。
そんなに集中したところでだぞ?
結局疲れて、こうして滞ってしまう。
シャルはお前を助けようと思って、色々してくれてる。
ちゃんと聞くんだ」
それでもやはり、一度のめり込むと、自力で意識を切り替える事が難しかった。
「リー!」
(曇ってたら随分と暗い…黒ばかり使う…
今日は削らなくていいな…)
「ンリー!」
(あれ?黒だけど青い…これは何色だ…?)
「ヘンリ!」
(アイアンブルー、アクアマリン、アクアブルー
アントワープブルー、インクブルー
インディゴ…いやもっと暗いから…
ブラック…ん?…ああブルーブラック!)
黒と青の色鉛筆を同時に掴みながら、覚えた色名から相応しい色を探し続けていた時。
スケッチブックが急に真上に消え、掴んでいた2色が、絵に巨大な引っ掻き模様を2本付けた。
「おいっ!」
ヘンリーは堪らず叫ぶ。
「おいじゃないでしょ!いい加減にしなさい!
また!全然飲んでない!言う事聞けないなら止めて!
何度呼んだと思ってるの!?ちゃんと聞きなさい!」
「返せ!」
彼の目は奪われたスケッチブックに向く一方で、彼女の指示が聞こえていない。
それを見たシャルは、背後にスケッチブックを隠す。
「そこを片付けて。で、ちゃんと水飲みなさい」
「返せってば!」
水よりもスケッチブックだ。
それ以外に周りが見えていないのか。
彼女の背後を覗き込み、左手を伸ばす。
絵が垣間見えた途端、驚愕した。
「そんなとこに線なんか入ってなかった!」
そのまま、シャルと軽い取っ組み合いになる。
その間も、彼女と目が一切合わない。
「いい加減、先に水を飲みなさい!
どれだけ座ってるの!そんなに汗ばんで!」
「返せバカ!そっちがいい加減にしろ!」
「何ですって!?」
「どっかいけ!うんざりだ!
あんたなんか嫌いだ!」
成長に合わせ、力も強くなったのだが、そう単純な威力ではない。
怒りの感情が合わさる事で、馬鹿力に変わってしまう。
ヘンリーはシャルを突き飛ばし、転倒させた。
その件が祖父の耳に入るなり、彼はただただ彼女に謝罪する。
彼女は、今回ばかりは疲れ切った顔を見せていた。
不貞腐れ、黙りを貫くヘンリーに祖父が言う事はいつも通り。
彼女の言う事を聞け、だ。
彼女のした事は、いつも肯定される。
一体何故なのか。
それが全く解決されず、ストレスばかりが溜まっていった。
やっと手元に戻ってきたスケッチブックは、気に入らない線が入ってしまった事で台無しだ。
ヘンリーは腹を立て、それを乱暴に壁に投げつける。
その態度にもまた、大人は表情を歪めた。
「ヘンリー。
高校生になろうって時に、何だその態度は。
絵はまた描けばいいだろう」
そういう事ではない。
同じ表情はもう無いのだから。
だから、描いておきたかった。
彼は祖父の声にも振り向かず、目を震わせたまま一点を凝視し、フリーズする。
「それに最近、言葉が悪いぞ。力加減も。
シャルが怪我をした。もっと冷静になれ。
お前は兄だぞ」
いつだって注意される。
彼女からの謝罪は無い。
握る拳は強過ぎるあまり、両掌に深い爪痕を残した。
(嫌いだ……こんな事も……
こんな奴も……大嫌いだ……)
SERIAL KILLER ~Back Of The Final Judgment~
初の完結作品丸ごと公開。引き続き、お楽しみ下さい。
2024年 次回連載作発表予定。
活動報告/Instagram(@terra_write) にて発信します。
気が向きましたら、是非。




