第17話 『小人病』
『デューク主席、こちらがヴァーミリオン様の診断結果となります』
「随分と時間がかかったな」
執務室にて、その情報が目の前の端末に送られてきた事にデュークは難色を示す。
ヴァーミリオンが行った診断は今から二時間前。本来なら長くても一時間で出るハズなのに、ここまでかかった理由を問う。
『も、申し訳ありません! ヴァーミリオン様は特殊な病を患っている様でして……』
「記憶喪失とは違う病だと?」
『そ、そうです』
その調査に時間がかかったと担当医師は告げる。
『主席』当主からの依頼を受けた者は“間違い”も“曖昧”も許されない。『スカイベース』の技術と記録を持ってすれば確実な“答え”を提供出来るからだ。
『実に珍しい事例であった為、調査が難航を……』
「結論だけ先に聞かせて貰おう」
『はい。ヴァーミリオン様は軽度の『小人病』であると思われます』
「『小人病』? あまり聞かない病名だな」
『実年齢に比べて、肉体の成長が遅れてしまう病の事です。ヴァーミリオン様の肉体年齢は16歳でほぼ止まっていると言う診断がでました』
「16歳……実年齢はいくつなんだ?」
『実年齢は24歳です。詳しくは診断結果に――』
その後、デュークは担当医師から軽く話を聞きつつ、連絡を切ると診断結果のデータに目を通す。
「……幼いにしては妙に操作技量が高いと思ったが……」
実年齢が24歳なら経験的にもあり得ない技量ではない。それでも、『パースロイド』の操縦技術は知るパイロットの中でも頭二つほど抜きん出ているが。
「肉体年齢は16歳……もしかすれば『ピース』の操作が可能か?」
アレは『侯爵』以外に18歳未満しか動かせない。
ソレは精神的なモノなのか肉体的なモノなのか。検証が不明確だった事がヴァーミリオンによって大きく前進する可能性が高い。
「……“アークライト”の価値を十分に示せるか」
それでもデュークに嬉しさは無かった。もし、彼を本来の家族の元へ帰す時に元の彼のままで居させる事が出来ないからだ。
「……」」
その時、外部からの連絡が入る。相手は『侯爵』。
『機械同調計画』の総責任者として参加するヴァーミリオンの診断結果は彼にも送られている。
『夜分遅くに連絡を受けていただき感謝する』
「トリエルの世話はもういいのか?」
『娘の就寝済みだ。それよりも、ヴァーミリオンの診断結果を確認した。これまでに無い被検体だ』
「貴殿はそう言うと思ったよ」
『機械同調計画』において、『ピース』の実用化は一つの課題でもあった。
『成長ホルモンの乱れによる疾患か。治療できなくはないが』
「その件についても明日、ヴァーミリオンに説明し彼の同意を得た上で『機械同調計画』の方を優先してもらう」
『そうか。“アークライト”の判断にワタシは意見するつもりない』
と、デュークは少しこの会話に違和感を感じる。
『侯爵』は無駄な連絡をする事は一切無いからだ。この連絡の意図は何なのだろう?
「何か、ヴァーミリオンに関して更に気になる事でも?」
『ああ。彼が起きてからこれまでの映像を確認した。その上で診断結果が“間違えている”とワタシは結論づけた』
「診断結果が間違えている? 『小人病』である事は貴殿も認めただろう?」
『ソレは間違いではない』
「ならば何だ?」
なぞなぞの様な『侯爵』の言葉の意図を改めて求める。
『ヴァーミリオンは記憶喪失ではない』
「――――なんだと?」
『“同じ事を繰り返す”“時間や場所の混乱”“現状への不安”。これらは記憶喪失者に見られる特徴だ。しかし映像を見限り彼が当てはまる項目は一つもなかった』
その時、デスクの電話が鳴る。デュークは即座に取った。
「私だ」
『こちら、警備部の者です! デューク主席! レイチェル様が――』
その情報をデュークが受け取っている最中、『侯爵』にも連絡が届く。
“試作試験機【ゼノス】出撃。搭乗者……レイチェル・アークライト”
時は今より、1時間30分前まで遡る――




