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イーストゲート②



 *



 艶やかな白銀の髪をなびかた美女が、フラミンゴ城に足を踏みいれた。右を見ても左を見てもカードギャンプルやルーレットといった娯楽に興じる人々の賑わいで埋め尽くされたここは、今まで彼女が見てきた世界とはまるで別物。

 野盗に怯える行商人もいないし、害獣に頭をかかえる農家もいない。誰もかれもが外の世界の現実を忘れて、浮かれきっている。

 だからだろう、身にまとった豪華な漆黒色のドレスから大胆に豊かな胸もとや、綺麗な背中を見せつける彼女へ言い寄ってくる男は数知れず。誰もが彼女の美貌に心を奪われてはいたが、誰ひとりとして彼女が監獄島を脱獄してきた魔女サバト・フェヴラーだということを知らない。


「まったく、アバときたらこの超絶美少女(わたし)を単身でこんなところへ送りこむとは……男としての矜持とか、そういうものはないのか」


 単身で娯楽の街(ガルベス)の宿に泊まってフラミンゴ城と行き来するすること、かれこれ四日。これで六十人目となる男の誘いをきっぱりと断って、フェヴラーがボヤいた。

 こうして上等なドレスを身にまとい、フラミンゴ城にひとりで足しげく通っているのも全てはアバグネイルからの頼み。この城のどこかにいるであろうヘレナを救出するためのものだとフェヴラーも理解はしているが、それでも女ひとりでここにいてはやはり面倒は後を絶たない。


(ディーラーは全員女性エルフ、警備についているのは男性エルフや豚面巨人(オーク)ばかり……騒動を起こそうものなら袋叩きにあうわけか。それにしても女性エルフにばかり露出の多い恰好をさせて、奴隷のように使いまわすとは、ヴァルサムという男もいい趣味をしている)


 バニーガールの格好をさせられたエルフの女たちは、ディーラーとして各々のテーブルでゲームを進行したり、客の機嫌をとったり。

 笑顔を崩さずに振る舞う彼女たちとは打って変わって、賭場内を見てまわる杖を持った男性エルフやオークたちは、険しい顔で客を威嚇している。

 種族も立場も関係ない無秩序なこの場所では、彼らの持つ力こそルールなのだろう。


(それにしても気になるのは、警備のなかに軍の制服を着た女がいることくらいか……それもひとりやふたりではない)


 力で秩序を生みだすというのは、理にかなっている。そこには納得をしていたフェヴラーだったが、どうもそのなかに女性軍人の姿が見えるのが納得いかない。

 複数人ほど見かける、「賭場で遊んでいる」というようには見えない女性軍人たちの姿は異様で、客のなかにも言葉にはしないが不思議そうな目を向けている者は少なからずいた。


(ここを経営しているのは賊の王ヴァルサム、帝国からすれば敵のはずだが……)


 『女性』、そして『軍人』。このふたつが、フェヴラーのなかで上手い具合に合致した。

 彼女は以前、女性だけで編成された帝国軍の部隊と戦ったことがある。


(騎士ラウネ・プランティス、彼女が関与しているのかな)


 『革命の七人』と呼ばれる騎士のひとり、男嫌いのラウネが率いる部隊だ。


(彼女たちのなかには十字架の一件で顔をあわせた者もいるかもしれない、ここで気づかれたらアバの計画がパーだ。不本意だが逃げよう)


 女性軍人たちを横目に、フェヴラーが足を向けたのは賭場のさらに奥。地下一階へつながる階段のある方角だった。


(それに、地下とやらはまだ見ていなかったしね)


 フラミンゴ城の賭場には三段階にランク分けされた客がいて、ランクごとに入れるエリアも仕切られている。

 なんの権限も持たず、一階に広がる大きな賭場でのみ遊技を許されているのが一般クラス。テーブルについてカードギャンブルやルーレットに興じるほとんどの客が、これに該当しているのだろう。

 一階と地下に設営された賭場、そして二階のVIPルームといった全ての設備を利用できるのが金のブレスレットをつけたVIPクラス。


 そして、フェヴラーの右手に巻かれてある銀のブレスレットを有するのが、準VIPクラス。このランクである彼女には、一階と地下の賭場で遊技することが許されている。


(さすがにVIPクラスとまではいかなかったが、警備の男に頼んだ甲斐があったというものだ)


 とはいえ、フェヴラーの手首にあるブレスレットは元々彼女のものではない。

 人目を盗んで警備の男性エルフを誘惑し、無理矢理ぶんどったものだ。


「地下へ、はいれるかな?」

「準VIPのお客様ですね、どうぞ」


 そんな他人のブレスレットをあたかも自分のもののように階段前の受付で女性エルフに見せると、これが案外すんなり通してもらえた。


「もうすぐ第二試合が始まりますので、ベットはお急ぎください」

「試合……? ああ、忠告ありがとう」


 受付の女性エルフの口からでてきた言葉に疑問を抱かずにはいられなかったが、フェヴラーは適当に頷いて言葉を濁す。

 あくまでも知っているテイで常連を装うのが、一番面倒ごとを回避できると踏んだのだろう。


 地下へつながる階段は蛇のようにとぐろを巻いて降りていき、その長さも相当なものだった。

 壁際で揺れる等間隔に置かれたランプのなかの火が、階段をおりるフェヴラーの影をいくつも生みだす。

 視線の先で生まれた自身の影が背のほうにまわっては消えてを繰り返すこと、どれくらいだろうか。螺旋階段はようやく終わり、ランタンの灯りだけが頼りの薄暗く不気味な廊下があらわれた。


「地下、か」


 歩くたびに、フェヴラーの履いたヒールの甲高い音が幾重にも反響する。


「監獄島を思いだしてしまって、いい気はしないものだ」


 石を積んでつくられた壁を細い指さきでなぞり、フェヴラーは苦笑した。

 こちらのほうが、ずっと綺麗なつくりと行き届いた清掃をされている。

 しかし、露出した白い肌にまとわりつくジメっとした感覚と、ひとつの音が幾重にも聞こえる閉鎖感。これが長いこと幽閉されていた監獄島の地下をフェヴラーに思いださせた。


「ん? 騒がしいな」


 服を剥かれ、太い鎖につながれ、そんな嫌な記憶がフェヴラーの頭を埋め尽くそうとしたその時、廊下の奥からざわざわと無数の人の声が聞こえはじめる。

 声に誘われるようにフェヴラーの足がはやくなり、細い腕が重たい両開きの扉をひらく。


「なるほど、限られた者しか入場を許されない地下の賭場……か」


 フェヴラーの目の前に広がったのは、様々な種族で客先が埋め尽くされた地下闘技場。

 廊下まで聞こえてきた騒がしい声は、全部この客たちのものだろう。


「随分とまあ、いい趣味をしている」


 そんな客たちを鼻で笑い、フェヴラーもまた客席のひとつに座って中央の闘技場に目をやった。

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