第41話 挙式
貴族同士がいきなり結婚というわけにはいかない。何事にも段取りというものがある。
婚約を交わし、一応の婚約期間を経て、私たちはついに結婚式を迎えた。
場所は王都の最も格式の高い教会で行われる。ここで式を挙げることは全貴族令嬢の夢といっても過言ではない。天まで届くかのような白い三角屋根が特徴的だ。
控え室にて、私は着付けを行う。
純白のウェディングドレスを着る私を、タキシード姿のレイゼム様が迎えてくれる。
そのお姿は麗しく、窓から差し込んだ日差しが後光にさえ感じられるほどだった。
レイゼム様はにこやかに笑む。
「綺麗だよ」
「……ありがとうございます」
私が返事をすると、レイゼム様が顔を赤らめた。
「って、本当はもっと気の利いた台詞でもかけたかったんだけどね。君の姿を見たら、色々考えていた言葉が全部吹き飛んでしまった」
「ふふっ、私にとってはそのお言葉こそが一番気の利いた台詞ですよ」
飾らない言葉こそが最も心に響くこともある。
私たちは朗らかに笑い合った。
係員が「そろそろお時間です」と呼びに来た。よし、いよいよね。
レイゼム様が私に手を差し出す。
「さ、行こうか。セルフィス」
「ええ、行きましょう。レイゼム様」
さっきまで緊張していたのに、レイゼム様の手を取ると、不思議と全身の強張りが消えた。
レイゼム様の手を握りながら、二人で式場となる礼拝堂に向かう。
温かな歓声が私たちを出迎える。
私とレイゼム様は揃って入場する。長く敷かれた真っ赤なカーペットをゆっくりと歩く。靴を通じて、ふわりとした感触が伝わってくる。とても心地よい。私は一歩一歩の感触を堪能する。
カーペットの両端には大勢の見知っている人がいる。
まずは橙色のドレス姿のミルフィが声をかけてくれた。
「綺麗~! お姉様、女神様みたい!」
「ありがとう、ミルフィ」
ミルフィの横には礼服姿のシュラトが立っており、声こそ出さないが、わずかに笑んでいる。これが彼の精一杯の祝福だと思うと微笑ましい。
父と母は泣いてくれている。私も目の端に潤むものを感じる。
「おめでとう、セルフィス……!」
「綺麗だわ……。本当に……」
レイゼム様のご両親は温和に微笑んでいる。
「君たち二人に幸運な未来あれ」
「セルフィスさん、とても美しいわ。レイゼムをよろしくね」
護衛隊長のガルドさんはお二人の後ろで職務を果たしつつ、涙を流していた。
あそこまで屈強な人が私たちのために泣いてくれていることを、嬉しく思う。
他にも学校時代の友人や、エデルワイト家に仕える人々、多くの人が私たちを祝福してくれた。
――みんな、ありがとう。
祭壇の前に立つ。
神父様の元で、いよいよ誓いの言葉を交わす。
私はレイゼム様と向き合う。
金髪はさらりとなびき、コバルトブルーの瞳は透き通っていて、そのお姿はまるで天の使いのようにも見えた。
「ではお二人、誓いの言葉を」
まずは、レイゼム様から――
「セルフィス。僕は君を一生愛し続けることを誓います」
私はうなずく。
「レイゼム様。私もあなたを一生愛し続けることを誓います」
そのまま誓いの口づけを交わす。
以前頬にキスをした時と違い、石化を介さない、本当の口づけ。
歓声が上がる。特にミルフィの声はすぐ分かる。号泣しちゃってる。ふふっ、あの子ったら。きっとあの子はこの光景を見たくてたまらなかったに違いない。ありがとうね、ミルフィ。
幸せ、という言葉では表現し足りないほどに幸せ。
ずっとこうしていたい。
ああ、このまま二人で石化してしまいたい――本当にこう思った。
……おめでとう、セルフィス。
ふと、こんな声が聴こえた。
この声は……メドゥーサ。
ありがとう、ご先祖様。
私はあなたから受け継いだ石化の力のおかげで、こんなにも幸せになれました。
もちろん、これからもっと幸せになってみせます。




